SP-02 【はじめてのぱーてぃ 但しカノンのみ】
頭を空っぽにしてお読み下さい。
―前夜―宿屋
「明日は草原での慣らし狩りね、まぁ数も足りているし問題もないでしょう。強いて言えばシーフが欲しい所だけど、ダンジョンアタックする訳でもないしソレはおいおい探すことにしましょうか」
ヤスオから即席でパーティを組まないかと誘われ明日に向けて色々準備を整えているカノン。メイジである彼女にとってMPポーションは生命線なので何度も数をチェックする。ここぞという時に足りないでは話にならないのだ。
どれだけレベルが上がろうともこの確認を忘れてしまってはいけない。
「即席だけど前衛二人、後衛一人、スイッチ一人。うち二人は自警団員で本職じゃないけど、かなり豪勢なんじゃないかしら。特に上級職ですら滅多に居ない攻撃と魔法のスイッチタイプ…ね」
事前の打ち合わせでお互いの得意な事、出来る事は話し合っている。自警団員二人はレベルもまだ低い方だが、ファイターとしての基本はしっかり抑えて居たのでフィールドでの狩りならば何ら問題はない、というか自警団の団長が参加するなんてのは長年冒険者をやってきたが聞いたことが無かった。
もう一人の冒険者で同じメイジのアリアオロは邪属性の阻害魔法が得意らしいのと切り札的なものがあるようで、此方も問題はない。レベルが11なので安心ても良いだろう。
そして最後…【魔法戦士】と言う特殊クラスらしく、物理はファイターより多少低い感じで、メイジ魔法も使える。ここまでならメイジがウィザードナイトを目指す為に武器を使っていると考えられるが、彼はアコライト魔法も同時に使えると言う。
契約魔道書という、契約する事でデメリットが発生する代わりに適性が無くても魔法を覚えられる魔道書などがあるが、そのデメリットは大体とんでもないので使う人はよほど戦力が整っていないと使えないし、アホのように高い。
一番安い下級魔法が使えるようになる契約魔道書で1000万前後する時点で下級はお呼びでない。
だがヤスオは魔道書契約はしておらず普通に武器も攻撃魔法も回復魔法も使いこなせる、大体に置いて多種多様に使えるタイプはどこかが弱いか平均以下なのだが、ヤスオはその全てを平均並で持ち合わせている。
「レベル9とは言えその能力は凄く魅力的だわ。明日は、楽しい狩りになりそうね。……それにしても………」
動かしていた手を止め、思案する―――
【―のーないかのん― 来たっ!! 私の時代が来たわっ!!初めての! 初めてのパーティよ! それも複数! HU☆KU☆SU☆U☆!! もう一人で前衛メイジする必要もないのよ! テンション上がってきた!!流石ヤスオさん、私に出来ないことをあっさりやってくれる!そこに痺れて憧れるわっ! いやっほぉぉぉぉぉぉっ!!】
脳内でマシンガンの様に語り出す…と言うか喋り出すカノン。ちなみにこの間現実での彼女は一切表情が崩れていなかったりする。
【―のーないかのん― 今までずっと「表情が怖い」「情け容赦なさ杉」「貴方一人で戦えますよね」とか言われ続けて半ば諦めてた冒険者パーティ。もしかしたらーって人の良さそうなヤスオさんに聞いてOKを貰った時に表情を崩さないように保ったのが奇跡ねっ! 後、一応前に色々言われた「レベルを聞くならまず自分から申告しろ」は上手くいったし…これでボッチから卒業よ! やったねカノン! 仲間が増えるよ!!】
脳内では【らららー】とか歌いながら踊っているが、やはりリアルの彼女は表情を崩さずに静かに座っている。
【―のーないかのん― それよりもヤスオさんよヤスオさん! 魔法戦士って聞いたことないわ!! 上級職にウィザードナイトが居るのは知ってるけど、攻撃も魔法攻撃も、回復魔法も行けるってどれだけチートなの!? あれなの? 勇者とか神に選ばれた英雄とか!?人の良さそうな人だし、なんかあり得る!? お、拝んでおいたほうがいいかしら……】
しつこいようだがリアルでは凛とした佇まいを保っている。ここまで来ると立派なものである。
【―のーないかのん― って、それよりもあれよっ! や、やっぱり私の方がレベルが高いから先輩として色々教えてあげないといけないわね、ほら、ヤスオさんって先日大怪我して戻ってきたし。吃驚したわぁ…折角出来た仲間が即さようならって、私呪われてるの? とか思ったし。無事で何よりよ! フルーツ持っていったけど喜んでくれたかしら? や、やっぱりパーティメンバーだものね! お見舞いくらい当然よね! でも、表情固かったし…もしかして迷惑だったかしら…待ってお願い、解散だけはやめろください】
お見舞いに行ったら普通に喜んでいたので問題はなさそうだが、ボッチのカノンにはちょっとした仕草がダメージに繋がる。これはヤスオもそうだったりするが、今のカノンよりは大分マシだろう。
【―のーないかのん― って、心配する必要ないじゃない! それだったら明日狩りに行こうなんて誘われないわ! 自慢じゃないけど私に誘いかけてくる人なんて下心のあるクズ人間とかしかいなかったし! ぼっこぼこにしてやったけどね! 大丈夫、殺しはしないわ! だって生きてるほうがもっと苦しめるじゃない! 敵に容赦はいらないわ! そして仲間には友情を持って接するのよ! 頑張れカノン! 仲間と友達を作るのよ!!】
ふぅっと息を吐きカノンは宿の外を見つめる。心臓がドキドキとなり痛い位になっていた…明日は本当に久しぶりの臨時パーティだ。微かな笑みを漏らしながらカノンは呟いた。
「何にせよ明日ね、とりあえずは扱いてあげましょ。どうやら【レベル9】の壁にぶつかってるようだし後押し位はね」
明日が早く来ないかなと、彼女は夜の空を見つめていた―
―21話に続く




