SP-01 【お姉ちゃんは心配性 戦闘講座その1っぽいもの】 Ⅱ
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現在多忙の為返信や修正が出来ませんが、早めになんとかしますね。
次の勉強の前に少し休憩しているのだが、自分の部屋に女性が居るとこう落ち着かない気分になる、非モテ人生を爆走してきた僕にはティルさんの様な美女は眩しすぎるのだ。当の本人はゆったりお茶のんだりお菓子食べたりしながらアルスさん達の事を色々教えてくれている。
「アルスは普段きっちりしてる様に見えるでしょ? あれで滅茶苦茶ズボラなんだお。流石に洗濯位は自分でするけど、こうなんていうかねぇ…」
「あ、あはは…男性ってそういう所ありますし」
洗濯所か家の事なんて何もせず引きこもっていた僕にはとても耳が痛いです。こう流れ弾が飛んでくる。しっかりせねば…僕はここで生まれ変わると決めたんだから。炊事洗濯とかは出来て当たり前、応用とかも覚えていかないと。
この世界【浄化】と【清潔】があるので、これらを使えるご家庭はこれらを多用して日々の仕事を短縮して過ごしているらしい、流石生活魔法、生活に密着している。僕も時々使っているけど、こう何て言うか物足りないっていうか変な感じがして結局全部やってしまったりする。
「その点ヤスオはちゃーんと片付けてるね、偉い偉い!! そんなヤスオにはお姉ちゃんからプレゼントをあげようかお」
そう言いながら僕にぽんと何かを手渡した。細長い箱に入っていて綺麗にラッピングされている、開けても良いと言われたので早速丁寧に開けて行くと―
「さ、財布だ…」
黒い革財布が中に入っていた。シンプルなデザインで中を開けてみると小銭を入れる場所にお札を入れる場所が2箇所ある。地球で僕が持っていた様なマジックテープ型じゃない、高級感あふれる大人の財布だった。
「ほら、ヤスオってお財布持ってなかったっしょ? ポケットに入れっぱなしじゃ見栄えが悪いし、これを使いなさい?」
「あ…有難う御座います! 大事にしますから!!」
「いやいや、使いなさいって」
大事に使わせてもらおう。ティルさんがくれたお財布…僕の宝物がまた一つ増えてしまった。
「小銭は分けて入れておくと楽ちんだお~? 紙幣もね。そっちの裏側は100万R紙幣とか入れておくといいかもね」
この世界の通貨は地球と似通っていて、銅貨、銀貨、紙幣になっている。制度もどちらかと言うと日本と同じ1R銅貨や50R銀貨、500R銀貨、それ以上は紙幣で作られており、1000R、5000R、1万R、10万R紙幣。そして商人や冒険者位しか使わないであろう、100万R紙幣や1000万R紙幣までも存在するらしい。
「100万かぁ、僕もそこまで稼げる様になるんでしょうか?」
「一概には言えないけど、ヤスオは頑張ってるし…そうだなぁ、ブラウンベアーとかをパーティで倒せるようになれば結構儲かるお? 後は中級クラスになれば100万とかじゃ端金になるからねぇ」
100万Rが端金…すごい世界だ。
「さて、プレゼントイベントも終わったことだし、勉強の続きだお~」
「はい。あの、所で…」
「あいあい?」
あれはなんだろう、僕に突っ込めと言わんばかりのあれは……
「そのどこから取り出したのかわからない三角メガネはなんでしょう」
キュピーンと擬音が付きそうなレベルで全くに合っていない三角メガネを装着していたティルさん、なんだろう~~ザマスとか言い出しそうだ。
「ふっ、ボクのインテリさが上がっていると思わないかね? ヤスオ君や」
「逆に下がってる気がします」
どことなく縦ロールも落ち込んでいる気がするが僕の目の錯覚だろう。気を取り直して勉強の続きを始めることになった、次はメイジやアコライト系に必要な魔法系の【スキル】について教えてもらえるらしい。
「えー、こほん。メイジやアコライトは魔法を使う、だからこそMPの量は生命線だお! イザという時にMPが足りませんでしたじゃお話にならないからね。という訳で魔法使い必須スキルその1! 【MP上昇】!」
僕も覚えているスキルだ。自身のMPを大きく上昇してくれる効果がある。最下級の時点でここまでMPが増えるのは本当にありがたいよな。
「このスキルは魔法使い系の子がレベル2~3になれば大体覚えるお。寧ろ消費MPはランク毎に高くなってくるからこれがないとやってられないともいう」
ティルさん曰く、HPやMPはステータスに依存していてこれはレベルが高くなってもそれに伴う上昇とかは無いそうだ。だからステータスの上がり方が極端だったら、レベルが20になってもHPやMPが50にもならなかったりするらしい。特にHPと違ってMPは【知/魔/精】を三種合計した数値がMPになる。HPは【力/体】を足して2倍にするから、それらがあがれば大々的にHPが増えていくのに対し、MPはそこまで一気に上がらないのだ。
「じゃあ消費が激しい魔法はどうするんって時があるっしょ? そういう場合はカードや魔石、MPプールがあるマギカプレートに装備と、まぁ色々あるお」
カードの中にはMPをそのまま増やしたり、【魔】などを底上げするカードが沢山あるそうだ。中でも僕等の様な下級冒険者のメイジ系が手に入れやすいカードが【ブラウンベアーカード】と言うやつでセットするだけで【MP+20】の効果がある。2枚位つけておけば魔法使いは一気に安定しそうだ。
ただ問題は下級の時点で熊に勝てる訳が無いので道具屋や冒険者達が露店などを行う【青空市場】等、そういう場所で買うのが一般的らしい。熊は脅威だけど中級クラスにもなれば、ただの経験値+ドロップ箱らしく今までの鬱憤を晴らすとばかりに倒されまくるらしい、そうすればカードも色々出てくると言う訳で、このカード効果とモンスターの強さに割にはそこそこ安いそうだ。
「熊って冒険者の壁みたいな奴なんですね」
「そうだおね、パーティでこいつを倒せるようになれば中級クラスも近いお。ソロで倒せるようになれば一人前だおね」
ブラウンベアーか…いつかは挑戦してみたいな。
「さてお次はこれ、【魔法修練】について説明するお? これは【剣修練】とかと殆ど同じね? 魔法の威力を強化してくれるスキルで極めていけばかなり強くなれるお。劇的には強くなれないけど、固定値万歳って人には嬉しいスキルだおね。ちなみにボクは【魔法修練:最上級】です、褒め称えても良いんだお~?」
「魔法を使うだけでも色々あるんですね。あ、後ティルさんの事は普通に尊敬してますので」
この町で出会った人も皆凄い人や良い人達で心の底から安心したし、これから頑張れると気持ちも新たに出来たけど、僕がこの世界で感謝し尊敬しているのはアルスさん達3人だ。皆親身になって僕に色々教えてくれる、アルスさんは様々の武器防具の使い方や整備方法、戦闘中での前衛の立ち回り、役目恐怖の克服方法などを、アリーさんは同い年というのもあってか、同じ目線からの指摘やアコライトの役目などを、そしてティルさんは今まさにこうやって色々教えてくれている、これを尊敬しないで誰を尊敬すればいいのか。
「うむうむ、可愛い子だお~♪ 後で奢っちゃる。さて、一度に詰め込んでもあれだから次がラストだお」
「あ、はい」
実は教えてもらったことは全てノートにまとめて書いている。この世界結構技術が発達していたので製紙技術も鉛筆や万年筆なども普通にあったのだ、流石にTVとかそう言う科学技術は発達してなかったけど、似たようなものは沢山あるので魔法もある分、この世界の方が地球より安定してるかもしれない。
「最後はこれ、ボク等メイジの切り札、火力増加スキル【マジックフォージ】だお」
「火力スキルです…か? あれでも【魔法修練】があるから別タイプ?」
「良いとこに気づいたねヤスオ、今まで説明したスキルは全部【パッシヴスキル】。つまり覚えるだけで効果があるスキルだお。【マジックフォージ】は【アクションスキル】戦闘中に発動させて初めて効果の出るスキルだね、勿論アクティブスキルは前衛にも存在するから覚えておくよーに。」
アクティブスキルには使用回数などが決まっているらしく、一度使うとクールタイムが必要になるらしい。【マジックフォージ】は1日に最大【運回数(最大5回)】使用可能で【24時間】経てばまた使用可能になると聞いた。これらはまだ使いやすい方で、強いアクティブスキルなどは1度使うと1ヶ月とかのクールタイムがある物もザラにあるらしい。強いけど使う時の見極めが大事…それがこのアクションスキルなのだそうだ。
「このスキルさえあれば魔法の中でも威力の弱い【風刃】ですらハウンドとかその辺は即死する威力になるんだお、中級クラスでもこの一発で戦況を変えられるようになるからパネェスキルだお~」
「そこまで行くと今の自分じゃ想像もつかない世界ですね…頑張らないと、今言われたスキルで持ってるの【MP上昇】だけだからまだまだ厳しいなぁ」
今の僕ではハウンドにも苦戦しているからそこまで行くのはいつになるものか、早く追いつかないと行けないのに、皆が凄すぎてゴールが遠いと感じてしまう。なんて考えていたらティルさんが僕の額を指で押す。いきなりでビックリしてしまい思わず彼女を見る。
「え、えぇと…?」
「ヤスオはまだまだ素人に毛が生えたレベルなんだから厳しいのは当たり前なの。寧ろ始めっから強かったら流石に敬遠するお、怖いってそんな奴。ゆっくりで良いから成長しなさい、ボク等は待っててあげるから。」
「っ…はい! 頑張ります!!」
ティルさんは不意打ちしてくるから困る…また泣きそうになったじゃないか、あんまり泣き虫に思われたくないのに。
「あ、ついでに【念話】についても教えておくお~」
微笑みながらティルさんは僕に沢山の事を教えてくれた―
………………
―現在【シトラスシティ】宿屋
【だからさぁ、アリーももう少し強気で攻めるべきだとボクは思うんだよ。あの大根がそうそう気付く訳無いっての。このままじゃ他の女にかっさらわれるって言ってるのに土壇場で怖気ついちゃってねぇ。あ、そうそう今日もちゃんとご飯食べたかお?仕事もモンスター退治も体力が資本なんだから一日三食しっかり食べることっ!】
今日もいつもの様にダンジョンアタックは無事終了し、最早日課になったヤスオとの念話を楽しんでいた。このやり取りもかれこれ30回は既に超えている。彼と別れたのは1ヶ月半前、後ろ髪引かれる思いだったが男の決めた事をとやかく言うつもりはティルにはなかった、だが、別れた後念話しないとは言っていないので、余程疲れて動けない時以外はほぼ毎日こうやって念話をしている。
アルスもアリーも彼女にとって可愛い弟妹分ではあるが、長く一緒に過ごしていた為遠慮なさ過ぎる付き合いになっているし、更にアルスに至ってはリーダーとして責任を持つようになったので、頼れる反面姉貴分としては少々寂しいのが本音だった。
そんな中現れたヤスオ、境遇を聞き今を知り、人となりを知ってティルが感じたのは保護欲だった、もともと世話好きの女性だが森の中たった一人で生きていたヤスオに優しくしてあげなくてはいけないと何時も以上にやる気を出している。ヤスオ自身もティルの優しさが嬉しかったので、お互いに良い影響を与えていた。
【ボク? ボクは勿論その辺徹底してるって。ふふん、お姉さんに死角はないお。心配してくれるのは嬉しいけど、ヤスオはまず自分の事をちゃーんと頑張ること。で、今日は何をしてたのかな?さぁさぁ、報告してみたまへ。…は? ヴァイパーと戦ってたって?】
「おーいティルさんいつまで会話中ですか…?」
「黙らシャラップ! 今真剣な会話中だから!!」
アルスがいつまで話しているのかと割って入るがおっかない剣幕で無視されてしまう、こう言う時に男は非常に弱いので、すごすごと引き下がるしか出来なかった。別に明日は休み予定なのでアルスとしても止める必要は無かったりするのだが、世話焼きなティルの事だから寝る時間を惜しんで会話してるかもしれないと止めに入ってみたらしい、結果は見ての通りだ。
【おう、こらヤスオ君。あんたにはまだ早いって言ったでしょうが。ハウンドと比べたら月とスッポンなのをちゃんと教えたでしょ! 見つかって逃げれなかったって? あいつらの大体の分布地点はおしえたよねぇ? こりゃ戻ったらお仕置きだおっ!まったく、森で暮らしてたせいかその辺無計画なんだからっ!】
何にせよ、お説教はもう少し続くようだった―
―15話に続く。




