CP-04 【優しい思惑】
CP=キャラクターパートです。主人公以外の視点でのお話となります。
―同時間 アルスの個室
「んで? 聞かせて貰おうかお。どういうつもり? ヤスオをパーティに誘うだなんて、あの子ビックリしてたじゃないか。」
咎めるような口調でティルが問い詰める、腕を組みジト目でアルスの言葉を待っている。
「何だ、ティルは反対なのか?」
「別に反対はしてないお、ただ、どういうつもりか知りたいだけだお。」
質問に質問で返され更に眉毛が少し釣り上がる。ティルがこの様な感じの険しい表情をしている時はかなり怒っているのを長い付き合いで理解してるアリーが慌てて間に入った。
「ちょっ! ティル落ち着いて!?」
「…別にまだ怒ってないお。、ただ気になるだけさ、どういうつもりなのかね? ヤスオが可哀想だから仲間に入れるとか抜かしたらぶん殴るお? そりゃ流石にあの子に対しての侮辱だっての。」
ヤスオと話して少しだけだが、彼の人となりを知ったティル。彼は気が弱く、勇気もそこまで持ち合わせていないが、何かあればまっすぐに進める子だと彼女は思っていた。だからこそ強者であるアルスが哀れみで仲間に入れるなんて言った場合は姉として本気で怒るつもりで居る。
アルスは少々度が過ぎるレベルで善人だ、勿論誰かれ構わず助ける等と言う気狂いか聖者では無いが、懐に入れた者、近くにいる弱者は必ず守り救おうとする性格をしている。
「…勿論【それ】もある。」
「アルス…!!」
「……あるが、それだけじゃない。俺なりの打算があっての勧誘だよ、正直あいつは化けるぞ? とんでもなくな。」
確信を持って言うアルス。彼もまた単純に可哀想だからと言う訳で仲間に誘った訳ではなく、ちゃんとした理由があるとティルに告げる。
「化けるって…確かに生活魔法コンプしてたけど、もしかして異世界人って奴だから? 私はその辺よくわからないんだけど。」
生活魔法は誰にでも覚えられる魔法だが、その全てを覚えられる人間は極少数しかいない。魔法の属性に寄る相性やクラスに寄る相性等があって、偏るのが普通だ、アルスは3種しか覚えていないし、アリー自身アコライトなので光と水属性の生活魔法だけだ、まさかの【軽癒】は覚えていなかったりする。そんな中、全ての生活魔法を覚えているとヤスオから聞かされた時は全員驚いていた。
「安心しろ、その辺は俺もよくわからん。」
「ダメじゃないか。」
間髪入れずにアリーの鋭いツッコミが入った。
「まぁその辺は遠い常識の違う場所って思っておけばいいだろ、住んでる場所云々でアイツを肯定も否定もせん。ヤスオの事はヤスオ自身を見て理解した方が早いだろ。」
「んじゃ何だってのさ? 反対はしてないけど、出来ればボクはヤスオを戦わせたくないお。あんな森で一人で頑張ってきたのに、これ以上酷い目には流石に、ね。」
たった一人家族から離されて何も知らない森の中で生きるか死ぬかのサバイバルを余儀なくされたヤスオ。そんな彼に対しティルは非常に同情的だった。ウサギにも勝てなかった彼が必死に今まで生きて来たのを聞いて目頭が熱くなりつい抱きしめてしまい、非常に慌てさせていたが。
「この町でゆっくり生活させてあげる、大変なら助力もしてあげる…無理に冒険者になる必要なんてないお。」
「確かに…ね。全ての町が此処みたいに冒険者に友好的って訳じゃないし…」
この世界に置いて冒険者とは恐れられ排斥される存在だ。強者は恐れられ、嫌われてしまう。全てが全てそう言う訳ではないが、冒険者の一部の存在が行う行為によって、信頼を失い腫れ物扱いされるという事もある。
勿論それが全てではなく、歩み寄ってくれる場所や冒険者が居ないとどうにもならない場所などはちゃんと彼等と手を取り合ってくれたりするのだが。
「なぁ、ちなみに聞くがお前等が同じ状況に陥ってヤスオの様に生き抜く自信はあるか? ちなみに俺はない、とりあえずは一ヶ月だけでもいい。」
「レベル1で装備も何も無し、知識だって無い状態ででしょ? 流石に無理だよ、モンスター倒してもあいつらじゃたかが知れてるし武具なしで行くなら最低でも7~9レベルは欲しいよ、特に私はアコライトだし火力なんて無いからウサギも辛いと思う。」
「そりゃボクだって無理だお。ボクは後列のメイジ、前に人が居てこそ戦える……あれ? ヤスオってメイジ系だよね? 何で生きてるのさ。」
アリーもティルも速攻で無理だと告げる。レベル1とはつまり村や町等に居る一般人と何ら代わりは無い。武器も何も持たずにレベル1がハウンドやウサギに勝てる訳がなかった。同じレベル1でもファイターなら力があれば戦えるかもしれないが、基本的に【力】【器】【体】が低い魔法使い系、それも初めは魔法も禁止となれば、数日置かずにモンスターに殺されると判断する。
「遺体捜索中に聞いたんだが、あいつあの森の中で【剣修錬】や【槍修錬】を覚えて、拾った魔法書から魔法を読んで覚えたってさ、あいつが異世界人ならクラスに寄る取得難易度や傾向を知らないのにそれらを普通に覚えている。ステータス的にはメイジ寄りなのにだ、この意味がわかるか?」
「ウィザードナイトやパラディン目指してるなら結構居るっての……って、何も知らないで訓練とかだけで、だおね? ……マジで?」
クラスがメイジやアコライトになれば、【剣修錬】などの前衛スキルはとても覚えにくくなるのが普通だ、だからこそ上位クラスの【ウィザードナイト】等はロマン型等と言われている。逆にファイター、シーフ、アーチャーなどはそれらハイブリット職にクラスチェンジするまで一切魔法を覚えられないと言う辛い制限もある為、全てを満遍なく使い覚えると言うのは一朝一夕で身につく物ではない。しかしヤスオはクラスなども無いし、レベルもない。そして努力してそれら全てを普通に取得していった、彼等の常識から言えばヤスオはとても非常識な存在だろう。
「ヤスオはクラスも無いって言ってたよね。それで訓練したら覚えて、魔法も覚えたと…メイジじゃないから普通に剣修錬とかも覚えやすい、ファイターとかじゃないから、魔法も普通に覚えられる…!? もしかしたらヤスオって、全てのスキルとかが覚えられるって事!?」
「万能に近いとは思うが、多分限界はあるだろうな。正直ヤスオはそこまで強くないし、キャパも無限には見えない。だが成長性は俺達の予想以上だと思う。で、そんな人間を放置しろって? 俺なら是が非でも連れてくね。」
努力すれば万能の戦士になれるかもしれない金の卵を拾わずに放置するのは勿体ないだろう? と彼は続ける。
「とまぁこれが俺がヤスオを誘った理由だ。勿論断られたらすっぱり諦めるし、最低でもこの街で働ける位には手伝ってやる。でも出来れば俺はあいつを仲間に加えたいと思ってる。どうだ、ティル?」
話す事は以上だとティルの疑問に全て答えるアルス。そんな彼の表情をマジマジと見つめ、ティルは小さくため息をついた。彼が長々と説明する時は大体においてそれ以外に理由がある、ずっと側に居た弟みたいな物だからその真意に気づけた様だ。
「なーるなる、色々納得の行く説明並べてたけどさ、結局あんたがヤスオを連れて行きたいだけなんだお? やれやれ素直じゃないんだから。」
「うっせ。俺が似た状況になったらあっという間に絶望してる、あいつはそんな中で一人だけで頑張って生きてきたんだ、何もわからない場所でよ…なら、見せてやりたいじゃないかこの世界の良い所を、さ。」
世界は広い、冒険者がどうとか言う以前に楽しい事が世界中には沢山ある。いきなり異世界の狭い森の中に囚われていたヤスオにこの世界の楽しい場所を見せてやりたい、喜ばせてやりたい。それがアルスの本音だったりする。
「ふふ、アルスらしいね。そんなんだから甘いって言われるんだよ?」
「いやいや、お前らも大概だから。」
知り合いの冒険者達の共通認識は【善行が服を着て歩いてる奴ら】と言われてたりする―
「ほんじゃまぁ、ヤスオは勧誘するって事で決定だおっ! いよーし、どこまでも連れ回してあげるしかないねっ! なんて言うかこう? 可愛い弟が出来た感じでボクは嬉しいお!」
「おいおい、まだ受けてくれるかもわからないんだし後で落ち込むなよ?」
後は全て明日にわかるとアルスは窓から見える星を眺めていた。出来れば受けて欲しいな、と思いながら…そうすれば男友達が増えるかもしれないと言う小賢しい欲望もあったりするが、それはそれで可愛い物だった―




