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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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17-02 【大襲撃と阻害魔法】 Ⅱ

戦い前夜です。


 あの後ハウルさんの激励の下自分たちはそれぞれ準備を始めた。町の人にも情報は行き渡り一丸となって自警団を手伝ってくれるのを見た時、自分はよその人間なのに心が凄く暖かく感じて少しだけ涙をこぼしてしまった。誰にも見られていないと思う。


 実はアルスさん達に相談しようと思ったが、集まった冒険者は既に数十人程いるらしく流石にこれ以上は財政的に厳しいらしい。アルスさん達レベルの冒険者を動かすには最低でも数百万は用意しなければならない。そこからさらに討伐報酬やアイテム代を此方で負担、と考えると1千~2千万Rは軽く飛ぶ。地球でもそれだけのお金を害獣などに使うのはかなり厳しいだろう。


 世の中ってやっぱどこでも世知辛いんだな。自分の分の報酬は気にしなくてもいいけど、自分が報酬を受け取らなかったら他の冒険者に非難が行ってしまう。他の冒険者に面目が立たなくなるのだ、依頼を受け目的をこなして報酬を貰うのが冒険者の仕事、曲がりなりにも冒険者に身をおいている僕がこの大前提を無視する訳にはいかない。


 ちなみに僕自身は50万Rで依頼を受けている。僕程度に50万なんて使いすぎな気もするけど…寧ろ安すぎだとハウルさん達に怒られた。レベル9の冒険者の討伐相場は100~300万が平均なのだ。実際町長さんもその値段を提示してくれたけど、自分のステータスはともかく経験は普通の冒険者に比べて殆どない、それだけのお金を受け取るには実力が足りないから50万にしてもらっていた。


「……よし! 水魔法も覚えられたぞ、これでパライズモスも相手出来るっ!」


 セイルさんから前借り報酬としてもらった水魔法の書を読んで魔法を覚えていたが、問題無く幾つかの魔法を覚えられた。覚えられた魔法は3種で【水弾】【氷槍】【放水】で先の2種は攻撃魔法だけど、最後の【放水】は飲む事が出来る魔法の水を指先から飛ばす魔法で、この魔法でもパライズモスの鱗粉は無効化できるんだけど、正直そのままを戦闘で使うのは射程が1mしか伸びない時点で無理だ、でもこれを割れやすい瓶に入れておけば水魔法が使えない人もパライズモスに対して対策を取る事が出来る、なのでいくつか瓶を貰って補充して皆に配る予定だ。


 【水弾】は【炎弾】の水バージョンで属性が違う以外は効果はあまり変わらないからこれをメインで使っていく、【氷槍】は威力がかなり高いけど射程が数mしかないので非現実的だ、接近で戦えるメイジが使えば強いんだろうけど今そんな接戦している暇はないので【水弾】を多用することになるな。


「……モンスターの集団…か…いや、用意も終わったから行こう」


 水を入れた瓶やポーションは準備出来た。装備を整え、ショートソードを腰に下げて僕は町の門の外を目指す―






…………






―【ホープタウン】門の外


 今自分達は町の門の外でテントを張って休んでいる。万が一の可能性だが深夜にモンスター達に奇襲された場合を想定しての事だ。団長さん達も近くに大きなテントを立てて団員や冒険者達に夜食などを配っている、斥候なども既に向かっていて逐一連絡が届いているようだ、聞いた話に寄るとやはりモンスターの軍団は此方に向かって移動しているらしい、この様子なら早朝には到達するかもしれない。


 ふと気になって近くにいる冒険者の声に耳を傾ける、色々な声が聞こえてきた。「たかが雑魚相手にこれだけするのか」とか「100体以上ってお兄ちゃん達大丈夫かなぁ…」とか「ふむ、漸くこの町に恩を返せそうですぞ」等、多種多様だ、自信満々な人もいれば、僕の様にそわそわしている人もいる。自警団員の人は忙しなく動いて準備して、これが夢でも何でもないのを改めて自覚する。


 僕も落ち着いて武器の点検をしておこう、そう思った時フィル君がやってきた。


「よっ、まだ仮眠取ってなかったのか? 明日は早いし、早く休んだほうがいいぞ?」


「あ、フィル君か。実はこんな大規模な狩りは初めてだから少し興奮してさ…」


 それもあるけど今まで殆ど一人だったのでこれだけの人数の中にいて気後れしてて眠れないってのがあったりする。それを聞いたフィル君は頭を掻きながら俺も何だと笑い出した。


「ヤスオも俺と同じだな。実はさ前にこんな事があったのは俺がガキの頃だし、あんまり良く覚えてないんだ。今の俺もそこまで強いわけじゃないけど、皆を守りたいからさ。きっと皆怖がってる。俺も怖いんだし当たり前かもだけどな。」


 それでもまだ15歳という若さでモンスターの大群相手に戦おうとしている彼は僕なんかよりずっと勇気があると思う、そんな彼の友達になったのだから、年上として冒険者として一緒に頑張らないとな。それが今の僕に出来る最善だ。


「僕が住んでた場所ではこういう事はなかったからさ、町の人がどれだけ怖い思いをしてるのか詳しくはわからないんだ。でもモンスターと戦った経験から言えば、正直逃げ出したくなる位怖いと思う。モンスターに勝てる様になってもこの恐怖はきっと忘れない、それだけあいつらは怖かったから」


 ウサギに殺されかけた事、ハウンドに追い回された事他のモンスターと戦った時の恐怖を僕は忘れていない、恐怖を感じずに敵を倒せるほど僕は身も心も強くないから。


「今回だって自分はパライズモスの鱗粉をどうにかするのが主で主力は他の冒険者達だ。僕も一応冒険者だけど確実に見劣りするからね…レベルが足りてても他が足りないんだよ、上手く対処出来るかって考えるだけで、なんて言うか手が震えてさ」


 鱗粉をどうにか出来なければ被害が増える、それは最悪人が死ぬと言う事だ。戦っている以上、相手を殺している以上此方が殺される事がある、知り合いが殺される事だってある。それをさせない為に僕やカリーナさん、メイジの人が出るけど、足を引っ張ってしまったら…そう考えるだけで怖いんだ。


「やっぱ冒険者でも怖いものは怖いんだな。ヤスオを見てたら少し身構えてた俺が馬鹿らしくなるよ。安心しろってヤスオきっと皆誰でもそうさ、団長やハウル、カリーナ達だって内心じゃ多分怖がってると思うしな」


 少年特有の柔らかい笑みを見せてフィル君は続けた。


「頑張ろうぜヤスオ。俺はお前の強さを身近で見て一番知ってる、お前は俺より何倍も強いんだから自分に自信を持て、俺は信じてるぜ、お前がとても強い事を、頼りになる事をさ。どうしても信じられなかったら、俺を信じなっ! 俺はきっとモンスターを倒してみせる、そんな俺よりお前は強い! だから…一緒に頑張ろうぜっ!」


 そう言って手を振りながら戻っていくフィル君を自分はずっと見つめていた。彼はきっと強い大人になる、自分なんかとは違う立派な大人に。だから、僕がこれからやる事はきっとそんな大人になる彼の手助けをすると思おう。そうすればきっと怖いのも克服できるから。


「ありがとうフィル君。僕も精一杯頑張るよ、君が信じてくれた事に報いれるように」


 明日は……決戦の日だ―!!




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