23-01 【鍛冶への道は】 Ⅰ
ヤスオ君は冒険者兼鍛冶見習いです、なので鍛冶シーンもあったりします。
ただ、そこまで詳しくないので描写は甘いです、ヤスオ君自身もまだまだなので逆にマッチしてるかもしれません(何
―武器屋【防御は最大の攻撃!!】 地下―
一心不乱に槌を振りおろし鉄を叩いて伸ばし、焼き、確かめ叩き、伸ばし焼く。教えてもらったことを最大限に活かし剣を形作っていく。
鍛冶は一切のミスが許されない。
一度でもミスしてしまえば、どんな名刀も駄作に変わってしまう。今の自分では無理難題な事だが、それでも自分でできる最大限をこの剣に込める。
恐らく自分が行っている鍛冶は地球とは違うやり方だろう。東西の種類関係なく地球で作る武器とこの世界で作る武器、その鍛冶の方法はかなり違う。
覚えている限りでは剣1本、刀1本打ち上げるのに1~2週間以上掛けるというのをパソコンでふと見た事がある、自分がもし異世界で刀鍛冶になったらなんてのを妄想して適当に流し読みしたからだ。
流し読みなので事細かに覚えている訳ではないが、それでも剣1本打ち上げる時間は1~2週間掛かる…と言うのは覚えている。
だがこの世界は違う、技術は勿論だがここには【スキル】が存在し魔法が存在する。だからこそより強く、より早く、より確実に作る事が出来るのだ。親方が1日に作る武器は3~5本を優に超える時がある。凄まじいほどの気迫と寸分たがわぬ正確性で槌を振りあっという間に逸品を完成させるのだ。
初心者が使う鉄や胴で出来た武器ですら生半可な腕では作れないほどの素晴らしい剣に出来るのだ。
「……っ!!」
だがそれは親方だから出来る事で僕にはまだそこまでの技術はない、それでもスキルや施設のお陰で1本打ち上げるのにかかる時間は半日程度で済んでしまうが、武器の出来は決して良いものではない。
猛火の様な暑さの中、真剣に親方は自分の製作過程を見つめている。今作っているのは店の商品ではなく自分の為の武器を打っている。親方はそれを見てくれているのだ。槌を握る手に力が更に入る。
鉄を打つ音が鍛冶場に響き渡る。
自分は頭が良くない【知】が高くてもそれは自分の頭の良さが上がる訳ではなかった。ただ物を覚えやすくなっただけだ。だからこそ教えてもらったことを覚え、自ら実践し経験に変えていく。知識だけで武器が作れるのなら苦労しないというのは親方の談だ。
武器を作っている間は寝食を忘れる、よく聞くが自分が武器を作って初めてその意味を理解した。寝食を忘れるんじゃない、そんな暇が一切無いだけだ。
―気力を振り絞り
―自分の想像する剣を形作り
―それを槌で形成していく
そして…………―
「…………よしっ!!」
自分の中では最高の武器が出来た。
それが例え店の量産品以下の性能だとしてもこれは自分で魂を込めて作成したものだ。
―【平凡な】スチールショートソード【55/55】を作成した!!
―【平凡な】スチールショートソード【55/55】攻撃:13 ランク:D+
―自作のショートソードを基準に鋼を混ぜ合わせた複合合金の剣。
「うむ、少々粗は目立ったが、武器としては最低限の能力を保っている。よくやったのぅ、もう少し技術を鍛えればお主も一端の鍛冶屋になれるじゃろうよ」
「有り難うございますっ! まだまだダメな所ばかりでこいつを強くしてやれませんが、きっとこいつを最高の剣に出来るように頑張りますっ!!」
「セレナの奴も恐らくお主を待っておるじゃろう。いってやりなさい、儂はもう少しやることがあるからの片付けはえぇ」
鍛冶場の一番大事な部分は親方が調整する、今の僕ではどうにも出来ない技術だ、お言葉に甘えて片付けを始める。
「はいっ! 今日は有難うございました! 明日も仕事を精一杯頑張りますので宜しくお願いします!!」
「ほっほっ、いつも気持ちのいい元気さと素直さじゃのぅ。近い内に色々教えてやるからの、では行きなさい」
「分かりましたっ!」
頭を下げ鍛冶場を出る。冷たいと誤認してしまいそうになるほど外は涼しかった。鍛冶場はそりゃあもう暑い、暑いと言うか熱い。鍛冶に取り組んでいる時はまったく気にならないけど、気を抜くとふらふらしちゃいそうになるほどだ。
それにしても―親方も口が上手い人だ、今の自分じゃ技術も何もかも全然まだまだなのに。僕がこうやって武器を作れるのもスキルのお陰なんだろうし…そう思うと申し訳ない気がする。親方は仕事中はそれはもう厳しいが、それ以外は、好々爺の様な感じのする人だからなぁ…孫大好きおじいちゃんそのままだ。
厳しそうな見た目に反して口が回り、人をその気にさせるセリフを結構使う。勿論全部が全部嘘ではないのだろうが自分にはそれがむず痒い。もともと調子に乗りやすし性格な上こうして一応でも鍛冶が出来るのは覚えたスキルのお陰だ。スキルもなく一からやっていれば自分では剣を叩き折っておしまいな自信がある。
「なんにせよ、ちょっとずつでも上達してるのは確かか…この剣をどこまで鍛えられるのか、実は少しワクワクしてるんだ…」
背中に感じる剣の重み……自分が鍛えた剣の重みだ。
そう思うと普段使っている剣というのもあるが、愛着が出てくる。森で生きていた時、壊れるその時まで頑張ってくれた大切な剣だ……今度は大事にしたい。
そんな事を考えながら歩いていると奥のほうにセレナちゃんがタオルを持って待っていた。
「ヤスオお兄さんおかえりなさい今日もお疲れ様でした。お風呂沸いてますからお早めにどうぞ、その後は夕食ですからね」
「ただいまっ! うん汗でべたべたするし早めに入ってくるよ。今日のご飯も楽しみだなぁ」
「ふふ♪ 今日はちょっと奮発したので期待しててくださいね」
いたずらっ子の様に可愛く微笑む彼女を見ていると元気が出てくる。鍛冶の疲れも吹き飛ぶと言うものだ。ちなみに自分の剣も修理という名目で出しているので、これも一応仕事のうちである。ちゃんとお金は払っているので安心して欲しい。
普通なら親方が修理してくれたりするのだけどお願いして親方に監督してもらいつつ自分で鍛えたのだ。この剣を強化するのは最後まで自分でいたいから―
「ごゆっくりどうぞ。あ、でもお風呂で寝ちゃダメですよ? お仕事疲れも有りますから、長湯はしないように、ね?」
「あはは、了解だよ。それじゃささっと綺麗になってくるよ~」
「はい。行ってらっしゃいです」
鍛冶屋での仕事は基本こんな感じだ、毎日武器を精錬して過ごす。
最近これも楽しいと思うようになって来た。もし元の世界に帰れないのなら冒険者の他にこの仕事も視野に入れておこうと思うくらいには。




