44-03 【アコライト】 Ⅲ
―ホープタウン中央広場
「お、来たようだね。三人共こっちだよ」
広場まで辿り着くと既にウォルクさん達が待っていた。
食べ物関係の露店が並んでいる場所の小さめのテーブルに座っている。
「こんにちは! あ、フィル君達もう着てたんだ」
「よっ、両手に華で羨ましいぜ。なーんてな」
「やぁ、ヤスオにカノンにミキ。君達で最後だよ」
今回呼ばれたのは僕達だけだ。
アルスさん達は人員確保やギルド資金稼ぎにダンジョンアタックを頑張っているので、比較的僕等は暇だったりする。
「やぁ、よく来てくれたね。早速で悪いが君達に紹介したい人が居る。レベル11のアコライトの―」
ウォレクさんに紹介されたのは緑色フード付きローブで全身を覆っている人だった。首元には髑髏をあしらったような少し趣味の悪さを感じさせるアクセサリーを身につけ、左手に持っている杖は、アリアちゃんが持っている赤黒い血の色の様な鍵杖と同じ色をしている大きな杖だ。
アコライトと言うかどちらかというとメイジな様な気もするが…その人がフードを取る。顔を覗かせた彼は男性だった。
くすんだ金髪を首元で綺麗に揃えており、こちらを見る笑顔は少し糸目で優しげな印象をこちらに与えてくる。見た目はかっこいい訳でもなく可愛いという訳でもなく、つまり普通の外国人と言う感じだ。笑顔がとても似合っているので魅力的な男性だとは思う。
「クリオです、宜しくお願いします」
軽く会釈するクリオさんに僕も同じく頭を下げた。
「おぉ、可愛い子が沢山ですね。どうです僕とお茶でも?」
そして頭上げた瞬間、細い目が完全に糸目になりいきなりミキをナンパし始めた。見た目は草食系の男性だったんだが、もしかして軟派な人なんだろうか。上手く馴染めるか少しだけ心配だ。
「顔見て出なおせ」
「ははは、これは手厳しい。いや、待てよ、まだだ! まだ終わっていない! そこの美しいお姉さん、どうです僕と熱い一夜を?」
ミキで玉砕したクリオさんが一瞬だけめげたものの直ぐに切り替えて何故かその場でくるりと二回転しつつ今度はカノンをナンパする…が。
「…この人が紹介したい人……?」
先程まで僕達に見せていた表情とは180度変わった氷の様な無表情でウォルスさんに問いただす。そしてクリオさんの言葉はガンスルーしていた。
「い、一応凄腕なんだよ彼」
「一応って酷くないですか!? 僕そこそこ出来る方ですよ!?」
ショックを受けたように口で【ガーン!!】と言いながら仰け反る彼。
な、何というか特殊な人が来たな…ウォルスさん達が言うにはこれでもアコライトとしては十分強いらしいのだが。
「え、えーと宜しくお願いします。自分はヤスオと言います」
「…ヤ、ヤスオ…!? 貴方はまさか僕の生き別れの兄弟!!」
「絶対違います」
「でしょうね~。さて、こうして出会えたのも何かの縁。これから宜しくお願いしますね。特に美少女との出会いは大歓迎です。えぇ、大歓迎です。大歓迎ですとも」
何度も何度も韻を踏む様に頷くクリオさんを思わずなんとも言えない表情で見てしまった僕は悪く無いと思う。
「わかったから落ち着けよ」
「やや、これは失敬」
フィル君に突っ込まれ何故か左右に手足を動かして居たのを停止する。
器用というか何というか。
「変人がいる…」
「こらっミキっ?!」
ストレートに言っちゃいけません!?
「まぁこんな性格だが、アコライトとしての実力は確かだよ。今のヤスオ君達となら同等以上の働きをしてくれるはず」
「流石に貴方のように攻撃魔法や物理攻撃が出来る訳じゃないですけどね。一応お話は伺ってます。えぇ、頼りになりそうな人で嬉しいですよ。女性ならもっと嬉しかったんですが……今から性転換しません? チラ? チラ?」
「いえ、流石にそれは…」
「残念だ…!!」
本当に残念そうにしているクリオさん。
何というか今まで出会った人の中で一番こう、掴み所が無い人だ。こうしている間にもあちこちに話しかけたり、格好つけてみたり、踊ってみたり、かっこいいポーズを取ってみたりしている。
「よし! 仲良くなるために一緒にナンパでも行きましょうか!! なぁに、僕がいれば10回に0回は引っ掛けられます!!」
「全然だめじゃねーか」
「ナイス突っ込みだ!! 僕とお付き合いを前提に結婚して下さい!!」
突っ込んだミキにどこからとも無くバラ…みたいに見える何かを取り出して片膝をついて言う。そのバラは一体どこから持ってきたんだろうか…
「帰れ」
「辛辣っ!? くっ!! なんて強敵なんだ!! ヤスオ君、今こそ僕達二人で考えた必殺技を!!」
貴方と出会ったのはほんの少し前ですが…
「あの…正直どこから突っ込んだら良いか…」
「割りと初期の方でお願いします!!」
「突っ込んで欲しかったのかよ!? はぁ…大丈夫かなこいつ…」
フィル君が再び突っ込む。
「なんというか、はっちゃけた男性版ナナさんみたいね」
というカノンの呟きに大きく頷いているノーヴァ君。
我関せずを貫いていらっしゃいました。
「なんつーか会わせたら核反応起こしそうだわ~。やべぇ…楽しみだ」
「やめとけ? 大体予想できるから、こいつとナナが揃ったら」
フィル君が言う通り想像するだに恐ろしい光景が繰り広げられそうだ。
「さて、そろそろ狩りでも行ってみましょうか。ノーヴァ君は僕の力量が気になっているようですし。この辺なら、ブラウンベアー位が適正ですか?」
「あぁ、それがいいかもしれないね。実力を図るならそれが一番だ。僕と兄さんはこれから出店だから、手伝えないんだけどね」
「よろしく頼むよ。皆もいいかい? 出来ればアコライトの実力は予め知っておきたいからさ(へぇ…言うだけはありそうだね。僕が気を払ってるのに気づくとは、あの二人が信用しているのだから当然といえば当然か)」
「僕は暇だし大丈夫だよ」
寧ろ皆と狩りに行ければ実戦経験を積めるからありがたいとも言う。
カノンも参加しミキもなんだかんだと行くことになり、6人でフィールド狩りに向かうことになった。今度はアリアちゃんも誘って違うパーティで行こうと思う。
新しく仲間になったクリオさんの実力は果たして………




