15-03 【塩、5番、魔法使いの女の子】 Ⅲ
15話はこれで終了です、1話1話短くて申し訳ありません。
仕事+メインでのお話投下、炊事などの後に書いてるのでどうしても時間が(汗
―大衆食堂【うちより安い店はねぇ!】店
この町に2件ある料理屋の一つで【安い、美味い、早い】を地で行くお店だ。店の中はとても綺麗で、6人まで座れるテーブルが10箇所と15人まで対応可能なカウンター席があり、かなりの大人数を収容出来る。休みの日以外は毎日冒険者や一般人のお客さん達でもの凄い盛り上がりを見せている。これだけ忙しくても店員さんは、基本一人でたまにヘルプを頼んで対処してるらしい。
ここを切り盛りしているのがコック件店長の【てんちょー】さんで、此処の料理は全て彼が作っている。コック服と何故か猫耳フードをつけている多分男性の人だ…多分ってのは何時もつけているフードで顔以外わからないのと、凄まじく動きまくるので一点集中して彼を見れないからだったりする。そのせいか時々料理を盛大にぶちまけてたりするが、お客さん曰くこれも愛嬌とのこと。更に時々【どうしてそれが出来たの?】と思うほど訳のわからない料理を作る事で有名だ。
「あぁよく来たな。とりあえず開いている席に座れ」
忙しなく動きながらもお客さんには挨拶を忘れない店員さん事、ナナさん。花も恥じらう17歳らしい。この店の看板娘を謳い、実際かなりの美人なので彼女目当てのリピーターも多かった。その大半は冒険者の男性だけど。
黒色の髪をポニーにして纏めていて、アクセントに大きな赤色のリボンが目立つ。黒髪の人間は異世界の割には結構居て赤や青、しまいには緑色と様々な髪の色があったが、ナナさんはスタンダードに黒だった。
口の端を僅かに釣り上げ笑顔と言うか挑発的な表情が彼女にはとても似合っている。僕より年下な筈なのに、僕より数段大人っぽいのだから凄いよな。でも看板娘がその表情でいいのかと思うけど、冒険者の人達がしきりに【ナナちゃあああん!】とか叫んでるからいいんだろう…多分。
「なんだ? 5番でも頼むのか? まいどあり」
「無理っす!?」
「5番…かぁ」
ナナさんが言う5番ってのは普通に此処のメニューの事だ。ここはメニューをシンプルにすることで料理のスピードと回転率を上げている。確かにこのメニューオンリーなら直ぐに覚えられるし、楽ちんだろう。日本じゃこれだけのメニューしかなかったら【ハズレだ】とか言いそうってか、余程その料理に自信がなければお店を出したりはしないよな。
で、此処のお店のメニューは次のようになっている。
1、軽く野菜メインの料理 450R
2、ガッツリ! お肉系の料理 500R
3、DHAたっぷり お魚系の料理 400R
4、軽くパン食!! 300R
5、私は全部食べる!! 全部だ!! 1500R
おわかり頂けただろうか、この店が大人気な理由を。
そう、この店料理が全部安いのだ、早い安い美味いと銘打つけどここまで安いと量は~とか考えると思うけど、この値段で大の大人でもぎりぎり食べきれるかどうかって言うレベルの量を出してきてくれる。僕も此処に来た時は野菜メインの料理を頼んでみたが、皿いっぱいの野菜炒めにおかわり自由のとんでもサラダ、野菜スープと正直食べきるのがやっとだった。
そしてそこで5番…名前の通り全部出てくる。それも1~4番の料理が全部スーパー盛りになって…これを食べきれるのはフードファイターとかそう言うレベルの人だと思うな、ちなみに食べきっても特に何もない。一応食べきった証として店の壁に名前を記されるが、何人か書いてある程度だ。
…アルスさんの名前が書いてたけど気にしない方向で。
「お? 何だ? やはりお前も5番が…」
「すいません無理です、ほんと無理です、超無理です」
「なんだつまらん」
良い人なんだけどしきりに5番を勧めてくるのは勘弁して欲しい。とりあえず今日はそこそこ食べたかったので肉料理をお願いする事にする、沢山食べたいと言ったらまた5番を勧められそうなので…うん。
「あいよ、少し待ってろ。飲み物はいるか?」
「あ、水でお願いします」
「りょーかい、てんちょー! 2番ねー!」
そう言うとナナさんはまた忙しそうに働き出す、この数をたった一人で賄えるんだからほんと凄い人だよなぁ。
料理が来るまでは暇なので適当に周囲を見てみる。マナーが悪いかもだけど、この店はその辺賑やかで馬鹿な真似さえしなければ大体許容してくれるので、あからさまにならない程度にその辺を見回していく。
町の住人の人や冒険者のパーティと思われる人達が楽しそうにしているのが見えた、テーブルの上には何か色々置かれているのでダンジョン帰りなのかもしれない。ここホープタウンの近く…徒歩で半日程度行った場所には【ダンジョン】が存在しているらしい、僕はまだ行ったことはないけどアルスさん達も前に行った事があったのでそれを聞かせてもらったのだ。
ダンジョン名は【ざわめく死者の通り道】と言う名前で、ダンジョンの名前で大体の傾向が分かると教えられた。ここは死者の名前通り【ゾンビ】や【ハウンドゾンビ】等が多く現れるそうだ、勿論普通のハウンドやウサギ、一番の脅威と言われているブラウンベアーなど、多種多様にとんでいる。
適正レベルは6~13と流石ダンジョン、低レベルの冒険者では殺されに行くようなものだ。勿論僕もまだまだ無理だろう、せめてヴァイパーやスモールベアを安定して倒せるようになったら冒険者を募って探索してみたいな。誘ったら来てくれそうな冒険者や知り合いはこの2ヶ月でそこそこ増えたので、皆で強くなりたいな。
「なんにせよ、まだまだだよなぁ」
「……まだ…ま…だ…?」
「うわっ!? ア、アリアちゃんか」
「…………ん」
ぼーっと呟いたら真後ろから声を掛けられて慌てて振り向くとアリアちゃんが首をちょこんと傾げながら僕を見つめていた。
「……何…か……あっ…た…? ……手伝…う…?」
「はは、有難う。何でも無いから大丈夫だよ」
「………そう………ん…」
アリアちゃんがそう言うと右手に持ってたプリンを僕に突き付けた。
「……食べ……る……一緒……」
「うん、そうだね。僕ももうすぐ料理が来るし一緒に食べよう」
僕がそう言うと彼女は表情こそ無表情のままだけど両手にプリンを持って「…やったー……」とかやっていた。何というかこう、可愛いと言うか子供の様な感じがする。これで19歳なのだから色々詐欺だ。
直ぐに彼女は自分の料理を僕の所まで運び前の席に座り、こっちの料理が来るまで僕とたどたどしくだけど会話をしていく。昨日はモンスターを退治したとか、服屋さんで服をいい加減に変えろって怒られたとか、俺の塩で沢山塩を買ってきたけど使い道が無くて混ぜあわせて遊んでたとか、冒険者としてはあたりさわりの無い世間話だ。
「……レベル……11に……上がっ……た……今度……一緒…に……行く」
「おおっ! おめでとう!」
「……ぶい……」
無表情のままだけど、彼女は行動で今の気持ちを伝えてくれるから逆にわかりやすい、なんで無表情から変わらないのかはまだ聞いてない。彼女なら答えてくれそうだけど、まだまだ突っ込んで話すにはお互いに何も知らなすぎるから、ゆっくりと仲良くなっていこうと思う。
彼女とは町の中で普通に出会った、宿屋を探していたので道案内していたら普通に話す様になったのだ、たどたどしい喋り方に最初こそ吃驚したけど、これも彼女の個性なんだろうと気にしないことにしている。
「何だ何だ? ご結婚はいつかね? ほれお待ちどう」
「しませんが!? あ、すいません頂きます」
「………いただ……きま…す…」
美味しそうなステーキに沢山の付け合せのフライドポテト、野菜サラダにシチューとふかふかのパンが4個、これだけついて1000R…僕の世界の感覚だと1000円しないってのはかなりすさまじいんじゃなかろうか。まずいならともかくどれもこれも全部美味しいから、飽きないし沢山食べられてしまう。も一つの料理屋さんは高級食材を利用した高級レストラン+酒場なので、こちらとかち合う事も無いからこれで十分行けるってのが凄いよな。
「……ヤスオ……トレー……ド……プリン……あげ…るか…ら……ポテト…頂戴……」
「いいよ? って沢山あるんだし気にしないで食べていいからさ。プリンも自分で食べると良いよ」
「………貴方…が………神……か………」
アリアちゃんは何気に賑やかな人だと思う。
僕たちは終始賑やかに食事をとり続けた、明日もまた頑張るぞ。
―15話終了…16話に続く。
―リザルト
魔法習得:【爆裂】【炎弾】




