17-03 【大襲撃と阻害魔法】 Ⅲ
―明朝
危惧していた深夜の襲撃も無く僕達は朝を迎えた。天気も良く雨の降る心配もない、戦うには絶好の日和と言う訳だ。僕達冒険者は全員起床しハウルさんの号令の下その場で立って待機していた。
「漸く起きたか。遅いぞファッツ、お前は自警団の団長なんだからさくっと始めろ。というかよくのんきに寝てられるものだ」
「いやぁ快眠だったぜっ!なぁに、俺らの他にこれだけの仲間が居る。それを考えればちょっと早いだけの単純な間引き作業さ」
悪びれもせず言う団長さんの姿を見て冒険者や自警団員達が笑っている。これから命を掛けた戦いが始まる時に笑えるって言うのは余裕が持てるものだよな。僕もさっきまで緊張していたが今ので肩の力が抜けていた。計算してやった…訳じゃなく天然なんだろうな、でもその御蔭で僕も直ぐに戦えそうだ。
団長さんは大きく伸びをした後、此方を向き高らかに叫ぶ。
「よく集まってくれたなお前達っ! 冒険者も今回は手伝ってくれて感謝してるぜ。今回の仕事は徒党を組んだモンスター退治、俺らにとっちゃ日常茶飯事で冒険者にしたらただの雑魚退治と変わりねぇ! 奴らの居場所の目星はついた! このまま真っ直ぐ前進してくるとさ! なら俺達のやる事は一つだよなぁ!後は自由気ままに暴れようぜ!」
詳しい説明なんて何処かに投げ捨て力強く僕達を激励する団長さん。ゴタゴタした説明なんて昨日やったのだからもう要らない、後は戦って全員生き残って帰って来い、あの人は単純にそれだけを僕達に伝える。
やる気の無さそうにしてた冒険者達や、僕と同じように先程まで緊張していた様子の冒険者達、そしてフィル君を始めとして自警団員達も、その言葉を聞いて全員武器や手を上げて叫ぶ。
―おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
その様子を満足そうに見つめ仁王立ちした団長さんが締めの言葉を放った。
「行くぜ野郎どもっ! 俺達人間の底力をモンスター達に見せ付けようぜ!!」
僕も出せる限りの大声を上げて皆に倣った。
勇気を持て、森で得た勇気を…戦う為の勇気を、これは依頼だ冒険者になったのなら必ず受けるだろう戦いの依頼、これをこなして僕はあの人達に少しでも近づくんだ、きっと誰も死なせない、きっと役に立ってみせる。冒険者として…戦士として。
……………
こうして自分の初の団体戦闘が始まった。今回この戦いに参加したメンバーは自警団26人、冒険者20人、そして自分だ。先発に団長さんやハウルさん達が請け負いつつ冒険者達で蹴散らしていく、危険視されているパライズモスが現れた時は僕達魔法使いの出番だ、それまでは後列で支援や魔法攻撃をしていく。
メイジは今回殆ど集まらなくて自分を含めてカリーナさんと自警団員の4人ほど、冒険者のメイジは残念ながら二人しか居なかった。代わりにアコライトはそこそこ居たので中衛を担い皆の回復に努めてくれる。冒険者のメイジからは一人が此方の手助けをしてくれる事になった。その人は土魔法がメインとの事で水魔法は自然と自分達の役目になった。闇属性を得意とする魔法使いの人も居るらしいがそちらは前衛と一緒に対処するらしい。
既に僕達はパライズモス要員として準備を整えていた。一応後列なので、比較的余裕があるがそれでも若干緊張してしまっている、勇気はあれども複数人と一緒に頑張るのは違う意味でコミュ障には辛いのだ。
「一応100個作った魔法水の瓶は渡し終わってる、僕達が対応出来ない奴にもこれで何とか、後は襲いかかってくるパライズモスを見つけ次第【水弾】を連射する、か。ここでミスは出来ない…慎重に行かないと」
「安心しなさいってヤスオ。ちゃんと私の他に数人メイジもいるし今回は冒険者がアンタ含めて20人以上もいるんだから。少しは怪我するかもしれないけど問題はないわ」
そう言って僕の肩を叩きサムズアップするカリーナさん。彼女だって怖い筈なのに微塵もそんな様子を感じさせない笑顔を僕に向ける。
そしてもう一人、先ほど挨拶を済ませた冒険者のメイジの人が話しかけてきた。
「そうですぞヤスオ氏。皆さんのカバーは私におまかせあれ、冒険者の端くれとして精一杯皆さんを守る所存ですぞ」
くいっとメガネを持ち上げるメイジの男性、見た目はなんというか…端的に言えば秋葉原辺りでリュックを背負ってそこにポスターを刺してのそのそ歩いている様な小太りの男性…つまり大体の人が想像するオタク像そのものと言わんばかりの人が其処に居た、実際リュックを背負い、其処から丸めた紙がポスターよろしくはみ出ている、右手にはメモ帳の様な物を持っている。
名前はオッターさん。ギャグではない、実際にそういう名前だった。彼が眼鏡の奥から除く優しそうな瞳で僕に諭す。
「戦いを恐れない者はあまりいません、寧ろ恐れずに戦ってしまえると言うのは辛い事ですな…それは自身に近づいている死の手を見る事が出来ないと言う事なのですから。ヤスオ氏は緊張し恐怖している、だからこそ生きる為に戦えるのですぞ、努々お忘れのなきように」
「あ、有難う御座います。自分も精一杯頑張りますので、宜しくお願いします」
見た目なら僕だって負けちゃあいない、それにこの人はとても話しやすいし雰囲気的にアルスさん達に似ている気がするのだ。きっと強いんだと思う。
「はっはっは、気になさらず。私も依頼を受けてる身ですからな。この町は私がレベルが低い頃とても世話になりまして、久しぶりに来たらこの大事、ならばと思い今回は全力で手伝おうと思った次第ですぞ」
「そりゃ嬉しいわね、でも無理しちゃだめだからね? 冒険者だって人間なんだから危なくなったらちゃんと下がってよ?」
戦いまでの僅かな間、僕達は軽く会話を始める。どうやらオッターさんはメイジだけど攻撃魔法が使えないらしい。相性の悪い魔法は覚えられないとティルさんから聞いていたけど、攻撃魔法をまるまる覚えられないと言うのはメイジにとって凄まじいハンデだと思う。それでも阻害魔法や支援魔法は覚える事が出来たので、それをメインに今まで戦ってきたそうだ。
僕が同じ状況だったら魔法に対して絶望してしまうかもしれない…それでもこの人は自分で使える魔法だけど使って戦ってきたのだ、持てる魔法と知識を使いこなして冒険者として今もなお戦い続けている。凄い立派だと思う。
「攻撃魔法が使えないのね。大丈夫よっそんなの人それぞれなんだからっ」
「お気遣い痛み入りますカリーナ氏。何、攻撃魔法は諦めましたが私にはこの補助や阻害魔法がありますからな、これでも皆さんを守り切るだけの技術はあるつもりです、どうかご安心を」
―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
皆で話している途中で設置してあった銅鑼の音が鳴り響く―それは戦いの合図、モンスター達が攻めてきた合図だ。
直ぐに意識を切り替えいつでも出られるようにする。遠くの方を見てみると土煙と共にモンスターの鳴く声が微かに聞こえてきた。
「どうやら始まったようですな、では我々も参りましょう皆様方。支援参りますぞ! 【堅牢鋼鎧】!!」
―オッターは【堅牢鋼鎧】を唱えた!!
―味方全体の防御力が【4T】の間【+30】上昇。
―【風属性】ダメージを【100】軽減。
「な、なにこれ…す、凄いっ!?」
「よ、四文字魔法!? 上級・下位ですかっ!?」
今しがたオッターさんが唱えた魔法の効果に驚く僕達がいた、上級・下位。ティルさんも最近漸く覚えたというクラスチェンジ前の魔法使いが使える最高ランクの魔法だ。全身を覆う土色の膜が僕達を守っている。
「ははは。これでも一応18レベルですので、この程度は何とか使えますぞ。さて参りましょう、敵の攻撃は全て私にお任せを。皆さんはパライズモスをお願いしますぞ」
此方を少し振り向き笑顔を見せるオッターさん、僕達はこの後凄まじい物を見る事になる。




