25-01 【上級クラス】 Ⅰ
25話開始です。このお話はのんびりなのでほんわか気分でお読み下さい。
―1週間後 防具屋【僕の店で売り子になってよ♪】
「スロットつきの防具? あるにはあるけど、高いよ?」
「やっぱり高いんですか…ちなみにどれくらいするんです?」
「そうだねぇ、今君がつけてるレザー装備があるでしょ? そのレザーアーマーのスロット1付きで、大体240万Rかな」
「ごふ……10倍じゃないですか」
今はまだ必要ないとはいえ、中級クラスの冒険者になれたのなら魔石の装備も視野に入れないと、と言う訳で早速防具屋さんで話を聞かせてもらったんだが、予想以上に高くていきなり頓挫仕掛けてた。
まさかの数百万単位が当たり前とは…スロット無しの防具でも数十万するのが多いから高いとは思ってたが……
「成る程…中級クラスになって稼げて初めてって感じですね」
「そうだねぇ。ちなみにこれでも知り合い価格なんだよ。下手するとこれの2倍~3倍以上とかザラだから、なんて言っても作れる人が少ないからね。普通に防具を作って、中級クラスの鍛冶で1~2割、上級でも3~5割の確率でスロットがつけば御の字じゃないかな。最上級でも7割程度さ」
「そりゃ確かに高いですね…親方は確か最上級って聞きましたけど、それでもその確率ですか…。宝箱とかで手に入る防具とかにはスロットはついてるんですか?」
買えなくても宝箱からスロット付きの防具を見つけられれば普通に買うより安値で買うことも出来る。大体の買取値段は金額の半分が相場だから、皆にそれを基本にしてお金を渡せばいい、もしくは分けた報酬から引いてもらったりそこから渡したりと、色々方法はある。
「それこそ物によりけりじゃないかな? まぁ鍛冶屋が作る武器や防具よりとんでもないのが出るらしいけどね。と言っても、そんなのまで来たら億とかヘタしたら兆とかのお金の世界だけど」
「夢があるというか…そこまで行くと逆に怖いですね。僕は無理の無い感じで頑張ります」
「そうだね、無理して怪我したら意味ないし」
そういう訳で改めて防具を見て回る。スロット防具も結構多種多様に置いてあるから色々目移りしてしまう、そして滅茶苦茶高い金額に凹みそうにもなる。
一応買えるスロット防具もあるにはあるが、布のローブとかそんなのばかりで前衛で戦う僕には使えないものばかりだ。
一応運が上がる魔石、【ラックストーン】を持っているのでどうせならツケておけば、と考えてみたんだが……
「んー、スロット付きのローブなら買えるんだけど、アーマーじゃないからなぁ。後ろで魔法だけならともかく僕は結構前に出るし。流石にストーン1個つけるために出すお金としてはきついかぁ…」
「はじめからストーンもスロット装備も沢山あったら実力勘違いする奴が出てくるでしょ。値段なんてこんなものでいいんだよ、君もまだまだなんだし普通の装備で我慢しておきなよ。いつかは沢山装備するんだし、よほど切羽詰まってない限りはね」
……そうか、ここで無理に装備を買っても魔石ばかりに頼ってちゃ本来の実力が上がらない。これが必須のなる中級クラスになったならともかく下級クラスの僕はまだまだこの状態でも伸びしろがあるんだ。
これが必要になるまで強くなれば、その時にはこれらをまとめて買えるお金だって手に入っている…理にかなってる考えだ。
「そうですね、防具に使われちゃおしまいですし自分にあったものを探しますっ!」
「そうそう、それが一番だよ」
―ただいま~!!
―今帰ったよ
店の奥の方から声が聞こえてきた。
「あ、やっと戻ってきたんだ」
嬉しそうな声色で言うエリスさん。そうか、この声は―
「ただいまーっ! やっと帰ってこれたよっ!」
元気な声でパタパタと入ってくる女性。動きやすそうな軽鎧と不釣り合いに大きな弓を持っている姿がとても特徴的だ。短く切りそろえた桃色の髪は活発な印象を与えるが、後ろ煮付けている2個の大きな赤いリボンの為に少々子供っぽい印象を受けた。年齢的には…フィル君より少し上、程度っぽいなぁ。
そしてもう一人、人の良さが滲み出る様な雰囲気の長身の男性が隣に居た。
「ただいま、お店任せたままでごめんね? 漸く戻ってこれたよ」
「あぁ、お帰りアナタ、マリー。この町の人は皆いい人だし何の問題も無かったよ」
「あれ、お客様? いらっしゃいませっ♪ うちの防具は良いのが揃ってますからどんどん買って行ってくださいね!」
「あ、はい、いつも良くしてもらってます。エリスさんの娘さんですか?」
「はいっ! マリー・クレメンティアです!! よろしくお願いします!」
「自分はヤスオって言います。此方こそよろしくお願いします」
元気いっぱいといった感じで挨拶をしてくれるマリーちゃん。もしかしなくてもこの子が自警団のアーチャーの人なんだろうな。暫くの間他の町に行っているって聞いたし。
大きな弓を持ってるし、こうしてみても隙が無いように見える。なんとなくだけどね…後衛物理火力は知り合いが居なかったし、フィル君達を誘う時に彼女がOKしてくれたら一緒に戦ってみたいな。弓の威力を見てみたいし、あわよくばミキに弓を教えてもらいたい、アーチャーの弓火力を見ればあいつもきっと頑張ってくれるはず……多分。
「お疲れ様、他の町ではどうだったの? アナタの事だから問題無いと思うけど。強いて言えばマリーが危ないことしてたかも、なんて」
「わ、私も頑張ったよ!!」
「はいはい、信じてるよ」
フードの所為で見えないけど、声色からして柔らかさを感じるエリスさん。やはり家族に向ける言葉ってのは優しいのが普通だよな。僕も…もし戻れたなら、両親に謝って親孝行をしてあげたい…な。
「はは、大丈夫。道中はマリーが張り切って護衛してくれたしね。用事も滞り無く終わったよ、これで暫くは騒がしいことも無いと思う。暫くはゆっくり出来そうだ、僕もやっと店に立てそうだよ」
優しそうな雰囲気なのに、何故か気圧されてしまう。決してこの人が僕を脅しているわけでもないし、何のアクションもしていないが…こう、オーラっていうか気配が違うんだ、アルスさん達も凄い気配を感じたけど、この人はそれ以上…いや、そういう次元じゃないような気がする……もしかしなくてもアルスさん達より強い……?
「そりゃ頼もしいね、ボクも漸くゆっくり出来そうだ。…あ、そうだ。ヤスオ君、この後暇かい? 暇なら少し話に付き合ってよ?」
「は、はい、特にありません」
防具を吟味した後は家に帰って本を読んで魔法の鍛錬をしようかな、程度だったので、時間は有り余ってる。その後はランニングやって運動して、素振りしてとか位だ。もう少し本格的な鍛錬をしたいな、頑張って色々覚えないと。
そんなわけでまさかの家族水入らずの状態に僕が混ざることになった―




