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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【2章】 ギルド結成とこれから
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45-04 【望郷、日常、悪意、殺意】 Ⅳ

―ホープタウン フィールド 深夜



(な、なんだこれは!? 何がどうなってるんだ!?)


 目覚めた男は現状を把握出来ず混乱していた。

 意識が朦朧とし両手足が思うように動かない。歪む景色とズキズキと痛む頭の痛みに再び気を失いそうになるが、それでも13レベルのシーフである彼は冷静に自らの精神を繋ぎ止めていた。


 ここがどこで今自分がどうなっているのかが理解できず思わず叫びそうになるが口内も麻痺しており何の感覚も無くなっている。


(く、薬か!? これは…常習性が高い麻薬…!? くそっ!? 何が…!?)


「おや? お目覚めかなー? あ、腕折っちゃった。まぁいっか」


「は…ひゃ? ひはは…」


「あー、中級って言ってたから念には念を入れてお薬盛ったからムリしないほうが良いよ~? 腕折れても痛み感じないでしょ?」


 何を言っているか理解できなかったが、先程まで多少なりとも感じていた右手の感覚が全くなくなっている事に気づく。そして同時に背筋が寒くなるのを感じた、この状況を少しずつ理解し始めたのだ。


「お…おはへ…なに…を…!?」


「うん? よくまぁ喋れるね? 中級冒険者にもなるとやっぱり耐性が出来るのかなぁ?」


 ころころとこの場にはあまりにも不釣り合いな可愛らしい声が響く。

 甘く、それでいて優しい声色が、逆に男に恐怖を駆り立てた。


「ひ…ひぃぃっ!?」


「おたくらがさ、誰を攫うのも犯すのも殺すのもいいけどさ? 困るんだよね~、うちの家族やお世話になってる人を攫おうとするなんて、ね?」


 歪む景色の中映しだされたその声の主は…


「ひ…は……!?」


(ま、間違いない…!? 俺達が狙おうとしてた女の所のシーフのガキ!?)


 夜空の中月の光が照らされて光青色の髪をサイドポニーにしている小柄な少女…カトルパーティのいつも賑やかなシーフ、コリーが人差し指を顎に当てて妖艶に微笑んでいた。右手にはあまりにも不釣り合いな大型のナイフが握られている。


「ち…ちが…!? おへはひ…は!?」


「あー、言い訳とかそう言うのいいから。アンタ達の話は既に聞いてるしね~? ダメだよ~? 中級のシーフさんが私みたいな下級のシーフに盗み聞きされてちゃあ♪ だから、ほら、おとなりの人みたいになる」


「……ひいいいいいっ!?」


 コリーが持っていたナイフを右側に動かした。

 その方向を思わず見ると、仲間のメイジが全身歪に折られ縛られ口には猿轡までされて打ち捨てられていた。浅く呼吸をしている所から、まだなんとか生きていると言う感じだが、このまま放置しておけば直ぐに死ぬだろう。


 男自身も気がつけば両足が全く動かない事に気づく。恐る恐る目を動かせば、自分の足が変な方向に曲がり更にその状態で縄をぐるぐる巻きにされていた。薬の効果か痛みも感覚も無い事が唯一の救いだろうか。


「不思議そうだねー? 自分達は中級だからこの町の人間全員相手にしても勝てる? だっけか? でも薬には弱かったねぇ、あぁ、それね。致命的にやばいレベルの常習性があるお薬だから、万が一生き残ったら、やったね♪ ヤク中の出来上がりだよ♪」


 にぱっと笑うコリーの笑顔に最早恐怖しか湧いてこずぶるぶると震える事しか彼には出来なかった。


(な、何故だ…!? 何故バレた!? 何故気付かなかった!?)


 隣りにいる男と彼は常習的な誘拐犯で、見た目の良い冒険者を攫い、楽しんだり、奴隷商人に売りつける事で生計を立てていた。

 今回もこのホープタウンで色々計画を立て、攫う人間を選んでおり。アリアオロやミキ等も攫う候補に入れていた。軽くちょっかいを掛けた所、自警団に捕まったが口八丁で騙し逃げている。


 そして今夜か明日にでも誘拐を決行する予定だったのだ。

 一般人を狙わずに面倒くさい冒険者を狙う理由は、冒険者の方は攫っても後腐れないからという身勝手な理由である。


(…こいつ…化け物か…!?)


 攫う予定だった女性は、ここに滞在している冒険者であり単体では弱く攫いやすそうな者…それでいて見目麗しい存在として、ミキ、アリアオロ、ミラ、レティカの4名をターゲットにし、綿密に計画を立て実行する予定だったのだが、気がつけばこうなっていた。


「町で殺したら、町の人の迷惑になるしねぇ。町の中では殺しませんよ、町の中じゃね。でも外でやらないとは言ってません」


「あ…あぁぁぁ……」


 何とかしてこの場を脱出しようとするが身ぐるみ剥がされている為、暗器も何も持っておらず全身麻痺しているのと折れている現状何とかする方法は皆無に等しい。メイジである同僚も既に無効化されており、最早どうする事も出来なかった。


「お、俺…はひが! なにひはっへ…!! いふんは!!」


「ん? 確かに現状まだ何もしてないねぇ」


 可愛らしい笑顔をシーフに向けて言うコリー。


「でもさぁ、あんな分かりやすく誘拐計画なんか立てちゃあダメじゃないかなぁ? もしかして素人さん?」


「っ!! ひ、はまぁ…!」


「しょーじき言えば、あんた達が何しようがどうでもいいっす。でもね、仲間を狙うなら死んでもらうしかないっしょ」


 ナイフをゆっくりと男の首元に近づけていく。

 冷たい鉄の感触すら感じる事は出来ないが目の前に確実に近づいている死に全身が硬直していく男。


「はひ!? はひへへ!? はんへほ―」


「あぁ、命乞いとか、他に攫った子の情報話すから~とか言ってもどうでもいいので。わたしゃ正義の味方じゃないからね」


「はっ! はっ!! はっ!! はっ!! はっ!! はふへえ!? まっへふえ???!」


 死にたくない一心で必死に命乞いをする。

 同時に少しでも体が動けば目の前のコリーを縊り殺してやろうと体を動かしていた。


「んじゃ、さよなら」


 笑顔が一変し、まるで汚物を見るような表情でナイフを滑らそうとしたその時―


「っ!?」


 ナイフが何かに弾かれて宙を舞う。

 そのまま直ぐ近くに落ちていくのを動物のような瞬発力を発揮して掴みとり、何時でも動ける様に構える。その姿はシーフと言うよりは裏で殺し等を行う暗殺者の姿そのものだった。


「まだいたかぁ…仲間が居たなんてねぇ、私としたこ…と……」


 二人組だと考えていた所為で安心しきってしまったか、と自らの不手際に叱咤しながらもいつでも目の前の二人を殺して逃げられる様な体勢を取る。

 そこには…


「いぃぃらっしゃいませぇええええええええええっ!!」


 右手にお玉、左手にフライパンを持つホープタウンきっての謎な人物、大衆食堂のコック兼店長である、てんちょーと。


「ったく、こいつらの所為で残業だ。残業代は後で貰うからな」


 その店の看板娘のナナが立っていた。

 いきなりの予想もつかない存在の登場にコリーも困惑した表情で二人を見ていた。


開幕出てきてすでに退場寸前という名もなき悪人さんに敬礼を(何

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