44-01 【アコライト】 Ⅰ
「お疲れ様、メイジが居なくてもブラウンベアーなら問題無く狩れる様になってきたね」
いつもの様にフィールドでの狩りの後フィルとノーヴァがウォルク兄弟に切り出した。今日はヤスオが鍛冶の仕事で居ないので、ウォルク兄弟、フィル、ノーヴァの四人でフィールドでブラウンベアーを狩り続け帰ってきている。
今日も今日とて精算は大衆食堂の中だ。
時間的に客もまで少ないのでナナが暇そうにしているのが印象的である。
「いやぁ、気の知れた仲間が居るっていうのは良いもんだね。そう思わないかウォレス?」
「全くだね。臨時でパーティを募るのも良くやるけど、スムーズに行くって事が滅多にないし」
ヤスオの紹介によってギルド入りしたこともあり、ウォルク兄弟と一緒に狩りに出る事が結構増えてきている。二人共ウィザードナイトを目指す冒険者であり、レベルも12と中級クラスに足を踏み入れている優秀な冒険者である。難点があるとすれば、ステータスが【知】【魔】に流れる事で、物理メインのファイターと比べるとややひ弱な印象を受けてしまう事がある。
更に言えばファイター時代は一切魔法を覚える事が出来ない事もあり、せっかく上がっているMPが有効利用できないという面倒な下積み時代を送ることになるのが問題だろう。
ウィザードナイトはファイターやメイジからの派生職なので、メイジからウィザードナイトになることもできるが、そちらはそちらで物理攻撃や防御が全く使い物にならず、肝心の魔法ステータスも力などに流れてしまうので、中途半端。ジョブチェンジするまでは敬遠されやすいタイプなので、臨時パーティ等でも切られてしまう事が多い。
「ヤスオ君からギルドに紹介してもらった時は本当に嬉しかったよ。私達は上級職になってから本番だからね、この時期は無視されやすい」
「あー…マリーの親父さんと同じクラスになりたいんだったよなぁ。でも十分強いじゃねぇか。あの【イートマジック】は凄かったぜ!」
「そうだね、その辺の同じファイターやメイジとは比べ物にならないさ。良いコネを手に入れたものだよ」
「そう言ってもらえると頑張っている甲斐があるね、兄さん」
この兄弟、見た目も装備もほとんど同じなので見分け方法がしゃべり方と着ている服装位しか無い。丁寧な口調で青い服や防具を好んでいるのが弟のウォレスで、丁寧な中に芯の強さを感じさせる、黒い服を好んで着ているのが兄のウォルクだ。名前まで似ているのは双子だからと言うのもあるが、それなりに長く付き合わないと、名前と見た目が一致しなかったり、名前を間違えたりすることも多い。
後微妙に謎も多く、時々1週間近くふらっといなくなる事が多かったりする。
「そういえば、二人は色々旅してきたんだよな? 知り合いにアコライトっていねぇかな?」
夕食を取りつつフィルが今日の朝から考えていた事を二人に告げた。
「知り合いのアコライト…? 居るには居るけど、ここにはきてないなぁ」
「そういえばヤスオ君の万能性で忘れがちだけど彼ってアタッカーであって、アコライトじゃないんだよね。いつも助かってるけどそういえばそうか」
弟のウォレスが思い出したように言う。
彼等二人もヤスオとの付き合いはそこそこ長くなってきている。ギルドメンバーになってからは共にダンジョンアタック等に行くことも多くなっており、ヤスオの秘密も聞かされたので知っている。
「前回のダンジョンでさ、回復が全部ヤスオ任せだったんだ。カノンが言うには中級レベルのヒーラーだから十分役に立ってくれるって話だけど正直、あいつに頼りすぎてる気がしてさ」
「前衛しつつ、支援に阻害、攻撃魔法に回復魔法…確かに一人でやる許容量を超えそうだな」
ウォルクが手を顎に当て普段戦っている彼の姿を思い出す。
小ぶりな体に似合わぬ戦いぶりを発揮しているヤスオ。前衛で縦横無尽に駆けまわり物理攻撃や魔法攻撃を入り交えて戦うその姿はとても頼もしく心強い存在である。やや馬鹿丁寧な点もあるが基本的に心優しい青年という印象を兄弟は持っている。
「あいつは攻撃も出来るメインだから、出来ればそっちに専念させてやりたいんだ。もしアコライトが居たら、普段は任せられるし、緊急時は二人の回復魔法や支援も捗ると思ってさ」
フィルの言葉にノーヴァが付け加える。
「此処に来ている冒険者にも何人かアコライトは居たけどね。流石に3~7レベルじゃヤスオと組んだらショックを受けそうだからさ。下級に出来ることはもう全て出来るようになってる、それを見た下級職の気持ちを考えるとね」
器用貧乏だったヤスオも、ここ最近は攻撃も魔法も中級の皆に引けを取らなくなっている。前衛で戦える上に中級魔法を乱発可能で、回復魔法も使いこなせるとなれば、何も知らない下級のアコライトを入れてしまえば余計ないざこざが発生しかねない上に、自信喪失までありえる。
実際に見てみれば万能に見えて、どこも尖った場所がない万能タイプなので同レベルになれば彼等の腕の方が勝るだろうが、低ランクに対しては圧倒的に見えるのがヤスオのタイプだ。
「カトルの所のスノゥが事情も知ってるし気心も知れてるアコライトだけど流石にあのパーティからアコライト引っ張るのは心情的にな」
既に5人PTを組んでいる場所からスノゥだけを借りるというの流石に気まずいものがある。彼等はギルドメンバーではないので、其処も関係していた。
二人の話を聞き考え始めるウォルク。
そこにウォレスが話を切り出した。
「兄さん。ここは僕達が一肌脱ごうよ。折角ギルドメンバーになったんだ最近あまり一緒にいけていない分ここで少しはね」
「そうだな…よし分かった!! こっちで知り合いに当たってみよう。どっちにしてもギルドにアコライトは数人は欲しい。1パーティにアコライトが居ると居ないとでは差があるからね」
「ありがてぇ!! 恩に着るぜ二人共!!」
「何、気にすることはないさ。遅かれ早かれ必要な人材なんだしね。それじゃ、数日待ってて欲しい」
こうしてギルドに新たな仲間が増える事になる―




