13-01 【感謝と恩義と未来の為に】 Ⅰ
森脱出です。
ブックマークと評価人数がじわじわと増えています。
皆さん本当に有難うございます。もう少しで本格的なお話が始まります。
―宿屋【おまんら誰も寝かしまへんで!!】亭
「………眠れないな。ベットなんて何ヶ月ぶりだろ…」
今僕は町の宿屋に泊まらせてもらっている。お金はアルスさん達が出してくれた。一人で考えたい事もあるだろうってわざわざ個室までとってくれた3人には頭が上がらない。
異世界に来て初めての文明がある場所、この宿屋もかなり綺麗な部屋でよくゲームなどにある虫が這っているとか汚いとかそう言うのはまったくなく、ベッドは白くとても良い匂いでホテルとかは行ったことが無いから分からないけど、病院のベッドみたいな清潔さだ、飲水用の水差しとコップがテーブルに置いてあっていつでも水が飲めるようになっている、足りなくなったら朝ならベルを鳴らすか今の様に夜ならカウンターに頼みに行けばいいらしい。
シャワーなどは無かったけど浴場はあるみたいで、この世界で漸く初めてお風呂に入れたのが嬉しかった。【清潔】や【浄化】等で身体は常に清潔だったけど、お風呂に入れるのはやっぱり嬉しい。
「……良い人達だよな。こんな不審者を助けてくれただけじゃなく、まさかパーティメンバーに誘ってもらえるなんて。」
依頼が終わってこの町に来る前に何とアルスさんから一緒のパーティにならないかと誘われた。ティルさんもアリーさんも驚いて詰め寄ってたけど、僕が仲間になるのが嫌じゃなくて、違う感じだった。嫌われているかと思ったから少しだけホッとしている。でも、アルスさんは何で僕を誘ってくれたんだろうか?
とても嬉しいけど答えは明日の朝まで待って欲しいと頼んだら笑って了承してくれた。答えはまだ完全には決まっていないが大体の事は考えている。
「有難いよな…こんな僕でも必要とされてるんだ…」
勿論何から何まで善意という訳ではないのだろう。それでもこんな自分にここまでしてくれる人間が居るなんて思いもよらなかった。地球でもし出会えていたら、自分はもう少しまっすぐな人間になれたかもしれない、そう思える位には。
だからこそ…だからこそ今自分は悩んでいる、贅沢な悩みを…自分は何様なのかと言われても仕方ない事を。
よく考えろ自分、良いんだろうかあの人達の手を今取ってしまって…なぁ自分…お前はこの手をとって良いと思うのか? 今手を取れば僕は冒険者として、小説や漫画で見たような世界に飛び出す事になるんだろう、高揚感もあるし僕を仲間に誘ってくれたという喜びもある。
………僕はあの時、あの人達と普通に会話が出来た。それはあの人達が優しく良い人達で此方のペースに合わせてくれたからだ。 でも、結局一度たりとも相手の目をみて、顔を見て会話できなかった。まだ、やっぱり怖くて…だから、このままじゃあの人達に依存してしまう。助けてくれるからそのまま甘えてしまう、そんなんじゃ元にダメ人間に戻るだけだ。自分の事は自分が一番理解している。
このまま甘えてしまったら結局元通りだ。あの、ひきこもりで親不孝者だったダメ人間に…多分、彼等はそれを諌めてくれる、そして反省して…繰り返す。
「誘ってくれたのは凄く嬉しかった。だから…だからさ……僕は断らなくちゃ、ダメなんだよな。」
今の自分では、あの人達に迷惑しか掛けない…そんなの僕自身が許せない。
「今の自分じゃだめだ、力云々もそうだけど、何よりも心が弱いから。もし…僕が心も成長して、その時また誘ってくれたらなんて、そう都合良く行く訳ないよなぁ…せっかくの誘いを蹴るんだから。」
折角の頼みを断るんだ、流石にあの人達が良い人でも僕にばかりかまけてる暇はないだろうしな。寂しいし残念だけど、これが今の僕にとって一番必要な事だ。
アルスさんが言ってた、町では人手が足りないみたいな事を。それなら真剣に頼み込めば僕でも働かせてもらえるかもしれない、もしくはこの町を中心に冒険者を頑張るのも良い、辛いだろうけど森で一人で暮らしていた事を考えればどこでも生きていける自信はついた。今自分に必要な事は【覚える事】と【動く事】だ、僕はあの森で漸くそれを知ったんだから。
後、どう考えてもあの3人と力量が離れ過ぎてるのがネックだ、これから頑張ろうって時にいきなり上位者と組んだら成長も何もない。僕の切り札だった【風縛】をあっさり無効化とか、あれで自称【まだ一人前レベル】って言うんだから
今の僕じゃ雑魚も良い所です。ウサギとハウンドがただの雑魚って改めて聞いた時、涙が止まりませんでした。
パーティを組んだら、多分あの人達なら僕に合わせてくれるだろうな…それって、寄生っていうか…ゲームで言う【お座りレベル上げ】そのものだ。経験にはなるかもだけど、それじゃ多分僕は慢心してしまうだろう、強くなったけど肝心の心や経験は全く無いハリボテの強さに。勿論ギリギリの修行かもしれないけど、きっと甘えてしまう。
「あの人達は、僕を誘ってくれた…なら…なら! 今自分がやるべき事はあの人達の仲間になって甘える事じゃない! あの人達と共に肩を並べて戦える様になるまで頑張る事だっ! 何も知らない、弱いままじゃダメなんだっ!」
もう、ダメな自分のままは嫌なんだ、父さんや母さんが誇りに思ってくれる様な立派とは言えなくてもまともな人間になりたい。英雄とか勇者とかじゃなくて、一人前の人間として。だから、この町で必要なことを覚えて、鍛えていかないと行けないんだ。甘えたがりの自分は捨てろ、強くなるなら頑張らないといけない。
今の僕には何の目的も無い。
勇者になる、英雄になる、大魔法使いになる、お金持ちになる、ハーレムを作る。そんなアホみたいな目的じゃない、ちゃんとした目的が…だからそれを見つける為に生きてみよう、自分の足で人生を歩んでみよう。
「あれ? アルスさん達とパーティを組む為に頑張るって目的かな…?いや、これは目標かなぁ…まずはこれを目指して色々頑張ってみよう。森での生活を考えれば、生きるだけならきっと出来るしそれ以上もきっと頑張れる。」
後は、町の人と仲良くなれる様しないと。
町で働くにしても、冒険者をやるにしても最低限の信用がいる。そして僕の信用度なんてここに来たばかりなんだからほぼゼロしか…ってかゼロだよな。
「そう言えば、お金もってないなぁ…。アルスさん達、僕が持ってる物で欲しい物ないかなぁ。せめて一ヶ月…いや半月は生活出来るお金が欲しい。」
ハウンドもウサギも周囲に居るから最悪町で野宿させてもらえば生きていくのは可能だけど、町の人から信用を得る以上は最低限、人としての暮らしが出来なきゃ話にならないよな…ゼロからスタートしたんだから、ここでもゼロから頑張るのは苦にはならないけど、それで気味が悪いとか思われたら信用を集める以前の問題だ…持っているアイテムで売れる物があるか見てもらおう、何から何まで断るのはただの馬鹿だ、必要な情報とかは貰わないと。
「何にせよ、まずは明日だな。怒られるかなぁ、呆れられたりしたらと思うとやっぱり怖いな…後お礼できる物あるかなぁ? 高そうなのってこの指輪か運が1上がるっていう石しかねぇや…」
問題は山積みだけど、それでも一応の道は見つけた。
どうなるかわからないが、それでも森に居た時以上に酷くはならないだろうと思う。眠気は相変わらずやってこないが無理やり休むことにしよう。流石に眠気まなこで対応するのは失礼だから。