11-01 【今を生きる】 Ⅰ
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―数日後
今自分は持てる限りの全ての力を振り絞って逃げていた―
真後ろから叫び声を上げながら追いかけてくる4体のハウンド、初めは2体に襲われて撤退しようと思った矢先に真後ろからも2体襲ってきたという超理不尽な状態に陥ってしまった。何とか挟み撃ちを避ける為に敢えて横道に突っ込んで逃げたのが功を奏して今がある。これはこれで最悪の状態だけど4体のハウンドに前後から攻撃サれる事を考えればまだ立て直す余裕があった。
「ハウンド4体とか死亡フラグじゃねぇかっ! そんなフラグ要らないっての!!」
森の中で木々を縫う様に走る事で相手の接近を妨げていく。いい加減に戦闘中の移動にも慣れたもので相手が速くてもある程度引き離す事が出来る。いつも逃げる時はこうやっているのだ。
そのまま走りつつ袋の中からハウンド肉を取り出して振り向き様に投げつけた。肉を見たらそっちに集中するこいつの修正を利用しているが、まさか同じ種族の肉でも関係なく喰らいつくこの飢え具合は気味が悪いな。
「!! がうっ!」
「ぐるぁあ!」
一斉に落ちた肉に群れる4体のハウンド、1匹あぶれてしまい此方を睨みつけているが、1体だけなら問題なく対処できる。
「止まりやがれ!! 【風縛】!!」
―ヤスオは【風縛】を唱えた!!
―ハウンドDは【捕縛】された!!
「おおおおおおおおおおおおおおん!!」
「よしっ!! って!? もう食べたのか!?」
1体目のハウンドを止めた矢先に食べ終えたハウンドが飛びかかってくる。袋の中には万が一を考えて肉を複数用意していたから匂いを察知したのだろう。狂ったように涎を垂らしながら僕の首を食いちぎろうと大きく口を広げた!
―ハウンドの攻撃!!
「見え見えだっ! 【風壁】!」
―【割り込み】!! ヤスオは【風壁】を唱えた!!
―ヤスオに微小ダメージ!!
突っ込んで来るハウンドの目の前に風の壁が現れ激突する。くぐもった声を上げながらも壁を突き破り噛み付いてくるが、左腕を咄嗟に前に突き出し敢えて噛ませる。風魔法で減退したスピードでの噛み付きじゃボロとは言えアームガードを貫通する事は出来ないみたいだ、離れようとしない目の前のハウンドの目に向かって指を突き刺すと悲鳴を上げてその場から離れた。そして動く前にもう一度魔法を掛ける。
「お前も止まれ!! 【風縛】!!」
―ヤスオは【風縛】を唱えた!!
―ハウンドAは【捕縛】された!!
―ハウンドBは肉に夢中で動かない!!
―ハウンドCは肉に夢中で動かない!!
―ハウンドDは【捕縛】されている!!
ハウンドを魔法で止めておけるのは大体1分前後、1体目に掛けてからもうすぐ30秒近くたっているがまだ捕縛は出来ているし、残り2体はまだ残っている肉を互い奪い合い、今もう1体のハウンドを足止めした。後はもう一手を行動するだけだ。
「ほらっ! 食いたきゃ食えよ!!」
捕縛されているハウンドの目の前に肉を投げ捨てる。これで魔法が解除されても此方を攻撃するよりも肉に集中してくれる訳だ。
「よし…後は…脇目もふらずに逃げろおおおおおおおおっ!!」
―ヤスオは逃げ出した!!
一切後ろは振り向かずに全力を出して走りだす。動きを止めて攻撃するのはどう考えても悪手だ。この辺りは木々の感覚が狭いので槍は使いにくいし火魔法は以ての外。風魔法で攻めるには威力が足りない以上、逃げるのが最善手だ。
後ろの方でまたハウンドが騒いでいる声が聞こえるが此方に近づいてくる気配はなかった………
―ヤスオは逃げ出した!! 逃走成功!!
…………
「はぁっ! はぁっ! こ、ここまで逃げ切れば…!!」
全力で逃げ続ける事数分、足が棒の様に重く感じるけどそれでも休みなくここまで逃げ切る事が出来た。途中ウサギが居たので逃げる途中で【風刃】を叩き混んで逃げたから襲われる事はなかった。凄い咄嗟の機転で動けたと言うか、体力ついてきたなぁと今更驚いている。ちょっと前まで少し動くだけでひぃひぃ言っていたのが懐かしい。何せ全力で動くのは無理だけど、それ以外なら実はまだ余裕があったりする。
「ステータス上昇万歳…と。はぁ…なんとか逃げ切れたぁぁぁ…ハウンド4体に両側から襲われるとかイジメにも程があるだろ。」
お陰で殆どの肉を投げ捨ててしまった。お昼とおやつ用に持ってきているのもあったのに。しかし我ながら出来過ぎな位に頭が回ったな、これ少しでもミスしてたら大怪我か、下手すりゃ死んでただろう。【知】が上がった影響なのかもしれない。頭が良くなった感じはしないけど、戦闘中に何をどうしたらいいか漠然を思い浮かぶ様になったし、冷静でいられる様になってきている。今回は逃げたけど、あのダメージ量から推測して…肉があればハウンド2体なら勝てるかも知れない。餌に目を奪われている間に片方は火魔法で焼き殺してしまえば後はもう1体だ。それも目の前で餌を食べて隙だらけなハウンドなら魔法を使わなくても槍だけで勝てると思う、なんせ【槍修錬】覚えたし。
痛いのは嫌だし、自ら進んでダメージを受けたいなんて思わないけど、防具もつけているしある程度のダメージを覚悟すれば行けると思う。
(あれから肝心の【魔】が全然上がらないからなぁ…【知】と【魔】も後1上がれば10になるのに…10ってやっぱり大台なのかもしれないな。)
この数日で【力/知/魔/運】が1点上昇したがそれ以降はほとんど上がっていない。ハウンドを倒しても上がらない時が数回あったので、もしかしたら上る可能性がかなり低くなったのかもしれないな…せめて森を出れる位の数値までは上がって欲しい…
(数体いっぺんに倒せばそれだけ上る可能性があるし…となればまた肉を集めなきゃ。ハウンドは同じハウンド肉も問題なく食いつくから、単体の時に沢山集めよう。)
しかし、モンスターは変な習性を持っているんだな。肉を目の前に投げたら敵そっちのけで食いつくなんて普通の動物…犬でもありえない。こっちが飼い主とか信頼されてるとかならともかく、今まさに殺し合おうとしている状態でも関係無く肉にかぶりつくハウンド…他に仲間が居ても分け合う事もしないでお互いに奪い取ろうとするのが不思議だ、群れの意識とかないのだろうか。
(馬鹿なのか、それともモンスター特有の優先順位があるのか……よし、結構休めたしそろそろ移動しよう。こっちの方は来た事がないから探索しつつ…)
呼吸も落ち着いてきたので立ち上がり周囲の探索を再開する。次はもしハウンドが複数…2体位だったら戦ってみるつもりだ。肉ならもうちょっと残っているし、倒せばあいつは確定して2個のブロック肉を落とすので、マイナスになる事はない。
周囲のモヤはほとんど晴れている、【運】が適正値に到達したのもあって森を大分走破出来る様になった。実はこの森、意外と狭いらしく端から端まで2~3キロ程度しかない。そんな中を出られないとグルグル回っていたのだから迷いの森はやっぱり恐ろしい場所なんだな…
(必要な【魔】ってどれ位なんだろうなぁ…10だったら後1上がれば出られるとして…もし20とか必要って言われたら数年計画か諦めて森の民になるしかないな…って!? あれは…!!)
木々を掻き分けて進んでいくと先に開けた場所を見つけた。其処にはウサギが3匹体制で同じ場所からじっと動かずに首だけをしきりに動かし3匹で全方位を見回していた。普段のウサギからは想像もつかないその姿は僕を驚かせる。そして僕をもっと驚かせたのはウサギ達がおそらく守っているだろう中心だ。そこには自然に出来た様な窪みっぽい物があって、其処に宝箱が安置されていた―