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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【序章】 異世界で死と背中合わせのサバイバル
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01-03 【何もないサバイバル】 Ⅲ

沢山の感想や指摘有難うございます。

お返事などは時間の関係で出来ませんが、大切に読ませてもらっています。


 自分にとって幸いだったのは自暴自棄にならなかったことだろうか。


 泣いて騒いでも助けてくれる人が居ないのだから無駄に体力を使うくらいなら獲物を探す事にしたのだ。


 あれほど痛い目にあったのにまだ何処かで自分ならなんとかなると考えていたのだ。でもそれがこの時ばかりは優位に作用した。


「はぁ…はぁ…足の裏が痛い、畜生…腹減ったな」


 不摂生や運動も何もしなかった結果、飛び出た腹の脂肪はこういう時に何の役にも立たない。空腹で何も食べていなかったらここから脂肪が消費されるらしいけど、それだけで生きていける訳ではない。


 今ばかりはこの惨めな体型を呪っていた、飽食のし過ぎで直ぐに腹が減るこの体には空腹は何よりも耐え難い。


 ふらふらと茂みを掻き分けて歩いて行く、高校を中退した後家の中に閉じこもっていたメタボボディには、たったこれだけの移動でも体力を消耗させ呼吸を乱す。


「ふぅ…ふぅ…畜生、せめて運動でもしてればなぁ…」


 そんな事を言いつつも、もし元の状況に戻ったらそんな事直ぐに忘れてしまうだろうなと自嘲しながら辺りを見回す。


 そこで僕はあるものに目が行った。同時に感じる吐き気を催す匂い…


 その臭いの元は直ぐに見つかった。


「あ、あれ…! 動物の…死体?」


 少し探索した所で動物の死体を見つけることが出来たのはラッキーだった。周りをきょろきょろと見回し恐らく動物だろう死体を見つめる。


「うぷっ、気持ち悪い…で、でも腐ってなければ食べられるかもっ!」


 見た目は犬の様に見えるし猫の様な感じにも見える。

 大きさは子犬程度で自分でも持てる位だ。小さな羽虫が死体の周りを飛び回っているが身体はまだ温かく、どうやらつい先程死んだのかもしれない。


 首元を食いちぎられている所を見ると、病気じゃなく殺されたことくらい自分でもわかる。動物の死体を見て精神がごりごりと削られるが、なによりも食べ物を見つけられたことが大きかった。


「考えろ! ま、まずは血抜きをして…あっ! 水場で洗わねぇと!! 火はまだ無理だから…いや、先に川を探そうっ」


 死体を触る気持ち悪さより食欲の方が優っていた。

 でなければ自分なら多分怯えて近づかないだろう。極限になれば人間なんでもできるのかもしれない。


 血で汚れるのも気にしないで水場を探して走りだした。この時ばかりはモンスターに見つかるという恐怖より食べ物を食べられるかもしれないという欲望に身体が突き動かされていた、それが幸いしたのだろうあちこち死体を大事に抱えながら走り続ける。







―数十分後



「はっ、はっ…! あっちから…音が聞こえる! あれは…か、川だっ! いやっほぉっ!」


 30分も走らない内に運良く川が見つかった―

 そこそこ大きめの川で、横幅は7~10m前後に見える。ここから見える分にはほぼ直線の様だ。川辺には土や草の代わりに大小様々な石が敷いてある感じになっている。狭い森の中では珍しくこの周辺だけはかなり広かった。


 直ぐに川に駆けよりその場に座り込む。水はとても透き通っていて自分が住んでいた川などと比べられないほどだ。よく見ると魚なども何匹が泳いでいるのが見える。ここの水なら飲水としても使える筈だ。


 だけど今はそれよりも肉の処理に注意を向けた。

 すぐに死体を水につけ汚れや血を丁寧に洗い流していく…が、そこで僕の手は止まってしまう。


「ここからどうすればいいんだ…? あれ、思い出せない…た、確か内蔵を取り出して…ナイフなんかないってのっ!」


 なけなしの知識を総動員するが思い出せるのは道具などを使っての作業、素手で内蔵を取り出すやり方など全く知らなかった。


 今まで読み飽きるほどのネット小説、小説、漫画を見続けてきた。様々な技術を自分なら容易く使いこなせるなど考えながら。


 だが―実際はこの通りだ…火も起こせない、動物も捌けない、モンスターには殺されかける。今更ながらに、自分が一人では何にもできないことを突きつけられた気がした。持っていた知識など1%も使いこなせず、思い出してもその全てがうろ覚え、役になどたちはしない。


「う…うぅぅ…うわあああああああっ! うわあああああああああああんっ!」


 あまりにも自分が情けなくて、自分はそこでまた泣いてしまった。

 泣いてもどうにもならないけれど、もう自分を抑えることが出来なかったのだ。世界は自然は自分が考えるほど甘くはなかった。チートだのハーレムだのそんな阿呆な事を考えて悦に浸っていた僕には、この世界はまさに地獄そのものだった。








「…うぅ…泣いてどうにかなる訳がないよな…なんとかしよう、なんとかしないと」


 暫く泣いていたお陰で心もだいぶ落ち着いてきた。泣いていても仕方ないと気持ちを切り替え動物の解体を再開する。ナイフは無いので辺りで尖った石などを探し、腹を裂き内蔵を取り出していく。


「っ…よし、うぷっ…内蔵は全部取らないと」


 内蔵の生暖かさと感触が気持ち悪さを増長させ吐き気を催す―


 それでも僕は気合を入れて処理を続けた。

 初めて行う解体、時間がどんどん過ぎていく事にも気付けずにそして辺りが薄暗くなってきた頃に、ひとまず解体は成功した。


 初めての解体に成功して飛び跳ねて喜ぶ自分。

 毛や皮はそのままだし、骨も満足に取れていないがそれでも食べられる部分を作れたのが誇らしかった。


「やっ…た! どうだ見たか! 僕だってやれば出来るんだ! さぁ後はこれを焼いて食べるだけっ!」


 直後に火を起こせない事を思い出して凹んだのは言うまでもない―


 これが漫画小説などの主人公ならこの後、火も起こせて食べられたのだろう。

最悪は生でも食べられたかもしれない…今思えば何故さっさと食べなかったのかと悔いが残る。


 何を思ったのか僕はまた無駄に火を起こし始め再び時間を使ってしまった。今自分が何処に何を置いているのか、そして今の状況と時間を完全に忘れていたのか……



―グルルルルルル…


 どれだけ自然の中の夜が恐ろしいかを、知らなかったのだ。


―ハウンドAが現れた!

―ハウンドBが現れた!


「え…!? あ…あああぁぁぁぁ………」


 見た目は黒い毛並みの狼のような大型犬が其処に居た。

 普通の犬と違うのはその大きさが僕の一回り上で、口の横から刃の様に長く鋭く伸びている牙が見える。血に飢えた様な赤い瞳が僕を…いや、正確には僕が持っていた肉を見つめいていた。


 あんな大型犬など地球でも見たことがない。それに先ほどモンスターとはいえウサギにも負けた自分が複数の野生の犬に勝てる訳がない―


 真っ白になっていく頭を必死にフル回転させ僕は全力で行動した。解体した肉を掴み、犬達の前に投げ込んだと同時に走りだす。


 犬達が僕が走りだした瞬間に此方に走り寄ってきた。

 そのまま噛み殺されると恐怖で震えながらも全力で走るが足音が急に途絶えたのが分かった。振り向くと其処には動物の肉を二匹で奪い合う姿があった。


 どうやら犬達は自分より肉を食べるほうに夢中らしい。犬が肉じゃなくて此方を狙っていたら、多分自分はこの時死んでいただろう。


「畜生…! 畜生! やっと手に入れた食べ物がぁっ!!」


 運が良かったのか悪かったのか…

 いや、こんな所で馬鹿をやっていた自分の自業自得なのだが。犬は結局此方を追ってくることはなく、命からがら逃げ出すことが出来た。


 それでも、もしかしたら肉を食べ終わった後にこっちに来るかもしれないと考えてドタドタと鈍い音を立てながら走って行く。


 人間死ぬ気になれば苦しさも忘れて走れるらしく、およそ体感で500メートルほど走った先に小さな穴を見つけた。恐らく洞窟か何かだと思う其処に転がるように入り込みそのままその場に崩れ落ちた。


 目には涙を溜め悔しさと恐怖、空腹がないまぜになり地面をドンドンと叩きながら嘆くことしか僕には出来なかった。


「もう少しで! もう少しで食べられたのに…! 何でだよ! 何で! 何で何で何でっ! くそっ…! 畜生…! 畜生がぁ!」


 嘆いても仕方ないのは分かっている、でも叫ばずにはいられなかった。初めて自分で解体した獲物が横から奪われたのは凄くショックだったのだ。


「ふぅ…ふぅ…このままじゃいずれ餓死…そんなの嫌だ。何とかして明日は食べ物を探さないと、今日はもう暗いし夜はダメだ…あいつらに見つかったら今度こそ食い殺される…! なんとか朝の早いうちに川とかで魚を取れるようにしないと…! …今何かぶつか…!?」


 明日の事を考えながらうずくまっていると足が何かにぶつかった。反射的に飛び上がり恐る恐るぶつかった方向を見るとそこには―


「ひっ…!? し、した…死体!? 死体がぁ!?」


 白骨化した人間の死体が横たわっていた―



―続く


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― 新着の感想 ―
[一言] 最近見つけて読み始めました。 まだ序盤ですが堕落したニート生活がたたって厳しいサバイバルになっていますね。 その状況描写が頭に想像しやすくいい感じですじゃ。 本作品しか投稿されていないよう…
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