24-06 【アタック開始】 Ⅳ
―9ターン後
「ゾンビとかゾンビハウンドとかスケルトンとか…夢に出そうよね」
「やめてくれ縁起でもない」
ブラウンベアーとの戦闘の後、更に数回戦闘をこなしたが出てくるモンスターが全部アンデッドばかりで気が滅入っている。
ホラーアニメに出てくるような血まみれのゾンビ…って訳じゃなくて所々腐ってたり骨が見えてて、ぼろきれの様なものを身にまといフラフラと歩くタイプのアンデッドだった。此方を見つけるとどこにそんな力とかがあるのか知らないが走って襲い掛かってくる。走る度に身体の腐っている一部がボタボタ落ちるのがもう…ね。
攻撃力が高いだけで走ってくるっていっても動きは緩慢で遅く、普通にウサギの方が強い感じがした。単純に力強くてタフで、気持ち悪いだけだ。
「おいおい、ゾンビなんて俺でも簡単に勝てる雑魚だぜ? 何が怖いんだ?」
「……そういう次元の話じゃねぇっつの…ヤスオ、あれおかしい」
「いやまぁ……ホラー苦手じゃない人もいるからね」
他にホラーが問題なさそうなのは……あ、僕とミキ以外全員大丈夫そうだ……ハウルさんはそういうの黙々と倒してたし、アリアちゃんはそも怖いとかあるのかわからない、カノンはもう逆にアンデッドが逃げそうだ。
「あんたは、そう言うの平気そうね…寧ろあんたのほうが怖いし」
「心外ね? 私にも苦手なもの位あるわよ?」
「へぇ、カノンにもそういうのあるんだな」
フィル君が寧ろ関心したように言う。
【―のーないかのん― 苦手なものは一人でご飯食べたり、一人でダンジョンいったり、一人でお誕生日祝ったり、一人で怪我した時人形の手を繋いで寂しさを紛らわせたりとか……一人が苦手です!! でも見てください! この! この今の私の現状を! 右を見てもフィル君、左を見てもハウルさん、前にはヤスオさんが居て、後ろにはアリアちゃん! シーフ…は、凄く嫌われてるから放置で…くすん…やっぱりやり過ぎだったわよね、で、でもでも悪いことをしたら冒険者には制裁しないとこっちがやられちゃうし、くっ! 私に空気を読む力が…エアーリーディング能力があれば!! この辺ヤスオさんが凄く上手いわ…! 流石ヤスオさんぱねぇ! 勉強させてもらわなくちゃ。そして苦手なひとりぼっちを脱却するのよ!!】
「……?? カノン?」
「さ、行きましょう? 結構潜ってきたしもうそろそろ帰還も視野に入れないと、ね」
「うん、そうだね。余力は残しておかないと」
カノンが顎に指を当てて考えている、この後について色々シミュレートしているんだろう、僕もブラウンベアーとかが出てきた時にどう立ち回るかとか、罠が発動したら皆をどうやって守ったらいいか、戦闘中にうまく指示を出来るかとか考えてる。
さっきのブラウンベアーとの戦闘はゾンビハウンドに集中しすぎたのが問題だった、次は複数出てきた時は物理じゃなくて魔法で応戦し周囲をよく見回す必要があるな、【風壁】の他に【土壁】も覚えていたのに、使うタイミングを逃したし。
「戦闘をする体力を考えればあと2~3戦、ブラウンベアーなら1戦が限界だろう、体力などの他に精神をすり減らすからな。この辺の管理忘れるなよ?」
「わかりました」
HPやMPで測れない気力や精神力の維持は個人を見て確認しなくちゃいけないな。ダンジョンアタックは色々学ぶ事が多い、これらを実にして次回に活かさないと。
「はいはいあんたら元気だねぇ……………あかん、この先ヤバイ気がする……なんとも言えないけど」
微妙に青ざめた表情で僕等を止めるミキ。
「どういう…事だよ?」
「やばい気配があっちからするんだっての……まずいって、本気でやばい」
「こいつがここまで怯えるか、奥にあるのはボス部屋だろうな」
「ボス部屋…ですか?」
「あぁ、ダンジョンの主。ダンジョンがダンジョンとして存在するためのキーでありダンジョン最強の存在、それがボスだ」
ハウルさんが説明してくれた。
ダンジョンが出来た時に瘴気を一番多く取り込んだもの、もしくは瘴気を多く溜め込んでいるモンスターが周囲にダンジョンを形成するらしい。
そのレベルはダンジョンのモンスターなど足元にも及ばないほどの実力を持っている。このダンジョンの場合適正レベルは8~13との事だけど、レベル13の中級冒険者が6人で突っ込んでボスに勝てるかと言われると難しいそうだ。
あくまでも適正レベルはこのダンジョンで安定して探索できるレベルであり、ボス戦闘は想定していない。
もし、ボスを倒す事が出来れば、ダンジョンは自身を維持できず消滅する…これを【ダンジョンブレイク】と言って、冒険者が一度はやってみたいという功績と聞いた。ダンジョンブレイクすれば、その瘴気の爆散によって周囲のモンスターは散り散りになり、普通のフィールドになる。その時に報酬なのか何なのか分からないけど、レアリティの高いアイテムや宝箱が出現するらしい。
「問題があるとすれば、そのダンジョンはもう二度と潜れないという事だな。一攫千金でボスを倒すか継続的にダンジョンに潜り宝箱を夢見るか…冒険者はそうやって生活している」
「俺達町の人間からすれば、周辺にダンジョンが無ければ安全が確保出来るんだけどさ、ないならないで冒険者が来なくなるから町が回らなくなるんだよな…難しい話だぜ」
あぁ、そうか…冒険者の飯の種であるダンジョンが無くなれば普通に考えて足が離れるよな…もっと良いダンジョンを見つけたりとかでも…モンスターの危険はあるけど冒険者が来てくれるからダンジョンは存在してないと困る、でもあるとモンスターが湧きだしてきて町が襲われる……だから冒険者を雇う…よく出来てるな…面倒な感じで。
「ボスを倒すのも良し悪しなんですね…」
「倒す倒さないは冒険者の自由だ、大体のダンジョンは国や町などで管理している訳ではないからな。大きな都市などでは軍などを用いて管理しているそうだが、ホープタウンクラスの町ではダンジョンを管理するほどの施設も能力もない」
「んなのいいけどさぁ…戻ろうぜ? めっちゃ怖いんですけどぉ…」
「どちらにしても今の私達の力量では勝てる相手ではないわ。撤退するか、さっさと切り抜けるか、ね。これだけ広いしやり過ごすのは可能だけど。ヤスオさんに任せるわ? 最悪帰還の羽で逃げてもらえるなら問題ないし」
「…離れよう。僕等じゃ無駄死だしね」
満場一致でその場を離れ違う方角を歩き出す。今頃分かったが、あの付近を離れると張り詰めた気配が消えてくのを感じた。これをあいつは感じてたんだな…そりゃあ怖いわ、僕も今頃になって安堵している位だし。
「ふぅ、生きた心地しなかったぁ…ボスとか開幕やめてよね」
「俺はちょっと悔しいけどな、まだまだ実力が足りないよなぁ…強くなっていつかボスと戦いたいよ」
フィル君が槍で肩を叩きながら苦い表情をして言う。
「まだまだ来たばかり、始まったばかりさ。僕も町に居る限りはフィル君を手伝うよ」
「おっ、サンキューなヤスオ。一緒に強くなろうぜ? 俺の力と槍、必要になったらいつでも貸すからよ」
「………手伝……う…超……手……伝う…」
「ふふ。向上心があるのは良い事よ。たとえ自警団でも強いに越したことはないから、ね」
「強くなりすぎるのも面倒だがな、ファッツの様にレベル上げのために本業忘れられては困る」
「あー……団長たまに書類とかスルーするからなぁ…」
それは…本末転倒ですね、はい。
「うへぇ。強くなりたいとか面倒なのが好きよね………誰か来てる!?」
「……!! お、女の子…?」
奥の茂みの方から青い髪の毛をサイドポニーにしている小柄な少女が現れて―
「わぉ♪ きゃわいいおにゃのことかイケメンとかハケーン♪ こりゃ眼福だねぃ」
力の抜ける様なセリフを吐いてはしゃいでいた………
―別パーティと遭遇した!!




