44-02 【アコライト】 Ⅱ
仕事の都合で本筋に入れませんでした、ご了承ください。
―数日後
つい先日ウォルクさん達に【会わせたい人がいる】と言われ、指定された中央広場に向かって歩いていた。
本当は鍛冶の鍛錬をするつもりでいたが、あの人達に呼ばれたとなればそちらの方を優先するべきだろう。最近セレナちゃんに「少しは休んでくださいね?」と釘を刺されてしまったので丁度いい機会でもある。
鍛冶の方は順調で、今は主に黒鉱石や鋼を使って武器防具を作っている。
親方に色々教えてもらったお陰で、漸く平凡クラスだが鋼の武具を作れる様になってきた。まだ流石にミスリルやアダマンタイトなどは難しくて扱えないが、いずれ到達したいと思っている。
この世界、ファンタジー宜しくミスリルなどの魔法金属が複数存在しているので、地球にもある金銀や鋼などはそこまで主流な鉱物ではない。
中級冒険者ともなれば、前衛はアダマンタイト製の武器防具や後衛はミスリルの武具を装備するのが一般的らしい。勿論どちらも下級クラスでは手が届かないほど高いが…ちなみに、アダマンタイトより固く、ミスリルより魔力を通しやすいといういいとこ取りであり、ポーションを作るためにも必要な【魔鉱石】なるレア金属があるのだが、これが地味に人気がない。
どっちの利点もある上にポーションの材料にもなるのに値段がそこまで高くないのだ。その理由は【非常に重い】と言う致命的な点がある。重い武器を作るなら良いとしても、これで作った防具はアダマンタイトよりずっと重くなってしまう特性がある。よほど【力】と【体】が整っていなければ身動きもままならないほどひたすら重い。一度魔鉱石で出来た胸当てを装備させてもらった事があるが、尋常じゃなく重かった。
とまぁ…鉱石の話題はこの辺でやめておこう。今日は人に会うのだから鍛冶の事ばかり考えている訳には行かない。
時間はまだ余裕があるので、周囲を見渡しながら歩いて行く。
朝の時間は子供が少ない。
理由は簡単で、学校に勉強しに行ってるのだ。
ファンタジーではお約束とも言える魔法学校とかではない。いや、都市に行けばあることにはあるが、ここホープタウンでは6歳から最短3年、最大7年間まで基本的な勉学を教えてくれている。
マンガや小説知識の偏りのせいで異世界にはそういうものって無いかもなぁ、なんて思ってたが、村はともかく大体の町にはこういう施設がそこそこあるようだ。勿論詳しいことは全然聞いてないので深い理由は分からないが。
「おっ? あそこに居るのは…」
歩いているだけで周囲の目を引く美少女が歩いている。
いやまぁ…カノンなのだが。今日着ている服はふわふわなワンピースにフリル等が沢山付いている、所謂【ガーリッシュ系】と言う奴だろうか? この世界じゃどう言われてるか知らないが。
「おーい、カノンっ!」
「…? あら、ヤスオさんおはよう」
「うん、おはよう。ウォルクさん達に呼ばれてるんだろう? 良かったら一緒に行かないかな?」
「えぇ喜んで」
結構慣れたもので、今では気後れもせずに彼女と行動出来るようになっている。美女とブサイクちびなので周りを歩いている男性の目が痛いが、慣れたものだ。昔なら怖くて引き篭もってた事請け合いだが。と言うかどこのラノベですか? とスレ立てるレベルだな。
(※のーないかのん※ き、きたああああ! これよ! 友達とふと出会って一緒に歩く!! こ、このボッチでは行えないハイレベルな行動!! そ、それをさり気なく普通に出来るなんて!? さ、流石だわヤスオさん…ぱねぇ…貴方こそやはり世界が羨むリア充なのね!? そんな人に誘ってもらったという事は…近い…近いわ!! 私がボッチを卒業してリア充になる日が!! あぁ! ありがとうヤスオさん! 私一生ついていくから!! いずれ辿り着くであろう最高の栄誉【心☆友】を目指して!! 間の星マークが特徴よ!!)
僕の歩幅が短いのを知って同じ速度で歩いてくれるカノン。
ふと彼女の方を見ると、僕達だけに見せてくれる柔和な笑みをこちらに向けてくれる。普通の男性なら一発で恋に落ちるだろうその破壊力は、僕をもドキマギさせてしまうが、そのへんは色々あって慣れているので問題無く笑みを返す。
彼女と付き合える男性が羨ましいものだ。
僕はまぁ…正直恋愛とかしてる暇もないし、チビで太めでブサイクという三重苦が付いている輩を好む人は極僅かだろう…いやまぁ、都市伝説レベルでデブ専の人とか居るらしいし…?
「そういえばウォルクさん達が会わせたい人が居るって聞いたけど、カノンは知ってるかい?」
「いえ、私も昨日初めて聞いたの。おそらくはギルドメンバーになる人かしらね。もしくは普通にあの二人の知り合いかしら」
「そっか、一体誰なんだろうね。少しドキドキするな」
コミュ障は伊達じゃない。少し緩和されてきている気はするが。
「そういえば、最近私と話す時も口調が砕けてきたわね。前まではまだ固かったしなんだか嬉しいわ」
「はは…まだまだ完全とは行かないけどね。いつまでも堅苦しいのも余所余所しいしさ。喜んでくれて嬉しいよ」
「えぇ、とても……あら?」
カノンが誰かに気づいて視線を移すとそこには―
「あ、いたいた。おーいヤスオ~……………カノンモイタンデスネ」
お洒落な服装をバッチリと決めているミキがこっちに向かって歩いてくる。
手を降ってこっちに近づいた瞬間、リアル【ビシっ!】と石化か何かしたように動きが止まってカクカクと手を振る。
多分隣に居るカノンを見てかなーとは思うが、まだ少し彼女には苦手意識があるようだ。それでも結構話す様にはなって来ているが。
「なんで其処でカタコトになるのよ…」
呆れた表情で言うカノン。
「き、気にすんな! ほ、ほれほれ行こうぜ~?」
「え…あぁ、そう」
「そ~言えばさ? なんかおっさんどもに呼ばれたけど理由とか知ってる?」
キョトンとした表情で聞いてくるミキ。
「お前、話聞いてなかったのかよ…?」
「いや、だってあの濃い顔見てたらさぁ……忘れね?」
「全力で二人に謝れ。あー…ウィレクさん達が僕達に会わせたい人が居るって話だよ」
「うぇぇ…めんどくさ。はいはい、んな顔すんなって行きますよぉだ」
そう言う事にはまったく興味示さないよなぁ、ミキは。
「とりあえず約束の時間まではまだあるし、ゆっくり行こうか」
「そうね。偶にはゆったりするのも悪く無いわ」
「えー、どうせゆったりするならさっさと広場に行って出店で何か食べてこーぜ~? 勿論ヤスオの奢りでねっ♪ ほらほら可愛い女の子たちに貢ぎたまへ」
「達…どこに複数居るんだ? カノンはともかくとして」
態と大袈裟にキョロキョロとあちこち見回して行く僕。
カノンは文句無しに美少女ですから。
ミキ? ほら…ミキはあれだ【美少女(爆笑)】で良いと思うんです。
「こんにゃろう、其れは挑戦と受け取ったぁ! この可愛いミキ様を外すとはふてぇ野郎だ! 奢り量2倍ねっ!!」
「おへぇ!? ははひははれっ!?」
反撃に両頬を摘まれつつ歩いて行く僕達の後ろで何か怨嗟の声が聞こえた気がしたが、振り返っては行けないのだと思う。違いますモテてるんじゃないんです、こいつは僕の悪友なんです。
何か物理的にダメージを受けそうな念波を受けつつやられてはやり返しながら目的地に歩いて行った。




