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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【2章】 ギルド結成とこれから
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43-03 【自分という存在】 Ⅲ

―予想外、でも彼らにとっては予想内



「あー、つまりヤスオはその『伊勢海老人』で迷いの森にいたんだなおい!! あの森美味い塩あったか?」


「いや、なんで塩なんだよセイルさん。あと『IN全開人』だって」


「………それ…も…ちが…う…」


「あれ?」


 全てを話し終わった後の反応は僕の予想をはるか斜め上に超えていた。

 伊勢海老でもなければフィル君の言うIN全開ってなんなのか逆に問い詰めたい。後セイルさん、あそこに塩はありませんでした。


「ふむ…いや正直『それで?』としか言い様がない。君がなんだろうが僕等のパーティの前衛で要なだけだ。成長パターンが違う? あぁ、それは羨ましいと同時に大変だね。レベル申告も大変そうだ」


 ノーヴァ君はノーヴァ君であっさりと言い放つ。呆れた表情というよりはまさに『それで?』と言わんばかりの表情だ。逆に隣ではナナさんがそれはもう嬉しそうな表情をしている。


「なるほど異世界饅頭だったのか。通りでぷにぷにしてるわけだ」


「それ異世界は関係ないと思うよー?」


「何を言う店長。あのどう見ても饅頭みたいな顔、あれこそが異世界の証拠だろう? やはりここは実際にこねくり回して確かめてみないとな」


「それアンタがやりたいだけだろ」


「そうですが何か?」


 ファッツさんのツッコミに輝く笑顔で肯定するナナさん。

 違う、なんかこう突っ込む所が色々と違うナナさんである。


「あれぇぇぇぇぇ…嫌われるのも覚悟してたんですが。何も変わってないのも逆に怖いんですよね、いや、あの自分ってこの世界の人間じゃないんですよ?」


 と言うか僕が考えて居た予想から斜め上辺りに突っ込んでいく今の状況に僕はどうして良いかわからず混乱していると椅子に足を引っ掛けてガタガタ動かしていたミキが話しかけてきた。


「いや、ヤスオ? あのさ、ひとつ言っていい?」


「あ、あぁ」


「あれ(エルダードラゴン)に比べたらかわいいもんだって。つまりどっか遠くの人って事でしょ? それがなにさ所詮ヤスオじゃん。あんたがとんでも饅頭なのは周知の事実なんだからそれに泊がついただけだって」


 微妙に糸目になって手をパタパタと振るミキ。

 た、確かに僕が異世界人云々言うより、全開一緒に潜ったメンバーからしてみればそんなことよりエルダー・ドラゴンに出会ったインパクトの方が強すぎた…あれと比べれば僕が異世界人だからなんだって言う話になる。


「まー、あんたがどこのおもしろ饅頭でも別にいいけどね。あ? ヤスオって実はお金持ちとか? ならばこのミキ様に次300万渡したら付き合ってあげるのを考えてあげなくも無いわよ~♪」


「ほぅ、次300万渡せばいいのか。安いなお前」


「って!? 言い間違えだよ!? 次じゃなくて! 月だよ月っ!!」


 肝心な所で言い間違えたミキがナナさんに突っ込まれて遊ばれている。

 いや、300万払っても付き合うとか、いいです。


「何その嫌な顔っ!? こんな可愛いミキ様に向かって!!」


「まぁまぁ落ち着けミキ。所でだ? 月1000万くれるイケメンが交際申し込んできたら?」


「ぁん? 金もらってとんずらする。どーせ下半身だけのヤローでしょ?」


「なんだツンデレか」


「例えが悪いっつの」


 わいわい騒いでるミキとナナさんをスルーしてカノンとセレナちゃんが歩いてきた。カノンはいつもどおりの表情で、セレナちゃんは僕の手をぎゅっと握って優しい笑顔を見せてくれる。直ぐ近くではアリアちゃんが僕にプリンを手渡そうとしてくれていた。


「ヤスオさんはヤスオさんよ、それ以外にないわ。私達のパーティリーダー、そして大事な仲間よ」


「ヤスオ兄さんがどこか遠い場所の人でも何も変わりません、お仕事を頑張ってご飯を美味しく食べてくれる私の自慢のお兄さんです」


「……食べ……る………おいし…い…よ?」


「うん……ありがとう」


 目頭が熱くなってくるのを必死にこらえてお礼を言う。涙が零れないようにするのが精一杯だった。同時に、初めて来れた町が此処でよかったと改めて思い、そんな人達を信じきれていなかった自分を殴り飛ばしてやりたくなるほどに怒りも湧いてしまう。ここにいる皆はその程度で態度を変えてしまう様な人達では無かったんだ、信用して信頼していたのに本当に自分が情けなくなる。


 自分は幸運だった。

 アルスさんに出会えた事も、この場所に来れた事も…本当に幸運だと思う。


「という訳だこれ以上の認識は変わらん、だから泣きそうな顔をするな。お前は町を守った立役者の一人だ。賞賛すれども生まれ育ちで非難などせん」


「その程度で俺等がお前に怯える訳ねぇだろうが。それは流石に馬鹿にし過ぎだぜヤスオよ。お前はお前だ、身分や出生で変わるもんじゃねぇよ」


 ハウルさんとファッツさんが最後に締めてこの話は終わる事になった。朝から呼び出して迷惑を掛けたお詫びに、今日はこのまま宴会を開く事にする。勿論お金は僕が全部出すと決めている。


「皆さん…有難うございます!!」


 僕は漸くこの世界の一員になれた様な気がした―















「ま、なんつーか予想通りだったな。良かったなヤスオこれで少しは肩の荷が降りただろ」


「はいっ! ほんとに、自分が情けないです。万が一を考えすぎてしまって…」


「ま、異端ってのは色々あるものね。はいアルスこれ美味しいよ?(万が一あれだったらアルスもティルもヤスオ連れて逃げる気だったんだから。だから過保護なんだよね、まぁ私もだけど)」


 現在は絶賛宴会中だ。

 朝っぱらから話し続けてたせいで全員お腹も空いてるし、丁度今は昼頃近くになっているので皆わいわい楽しんでいる。

 僕は僕でナナさんと一緒に料理を運ぶ役をやらせてもらっていた。今日は皆の時間を取ってしまったのだからせめてこれくらいしないと、と頑張っているのだが、何故かセレナちゃんとアリアちゃんが手伝ってくれている。


「お待たせしましたー」


「あぁ、ヤスオ君ありがとう」


 料理をエスタさんご家族の所に持っていく。

 エスタさんの方も、僕のクラスについて色々調べていた様で今回の事は特に気にしてないと言われてしまった。更にはこれからも剣や魔法の修練をしてくれる事になったのだから頭が上がらない。お金が貯まったら良い防具とか買いに行かせてもらおう。


「ヤスオさんっ! ステータスって、ハウンドとか倒しても上がるんですか?」


「うーん、今は全然上がらないね。やっぱり自分と同等から強敵じゃないと上がらないみたいだよ」


「となると、戦い方によっては皆のほうが先に強くなったりするかもですね」


「だね、今は幸先良く上がってるけど、あのダンジョンでも多分ステータス限界がありそうだし」


 前回行ったダンジョンは弱くてブラウンベアーだったからまだまだステータスも上がりやすいだろう。でもどのへんで上昇が止まるかは僕も詳しくは分かっていないから、限界が来たらどうするかだよなぁ。

 皆はレベル式だから、あまりにも弱くない限りは経験値が入るからちゃんとレベルも上がるだろうし、どっちが良いかは一概には言えないな。


「あ、間引きの依頼とか限定になるかもですがちゃんとお手伝いしますからねっ! 私もばんばん雇っちゃって下さい!」


「マリーはまだまだレベルが低いからねぇ、ヤスオ君この子お願いね?」


「あ、あはは…了解です」


 頭を下げて次の料理を運びに戻る。てんちょーさんの作成スピードは凄く早いからばんばん動かなくては!!









「良かったお~、うんうん。ヤスオが笑ってるのを見るのはお姉ちゃんとしても感無量ぞっ!」


 満面の笑みを浮かべながら配膳をしているヤスオを見ているだけで笑みを浮かべてしまうティル。今回の話が上手く行ったのも嬉しさを倍増させている。


「さっきヤスオ泣きそうだったもんな~。泣いてる饅頭ってやっぱしょっぱいのかな?」


「おぅ、ボクの可愛い弟にナニカ?」


「ガチになんないでよ、怖いよ」


 ギラっとした瞳をくるりとミキに向けるティル。半ば冗談ではあるがもう半分は割りと本気だったりする。


(※のーないかのん※  イイハナシダナー!! ヤスオさんが異世界人……異世界人ってよくわからないけどまぁ遠い世界の人なのよね。そんな場所からたった一人で迷いの森で彷徨って…私が其処にいてあげられたら!! 悔しいわかのん!!こんなにお世話になってるのに何もできなかったなんて!!)


 実際初期のヤスオを見ていたらカノンならその場で見捨てる可能性の方が高いのだが、それを指摘するものは残念ながら其処には居ない。


(※のーないかのん※  燃えてきたわ…!! えぇ、燃え上がってきたわ!! 今のヤスオさんはまさに心にダメージを受けている!! ここで優しくフォローして信頼度を上げるのよ! そして、あの伝説の友達を超えた…【親☆友】を目指すのよ!! 苦楽を共にし! 楽しいことは数百倍!! 行くわよかのん!!)


 脳内でこれらの事を一瞬で考え、忙しなく動いているヤスオに向かって思いの丈(爆笑)を伝える為に立ち上がった。


「ヤス――


「おーいヤスオ~! こっちで一緒に食べようぜ!!」


(※のーないかのん※  天丼ネタあぁあああああああっ!? フィル君!! もう少し! もう少し私に配慮を!! お願いしますぅぅぅ!)


 脳内でじたばた嘆いているカノンを他所にあちこちヤスオは動きまわっていく。そんな様子をナナはいつも以上に柔らかい笑顔で彼を見つめていた。


「ナナちゃんー?」


「ん? なんでもないさ、なんでもな。(賑やかな事になってきたもんだ。よく来たヤスオ、楽しめよ精一杯な。何かあれば相談に乗ってやろう。んで、てんちょーの事も今度聞いてきたら教えてやるか、私の信頼度が上がった記念だ)」


 


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