表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【2章】 ギルド結成とこれから
208/216

45-01 【望郷、日常、悪意、殺意】 Ⅰ

―ヤスオの部屋



「ふぅ……」


 時空の魔道書をテーブルの上に無造作に置いて大きな息を吐く。

 新しい魔法やスキルなどは早々簡単に覚える事は出来ないし、特に焦っても居ない…ただ、最近覚える事が出来た【転移】の魔法について考えているだけだ。


 この魔法を覚えてから、どうしても気になることがあった。

 些細な事というには、あそこでの体験は今思えば何事にも代えがたいものだったから。


 【転移】を発動させると、チェックした事のある場所にまで一瞬で移動する事が出来る様になるが、その中でどこに行くか等は自分のイメージ+頭の中に浮かび上がる【移動可能箇所】を選んで移動する事になる。若干手間があるが戦闘中に使うような魔法でも無いので、これはこれで良いとして、問題は今現在行ける場所についてだ。


 その履歴の中はこの様になっている


―メモリー1:【集いし英雄の迷宮】※転移可能 

―メモリー2:【ホープタウン】※転移可能


「【転移】初期地点…【集いし英雄の迷宮】? あそこは【迷いの森】じゃ? これが正式な森の名前なのか?」


 【転移】を覚えた時のメモリー1。つまり初期地点は、アリーさん曰く自分の故郷か、長く住んでいた場所が設定されるそうだ。自分にとってそれは此処ではなくあの森だったらしい。確かに僕が初めてこの世界に来た時の場所は彼処だし、ずっと一人でサバイバルをしていた場所だから分からない訳ではないが、ダンジョンにはチェックする事は出来ないと言われているので本当に良くわからない。


 ただ今わかる事は、多分【転移】を唱えればいつでもあの森に行けると言う事だろう。戻ろうと思えば戻れる…思い返せばあそこの洞窟には持っていけなくて残しておいた装備や素材が置きっぱなしだった筈、とは言え敢えて取りに行く戻る必要性は全く無いのだが…


 これもまた望郷なのだろうか? 

 あれほど苦しく辛かった場所なのにどうしても懐かしく感じてしまう。

 あの頃は日々を生きるだけで精一杯だった、ハウンドやウサギと命がけの戦いをし、調味料もない肉をそのまま焼いて食べていた。なんにも取れなくて腹をすかせながら寝た事なんて何度もあると言うのに。


「……【灯火】僕がこの世界で初めて使った魔法…これがなければ多分死んでた。今はそこまで使わなくなったなぁ」


 人差し指の先にゆらゆらと揺れる小さな火。

 この火が僕を助けてくれた、部屋の装備置き場に大事に立掛けてあるショートソードが僕を生かしてくれた。あの森で自分だけで生きていかなくてはいけなかった頃を思い出す…ほんの数ヶ月位前の事なのに何故か懐かしく感じてしまった。


「もし、僕があの森じゃなくてはじめから此処に居たら……皆とも友達になれなかったんだろうなぁ、きっとダメ人間のままだったはず」


 あの森で生きるか死ぬかのサバイバルをして漸く少しだけ良い方に変われたのだ。それが何もなしにここに来ていたらと思うと寒気が走る。皆は良い人だが、碌でなしにまですべからく優しい訳ではない。あのダメ人間だった自分がここに来てしまったらと思うと背筋が寒くなる。


 フィル君やセレナちゃん、アリアちゃんに親方にセイルさんや他の皆から白い目で見られるのはかなりきつい。あの森はなんだかんだで僕を変えてくれたんだと思う。そう考えると地獄ではあったが、必要な事だったんじゃないかなぁと最近良く思うようになった。


 もし、時間が出来て気分が向いたら、もう一度あの森に足を踏み入れてみよう。もちろん何の意味も無いだろう。ただの感傷のようなものだ。それでも僕にとっては意味のある行動だと思えた。


「さて…明日はミラちゃん達の手伝いだし早めに休むかな」


 あれからもミラちゃんとレティカちゃんのレベル上げの手伝いは続けている。

 あの後直ぐカトル君にはバレてしまったようで、何度もカトル君に謝られてしまったが、此方にも意味があるし報酬も貰っているので気にしないで欲しいと話をつけた所、カトル君も手伝ってくれる事になったのだ。


 彼女達も流石に嫌とは言えず2週に1~3回程この4人でミラちゃんを前衛にしてレベル上げと実戦経験を高めている。

 未だに【HP上昇】を覚えては居ないのだが、接近での弓の扱い方や回避の仕方を覚えてきたお陰で被弾も少なくなり安定して戦えるようになってきた。後はHPとレベルが上がればコリーちゃん達に気後れする事無く戦える用になるだろう。


「僕も盾を覚えていかないとな…」


 次いでと言う訳ではないが捌き切れないモンスターに対して僕が盾を持って後ろの皆を護る練習もやっている。アルスさんの様な鉄壁にこそなれないが、ここぞという時に味方を守れる技を覚える事が出来れば何故か狙われやすいミキや防御の薄いノーヴァ君やアリアちゃんを守れると考えたのだ。


 まだまだ【技】としての自動ガードは閃いていないが、盾で攻撃を防ぐ確率は高くなってきている。バックラーの様に腕に取り付けて攻撃をある程度防ぐタイプとは違い目の前に構えて相手の攻撃を防ぎきる盾の扱いはまだまだ上手く出来ないのが現状だ。


 特に物理攻撃や魔法攻撃をしている時等は咄嗟に盾を構える事が出来ず攻撃がよく直撃してしまう。一瞬で盾を展開出来る様になるまでは一体どれ位かかってしまうのか…僕もまだまだ修練が足りないな。


「さて…!? ティルさんからの念話か、忘れてたよ」


 いつも大体同じ時間にかかってくる念話を失念していた。

 そこまでまだ眠いと言う訳でもないし、ティルさんとの会話を楽しむ事にしよう。


【はい、もしもし…はい、こんばんはです】


 明日も良い日になるといいな。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ