20-03 【一人で万全等は無い】 Ⅲ
暗い…とても暗い……何も見えないんだ……
僕は、死んじまったのかな………結局、自分は……ダメ人間のままで……
アルスさん達との約束も守れないで…町のすぐ近くで、あっさりと死んじゃったのか…
なんだか……ぐらぐらする…一体僕は今、何処に居るんだろう…死んだら何処に行くんだろう…?
天国……地獄…? 異世界に来てもそこがあるのかな…?
あぁ……皆心配してるんだろうな…ごめんよ…ごめんよ皆…僕が迂闊だったばっかりに……
………あぁ、なんだろう、温かい……そして……痛みが……
―物語はまだ続く
「う……ぐ……ここ…は…僕は…生きて…るのか……?」
「えぇ、貴方は生きていますぞ」
じわじわと全身を襲う痛みに僕はまだ生きている事を実感し、声が聞こえた方向にゆっくりと首を動かす。
そこには焚き火を調整しつつも僕を優しい瞳で見ていたオッターさんが居た。
「ポーションが完全に馴染むまでもう少しそのままで居て下さい。ご無事…とは言いがたいですが生きていられて何よりですヤスオ氏」
「あ……お、オッター…さん? ……何で…ここに?」
気がつけば自分にはしっかりと包帯などが巻かれている、怪我も痛みはあるが鈍痛のみで血などは流れていなかった。
「いえ、日課の周囲のパトロール中でしてな、モンスターの叫び声と爆発音が聞こえまして急いで向かった所に倒れている貴方とハウンドを見かけまして助太刀に入った次第ですぞ」
そう言ってハウンドの素材を僕の方に置いていく。
「その指輪のお陰で、瀕死の状態で生き残り続けられたのでしょう、助かってよかった。そして申し訳ありません、私では装備を整えているヤスオ氏を運ぶことが出来ず、やむなくここで治療をさせて頂きました。どこかおかしい場所はありますかな?」
「まだ少し痛みますが……大丈夫です。もしかして毒も……? メイジのオッターさんは回復魔法が使えない……まさか僕にポーションを…?」
ポーションは安い奴でも数万Rほどする。これはボッタクリでもなんでもなく普通の適正価格だ。受けたダメージを飲んだりふりかけるだけで癒やしてしまう魔法の薬が安い値段で置いている訳がない。
「なに、気になさらずに。ポーションなどまた買えばよいのです。ですがヤスオ氏、貴方の命は金では買えません。一度知り合った身、助けあうのは当然です。貴方が死んでしまえば悲しむ人が多いですからな、ならば此れ位何でもありませんとも」
「あ、有難うございます。有り難うございます……!! きっと、きっとこの恩は返させてもらいますから…!!」
オッターさんのメガネの奥の瞳が優しく此方を見ていた。もう言葉に出来ず、自分はただ涙を流し礼を述べる。
「しかし、私が見回りをしている途中で良かった。やはり最近の魔物は何やら少しおかしいですな。実は私も何度か複数に襲われまして、中には奇襲を受けたりもしました。ヤスオ氏も戦闘のセンスは高い、恐らくは奇襲などされたのでしょうがどうですかな?」
オッターさんの言う事の通りだったので、それを伝えると彼は珍しく苦い表情を見せた。
「やはり……それでなくてもこの数ヶ月ダンジョンでも厄介な事になっていると聞きます。何かの前触れでなければ良いのですが……とと、すみませんここで話し込むのもあれですし、ヤスオ氏、回復魔法は自分に使えますかな?ハイポーションを使いましたので重症は治っているはず、【治癒】クラスで回復するでしょう」
「ハ…ハイポーション!? そ、そんな高価なものを!? いつつ……」
余りの事に飛び起きてしまう。ハイポーション…単純にポーションの強化版なのだが、回復量が凄まじく高く、更に【重症】状態を一気に回復出来る中級者以上が使う回復剤だったりする…ちなみに値段は【一番安くて】200万Rだ……
「お、お金は頑張って返しますので…!」
「ヤスオ氏、どうか気になさらずに。今回に状況に置いてはこの回復剤を使うのが一番適切でした。これを使ったのは私の独断で、ソレに対してどうこうするつもりはないですぞ」
「で、ですが……」
どうしたらいいかと慌てていると、オッターさんの大きな手が僕の肩に置かれる。
「冒険者同士は助け合う、私はそうやって生きて来ました。もし心苦しく思うのでしたら、ヤスオ氏……いつか貴方が成長し後輩の冒険者や一般の人をそうやって導いていく。そうして貰える事を望みますぞ」
後中級になれば結構簡単に買えますからなと、彼は笑って言う。
「はい……はいっ! 必ず!!」
大きな人だ…こんな生死を掛けて戦う世界でアルスさん達以外にこういう人に出会えるなんて、僕はきっと幸運なのかもしれない。
―ヤスオは【治癒】を唱えた! HP回復! 10割
「……本当になんてお礼を言えばいいか。今回は完全に僕の判断ミスが招いてしまったんです。森で暮らしてた時、あれほどモンスターは恐ろしいって知ってたのに」
「苦言を呈するならば、ヤスオ氏は確かに現状認識が甘かったですな。モンスターの大発生が少し前にあったのですから、仲間を募るなどするべきでした。これはどうしようもなく貴方の責任です」
最も過ぎる言葉に僕は頷く事しか出来ない。
「もしこれで死んでしまえば貴方は無為に周りの人を悲しませていた。それを忘れてはいけません。誰しも死んでいい人など存在しません。貴方が死ねば誰かが悲しむ……それは悲しき連鎖を生むのです。」
「はい……もう少しで皆を悲しませてしまう所でした」
フィル君を始め、団長さんにハウルさん…親方にセレナちゃんやアリアちゃん。アルスさん達…僕はもうこれだけの人と出会い、絆を深めていたのにそれを自分で消してしまう所だったんだ……
「……貴方は気づけましたな。それは確かな成長ですぞ。きっとそれはヤスオ氏の助けになりましょうとも、次に活かせばいい。生き残ったのならばそれをすることが出来る。貴方は前途のある青年なのですからここで諦めず、自分にできる最善を行いましょう。ヤスオ氏、貴方なら出来ると私は信じていますぞ」
「はい……はいっ!! もうこんな無茶はしないように気をつけます!!」
涙があふれてくる…有難う御座います………オッターさん。
「さて、そろそろ歩けますかな? 夜も過ぎているそろそろ戻りましょう。ご安心を、町までの道中私がしっかりお守りしますぞ」
こうして自分は生き残ることが出来た、今回の事は大いに反省しなくてはならない。明日からはアリアちゃんやフィル君、知り合った冒険者のカノンさんを誘うことにしよう。こんな阿呆な事で死ぬのは逆に迷惑になってしまうのだから。それを心に誓いながら自分はオッターさんの後をついて行った。
―20話終了…21話に続く




