43-01 【自分という存在】 Ⅰ
今僕は一人自分の家で悩み続けていた。
考えても考えても自分でどうしていいかわからず、考えが空回りしていく。
悩みとは自分の事だ。
前回のダンジョンアタックで成長した事もあり、アルスさん達と話し合った結果、自分のレベルを12…つまり中級冒険者に到達したと言う事になった。剣術を用いればブラウンベアーも倒せるようになったし、魔法は中級魔法に到達した。その上で格上と戦った経験や中級クラスのダンジョンを探索した事を鑑みた結果だ。
アルスさん達はそう言う所はちゃんと厳しくしてくれるので、今回の事は僕が確実に中級クラスに到達したと言う嬉しい結果なんだが、どうしても心に引っかかる物を感じてしまう。
僕は皆の様にレベルが存在しない。
それが何か有利なのかと言えば、そこまで有利って訳でもない。強いて言えば戦闘終了後にちょこちょこ強くなれるかもと言う程度であって、チートと言えばチートかもしれないが、そこまで凄い物でもない。
いや成長云々はどうでもいいのだ、強くなれるならそれに越した事はないし、これからもこうやって成長していけばアルスさん達とのダンジョンアタックも夢じゃない。問題は…僕が【他の人と】違うという異端な点にある。
皆が、この世界の皆がレベル制の中で一人だけ全く違う成長の仕方をする僕。更に言えば僕は異世界…地球から何故かこの世界にやってきた異邦人だ。アルスさん達は優しいし強いから受け入れてくれただろうが、他の皆全員がそう言う訳では無いかもしれない…
皆の事は信じているし大切な家族とも友人とも思っている。
だけど、もし僕が異邦人だと、違う存在だと知られた場合…皆が僕をどう思ってしまうのだろうか…恐れられるかも知れない、嫌われてしまうかもしれない…そう思うと手足が震え、喉がカラカラに乾いていく。目の前が歪み恐怖が僕を包み込んでいくのが分かる。
戦えるようになったからと言って心まではそうそう簡単には鍛えられない。
そしてあんな良い人達が僕が皆と違うだけで恐れるなんて想わない…でも、心の何処かでは、怖いと思ってしまうのだ。信じたいのに信じきる事が出来ない……僕にはこの世界に来るまで本当の友達なんて出来た事が無いから…余計にそう感じてしまうのかもしれない。
「情けないな……昔からちっとも変わってないじゃないか…」
ひとりごちる。呟いた声は家の中に微かに響いた。
「だけど…いつまでも騙してるのは、嫌だ」
仕方のない事情かもしれない。いきなり異世界人だとか成長の仕方が違うとか言われても普通なら混乱するか、理解できないだろう。常識が全く違うのだからそれをすんなり受け入れられるなんて、日本のオタク位なものだろうな…何せ僕がそのオタクなんだから、にわかレベル以下だとしても。
どうするべきか考える。
騙し続けるのは論外だ、万が一バレた時。それが戦闘中とかだったら大変な事になる。ならばちゃんと伝えなくてはならないがその場合どうやって伝えるべきかを考えるのだが、どうしてもその後が考えきれない。無意識にその後起こるだろうマイナス方面の結果が僕にそれ以上の思考を許してくれなかった。
「だめだ…一人じゃ埒があかない。こう云う時はあの人達に相談しよう」
まだ寝る時間には早いので、いつもかかってくる【念話】の前に自分から【念話】を掛けることにした。
◆
今日は良い日だお♪ いつもはこっちから念話を掛けてるのに今日はヤスオの方から【念話】が来たからねぇ。やはり可愛い弟、お姉ちゃんの声が聞きたくなったに違いないお。ってな訳で念話をとったんだけど、内容はすんごく重かったのであった。
【なるほど…ね】
ヤスオは異世界人。
正直異世界ってのがまだ大分あやふやだけど、色々聞いてたらこの世界とは全く違う科学オンリーの世界で、この世界よりは差別とか争いのない場所に住んでたってのは理解できたお。【てれびげーむ】とか【ぱそこん】とかよくわかんないけど【記憶の水晶】とかとおんなじものなのかもね。
【記憶の水晶】ってのは1個数百万R位する立方体の魔力を帯びた水晶で、質にも寄るけど、一定時間対象の風景や人を記録出来るっていうアイテムだお。上質のは声とかも聞こえるって言ったら、ヤスオが驚いた顔で【現代技術涙目ですね】って言ってた。ふーむ、科学と魔法ってのはどこか共通する場所があるのかもね。
ととと、話が逸れたお。
ヤスオから聞かせてもらったのは、自分が異世界人だと言う事と成長の仕方が違うからレベルを偽り続けている。それを続けるのは大事な皆を騙しているようで心が痛い…か。可愛い子だおね、ほんと。
今の世の中、ちょっと巫山戯たレベル申告詐欺する冒険者も居る位なのに、うちの子は純粋で涙が出てくるお。これで昔は最低のダメ人間とか言ってたんだから、境遇ってのは凄いもんだおね。ま、ボクの知ってるヤスオは今のヤスオだからそんなの気にしないけどさ。
それにしても皆に打ち明ける…か。
ヤスオの恐れてる事もありえるっちゃありえるお。この町の住民はほんと善意が服を来て歩いてる様な町だからね、勘違いしそうになるけど基本的な村や町、都市はそんなに余裕なんて無いから、他人をそこまで信用しないしよそ者に至っては排斥とかしちゃう位だ。この町もこの町で冒険者を人手にしないと回らない位忙しいらしいから、どこもかしこも大変度けどね。
他の場所にいたらヤスオ人間不信になりそうで怖いおね…
【なるほどわかった、とりあえず今から宿屋に来なさい? お姉ちゃん達と作戦会議だ!】
【わ、わかりました。でもこんな時間に良いんでしょうか?】
【なーに、逆にアルスなんて夜に友達が来たってはしゃぎ回る位だお。お姉ちゃんも大歓迎だし、いつでもおいで~】
このこってば変に遠慮しちゃう癖があるせいで、あんまりこっちに来ないんだお……お姉ちゃん寂しいです。ん? アルス? いや大根はどうでもいいですお。
【お姉ちゃん特製のおやつも用意しておくから、こっちで相談だ!!】
【はい! 直ぐ向かいます!!】
念話が途切れた。多分10分もしないうちにこっちに来るだろうからアルス達に話しつけておかないとね。
「でもまぁ……もしだめだったんなら…」
その時は、ね。




