CP-11 【貴方にはブーメランが似合うと思うんだ】
お父さん受難です。短めですが楽しんでもらえたら嬉しいです。
―ヤスオが帰った後。
「あの子も自警団に行ったし、今日はお店も早上がりでのんびりしようか」
「そうだね」
「……さて、聞きたそうな事がありそうな顔だね。ヤスオ君の事…でしょ?」
その言葉に苦笑しながらも答える。
「あぁ、君に隠し事は出来ないね。うん…少し聞かせてもらっていいかな。ヤスオ君…彼は何者だい?」
「一月と少し前に中級クラスの冒険者と一緒にやってきた子だね。色々と感激屋の様で、来て暫くはよく泣いてたってナナちゃんが言ってたよ、彼女なんでそんなこと知ってるんだか。で…エスタ君は彼に何か見たのかい?」
「そうか……彼は悪い子では無いと思うよ、眼が澄んでいたからね。ただ澄んでいるわけじゃなくて、なにか辛い事があったんだろう。それによって清廉された瞳だった。ただ…なんとなくだけど、彼は僕達とは少し違う気がするんだ」
何かが違う―
彼の長年の経験が確信に近い勘となり、ヤスオが自分達と違うと考えた。性格も良さそうで悪い人間では無いことは先ほどの会話で、ある程度理解できた。悪しき存在でもなければモンスターでも無いことは確かで、人間な筈なのに自分達とは違う、そんな気にさせる人間だった。
「そうかな? ボクには気の良い子にしか見えないけど。だから君に育ててもらおうと思ったんだし。何か変な感じがするのかい?」
エリスもヤスオが何かを隠している事は知ってるが、それを突くつもりも無いし良いお客様、良い隣人でありたいと思っている。だがそれ以前にエスタの言う違和感までは判別がつかない。
「そういう訳じゃないんだけどね…(魔法戦士なんて言う職業は未だかつて聞いたことがない。長い事冒険者をやってきた僕が噂すら知らないクラス…ウィザードナイトとは違うだろうし、一体何の派生なんだ? 他の大陸に行っても、クラスは基本の5クラス位しかなかった…)」
「エスタ」
思考の海に沈もうとしていたエスタをエリスが声で呼び止める。
「あ、ごめん。少し考え事を……」
「何を悩んでるか分からないけど、多分杞憂だと思うよ? あの子は良い子で、そして家の嬉しい顧客。明日以降は君の教え子、それでいいじゃないか。ボク等は【英雄】でも【勇者】でも偉い人でもないんだから、ね?」
「うん、ごめん。僕の悪い癖だな…次彼が来たら色々教えてあげないとね」
「それでよし、あ、そうそう折角帰ってきたんだし明日からセールをやろうと思うんだけど、アナタにも手伝ってもらうからね?」
「あぁ、任せてよ。荷物運びでも店員でもなんでもござれさ」
その言葉にエリスの隠れている瞳がキュピーンと光り輝く…が隠れてるので誰も見えていない。
「フッフッフッフッ…」
怪しげな笑みを漏らしながら、彼女が自分で作り上げた防具を閉まっている宝箱から何かを取り出す。
「……え?」
それは光り輝いていた。
「やはりあれだよ、いかに防具屋とはいえこう…足りないと思うんだ、見栄えってのが!!」
それは凄く光り輝いていた。
「え…えーと……そ、それは……?」
じりじりと後ろに下がるエスタ、先ほど自分が言った言葉を取りやめたいと考えながらせめてもの抵抗をするが、後ろに回り込まれ【それ】を目の前に掲げられた。
そう……【七色に輝くブーメランパンツ】を…!!
鉄の防具より防御力が高く、更にスロットが2つついており、履くと光る、超光る。これほど便利で強く、そして光るブーメランパンツは世に50枚位しか無いだろう、そのうちの50枚はこの家にあるが。
「女の子の売り子? 古い古い…! 世は! かっこいい男の子さ!! 前に穿いてもらったブーメランパンツは光り輝かなかったからね、ラメが足りなかったんだろう…だが!! 今回は! 今回こそは完璧、完全さ!! さぁアナタ! これを装備してレッツ売り子!! これで防具もウハウハ状態で売れるよ!!」
鬼が居た。見た目は愛らしい天使だが、その商売に対する姿勢と旦那に試練を与えるその姿は紛れもなく鬼だった。ドラゴンの方がまだ優しいレベルともいう。
「あわわわわ…」
「ここ見てよ? この部分がとても難しかったんだよね。でも…! アナタに愛する愛情がボクに力を与えてくれた!!」
そんな愛情はお断りしたいとは口が裂けても言えない、立場の低いお父さん。
「さぁ、今こそブーメランエスタの名を知らしめよう!! 大丈夫! 最近都市でも人気が!!」
「ごふっ…!!」
ウィザードナイト、エスタ、決まり手は嫁の一言、嫁の一言で撃沈した。
―続く




