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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【2章】 ギルド結成とこれから
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42-07 【遺跡探索】 Ⅳ

今日はひな祭りです。

ひな壇を飾っているご家庭の方は早めに仕舞いましょうね?



 その場に居る誰もが動く事が出来なかった。

 ただ唯一アリアオロだけは普通に動けたが、動いた所で何も出来ないと万が一の為に腰に括り付けてある【帰還の羽】を使おうと構えている。


 異形―

 今まで見たきた事のあるどんなモンスターよりも恐ろしい気配と重圧感がヤスオ達を縛り付けた。


 全身が銀色の二足歩行の【ドラゴン】が真上からヤスオ達を見下ろしている。

 恐らく鋼鉄すらバターか何かの様に引き裂くだろうその左手には何かしらの宝石らしき物が握られており、それを器用に掌で転がしている。

 

「ふむ………人の子か」


 男性とも女性とも付かない不思議な声音を放ちながら黄金色に輝く瞳をギョロリと動かしその場に立ち止まる。


「はっ、はっ、はっ、はっ……!!」


 恐怖で過呼吸を起こしかけているミキが震えながらヤスオの服を掴んでいた。

 ケルベロスと戦った冒険者達ではあるが、その程度の勇気などあっさりかき消してしまうほどの強大な存在感が彼等の思考能力を奪っていく。強敵と戦ったことさえあるカノンですら、恐怖で倒れないようにするのが精一杯な程だ。

 しかし目の前のドラゴンはそんなヤスオ達を攻撃する事もせず、ゆっくりと口を開く。


「そう怯えずとも良い。お前達とって食う気やいたずらに殺す気もない」


 その言葉自体に魔力が宿っていたのか、ドラゴンが放つ圧倒的な気配が緩み、ヤスオ達の緊張をゆっくりと解いていく。

 アリアロオはいつでも動こうとしていたが、目の前のドラゴンが此方を攻撃してくる様子がないのを理解すると、輝きの無い瞳をまっすぐに向けている。


「うむ、それでよい。儂は、古代の【エルダー・ドラゴン】が1体。【ニムス・コーラシュ】」


「エ……エルダー・ドラゴン……!?」


「こ、こんな所に…」


 その名前に衝撃を受けるカノンと、エルダー・ドラゴンと言う種族に驚きを隠せないマリー。普通に考えるならばこんなレベルのダンジョンに存在して良いクラスの存在ではないのだ。

 様々なドラゴンが存在する中で頂点とも言える種族であり、最高位のドラゴンですら、エルダー・ドラゴンには手も足も出ないとされている世界最強とも言える種族が、目の前に居るドラゴンだと言われれば信じられないのも無理は無いだろう。


「可愛く略して【ニコちゃん】でもいいぞ? ☆をつけるともっとかわいいと思わんか?」


 ニムス・コーラシュがその見た目からじゃ何か到底ありえない事を言い出してきた。


「やはりの、最近は見た目怖いという部分を脱却して、かわいい路線で行こうと思うんじゃよ。此処の所稀に出会う人間には泣き叫ばれたり、絶望した表情で襲いかかられたりと散々での。儂もこれではいかん! と思ってな? ほら、儂って結構ぷりちーでお茶目じゃからして。やはりまずはこの無駄に可愛く無い名前を可愛くする所から始めなくてはのぅ」


 矢継ぎ早に目の前の威圧感や存在感がダッシュで逃げていくような事を延々と喋り始める様は、町中のおばちゃんの様だった。あまりにもあんまりな状況に誰もが混乱し始めた頃、漸く本題に入りだす。


「まーそんな訳での? 儂は人の作る知識を求めて彷徨い続けている。此処に来たのは単なる暇つぶしでの、まさか人に会うとは思わなんだ。攻撃してくれるなよ? 儂は争いは好かん。人間の損失はつまり知識の損失にほかならん」


 ニムス・コーラシュがそう言うと左手に持っていた宝石の様なものをヤスオに手渡す。七色に輝く宝石の様にも見えるし黄金に塊にも見える不思議な石が彼の両手に収まった。


「人間は儂等エルダー・ドラゴンを恐れる。だから出来ればこの事は他言してくれるな? 英雄に退けられた同種とは違い儂は人間が嫌いではない、寧ろ好感を持っておる」


「…退けられた同種……」


 マリーがぽつりと呟いたが、それは目の前のエルダー・ドラゴンにしか届いていない。


「儂は直ぐに此処を立つ。お主らは黙ってくれれば良い。今渡した物はそうじゃな、出会った記念+口止め料じゃ。勿論そんな事をせずに殺せば早いがの、それでは知識ない魔物と同一になってしまうからの」


 一歩後ろに下がりニムス・コーラシュは右手をゆっくりと振る。


「もう二度と会うことはないかもしれぬが…もし出会った時は「ニコ☆ちゃんチョリース」と呼んでくれたら儂は嬉しいぞ。そう実は儂、漫才も好きなんじゃ!! それではさらばじゃ~~~~!!」


 何故か目の前で錐揉み回転を始めると、そのまま不思議に軽快なリズムを発しながら地面にゆっくりと消えていった。

 嵐の様にしゃべり続けたエルダー・ドラゴンが消え辺りは漸く静寂を取り戻す。


「ねぇ、ヤスオ」


「……なんだい?」


「私はアレを見て、泣き叫べばよかったのか、殴り飛ばせばよかったのか、それとも気軽に話しかければよかったのか…どれだと思う?」


 初めて見た超存在が道端で出会う様なおばちゃんとかおじさんみたいな性格をしているとは流石に予想も出来ないだろう。


「エルダードラゴンって伝説の存在じゃなかったのかよ…? 夢でも見たのか? それとも姿変える魔法で騙されたとか…?」


 フィルの方も漸く落ち着きを取り戻し微妙な表情をしながらそんな事を呟く。


「ニムス・コーラシュ……古代の事を記された本で見た事はあるわ。様々なダンジョンを渡り歩く強大なエルダードラゴン。友好的であり人間に対して有益な交渉を持ちかける時もある。その昔人間がこぞって退治しようとして、全て「逃げられた」そうよ」


「…………ぉー……」


「私達以外にも出会った時、あんな感じだったんでしょうか…?」


「可能性は高いわね…正直なんで生きてるのか不思議だったわ」


「助かったんだし、良しとしておこう。流石に今日はもう帰ろうか」


 帰還を提案するが、それに反対するものは流石に誰も居なかった。【帰還の羽】を展開し、彼等はダンジョンを後にする。

 実入りや経験効率が良い2番目のダンジョンの初アタックはこの様な超展開で幕を閉じた。





【エルダー・ドラゴン】

この世界に存在する神に等しい力を持つ強大なドラゴン。

それぞれ役割を持ち、全部で5体のエルダー・ドラゴンが伝承には確認されている。


最近では5人の英雄がエルダー・ドラゴンを退けたとされている。


【ニムス・コーラシュ】

知識を集めるエルダー・ドラゴン

人に対しては中立~友好的な立場を取り、自らが率先して人を襲う事は

ないとされている。伝記によれば様々な戦士、勇者、英雄たちが立ち向かったと

されているが、その戦闘のどれも【戦わずに逃げた】と言われている。

その実力は不明だが、戦った者達は誰一人再戦を望まなかった所からも

押して知ることが出来るだろう。


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