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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【序章】 異世界で死と背中合わせのサバイバル
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02-01 【苦難の中】 Ⅰ

沢山のブックマークと感想ありがとうございます。

感想に返信させてもらいました。 遅くなって申し訳ありません。


―5日後 【森の中】


 魔法で焚き火をつけられるようになってから、徐々にだけど日々の生活が楽になった。夜寒さに震えることはなくなり、火はウサギも避けてくれるらしい。


 洞窟の外で焚き火を焚いているのだが、二日前にウサギが現れたのだ。

 剣は持っていたので急いで立ち上がり構えようとしたらウサギはすぐさま逃げていった。どうやら何かの習性なのか単純に火が怖かったのか、焚き火さえあれば洞窟の前は少し安心出来るようになった。


 まぁ―あの大型犬が来たらどうなるかわかったもんじゃないが。ウサギは運が良ければ倒せるかもしれないが、あんな犬に勝てる訳がない。剣を振るとか以前に噛み殺されるのが目に見えている。


「と言うか、あの犬はモンスターなのか動物なのか…ウサギは多分モンスターでいいと思うけど、動物とモンスターの定義がよくわかんないな…」


 ウサギは倒したら消滅しドロップが出た。

 それに対して動物は死体が残っていたから、死んで残れば動物で消えれば多分モンスターなんじゃないかと思う。正直どうでもいいが少しでも情報は集めておいたほうが安心できる。


「それにしても手に入れた牙のお陰で前より格段に魚は取れるようになったなぁ。ショートソードやナイフじゃ使用回数が怖くて使えなかったけど、これには使用回数が無いみたいだし魚を突き刺すには便利だよ」


 その分ショートソードやナイフの様に【攻撃力】は記載されてないので戦闘では確実に役に立たないと思う。


 この世界どうにもシステマチックな様で何か行動を行う度に頭の中にシステムメッセージが流れるのだ。脳内に…そう幻視の様な感じで、でも確かに判別できる文字…この世界の文字みたいなんだけど、これが普通に理解できる。


 どういう仕組なのかは分からないが、これが僕だけなのかこの世界に住んでいる人全員がそうなのか…


 つまり僕のステータスは2とか3しかないどう見ても平均以下っぽいステータスな訳で、寧ろこんなメタボが…この1~2週でかなり痩せたけど戦えるのが十分奇跡なんだけど、やはり凹んでしまう。


「魚とか取ってもステータスが上がらないし、やっぱりウサギを倒さないとなんだよな…でも勝てるかどうかわからない、ショートソードには使用回数がある…詰んでるよなぁ」


 魔法で生活は前より楽になったが、先が開けた訳じゃない。

 モンスターと闘うのはやはり怖い、殴られたら痛いとかそういう次元じゃないのだ、痛いし苦しいし、相手を殺すのが怖いし頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。


 それにこの前はウサギが1匹だけだったから倒せた。あんな幸運は滅多に無いだろう、2体も居たら確実に死ぬし、戦闘中に増えでもしたら絶望だ。犬なんて混ざった時には…


「転生とか憑依とかトリップした主人公って何で怖くないんだろうな…

少しでいいからその勇気僕に分けてくれよ、というか助けてくれよ…ってこんなキモオタを好んで助けてくれる人なんて早々居ないよな。」


 僕が見目麗しい女性とかもしくは凛々しい男性だったら可能性はあるかもしれないが、ここにいるのは全身ボロボロのヒキオタニートだ。助けてくれる所か「ここで死ねデブが」と言われても仕方ない人種だからそんな幸運ないだろう。


「愚痴ってもしょうがないよな…今日も魚をとって帰らないと。せめて2匹は取りたいなぁ…」


 気合を入れなおし牙を構えて川を見つめる。

 この数日で結構慣れてきたと思う、こんな僕でも少しは成長しているんだなとちょっとだけ自分を褒めてやりたかった。


 ちなみにここの水は普通に飲めた、と言うかここの川を見つけてなかったら僕は水分不足で死んでただろう。地球の水道水の何倍も美味しく感じたのは水が飲めなかっただけではなく、本当に美味かったからだと思う。


 とはいえ―川の水で腹を壊した事があるから今は飲む前に【浄化】という魔法を掛けて飲んでいる。保存する容器なんて無いし、竹のような便利な物は無いので綺麗に洗ったウサギの毛皮の裏に水を溜めてから魔法を唱えて飲んでいる。


 かなりの手間だけど腹を壊してしまえばその日は動けなくなってしまう…これも必要な事だった。


「魚…魚…こいこいこいこい…」


 川魚なんて正直殆ど食べたことは無い。

とれた魚もどんな種類なのかさっぱりだ、そもそも異世界なのだから種別すら違うだろうけど。食べられるのだからその辺はどうでもいいかもだ。


 いつも食べている魚は川魚なのか何なのか知らないけど僕でも運が良ければ捕まえられる程度には遅く泳いでいるので、こうやって取ることが出来る。


 釣具でも簡易的に作れれば良いんだろうけど、僕にはそんな技術は無い。木の蔦とか木を削って釣り針とか、サバイバルなんてやったことの無い僕に出来る訳が無かった。


 勿論知識はあったんで試してみたけど朧気にしか分からない知識じゃ満足に釣りが出来るものなんて作れなかった。


「原始的っていうかまんま原始人っぽいけど、これが一番安定してるよな…って、居たぁ!!」


 ゆっくりと流れてくる魚を見つけた― 

 逃がさないように慎重に牙を魚の真上まで持っていく、この時遅過ぎたら相手は泳いでいるのだから直ぐに逃げられてしまう。


慎重になりつつも早さが求められる、つまり僕には難しいと言う事だ。


「………えいっ!!」


 そのまま牙を真下に叩きこむ、衝撃で水が撥ね自分の顔に掛かるが気にする余裕はない、直ぐに魚がとれたか確認を―


「いよっし!! とれたぁ! こいつ結構大きいじゃないかっ!」


 牙は綺麗に魚の背を貫通し仕留めていた。

 それでも尚弱々しく抵抗するが問題なく魚を獲得する。水飲み用に使っていた毛皮に上に置き落ちないように縛っておく。12~14センチ位のかなり大きい魚なので、今日はこれで飢えを凌げる。沢山とっている間にまた犬などに襲われる可能性があるので急いで帰宅した。



 焼いた魚はとても美味しかった。強いて言えば塩が欲しいけど塩はないんだよな…









―【洞窟内】


 腹を満たした後は洞窟の中でじっとしている。

 これから狩りに出るなんて言えるほど自分は強くないのだから仕方ないのだけど。それでも魔法の本などは読む事が出来るからそれを必死に読んでいた。


「生活魔法の本…途中までは読めるんだけど、急にこのページから読めなくなってるんだよな…多分、解読のスキルが足りないのか【知】が足りないんだろうなぁ…」


 火魔法の書は勿論読めないが、生活魔法の書は大体3分の1までは読めるようになったけど、それ以降は再び理解できなくなっている。


 読める部分も勿論日本語に変換された訳でもないけど、頭の中で日本語に翻訳されている感じだ、微妙な感覚だけどもう慣れた。


「火魔法かぁ…ここが平原とかだったら大っぴらに使えるんだろうけど、ここじゃ開けた部分じゃなきゃ燃え広がりそうで怖くて使えないな…」


 未だに森を抜け出すことが出来ない以上、ここがとても広大な森かゲームなどによくある【迷いの森】何じゃないかと考えているが、恐らく迷いの森の方があっていると思う。


 偶に歩いていると何度も歩いた場所を歩いている時があったからだ。


「ここが迷いの森だったら…どうやって逃げ出せばいいんだろうな…森で暮らすか死ぬしかないのかなぁ…」


 ネガティブな考えしか生まれないのは疲労が溜まっているせいだろう。

 ここらで気分転換にまだ読んでいなかったメモ帳を読む事にした。もしかしたら脱出できるヒントが書かれているかもしれないと期待しつつ―



―24ページ

 この森に来てもう何日経っただろう、二週間は過ぎただろうか。

皆の言う通り、此処に来るのをやめておけば良かったと今更後悔しても遅かった。魔の森はモンスターこそ弱いものの、微弱な魔力が辺りを覆っていて方向感覚を狂わせるようだ。


―25ページ

 やはり駄目だ、どうしても出口につくことが出来ない。

同じ場所をグルグル回り続けているのは自分でもわかる、それでも道に迷ってしまう。この森を覆う魔力を研究しようとしたのが間違いだったのか。このまま自分はここで朽ち果てるのか。


―26ページ

 ファングラビットの他にハウンド、魔力で覆われた森の割にはモンスターは雑魚しかいない。ブラウンベアーとかがいたら死んでいただろうから、その点は有難いが。出口はやはり見えない。このまま歩きまわるのは下策だ、辺りを覆う魔力を調べればもしかしたら。



「魔の森…やっぱりここ迷いの森なのか…と言うかこの人それ知ってて入ってきたのかよ…研究者って何処かおかしい人多いよなぁ。」


 最初は当たり障りのない事や魔法と結界が云々と書かれていたが意味が無いのと理解できないので読み飛ばし漸くこの森の情報を得ることができた。


 ウサギがファングラビットと言うのは頭の中の文字で知っていたが、犬がまさかのハウンドという名前そのまんまのモンスターだとは…まぁ、半ば予想していたが。


 そしてあれが雑魚という現実に目の前が少し暗くなった。

 ウサギもハウンドも雑魚、その雑魚に普通に殺されかけている僕はじゃあ、一体なんなのか…あぁ、雑魚以下なんだろうなと呟いてしまう。分かっていたことだし、気を取り直して次のページを開いていく―



―36ページ

 だめだっ!! 何もわからない!! このままじゃここで死んでしまう・・・そんなのは嫌だっ!何とかしなくては、いっそ森を焼き払うべきか・・・いや、それは最後の手段にとっておきたい。


―43ページ

 食料が尽きてきた、現地調達しようにも状況が芳しくない。どうしたらいいのだ。


―65ページ

 持ってきた食料は完全に尽きた、後は魚や動物で耐えしのぐしか…


―87ページ

 ちくしょうっ! ファングラビットとハウンドに囲まれてしまった。

なんとか撃退したがハウンドに右足を噛まれてしまった、自分の持っている回復魔法では回復しきれない。いやだ、こんな所で死ぬのは嫌だ。



「……………そうか、この人…」



―89ページ

 足が全く動かなくなった、もう自分は此処で死ぬのだろう。

 漸く、漸く此処を出る手段が見つかったのに。【魔】がそこそこと【運】が多少なりともあれば抜けられる。それだけあれば辺りの魔力を破って逃げられたのに【運】は足りていたのに【魔】があと少しだけ足りないなんて、自分が魔法使いならすぐに出られただろうに。死にたくない…死にたくない…畜生! 辺りのモンスターがもう少し強ければ、倒してレベルを上げられたら!!



「ページはここまでか。つまり僕もステータスが足りないから出られないのか」


 自分のステータスは見事に2と3ばかりだ、知だけが少し高いがこのステータスじゃ多分確実に足りないんだろう。 平均の人はどれ位なんだろうか。など考えていたらとあるフレーズが引っかかった。


「レベル…? レベルが上がればって…この世界もしかしてレベル制なのかな? でも僕はステータスが個別に上がったけど? 異世界から来たからシステムみたいな物が違うのかな」


 レベルだの何だのは考えても仕方がないので切り替える事にする。

 とりあえずメモ帳のお陰で色々理解することが出来たのはこれからきっと役に立つだろう。


 この森は【魔の森】で【魔】と【運】が一定数以上なら脱出できる事―


 あの犬はハウンドという名前で雑魚だったこと―


 モンスターを倒していけばレベルが上がる、つまり僕もステータスが上がるかも知れないということ―


「何にせよ…これで漸く先の目処がついたな。モンスターを倒してステータスを上げる。そしてこの森を出て…その後はその後考えよう。現状を考えてそんな都合よく行く訳がないしね。言うだけならタダ、か。」


 ウサギには運良く勝てた。

 つまり今の自分でもこのショートソードさえあれば勝つことが出来る。問題は僕には防御力がないと言う事だ。身体を護るものなんてこの衣服位しか無いし、こんな程度では防御力も何もない。せめて盾とかでもあればもう少しは…


「って、今の僕じゃウサギやハウンドを目の前にしたら冷静で入られる自信がないよ」


 盾が有れば…と言っても盾を作る技術なんて無いし、そもそもの問題で材料すらない。これがチートも何もない人間の限界なのかもしれない。それでもこうやって生きている以上、十分運がいいんだろう。と言うかそんな技術、持ってても使いこなせる自信がない。


「それよりも、頼みの綱のショートソードは後22回しか使えない。

あの時ウサギを倒した時に2回分消耗したから、頑張っても10体倒せるかどうか…そしてその間にステータスが上がり切るか…普通に考えればありえないな。

やっぱりどうしようもなく現状は詰んでる」


 ゴールは見えた…見えたけど、そのゴールは自分では到達できない高い場所にある、そんな感じだった。心を誤魔化さないと僕は多分精神が持たなかったと思う。


「今はとりあえず、生きることに専念しよう。水も食べ物も、火だってアテができたんだ。少し前はそれすら出来なかった…格段に、進歩しているんだから。」





―明日はまた、魚を取る所から始めないとな

      そんな事を呟きながら、火を絶やさずに夜を過ごした―



―続く



2015/08/30 ご指摘をうけ修正完了です。

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