01-05 【何もないサバイバル】 Ⅴ
1話はこれで終了となります。
森の中のサバイバルはまだまだ続きますが、皆さん良ければ見てあげて下さい。
このお話は一応最終回まで書き上げていますので後はそれをゆっくり再構成していく予定です。少しでも皆さんが楽しんでもらえるように頑張ります。
―8日後
結局あれから自分は一週間以上も道具を抱えて怯えて逃げ惑っている。
水は何とか飲めるが、火は結局使えずじまい。魚などを食べて飢えを凌ぎ、たまにあたって腹を壊し、痛みに耐えながら逃げ続けた。
小さな動物を何匹か殺せたがレベルアップもなにもなく未だに本は読めていない。
森の出口を探したがこれだけ歩きまわってもなお出口の出の時にも引っかかることなく森の中をさまよい続けているのが現状だ。ここを抜け出せる事も出来ず、きっと自分はそろそろ死ぬのだなと諦めかけていた。
「結局僕には無理だったんだなぁ…
こうやって生きてるのすら奇跡で…小説やゲームの主人公はきっと特別で…
未だに満足に火すら付けられないなんて……情けなさすぎるよ…」
10日以上過ぎているのに、火も起こせないという現実は僕を容赦なく絶望に叩き落とす。なんとか煙を出すことが出来たがそれだけだ。
一生懸命木を擦り合わせた所為で両手には幾つものマメができ、その内の半分以上が潰れている。ジンジンと鈍い痛みが思考力や気力を奪い、生きる意思すら失いかけていた。
「木、木、木…草にキノコ、どこ歩いてもこれしかない。偶にウサギが居てビクビクしながら逃げて…犬は次見つかったら、死ぬよなぁ。餓死するのか食い殺されるのか、どっちが早いのかな…」
この森に来てから、前よりも独り言を呟く癖が酷くなった。
誰かが聞いているわけでもないのにこうやって喋り出すのはやはり…寂しいから何だと思う。怖くて寂しくて泣きそうで…でも誰も居ないからせめて自分で喋って気休めだけど恐怖を忘れようとしている。
服は汚れ、髭は生えまるで浮浪者のようだ。ニートがホームレスになった―
今の僕はまさしくそんな感じだろう。
樹海で自殺しようとしてる人間と間違われても仕方ない格好だ。
「風呂に入りたいなぁ…歯を磨きたいなぁ…僕は一人じゃそれも出来ないんだな…もう死……!? あ、あぁ…!?」
気を抜きすぎていた。
もう少し集中して警戒していれば避けられたかもしれないのに―!
―ファングラビットが現れた!!
あの時僕を殺しかけたウサギが目の前に現れた。
距離が近すぎる以上、逃げることは厳しい…いや、無理だろう。あれだけ俊敏に動くウサギに太っている僕が逃げ切れる自信はない。
つまり―
僕は震えながらもショートソードをウサギに向けて構える。
「あれだけ…頑張って逃げ続けてきたのに…!
畜生、逃げ…切れないよなぁ…闘うしか…倒すしか…!」
逃げられない以上、生き延びるには目の前のウサギを倒すしかない。
勝てる自信など今の僕にはない。ショートソードがあっても勿論同じことだ。当たれば勝てるかもしれないけど、全く当てる自信なんてない。
ウサギは武器を構えた僕に対して警戒している様で身構えたまま動かない。このまま動かないでくれたら勝てるかもしれないが、そんな馬鹿な事はあるはずがない。
「っ…や、破れかぶれだ! こんちくしょおおおおおっ」!!
半ばヤケになりながらも叫び僕は突撃した!―
―ヤスオの攻撃!! ミス!!
一度もケンカなんてした事が無い僕が剣を持ったからといって上手く戦える訳もなく、力任せに振りかぶった大振りの一撃はあっさりと回避されてしまう。
そして―
―ファングラビットの攻撃!!
首元向かって大きく口を開き襲い掛かってくるウサギ。
よけきれなければ喉を食いちぎられ殺されてしまう―僕は恐怖にかられながらも倒れるようにウサギが飛び込んできた横に移動できた。
―ミス! ヤスオは回避した!!
「うるさい!! 頭の中で変な文字を出すなよっ! うおおおおおおっ!」
頭の中に流れてくるメッセージに苛つきながらも必死に剣をウサギ向かって下向きに薙ぐように斬りつける! この一撃で斬れるなんて考えていない。寧ろ何も考えられず、死にたくないと叫びながら僕は全力で薙ぎ払う―!
―ヤスオの攻撃!! ファングラビットに甚大なダメージ!!
「ピギュッ!?」
間の抜けた声と共にウサギが吹き飛んだ。
がむしゃらに放った一撃が運良くウサギの頭部を切り裂いたらしい。
そのまま地面に叩きつけられたウサギは激痛か何かで悶えながら転がっている。頭部から夥しい赤い血が溢れ、ビクビクと震えているのが見て取れた。まさにチャンスそのものだ。
「く、ら、えええええええええええっ!!」
ショートソードの柄部分を両手で持ち確実に胴体を狙い串刺しにする―!
―ヤスオの攻撃!!
―クリティカルヒット!! ファングラビットに致命的なダメージ!!
―ファングラビットを倒した!!
―ファングラビットカード1枚獲得
―ファングラビットの長牙を1個獲得
―ファングラビットの毛皮を1個獲得
―ヤスオの【力】【知】が1上がった
―ヤスオは【解読:最下級】を覚えた。
肉を突き刺す感触が剣を通して直に伝わる。
ウサギは声を上げることも出来ずにビクビクと強く痙攣したのち、まるで何もなかったかのように消えていき、剣は地面を突き刺したような状態になっていた。
すぐ近くに不思議なカードと牙などが転がっていたが、現状がよく理解できず僕はその態勢のまま数秒を過ごした―
「あ……」
真っ白になった頭を振りながら剣を引き抜き僕はその場に尻もちをついて倒れこみ徐々に現状を認識していく。
ウサギと出会い―逃げられなくて仕方なく戦い、そして…勝ったのだ。
殺されかけたあのウサギに、自分は…!!
「たお…した? 僕がウサギを…あの化け物を倒した…倒したんだ…!
や、やっ…やったあああああああ!」
頭の中で表示された言葉を信じるなら僕はウサギを倒せたのだ。
情けなくても運が良かったとしてもあの化け物ウサギを倒せたのが凄く嬉しかった。
そしてステータスの【力】と【知】が1点ずつ上昇していることに気づく。恐らくモンスターを倒せばステータスが上がるのかもしれない。
この絶望の中で少しだけ希望が見いだせたような気がした。更に続けて【解読】までも覚えている、余りの幸運に暫くガッツポーズが止まらなかった。
「これ…あのウサギの牙と毛皮かな…アイツを倒したら出てきたって事は…この世界はドロップ形式なのかな? やっぱりゲームか何かみたいだなぁ。それにこのカード…絵柄とかは何も書いてないけど…とりあえず調べてみよう」
最早癖になった独り言をボソボソと呟きながら鑑定のスキルを発動させる―
―ファングラビットの牙:レア:C 制作難度:F かなり堅い牙。とても固く頑丈な為武器の素材に使いやすい。
―ファングラビットの毛皮:レア:C 制作難度:F 固く丈夫な毛皮。
―ファングラビットカード:レア:??? 永続 効果:【速】+1 重複不可
―【鑑定】ランク上昇!!
頭の中で映しだされるシステムメッセージの様な物に今だけは感謝した。
カードというのがよくわからないけど【鑑定】のスキルが上がったという事はもう一冊の本も鑑定できる筈だ。
生活魔法の書が鑑定出来たのだからもう一冊は恐らく戦闘などで使える魔法の本かもしれない。
もしそうならこの森で生き残る可能性が見えてきた。僕は空腹など忘れ落ちているドロップ品を両手に抱え元居た洞窟に向かった―
…………
―【洞窟内】
使ったから当たり前なのだけど、ショートソードの使用回数が減っていた。
どうやら【相手に命中させる】【衝撃が来るほど何かに叩きつける】などで消耗するらしく残り使用回数は【22回】になっている。
この一本の剣が僕の命を助け支えてくれたのだ。
使用回数が減ったことに恐怖と悲しみを覚える。死体から奪った剣だとしても今の僕にとっては何よりも大事な剣だ。見たことのない伝説の剣なんかよりずっと大切なモノに見える。
「大事に使わないと…有難うなお前のお陰で命拾いしたよ」
ショートソードに話しかけるなんてどこの変態だと言われそうだが、精神状態が常に危うくなりかけている僕にとって、手に入れてから今まで持ち続けてきたこの剣は宝物だった。
鞘なんて上等な物は無かったので傷がつかないように先程手に入れた毛皮の上に刃を乗せて安置する。
そのまま本を鑑定し、生活魔法の本を読めるか試してみる事にした。
―鑑定成功 【火魔法の書】【解読不能:要【解読:下級】】
―解読成功 【生活魔法の書】【5割読破】【必要知:5】
―必要【魔】到達!! 魔法取得!
【火魔法:最下級】【水魔法:最下級】【風魔法:最下級】
【土魔法:最下級】【治癒魔法:最下級】
―取得魔法
【灯火】【浄化】【清潔】【弱風】【活性】【軽癒】
「や…った…! 読める! 読めたあああああああっ!!」
鑑定した本は火魔法の本らしく、今の僕にはまだ読めなかったが生活魔法の本は文字を理解することが出来た。
そしていつもどおり頭の中にログが流れ自分に新しい力が宿ったのを理解する。
「【灯火】…! 効果は…指先から小さな炎を出せる…! これで焚き火が出来る、寒いのを我慢しなくて良くなるし物を焼いて食べられる! 仕組みなんてどうでもいいよっ今は出来る事を喜ばないと…!」
これで浮浪者以下の生活から脱却できるかもしれない、そう考えるだけでとめどなく涙があふれた。
「こっちは火の魔法書…覚えたら凄いんだろうけど、こんな森の中で火炎魔法なんて使ったら森が焼け落ちる、もし覚えられたとしても慎重に使わないとなぁ。…でもこの魔法を覚えられたらショートソードを節約できる筈だ。この剣は壊したくないよ…」
とは言え、この魔法の本を読むためにはステータスやスキルをあげないと行けない。この森の中でステータスやスキルが上がったのは本を鑑定した時やモンスターを倒した時だけだ。他にも上昇させる方法があるのかもしれないが全く思いつかない。
「やっぱり…ウサギとか倒さないといけないのかな。あれは運が良かっただけだ、あの噛み付き…避けきれなかったら死んでた、死んでたんだ。逃げられなかったから戦っただけ…僕は弱い、弱いんだから…次いけるなんて思えない」
一度染み付いた恐怖はそう簡単に取れるものではない。見た目が普通のウサギに長い牙が生えている様な姿のバケモノだからまだ死ぬほど怯えずには済んでいるけど、あの大型犬の化け物やファンタジー特有のクリーチャーが出てきたら僕は情けなく叫びながら逃げることしか出来ないだろう。そんなの予想に難くない。
魔法が使える様になったという事も、喜びは多いが慢心を生むことはなかった。生活魔法という種別の魔法だけ覚えているからだけかもしれないが、魔法が使えただけで僕が無敵になれる訳もなく、チートとかそういうとんでも方向には考えを寄せることがすでにできなかった。
「えーと…【浄化】は水などを綺麗に浄化…汚れた水でも飲めるようになるのか…確かに生活魔法だなぁ。【清潔】は…身体や認識した場所の汚れなどを取り除く!? お風呂がいらねぇ…」
他にも【弱風】は一定範囲内に扇風機の弱~強位の風を起こせるらしい。うちわで良くないかとも思うが、便利なのは便利だから良しとしておこう。
【活性】は大地の土などを活性化させて作物の実りを良くしたり出来るみたいだが、畑なんてそんなの出来る知識が僕にはなかったので使えない魔法だ。
【軽癒】これは消費が3とかなり高いけどある程度の擦り傷や切り傷なら治せるらしい。生活魔法って凄まじく便利だなぁと思う、多分一般の家庭で子供が転んだりして帰ってきてもお母さん辺りがこれで治すんだろう…絆創膏とかいらないな。
「よし…燃やすものは結構持ってきてる…発動してくれよ? 【灯火】!!」
―ヤスオは【灯火】を唱えた!!
頭の中にログが流れると同時に多少の疲労感と共に指の数センチ先から小さな火が現れた。ゆらゆらと頼りないが渇望していた火が目の前にある。消えてしまう前に燃えそうな木の皮に近づけ火をつけた―
ゆっくりとだが煙が出てくる。
そして1分もしない内に細い木が徐々に燃えてはじめ…それが大きな火になるまで大した時間はかからなかった。
既に魔法の火は消えている。
初めて魔法を使った感動もあるにはあったが、それよりなにより目の前の焚き火がある方が重要だった。人間限界まで来ると目先の現実の方が重要になるらしい。
「あったかいなぁ、長い詠唱とかするタイプじゃなくてよかったよ、これなら直ぐに使えるし焚き火の問題はこれで何とかなった。相変わらず自分じゃ火も起こせないのにさ。でもこれで明日からは食べ物探しに集中できる、何はともあれまずは食べて生き残ることを目標にしないとな」
ゆらゆらと揺れる焚き火の暖かさに強ばっていた身体が少しだけ緩んだような気がする。先はまだ何も見えない、現実はほどんど何も解決していないしモンスターにだって現状勝てるかわからないけど…それでも少しは希望が見えた気がした。
―01話終了…02に続く
―リザルト
―ステータス報告
【田中康夫】【人間:異世界人】【年齢:20】【Lv:--】
【HP】10 【(力+体)×2】
【MP】10 【知+魔+精】
【力】3【速】2【知】4【魔】3
【精】3【器】3【体】2【運】2
■所持スキル
【???:???】【サバイバル:最下級】【鑑定:下級】【解読:最下級】
【火魔法:最下級】【水魔法:最下級】【風魔法:最下級】【土魔法:最下級】
【治癒魔法:最下級】
2015/08/30
主人公の名前を間違えていたので修正しました。
マサヤって誰なんでしょう(何
2015/09/14
ご指摘を受け加筆修正です、ヤスオ君が魔法を使った時の感情を追加しました。