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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
52/216

17-04 【大襲撃と阻害魔法】 Ⅳ

 モンスターの来襲を知らせる銅鑼の音を聞き、作戦会議所から急いで駆けつけた僕等が目にしたのは、周囲を埋めつくようなほどのモンスターの軍団だった。

 それらがひたすら真っすぐに此方に向かってきているのを見て、思わず後ずさりしてしまう程の威圧感に冷や汗が流れたのを感じる。いくら少し強くなったと言ってもこれだけの数に襲われたらひとたまりもない。


「野郎どもっ! 行くぜええええええっ!」


「アーチャーはハウンドを狙い撃って数を減らせっ! 前衛でヴァイパーとスモールベアを削り続けろ! タンクはモンスターのヘイトを集め後列にモンスターを流さないように動け! アコライトは回復を切らすなよっ!」


 そんな地獄な様な戦場で一際大きな声を上げて団長さんとハウルさんが冒険者達と共にモンスターにぶつかっていく。指示を飛ばしながらも剣を振るい近寄るモンスター達を切り裂いていく様は流石自警団の団長と副団長だ。もちろん冒険者達は更に凄い、スモールベアやヴァイパーの攻撃を盾で耐え切り攻撃を凌ぎ続けている。あれだけの数に対してこちらは半分程度の人数だと言うのに、モンスターは1匹足りとも後列に流れていない。上手く抜け出す奴もいるにはいたが、アーチャーの放つ矢が雨のように…実際技か何かで現実的に雨の様に降り注ぐ矢に撃たれて消えていくのが見えた。


「数が…最終確認した時より増えているだと…!! ファッツ! 前に出過ぎるなよ! 冒険者と行動を共にしろ! 単体でいれば直ぐに殺されるぞっ!」


「わかってるっ!! ったく! 喰らいやがれ!! 【断割】!!」


―ファッツの攻撃!! 【断割】発動!!

―ヴァイパーに絶大なダメージ!!


 団長さんの振るうバスタードソードがヴァイパーに尻尾を叩き切った。その衝撃と激痛にのたうち回っている所をナイフを持ったハウルさんが駆け抜けて頭部を切り飛ばしてしまう、凄い連携プレーだ…確実にあの二人は僕より強い…それでも、尚勢い凄まじく襲い掛かってくるモンスター達に劣勢を強いられていく。


「…っ! カリーナさん! オッターさん! 行きましょう!!」


「えぇ! 了解よっ!」 


 ここでぼうっとしている暇は無い、オッターさんに支援魔法まで掛けてもらったんだ、効果がある内に自分達の役目をこなそう。いつでも魔法を使えるようにしながら前衛と後衛の間…中衛付近まで近づくとそいつの姿を目視できた。



―パライズモスが21体現れた!!



 頭の中に流れるログを信じるならパライズモスは21体も居るようだ。地上はハウンドやスモールベア、ヴァイパーが冒険者達向かって襲いかかり、絶叫や血飛沫が舞っている。その上からパライズモス達が集団で纏まりながら此方に向かって奴等は飛んできている。鱗粉の対応に魔法の水を渡しているのだけど、冒険者も自警団員も余りのモンスターの勢いに押され満足に水を掛ける事が出来ていない。


 近くで戦っていたモンスターと冒険者の人の動きが鈍っているのがここからでも見える、鱗粉にやられているのだろうアコライトが直ぐに回復魔法をかけていくが鱗粉の毒はともかく麻痺や呼吸困難は下級の魔法では回復しきれていない。


「あんなに纏まって…!? 流石に数が多すぎよ! それも集団でこっちに向かってくる!?」


「パライズモスは数が増えると集団で移動する習性がありますからな」


「っ!! 皆下がって!! 中心からハウンド達が攻めてきてます!」


 動けない冒険者達の隙を掻い潜って此方にハウンド達が襲いかかってくる―!

 その数は十数体にも及んでいる、1~3体なら今の僕でもどうにか出来るがあれだけの数カリーナさんや他の自警団員さんをカバーしながら戦い、更にパライズモスの相手をしている余裕はない…!!


 団長さん達が僕達後衛の所までモンスターが向かっている事に気づいて此方に向かおうとしているが、モンスターの数が多すぎて此方に近寄ってこれていない…! 

 

 僕は皆の前に立って剣を構える。


「ここは僕が―!!」


「いえ、ヤスオ氏ここは私にお任せ下さい皆さんは当初の予定通りパライズモスをお願いしますぞ」


 前を見据えたままオッターさんが僕の前に達リュックに刺してあった棒状に丸めていた紙の様な物を取り出しそれを地面に引く。その手際は凄まじく早くて気がつけば魔法陣の様な物が描かれている全長1m前後の紙の上にオッターさんが立っていた。


 右手に持った本を開くとオッターさんの回りに視認できそうな程の魔力がうねっているのを感じる。


「前衛がモンスターの大群に押されてる様ですな…いや、しかしそれだけです。どうやらリーダー氏とサブリーダー氏の指示のお陰でパライズモスによる被害で抜けられた場所以外は善戦している」


 此方を飲み込もうかと言う程のモンスターの群れの中、慌てている僕達を他所にオッターさんは眼鏡を直しながら周囲を見回している。


「パライズモスがバラけていたら少々面倒でした、目の前のハウンド達を沈めれば心置きなく我々これらをを相手にできますぞ。ヤスオ氏、自警団の方々。貴方達には指一本触れさせません。さぁ参りますぞ!」


―【開幕】オッターの【アクセラレーター】! 【最速行動】を得る!!

―オッターのアクティブスキル【ダブルマジック】!!

―オッターは【絶叫喚砲】を唱えた!!

―【ハイデバッファー】!! 状態異常の抵抗に-40%の修正!!

―40m周囲の全てのモンスターは【混乱】【恐怖】【麻痺】状態!!

―これは【5T】持続する!!

―オッターは【屍群魔手】を唱えた!!

―【ハイデバッファー】!! 状態異常の抵抗に-40%の修正!!

―怨念に満ちた手が道連れを探し蠢いていく!!

―40m周囲の全てのモンスターは回避率【25%】減少【麻痺】【猛毒】状態!




―オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!





 オッターさんが魔法を唱えた瞬間、僕は全てが止まったかの様に見えた。突如ハウンド達やパライズモスの真下から生えてくる赤黒い人の手の様なモノがモンスター達を絡めとっていく、更に周囲に響き渡る女性の声の様な大絶叫が周囲に居たモンスター達に襲いかかったのだ―!


「さぁ! 皆さん! 相手が止まっている隙に水魔法を!!」


「え…あ、は、はい!! 【水弾】!!」


「何あれ…敵が何も出来てないじゃないの…! 行くわよ! 【水弾】!」


 様々な状態異常によってその場を動く事が出来ないモンスターを尻目に、同じく麻痺して地面に落ちたパライズモス達に【水弾】を当てていく。魔法の使えない後方支援の自警団員の人も持っていた魔法の水が入った瓶を投げつけていく。程なく全てのパライズモスが水浸しになり鱗粉は消えたんだけど、こんなことしなくても猛毒辺りで死にそうな気がしないでもない。


 先ほどまで死ぬかもしれない、死ななくても大怪我するかもしれない。皆が大怪我するかもしれないと考えていたのに、目の前に広がる光景はただのヌルゲー状態になっていた。震え怯え毒に侵されて動けないハウンド達を自警団員の人が作業感覚で1体ずつ止めを刺していく。


 ここのモンスター達の対処はカリーナさんと皆に任せて僕とオッターさんは崩れた前衛に向かって走りだす。


 この世界に来た当初の僕…つまり超デブだった自分と対して変わらない姿に見えるオッターさんだけど、その身のこなしは軽やかで速さに自信があった僕に汗一つ流さずついてくる。レベル18…凄まじい存在なんだな、やっぱり。


「す、凄いですね…僕達いらなかったんじゃ…?」


「いいえ、私は攻撃魔法がありませんからな。直接敵を倒す方法は持っていないのです、一応絡め手で倒す方法はありますが…これが私の戦い方ですぞ。さぁ、皆さんの支援に参りましょう」


―オッターは【土硬鋼壁】を唱えた!!


 オッターさんが魔法を唱えると倒れた冒険者とモンスターを切り離す様に地面から鉛色をした巨大な壁がいくつもせり上がってくる。瞬く間にモンスターを隔離して冒険者達の安全を確保しつつ、モンスターが逃げきれない様にしてしまう。


「この魔法は風魔法と並ぶ【~壁】系の魔法でしてな、本来は防御魔法なのですが、こう言う使い方もあるのです。ヤスオ氏あの作った入り口目掛けて【爆裂】をお願いしますぞ。閉所で爆発魔法を使えば対象が1体とかも関係なく全てのダメージを与えられますからな、威力も逃げ道がない場所で爆発なら威力も上がるでしょう」


「は、はいっ!! 【爆裂】!!」


―ヤスオは【爆裂】を唱えた!!

―周囲のモンスターに致命的なダメージ!!

―何体かのモンスターは倒れた!!

―【MP上昇】ランクアップ!



 ここからはもう総力戦と言うより作業だった。オッターさんがモンスター達を止めて僕や冒険者達が倒していく。100体以上いたモンスター軍団はたった一人が使う魔法の前に為す術も無く倒されて行く。そうして全てのモンスターが倒れたのはそれから僅か20分足らずだった………怪我人が数名出たものの死者もなくモンスター退治は終了した。時間にして1~2時間ほど、戦闘という尺度で見ればとても長い時間の戦いだったと思う。何よりかにより精神的に疲れた。オッターさんが居てもこれほど大変だったのだから、居なかったらと思うと……嫌想像もしたくないな…






…………






「お、終わった……」


「お疲れ様、回復ありがとうねヤスオ」


 戦闘が終了したのもあり、回復魔法は覚えているので怪我をして下がっていたセイルさんや自警団の人などを回復していた。他にも辺りを見回すと周囲にいる冒険者達はアコイライトの人や自警団の治療要員の人に治療を受けているのが見えた。


「おーい!!」


 フィル君が満面の笑みで此方に向かって走ってくる、どうやら彼も無事だった様だ、彼の役目は罠の設置や状況を知らせる斥候的な役目だったのでそこまで危険は少なかったかもだけど、心配はしていたからこれで一安心だ。その後ろの方からはハウルさんと団長さんも歩いてくる。


「やったな皆!! ヤスオ達が頑張ってくれたお陰で楽にモンスターを倒せたぜ!! あの壁は凄かったよなっ!」


「まさか高レベルのメイジが混ざっていたとはな、お陰で消耗も殆ど無く終わったぜ。疲れただろう? お前等もゆっくり休め」


 更にハウルさんが続ける、普段の硬いな表情から少し顔を崩し僕とカリーナさん達に謝罪する。


「後…悪かったな前衛を誰も寄越す暇が無かった。、俺等が戦って動けるようになった頃には既に終わってるとは思わなかったぞ?」


 その言葉通りハウルさんは此方のヘルプに来ようと凄まじい勢いでハウンドを倒しながら此方に向かってきてくれた、途中襲われていたアコライトを助けながらだ。オッターさんが魔法を使い続けてくれたお陰で怪我なども無かったので皆はそのまま残党処理に回っていたけど。


「今回は緊急とはいえ俺とファッツの指示ミスが多かった。本来なら、前衛を崩さずに【水弾】を仕掛ける予定だったが…こうして皆が無事に生きてるのはオッター、あんたのお陰だ。改めて礼を言う」

      

「人間である以上ミスは当然の事です。特に冒険者との連携は難しいでしょう…それでもあれだけの成果を上げた。怪我人も最小限ですみましたし、次回に活かせばよいのですよ。前衛の一角が崩れてしまった以外ほぼすべて完璧でした、賞賛こそすれ非難する気はありませんな」


 眼鏡の位置を直しながらオッターさんが言う。確かにあの部分以外は団長さん達の指示が的確だったおかげで崩れずに済んだのだ。あそこで総崩れになってしまっても、この人なら止めきれただろうけど怪我人の数は今の数倍以上、いや…死者も出ていたかもしれない。それを焦らずに冒険者を動かしきった二人はとても凄いと僕も思う。


「ちっ、俺としたことが大事な時に助けに行けなかったなんてな。あんたが居なかったと思うとぞっとするぜ…これが冒険者と俺等の差ってことか」


 団長さんが頭を下げながらオッターさんに感謝の言葉を述べる。


「いや、見事な手際でしたぞ? 流石にあれだけのモンスターの数では乱戦に鳴ってしまう可能性がありました、それを上手く指示し集団で戦えるようにしてくださった、お陰で魔法での遮断などもしやすかったですな。死者を出すつもりはありませんでしたが前衛の方の大怪我などは考慮してましたから。モンスターを押さえつけるのも前衛の役目、今回はこれで良かったのです」


「そうか…ありがとよ。あんた名前は? 俺はファッツ。ファイターでレベルはさっき8になった」


「これはご丁寧に。私はオッター、レベル18のメイジですぞ」


「レベル18っていやぁ、中級の中でも上位レベルじゃあねぇか。あんたみたいな奴が来てくれて助かったぜ! 気に入った! 夜に宴会を開くから是非参加してくれ! あんたなら大歓迎だ!」


「ははっ、それはありがたいですな。それでは遠慮無く。」


「勿論ヤスオもだぜっ! 絶対参加しろよな。お前のお陰で怪我人も0になったんだし、大活躍だったんだからな!」


「あはは、うん。是非参加させてもらうよ」


 何事も無くモンスター達を退治できた、だれも死ぬことも大怪我することもなくホッとしている自分がいる。ほぼ守られながらの戦いとはいえ、自分の役目をしっかり果たせたことが嬉しかった。そして改めて、もっと強くなって今度は皆を守りながら戦いたいと思った。


 多分今日の夜も【念話】が来るだろうし今回の事を話してみよう。姉のような彼女は今回の自分をどう言ってくれるだろうか。


―17話終了…18話に続く。




―リザルト

NEW!【MP上昇:下級】

NEW!【水魔法:下級】

―習得魔法

NEW!【氷槍】

NEW!【水弾】

NEW!【放水】 



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