01-04 【何もないサバイバル】 Ⅳ
沢山の応援やブックマーク有難うございます。
色々拙い文章で申し訳ありませんが、楽しんでもらえるように頑張ります。
主人公の受難はまだ始まったばかりです。
「あわわわわ…し、した、したたたた…!? 死体!? したああああ!?」
動物の死体はまだしも、白骨化した人間の死体を直視してしまい意味不明な言葉を叫んでしまう。漏らさなかったのは、最低限のプライドが働いたお陰だろうか。
比較的平和な国である地球ではそれこそテレビ特集や動画、写真などでしか実物にお目にかかったことなんてないし、現状目の前に死体があれば喚き散らすくらいはするものだろう、普通なら。
ここから飛び出しそうになったが、此処を出て行った所で夜の森の中隠れられる場所なんて早々見つからない、怖気で全身が震えそうになるがそれでも此処で一夜を明かさなくてはならないのだ。
「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…だ、大丈夫だ、これがスケルトンになって襲い掛かってくるなんて流石に……?? こ、この死体何か色々持ってる…!?」
何度も何度も深呼吸し少し冷静さを取り戻した後ちらりと白骨死体を見た所、
この死体はこの現状を打破できるかもしれないものを多数持ち合わせていた。
おっかなびっくりそれらを此方に引き寄せていく―
「これは本とメモ帳? やった! ナイフと剣がある! これ長さ的にショートソードってやつなのかな、凄く軽いしこれなら僕でも使えそ―」
―短剣(未鑑定)を手に入れた
―剣(未鑑定)を手に入れた
―本(未鑑定)を手に入れた
―本(未鑑定)を手に入れた
―メモ帳(未鑑定)を手に入れた
「な…!? なんだ今の、頭の中に文字が浮かんで?!」
そして、初めて理解する異世界という理不尽。
自分は改めてここで完全に自分が異世界の存在なのだと理解した。そういえば冷静になって考えてみると、先程ウサギや犬に出会った時も頭の中に【~~が現れた】だの【ヤスオは小ダメージ】だの浮かんだのを思い出す。
そして更に―
―ステータスが適正に到達。
―この世界の物品に触れたことにより次のスキルを取得!!
―【鑑定:最下級】
―【鑑定】発動!!
―短剣→ナイフ【15/40】
―剣→ショートソード【25/40】
―本→鑑定失敗!! 要【鑑定:下級】
―本→【生活魔法の書】
―メモ帳→【男のメモ帳】
「なんだよ、なんだよこれは。ここはゲームか何かの世界か何かなのか…?
でもそんなの今更だ、僕にはこんな世界ムリゲーだっての」
此処に来た直前なら素直に喜んだかもしれない。
そのままゲームや小説の主人公の様な状態なのだから。でもウサギに殺されかけ、犬から逃げてきた自分にはこれらのアイテムは有難いが初めの時の様にテンションが上がるものではなかった。
(でも、とりあえずこれがあればあのウサギ位なら追い払えるかもしれない。
だけどこの【25/40】ってのは多分、使用回数だよな…25回使ったら壊れるって事か。ここから出られるかわかんないし大事に使っていかないと。)
頭の中でこれからの事を朧気にだが考えていく。
「でも、少しは希望が見えてきた気がする…まず調子には乗らない事、これだって回数制限が有る…どうやって生き残るか…火も起こせないんだからまずはそこから、飲み物はあの川で良いとして、食べ物を…本が読めれば、何とかなるのかな……」
こうして自分の生活が始まり冒頭に戻るのだ―
毎日怯え、食べ物を探し、夜になる前に隠れる場所を見つけてはそこで怯えて夜を過ごし、朝方に少し仮眠をとる生活。まるで小動物の様な生き方―でも今の自分にはそれしか出来なかった。
―ステータス報告
【田中康夫】【人間:異世界人】【年齢:20】【Lv:--】
【HP】8 【(力+体)×2】
【MP】9 【知+魔+精】
【力】2【速】2【知】3【魔】3
【精】3【器】3【体】2【運】2
■所持スキル
【???:???】
【サバイバル:最下級】
【鑑定:最下級】
……………
―1週間後
剣を手に入れてからあっという間に1週間ほど過ぎた。
隠れられる場所は今も見つかっておらず、日々食うや食わずで生きている。何も出来なかったキモオタがモンスターがうようよしているこの森の中、こうして生きている事自体が奇跡なので文句はない…と言うか言いようがない。
死体から拝借した【生活魔法の書】がもし使えたなら、もう少しまともな生活が出来るかもしれなかったのだけど―
震える手でショートソードと左手にナイフを持ちキョロキョロと周囲を見回しながら死体がある洞窟に戻っている。ついでに食べられるものでも落ちてないかなと期待しつつ……
ちなみにあまりの空腹に耐え切れず草とかを食べてみたが、あまりのえぐさに吐き戻してしまった。
更にはあたってしまったのか腹を下しその日は一日洞窟で激痛に苛まれていた。どれが食べられる草かそうでないのかなんてわからないのだ。手に入れたスキル【鑑定】では【毒】の有無は朧気にわからない。食べられる云々まで分かる様になる為には、最下級という状態から強化されないといけないのだと思う。
「キノコとかは見つけたけど…これは鑑定しても毒があるかどうかすらわかんないからなぁ…これで毒だったら今度こそ死ぬ…腹が減っててもガマンしないと」
そこら中に生えているキノコを見ては腹を鳴らす。
この一週間で手に入れられた食べ物といえば、川で奇跡的とにとれた小魚を生で食べたぐらいだ。
釣りをするための道具なんて持ってないし、じっと川の中でナイフを持って魚を刺すという原始的な方法しかとれず、それでもなんとか1匹だけとれたのだ。
感動のあまりまた涙を流しつつもこの小魚まで取られてしまっては生きていく気力すら失ってしまう。
小魚を大事に抱えて洞窟にまで戻りそこで魚を捌いていく。
今度はナイフがあるのでぎこちないが素手より早いペースで中身を取りだせた。血や汚れなどはもう気にしている余裕なんて無くて、そのまま齧りつき食べてしまう。
決して美味しいなんて言える味じゃなかったけどそれでも飢えた僕にとっては最高のご馳走だったのを今でも覚えている。
でも後は空振りばかりでほどんど何も食べることが出来ていない。
今も断食二日目だ。日々動いているのと食べていないせいか少しだけ腰回りが痩せてきたような気がする。
「魔法…かぁ、この世界はやっぱり魔法はあるんだろうけど…本が読めないんじゃ覚える覚えないの次元じゃないよなぁ…」
せっかく手に入れた魔法の本。
もしかしたら魔法を覚えれるかもしれないと勢い込んで読んでみたが―
―【生活魔法の書】解読開始…………文字が読めない!【解読:最下級】必要
―【メモ帳】解読開始…………文字が読めない!【解読:最下級】必要
英語すら理解できない自分が異世界の言語など分かるはずもなく、その日一日を無駄に費やし落ち込んだのはついこの前の事だ。
それでも、魔法が覚えられれたら生活魔法と名の付いている以上、今の何倍も生き延びやすくなるかもしれないと大事に保管している。
この世界はもしかしたらゲームか何かの世界なのかも知れない。
そう考えると自分がおかれた立場がどれだけ危ういか理解できる。ないないづくしだった自分がどれだけ危ういのか、どれだけ危険なのか身にしみてわかったからだ。
もしこれが初めから人のいる場所で、このステータスなども見れたのなら自分はまた馬鹿をやっていただろう、そう考えると寒気がする。
確実に死ぬのがわかりきっているからだ。こんなキモデブが甘えた所で誰も助けてくれるはずがないのだから。
「洞窟…やっとついた。もう足がボロボロだ」
よろよろと洞窟の中に入り込み、自分のスペースに横たわる。
白骨死体は気持ち悪かったがなんとか動かして脇のほうに安置させておいた。こうすれば見に行かない限りは死体を見ることはない。
筋肉痛で重い体を無理やり動かし近くに大事に置いてある魔法の本を手に取る。
大きさ的には高校の教科書位の厚みと大きさでしかない。豪華な装飾がされている訳でもなく表紙に子供っぽい絵柄が書かれている…恐らく子供とかが読んだりするものなんだろう。
薄暗いながらもまだギリギリ本が読める明るさだった。
相変わらず何が書いているかは全く理解できない。そもそも文字かどうかすら分からず偶に書いてある挿絵でなんとなくどんな魔法か分かる程度だ。その中で指先から火を出している構図があった。
「これ…マッチとかライターとかみたいな魔法なのかな…これが使えれば焚き火を起こして…食べ物が焼けるなぁ…」
後は正直よくわからないが、これだけでもいいから魔法が使えればなぁ…と独りごちる。
「自分のステータスってのが見れてよかった、僕魔力あるじゃないか、ありがとう…自分、魔力持っててありがとうな」
魔力があるからといってもたったの3しかないし、そもそも魔法自体覚えてない。最早自分がチートだのなんだのと思ってなどいない。
そんな下らないことよりもどうにかして森を抜けだして生き延びるほうが何倍も大事だ。
「家だったら母さんがご飯を作ってくれた。それが本当に有難いことだったんだな…それなのに僕は馬鹿を拗らせて無視して馬鹿にして…! ごめん…ごめんよ母さん、父さん…僕、馬鹿だった。馬鹿だったよ…」
20歳―少し前なら十分な大人だ。
でも僕は高校を中退し確かな技術や常識も習わずにゲームやネットに逃げた。
典型的なヒキニートそのもので、部屋からまったく出ず扉越しに親をどなりつけていた。自分の何が偉いのか…何も偉くはない、こんなダメ人間でも両親は見捨てていなかったのに。
精神的に未熟…それが僕だ。
この世界でたった一人で生きるか死ぬかのサバイバルを経験して漸く理解した。両親のありがたみ、自分の情けなさ。そして…自然の恐ろしさを。もう自分に何か出来るなんて上等な事は考えていない、考えられない。
「帰りたいなぁ…二人に謝って…僕仕事とかやるよ…帰らせてくれよぉ…」
本の上にポタポタと涙がこぼれる。自分はこんなに泣き虫だったんだなと、どこかで笑ってしまいながら。本を抱きしめて夜を過ごした。
―続く
2015/08/30 指摘を受けて修正完了です。