CP-08 【歪み歪な想いと歪んだ恩義】
無理矢理に地の文を入れてもおかしくなると最近漸く気付きました(何
なので、ある程度は会話分をメインにして足りない表現部分を描写しようと練習中です。頑張れ私…超頑張れ…
―留置場
「ずいぶん大人しいな、あの時会った時はもう少し目がギラギラしてたが」
「別に…なんでもいいでしょ。少し思う所があっただけよ。てか、あんたにゃバレてたんだ…そのせいで見つかったのね」
「俺は人の数倍鼻が効くんでなそれでなくても怪しすぎだ。お前まだスリになりたてだろう? 色々お粗末すぎだ」
「これでも地元じゃならしてたんだけどね。ま、言っても1~2年だし運が良かっただけか」
それなりの自信はあったがハウルにとっては児戯に等しいレベルに見られているらしい、事実スリの技能は高いがそれ以外は未熟な所は自分でもわかっている様だ。
硬いベッドの上に腰掛けながら目の前の小憎らしい自警団員を見る。完全に無表情で此方にほんの少しも興味を向けていないのがわかった。
事実ハウルは目の前のスリに何の興味も無いし、邪魔にしか思っていない。
「何にせよ暫くはそこで過ごしてもらうぞ。スリ程度、本来なら1日程度で釈放するが、お前は冒険者だからな、暴れられて何かあったら示しがつかん。もっとも、その気概もなさそうだが」
「別に、おとなしくしてるわよ」
そっぽを向いて嫌な顔をしつつも言葉に従う。本来なら言う事など聞く耳持たないし脱走しようと画策するのだが、今回は受け入れる理由があった。
「所でさ…あの甘ちゃん、あんたの所の奴なの?」
「それがどうかしたか? 貴様には関係ないだろう? 町での強制労働が関の山だろうが、罰が終われば他の町に行く程度の食料持たせて町から追い出すんだ、知る必要がない」
ヤスオの事を言っているのは分かったが気にせず話を終えて戻ろうとする。だが、それを彼女は止めた。
「待てよっ!! あんたに無くても私にはある。あの甘ちゃん野郎に借りを返すんだ」
スリにはスリの吟詩があると彼女は強い口調で続ける。
「あの女冒険者にもう少しで私は殺されるところだった、命は無事でもほかが全部終わってた。それをあの甘ちゃんがあの女を制して私を此処に連れてきた。私はスリで腐ってるかもしれないけど、恩義までは捨てちゃいないんだ」
「大した事をほざくな。殺されなかったんじゃない、貴様など殺す価値も無かっただけだ。ヤスオが止めたのは俺が殺すなと言ったからに過ぎん。あいつに恩を返したいって言うなら黙ってこの町から出て行け。貴様はあいつの為にならん」
―ハウルの【強威圧】発動!!
―抵抗失敗!! ??は【恐怖】になった!!
「ヒッ!?」
突然襲い掛かってくる濃厚な死の気配に両手でガタガタ震えてしまう自分を押さえつける。それでも彼女は泣きながら叫んだ。
「や、やだ…!! いやだっ! 私は恩知らずにだけはなりたくないっ!」
「(威圧に怯えながらも、耐えただと…)何故そこまでこだわる? 貴様はヤスオのサイフを盗んだで助けてもらっただけの関係だ。後は礼を言って終わりだろう? 恩義云々抜かすなら、そもそもクズみたいな真似をするな」
「う、うるさいっ! 私には私の考えがあってやってたんだ! 楽に暮らしたかったからやってただけだ! でも、だからって礼を言う心まで……恩義を返す心まで捨てちゃいないっ! アンタがなんて言っても、わ、私はあいつに恩を返すんだっ! 殺されたってやめるものかっ!」
怯えながらもハウルを睨むその目は先程までと違い信念の強さが垣間見えた。
「ほぉ…? ならいっそ此処で死んでみるか?」
「っ!!」
顔を両手で抑えながらも言葉を訂正せずにその場で震えているだけの少女。その様子に流石に違和感を覚える、どうみても目の前のそれは性根が腐っている典型的な小物なのに受けた恩だけは忘れないと言い張り、脅しても掌を返さない。
大体の場合ここまで脅せば直ぐに自分の言葉を取り消す輩がほとんどな中、ここまで気丈に信念を変えない所だけは悪く無いと感じる。ほんの僅かだが。
(わからんな、好いた惚れたのじゃないのは確かだ。性根の腐った人間が恩だけは忘れない? 意味がわからん。が…こいつ、多分止まらんな……いや、ヤスオにこういう人間を宛がうのも一興か、この町は甘い人間が多すぎる、悪意や害意に鈍いままでは この先やっていけんだろう)
「な…なによ、殺さないの…?」
「貴様を殺したら此処が汚くなるだろうが、そんな無駄なことはしない」
威圧を解除し冷酷に言い放つ。
「罪を償ってここを釈放されたら貴様は自由だ、それ以降はこの町の人間に害をもたらさないのならば俺等は関与しない。だが、覚えておけ? 害をもたらしたならば、次は俺が貴様を潰す」
「………わかってる、最低でもこの町ではそんな真似はしないわ。話はそれだけ…? もう疲れたから休みたいんだけど。」
精神的な苦痛で身も心もクタクタになっている、出来ればこのままベッドに飛び込みたい誘惑を耐えながらハウルに確認を取る。
「好きにしろ。……せいぜいおとなしくしてることだ、さっさと罪を償って出て行ってくれ犯罪人に出す食料だってタダじゃないんだ」
「わかったわよ………」
力なく項垂れながら硬いベッドに潜り込む―――
「………ママ…」
そのつぶやきはハウルには届かなかった。
―20話に続く




