43-02 【自分という存在】 Ⅱ
―大衆食堂【うちより安い店はねぇ!】店
てんちょーさんに無理を言って開店前の数時間を貸してもらえる事になった。
あれからアルスさん達と相談して自分の秘密を打ち明ける事になったのだ。始めの内はティルさんが少し難色を示していたが、これ以上騙し続けると色々僕の方に問題が出てくるので皆に伝える事になったのだ。
今回の話の流れ如何によってはこの町を離れる事も視野に入れている。その場合は二度と自分が異世界人の事やレベル制じゃない事を教える事は無くなると思う。そして何度も断ったのだが、僕がもし受け入れられなかった場合はギルドを解散して違う場所に向かうと言う事になってしまった。
僕一人の問題で折角結成したギルドを解散なんてしてほしくなかったのでアルスさん達に何度も言ったのだが、一度入った亀裂は後に響くからと言う理由で押し切られてしまった。その為かなり緊張している…アルスさんの夢をヘタしたら僕自身で壊してしまうかもしれないと思うとかなり辛い。そしてギルドを解散したとしても僕の事は仲間だと言ってくれた事がとても嬉しかった。
「で? この店貸しきってまで私達に話したいってことはなんだ? この町を出るとかなら冒険者だし止めはしないが、そういうのじゃなさそうだな」
ナナさんが皆にお茶を配り終えてからこちらの方を向いて言う。
彼女も色々お世話になっている人である以上、話さない訳には行かない。他にはフィル君を始め、カノンやミキ、アリアちゃんにノーヴァ君。お店での知り合いとしてセイルさんやエスタさん家族にナッツさん、セレナちゃんに親方…ファッツさん、ハウルさんと殆ど全員が揃っている。
カトル君達は残念ながら捕まらなかったので、またいずれ話すチャンスがあればと考えている。ここでダメだったらまぁ…言う事は無くなってしまうんだろうが。
「…………」
お茶を飲みながらティルさんが真剣な表情で僕を見つめている。
「呼ばれてるのは比較的一緒に出かけてる僕等や仕事場で世話になってる人、そして自警団かい? 正直良くわからないね、ギルドの事はもうすでに承知済みだし」
ノーヴァ君が鋭い瞳を此方に向けてくる。
別に怒っている訳でも苛ついている訳でもなく、常に冷静で真面目な彼だから自然とそう言う表情になるだけだ。
「ヤスオ。気楽にな? 何、何があっても俺達はお前の味方だ」
「有難うございます」
今も絶えず心臓の音が痛いくらい聞こえてくる。
今から話す事は、自分がこの世界の人間じゃないと言うことだ、ヘタすれば人間ですらないと思われてしまうだろう。大事な友人、そして仲間、お世話になった人にそう思われてしまう、考えるだけでここから逃げ出したくなる。信じてはいる…皆いい人だし人格者ばかりだ、ミキはまぁ…あれとして、僕がこれから言う話も僕の予想が正しければ大丈夫だと信じている。だがそれでも、【異世界人】と言うあからさまな異端な存在を皆が皆認めてくれるかと言えば、確信を持って【うん】と言えない僕自身の弱さがあった。
「この前のダンジョンアタックでレベル12に上がったって言ったよね」
「そうだな。俺も鼻が高いぜ! 俺の周りには中級冒険者が多くてさ、特にヤスオが12レベルになったのがめでたいよなっ」
サムズアップして言うフィル君。
心の底から嬉しそうにしている彼を見ているとほんと怯えて黙っている自分が恥ずかしくなる。もう少し早く伝えておけばこんな気持ちにならなかったんだろうと猛省するしか無い。
「それでさ、そろそろ皆に対してこれ以上誤魔化し続けるのが心苦しくなってきたんだ。だから今日、僕の秘密を話そうと思う、クラスの事や僕自身の事を」
大きく深呼吸して皆を見回す。
全員の目が僕を見ているのが分かる。少し前の僕ならこのプレッシャーに耐え切れず逃げていたかもしれないが、ちょっとだけ勇気を持つ事が出来たから、それを受け止められている。
「魔法戦士という職業はないと言うことか?」
「っ! そ、そうです」
ハウルさんが間髪入れずに聞いてきた。
僕はその問いに対してゆっくりと頷く。
「色々俺個人で調べてみたがそんな下級職はやはり存在しなかった。とはいえ、それで何かが変わるわけでもない。言いたくない事だと思って気にしなかったが。他に何かあるんだな?」
「あ、お茶が美味しい…(やっぱ俺って場違いじゃね? あれ? 俺彼に相談受けてたけどいつの間に信頼度稼いだかな?)」
何か遠くを見つめた様な表情でお茶を啜っているイクスさん。
実は何度か冒険の事等について相談を受けてもらっているのだ、探索メインのシーフである彼からは、色々と為になる話を聞かせて貰っている。
「前衛、後衛、物理、攻撃魔法、補助魔法、阻害魔法、回復魔法なんでも出来る職業…確かに考えるとそんな夢の様な職業はないけど。でも、あまり気にしたことはないわね」
「使ってるのがヤスオってのもあるしな。逆に頼もしいぜ、ダンジョンアタックとかではよ」
カノンとファッツさんが僕を見て柔和な笑顔を浮かべながら言う。
決心はついた、後は、全てを語るだけだ。野となれ山となれ、とは言いたくないが、この後の事が考えるだけで恐ろしいが、できれば怖がってほしくはないなと思いながら僕は口を開く。
「ファッツさんやハウルさん、ナナさんや親方にセレナちゃん達は覚えてますよね。僕がアルスさん達にこの町に連れてきてもらったことを」
「ヤスオ…お兄さん…?」
ドキンドキンと胸が痛い位に鳴り響く。
「それまで僕がどんな場所で住んでいたか。そして僕がどこから来たか、今から教えます。多分信じられないでしょうけど、でも聞いてください」
さぁ…勇気を出していこう。
皆を信じて。
「僕は―――




