46-02 【平和と安全の為に】 Ⅱ
―ダンジョン【ざわめく死者の通り道】
日頃から冒険者達が狩りや一攫千金に所為を出す瘴気の溜まり場…それがダンジョン。そんな中今日も二組の冒険者パーティが欲望渦巻く瘴気の道を歩いていく。
「おーい、そっちにあったー?」
「んー……こっちには2個あった位だなぁ」
「よっしゃああああ! 瘴気山菜げっとしたあああああ!!」
「アルスさん…それただの雑草です」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
探しているのが例え山菜だとしてもダンジョンアタックには間違いないだろう。中級冒険者6人がわざわざ山菜のためだけに下級ダンジョンに潜っていようとも。
◆
今回はウォルクさん兄弟の依頼を受けてダンジョンにだけしか生えてこない山菜を探してダンジョンに来ている。今回はモンスター退治がメインではなくてこういうダンジョンにしか生えてこないという特殊な食料…というか山菜を探すのが仕事だ。
瘴気等で汚染された中で山菜なんて食えたもんじゃないと思うかもしれない、と言うか僕も流石に食べたいとは思わないが、なんでも弟のウォレスさん曰く、こういう場所で取れる山菜は、瘴気の中で逞しく育つので、それらを適量処理を施すことで通常取れる山菜よりとてもおいしくなるらしい。ちゃんと下拵えをしなければ流石に瘴気に汚染された草だから身体には良くないと言うが…
「てか、よく食べようと思うよなぁ…」
ミキが背中に籠を背負いながら周囲をキョロキョロを見渡しつつ愚痴る。
「ははは、一度食べたらやみつきになるんだよね、それにイートマジックにもこの辺の山菜は利用できるんだ、趣味と実益を兼ねても居るんだ」
美味しい食べ方等を僕にレクチャーしてくれるウォレスさん。
実は今回、依頼人であるウォルクさんウォレスさんも参加者として一緒に採取を手伝ってくれている、単純に人出が欲しいのと山菜採りに集中するための戦闘員として僕等が雇われたんだ。
「おーいヤスオ~。こっちでお姉ちゃんと一緒に探すお~♪」
「いよっしゃああああ! 俺が一番見つけ出すぞおおおおお!!」
今回の依頼参加者は僕、ミキ、アリアちゃん、アルスさん、ティルさんの5名。ノーヴァ君はフィル君達と一緒にフィールドに狩りに出ている。
本当はカノンも誘う予定だったのだが…
「……カノ……ン……風邪……へい……き…?」
「まさか風邪引いちゃってるとはなぁ…お見舞いには言ったけど、お見舞い品のフルーツ喜んでくれたかなぁ」
「嬉しそうな顔してたし喜んでたでしょ。一応アリーとイクス夫婦が見てるしボク等は依頼を終えた後に様子見に行けばいいさ」
冒険者だろうが中級者だろうが病気には普通になる。
カノンも風邪には勝てずダウンしてしまっていた、それほど酷い風邪では無かったのでアリーさんが回復魔法や軽い処置を行った後、ホープタウン唯一の個人経営をしている病院に連れて行っている。自警団員兼医者のサイラスさんがちゃんと治療してくれた筈だ。ちなみにボクも何回かお世話になっている。
◆
―カノンが借りている宿
「こほっ…すみません、手を煩わせてしまって」
「大丈夫さ、私達もどうせ暇だしね。サイラス先生も一晩ゆっくり休めば回復するって言ってたから、明日には治ってるよ」
ベッドに横たわっているカノン。
回復魔法やサイラスの治療により熱や吐き気、寒気なども収まっていた。今は彼女達に言われるまま身体を休めている。
「カノンちゃんこれ生姜湯よ。身体が温まるから飲んでおいてね」
「有難うございます、頂きますね」
イクスの妻であるサーラから温かい生姜湯を手渡され口をつける、蜂蜜の甘さと生姜の味が絶妙にマッチして味も悪くなく、確かに身体が暖かくなってきた。ホッと一息をつき窓の向こうを見つめる。
(※のーないかのん※ ぐすっ、一緒に行きたかったなぁ……でも皆心配してくれたし、今もこうしてお見舞いもしてくれてるし。今までみたいに人形の手を繋いだり、脳内友達を沢山呼び出して寂しさを紛らわせる必要がないなんて…!! これが…友達ぱわーなのねっ!!)
周りから見れば深窓の令嬢の様に見えるカノンではあるが、相変わらず中身はこんなものだった。
「アルス馬鹿な事してなければいいんだけどなぁ…ほら、ヤスオもいるから張り切ってたしね」
「あー、昨日依頼受けたんだよねぇ、なんか踊ってたよ彼」
「ふふ、可愛かったわよねぇ」
「か…可愛いって……確かにアルスは子供っぽいとこあるけど…」
アルスの事を思っているアリーにして、ちょっとキモかったと言わざるをえないはしゃぎようだったのを間近で見たアリー達。幸か不幸かヤスオ達とは離れていたのでイメージブレイクには繋がっていないが。
「アルスさんもそういう所、あるんですね」
「そういう所しかないんだよ…やれやれ、普段は真面目なんだけどねぇ。どこでこじらせちゃったんだか…」
そう言うアリーの表情はどこど無く嬉しそうに見えた。
長年男性の友人を作る事が出来なかったアルスにとってヤスオは初めての友人。普段冷静で大人である彼がはしゃぎまくるのもわからなくはないし、寧ろ嬉しい所もある。
「でもあれはねぇ…」
「綺麗に踊ってたね、時々意味不明な叫びを上げながら」
「ほんと…ほんともう…うちの大根は…」
「あ、あははは…」
お見舞いから一変、アリーの愚痴会になりそうな雰囲気だった―




