SP-11 【ハウルさんお困り中】 Ⅰ
昼の食堂はいつもの様に賑わっている。
早出で戻ってきた冒険者パーティや、昼休み中の町民達がそれぞれ昼食を楽しんでいた。
だがその中で一人、自警団副団長のハウルだけが憂鬱な表情をしている。
その隣には途中ハウルと出会った昼食に誘われたヤスオの姿があった。
「なぁ、ヤスオ。いきなり見も知らぬ女の冒険者に告白されたんだが俺はどうすればいいんだろな」
「そ、それはなんとも……ハウルさんはモテますし、理由はなんとなく分かりますが」
ワイルドなジャニーズ系と言えば分かりやすい見た目をしているハウル。
着ている服は自警団と言う事もあり、比較的大人しめな黒いレザージャケットを身に纏い、腰のベルト部分にはいつでも戦えるように数本の戦闘用ナイフが括りつけられている。動きやすさを重視した機能的な紺色のズボンと言う出で立ちだ。日本の町中で歩いていたら10人中過半数以上の女性が振り向くであろう容姿が他の人間の目を引くのは当たり前だろうか。
一見では相手を射抜くような相貌がネックとなり恐れられやすいが、その実は不器用ながらにも優しい人間だと同じ自警団の団長や団員達が言っている。自他共厳しい人間だと言うのは変わらないが。
「だが、いきなり『結婚してください』はないだろう。寄生目的かと思ったが、あれは違ったしな。そもそも何故俺がモテるのかそこがわからん」
うーんと唸っているハウル。
彼にしては珍しく怖いというよりはコミカルな動作にヤスオの心が少し癒された。
「たまにあるらしいですよ一目惚れって。(ハウルさんは顔が良いし、性格もキツくみえるけどほんとは優しいからなぁ。ミキは顔が怖いッて言うけど……確かに怒ると怖いです)」
「何にせよ一応断ったが、諦めないとか叫んで何処かに行ってしまったからな…面倒なことになったが、まぁ俺の事は良い。所でヤスオ、最近の調子はどうだ? カミングアウトも済んで少し顔つきが柔らかくなっているようだが」
「あ、結構調子がいいですよ! 鍛冶もそこそこまともな物が出来るようになってきましたし怒鳴られることも少なくなって。実践ではまだショートソードがミスリルで精錬出来ないので、槍破術を鍛えようとフィル君に教えてもらってます」
鍛冶や修行漬けの毎日は伊達では無く、ヤスオの実力はどんどん上がってきている。その分日々遊ぶと言う事があまりないのでフィル達やセレナ等によく注意されている事もあるが、どうにも遊ぶよりも鍛冶や修行の方が楽しいので辞めにくいのが現状だった。
元々オタク気質な事もあり、のめり込んだらどこまでやってしまう性分なのもあるだろう。吸収率が目に見えて高くなっているがそれ以外が疎かになりやすい欠点もある。
「ほう…槍か。後衛でも戦うことを考えれば良いチョイスだ。下級はともかく中級になればかなり強い技がある、鍛錬を怠るな?」
「はいっ!」
「特にお前は雑魚ではレベル…いやステータスが上がらんのだからいずれ頭打ちになる。その事を考えれば手数を増やすのは悪いことではない」
既に現状ブラウンベアーを倒してもステータスが上がらない事の方が多くなってきたので、ハウルの懸念は当たっている。
これ以上となると前回行った中級ダンジョンになるが、其処で戦い続けるには武器も防具も十分とは言えず、下級のダンジョンと順繰り向かっていたりする。
「やっぱりそう思いますか。僕もそう考えて槍とか剣、魔法を使っていこうと考えてるんです。遠距離はノーヴァ君達がいるんで任せてますが、前衛だと斧とか鈍器とか守るための【盾衛術】もありますから」
「まぁ、数の多さに振り回されないことが条件だがな。魔法は時々忘れるのだろう?」
「ごふっ!? あ、当たりです…補助などは慣れてきましたけど、阻害や攻撃魔法は咄嗟にどっち撃っていいかわからなくなる時が…ティルさん達は凄いなぁと感心してばかりです」
「当然だ、あいつらとお前ではレベル以前に戦いの経験が違う。これはステータスが高ければどうにかなると言うものでは無いからな」
碌に戦わずレベルだけが上がり続けた寄生冒険者などがこれに当たる。
ステータスや使える物こそは多種多様にあるが、実際に戦うとなれば自分の実力に振り回されたり、どう戦っていいかわからず単調になりがちな事がほとんどである。大体はその前に死ぬのが世の常だが、何事にも例外はある。
「お前は特性上何でも出来る分、全てにおいて経験が浅い。今のままではただの器用貧乏で終わるだろう、実戦、訓練を欠かすな? だが、前のように休みすら忘れてやるのは愚の骨頂だと覚えておけ。それで倒れてしまえば仲間を逆に危険にさらす」
「気をつけます…。最近はティルさんやフィル君、ミキ、アリアちゃんが結構遊びに来ますので、そこそこ出掛けたりしてますね。他には一月に数回ですけどカノンやノーヴァ君も来てくれます」
「ほう…仲間は大事にしろよ? この世界一人で生きていくなどとんでも存在を除けば基本的に出来ないからな」
「はい!! 後は無駄に訓練しすぎて倒れちゃ意味ないし、最近は休憩も多くいれてますっ! なので最近セレナちゃんにはあまり怒られなくなってきました!!」
仕事の限界ギリギリが分かるようになってきただけであって休んではイないのだが、倒れる程ではないのでセレナも強く言えないだけである。
「お前な…あまりの時点でだめだろうが…」
ヤスオのセリフに仕事人間と言われる事が多いハウルも微妙な表情で突っ込んだ。
「あれ!? あれぇぇぇぇ…?」
「前に聞いたが昔のお前とは天と地の差だな。もう少し気楽になれ」
「うむむ……き、気をつけます」
しょぼんとした表情をしながらも少し冷えてしまった料理を食べようとした矢先に、甲高い声が真後ろから聞こえてきた。
「あー!! 見つけたぁああああっ!!」
思わず後ろを振り向いた二人の目に止まったのは、金髪がとても似合う美少女の姿だった。




