15-01 【塩、5番、魔法使いの女の子】 Ⅰ
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―ヴァイパー撃破から数日後
鍛冶の仕事は毎日ある訳ではなく、依頼が入った時に作り上げるのがメインなのでそれ以外は鍛冶の勉強を教えてもらったり、武器屋の店員等をするのが僕の普段の仕事だ、一応形式上は雇われ冒険者なので何日かは特別な作成依頼がない限りは今の様に自由な日が何日かある。一ヶ月30日として仕事がある日は10~15日位なので、それ以外は勉強や訓練、モンスター退治等を行なっている。
昨日は鉄のショートソードを打つ仕事をこなした、僕の腕じゃまだまだ平均的なものしか作れないけど、安物の量産品として売る予定なので問題ないらしい。勿論最低限使えるものじゃ無いと話にならないので、何度も怒られながらも頑張って剣を打ち続けた、結果は及第点を貰ったので頑張った甲斐があると言うものだ。今回の鍛冶で少し精錬方法が分かってきた気がするから、次にショートソードを鍛える時はもっと強く出来そうだ、もう少し強くしてやりたいし色々学ぶことが多いな。
親方も仕事中は厳しいけど、それ以外は本当に優しく色々鍛冶について教えてくれた、僕が想像していた鍛冶職人は気難しくて技術を盗んで学べ! とか言いそうな強面の人を考えてたんだけど、親方は見た目は普通の好々爺といった感じで見た目通り普段はとても優しい。特に孫娘のセレナちゃんを猫かわいがりしているのは町でも有名だ。そんな人だから僕にも鍛冶のやり方などをとても分かりやすく教えてくれるし、技術もちゃんと教えてくれる。いざ鍛冶の本番になれば修羅みたいにおっかなくなるけど、一歩間違えれば大怪我をしたりナマクラしか出来なくなってしまう鍛冶、ダメなら怒られたり殴られるのは当然だ。
「僕の為に怒ってくれてるんだよな、父さんも怒ってた時はきっと僕の為だったんだ、ありがとう…」
怒られなくなったら見捨てられたのと一緒だ、だから僕はもっと頑張ろうと思う。一端の鍛冶が出来るようになって、剣を鍛えるのも僕の目標になった。
さて、今日は非番なのでやることもないし何をしようかなと考えていた。狩りは毎日でも行きたいが、そうすると武器防具の消費が激しいし、身体も持たないから何日かに1度にしている。決してティルさんに怒られた訳ではない……すいません怒られたからです。
となれば訓練か魔法の勉強だけど、この前【解読】がランクアップしたから魔法を覚えられるかも知れない、今日は魔法の勉強を中心に頑張ろう。特に魔法スキルは魔道書を読む事で覚える可能性があるらしいから、様々な魔道書も買い集めよう、道具屋さんは魔法アイテムとかそういう物を全般的に置いているらしいから先に買い物をして、その後に魔法の勉強をしよう。
「道具屋さん…【俺の塩】って名前なんだよな」
【俺の塩】決して塩専門店じゃあない、いや、これでもかってほど塩は売ってたし、滅茶苦茶塩を進められたので、この前1キロ位塩を買って行きました。お陰で店主さんには名前を覚えてもらいました…いや、塩にインパクトに負けて塩だけ買って帰ってしまったなんて言えない…
店主のセイルさんは無類の塩好きらしく、世界各地から様々な塩を買い集めてるらしい、道具屋になったのもそうすれば塩が沢山手に入るからとかなんとか…何だろうな、この塩に向ける情熱は…でも熱く語るのをずっと聞いてたら、塩ってなんかいいかもしれないと思ってしまう今日このごろです。
「今日も良い天気だなぁ、あ、こんにちは」
「あら、こんにちはヤスオ君、朝から元気ね」
「あ、ヤスオ兄ちゃんだ! こんにちはー!」
商店街に向かう途中で何時も合う親子の人に出会った。
この町に住んでいる人で名前はまだ聞いてなかったりする、子供の方がこの前転んで怪我をしてたので【軽癒】を掛けて上げたのがきっかけでこうやって挨拶をする様な仲になったのだ。
勝ち気な表情が似合う女の子とおっとり風味の若いお母さん。まさか僕がそう言う人達とこうやって話せるようになるとは予想もしてなかったな、コミュ障も少しは改善されてるのかもしれない…いやそうでもないか、この前料理屋さんで町長さんに出会った時かなりしどろもどろになっちゃったしな…
あそこの看板娘のナナさんにはからかわれるし、店長兼コックさんの【てんちょー】さんはどう見ても人に見えなかったし…てか、プライパンがこう何十にも見える位に手が動いてたのが凄かった、そして見事にこぼしてたのがこれまた凄かった…あれだけ出来て何故こぼすのん? とツッコミ入れそうになる位
「兄ちゃん今日はどこいくの?」
「ん? うん今日はね道具屋さんに行くんだよ」
「あら、残念ね私達は八百屋さんに行くから。今度お家にお漬物持っていくから期待しててちょうだい?」
お漬物はこの世界にもありました。と言うか大体の料理はこの世界地球と変わらなかったので、食事に困る事はまったくなかったです。醤油も砂糖も味噌だってあるし、おでんとか和食も普通にあった。強いて言うならお米だけは無かったけど、僕は別に病的な米好きでもないし、普段パン食とか栄養ゼリーだけで生きてたから困ることは特にない、たまーに食べたいかなぁ? 程度だ。
「あ、この前もお裾分け有難う御座います」
「良いのよ、一人暮らしは大変でしょう? それじゃまたね」
「ばいばーい!!」
この町の人は誰も彼も皆お互いを知っている凄い町だ、皆が家族と言った感じでお隣さん問題なんてここには無い、そう考えると本当に凄い町だなって思う。地球にもこんな場所は無かったよな…
二人と別れた後そのまま道具屋に向かい10分程掛かって到着した。
看板にはでかでかと【俺の塩】と書かれている、窓ガラスの向こうには商品が並べているのが見えるが、嫌でも目につく盛り塩、お清めとかじゃなくて普通に塩がこうやって置いてあるのは、多分ココだけ…だと思いたい。
木のドアを開け中に入ると、辺り一面【塩】!! って感じで塩で埋め尽くされていた、初めて来た時はあまりの塩の多さにびっくりしてしまった。
「らっしゃい! 塩沢山置いてるぜっ!!」
カウンター席にいるフードをつけたセイルさんが威勢の良い声で僕に話しかけてくる。
「セイルさん、また塩増えてますね…」
「趣味だからな!! さぁ、塩買っていけ!!」
―塩 1キロ 380R(オススメ!)
―美味しい塩です。ご家庭に
―塩 10キロ 3500R(オススメ!)
―美味しい塩です。業務用に
―塩 100キロ 33000R(オススメ!)
―美味しい塩です。業務用に
―塩 1000キロ 300000R(オススメ!)
―美味しい塩です。塩生活したい方に。
この圧倒的塩のラインナップ。塩1000キロが30万Rで買えるこのお得さプライスレスです。
「今ならこの塩に追加して【マイティソルト】もおまけでつけてるぜ!!」
「そ、それは何かすごい能力がある塩なんですか?」
「いや? 塩に何を求めてるんだよお前?」
ごもっともです…
さて。何を買おうか…魔道書とかも欲しいし、戦闘中に使うポーションとかは必須だし、塩は調味料として最適だし、ハウンド肉に塩を振りかけるときっと最高だろうし、塩は美味しいよな…
「塩1000キロ下さい」
「へいまいどぉ!」
「………はっ!? 僕は何を!?」
何故かぐるっと見回してたら塩ばかり目に写ってしまい気がついたら塩を買ってしまっていた、なんだこれは…何かの陰謀とか魔法でもかかってたんだろうか…セイルさんが喜々として塩を用意している以上、今更断る訳にはいかないんだろうな……何故買った? 何故買ってしまった僕よ…
「塩を1トン買った猛者はお前が初めてだぜヤスオよぉ。お前もあれだな…【塩ラー】の素質がある、気に入ったぜ」
そして何か物凄くセイルさんに気に入られてしまった。
【塩ラー】…あれだろうか? マヨラーとかの親戚だろうか、そうか…素質があるのか、そうなのか…嬉しいのか切ないのか良くわかんないな。
「塩は後でお前ん所の倉庫に入れておいてやるからよ、また次も来な。塩ラーは同志、同志には俺も心で答えなくちゃならねぇ、次からは掘り出し物も安く置いてやるよ」
「あ、はい…有難う御座います」
これ以上何か買うのはこう…色々とあれだったので僕は塩だけを買って帰る事になった、ええんよ…塩買ったし…ええんよ…帰って魔法の勉強しなきゃなぁ。そんな事を考えながら僕は家に戻ったのだった。あぁ、お金に関しては問題ない、まだまだ貯金に余裕はあるので…問題は倉庫が塩で埋め尽くされるんだろうなぁという、この微妙な感覚だけだ。
「僕なんで塩買ったし……何かが取り憑いてたんだろうか」
自分でもわからない事をする…流石僕だなぁと乾いた笑いを漏らしながら帰路についた―




