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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【2章】 ギルド結成とこれから
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42-05 【遺跡探索】 Ⅱ


「攻撃の順番は僕、アリアちゃん、マリーちゃん。この状態で片方が倒れたらカノンが単体攻撃魔法を使う。両方共生き残っていたら全体魔法を頼むよ」


「えぇ、解ったわ」


「……ん」


 この中で一番遠距離攻撃力が高いのはアリアとカノン、それに続いてヤスオとなる。マリーの弓攻撃も全体を連続で攻撃出来る利点があるが、相手は見た目からして鎧に身を包んだ騎士型のモンスターなので、余程攻撃力が高くなければあまりダメージを与えられない。更に言えばレベルや武器の攻撃ランクが足りていない可能性があるから期待はあまり出来なかった。


「フィル君はもしこれでも倒せなかったら、相手が一体だけなら攻撃を。2体とも生き残ってたら、待機で」


「おう、任せておけ!」


「ミキは……適当に」


「ひどくねっ!?」


「いや、アーチャーのマリーちゃんでもダメージが当たるかわからないみたいだし、ミキの弓じゃなぁ」


 純粋なアーチャーとシーフでは同じ弓攻撃でも与えるダメージが全く違う。寧ろ違って当然であり、シーフがアーチャー並に弓攻撃が強かったら弓師の立つ瀬が無いだろう。流石にレベルが離れすぎていればこの限りではないが、ミキの腕はそこまで悪くない程度で、持っている弓もマリーが持っている弓に比べれば数段落ちる。 


 大きく深呼吸し全身に力を蓄えていき、全身から溢れだした青白いオーラがヤスオを包みこむ。


「ここで躓いてたら探索なんか出来やしない。いきなりだけど全力でやらせてもらうぞ!! 【トランスブースト】!!」



―ヤスオの【トランスブースト】!!

―攻撃力と防御力が2段階上昇!! 

―【速】【魔】が1.5倍に上昇!

―【火属性】【風属性】抵抗力が25%上昇!! 

―効果終了まで残り4ターン!

―絆の力が高まっている。効果終了後HPとMPが2割まで減少!



 ヤスオの全身が歪み、黒い鎧が何もない所から現れ彼を塗り潰していく。左手から闇より深い色の鎧が身体を上書きし、瞬く間にその全てを鎧で覆い尽くす。


 変身後のその体は小柄だった変身前とは違いアルスにも匹敵するような、それでいてスマートな体格の黒騎士となっている。地球でならば特撮の変身ヒーローかダークヒーローと言っても差し支えないようなメタリックブラックの容姿は彼を知っている人が居ても、スキルを知らなければ本人かどうかわからないだろう。唯一声のみは変わっていないのでそれだけで判断するしか無い。


「ほんとインチキだよなぁ、それ。てかあんまり似合わねぇ」


「うっせぇ。僕もそう思ってるよ。よし…行くか!」


 全力を出す以上、彼自身使いたくは無い恥ずかしいスキルも同時に盛り込まなくてはいけないが、そちらは別にスキル名は叫ぶ必要はないしシステムメッセージにも乗らないのでほっと一安心である。


 右手を前に突き出し出せる限りの魔力を込め、スキルと魔法を開放する。 


―ヤスオの【ヤスオアタック】!! 


「喰らいやがれっ! 【大爆裂】!!」


 右手の先にバスケットボール程度の大きさの魔法陣が展開され一気に凝縮し消えていく。魔法を唱え魔法陣が消えたその瞬間、突如奥の方にいた2体のモンスターを中心に大爆発が発生した。

 耳を劈く様な轟音と爆発特有のしかし魔力を持った爆炎が巻き起こる。赤黒い豪炎と衝撃が中身の無いモンスターの鎧を凹ませ引き裂き焼き尽くしていく。

 だがそれでも、その程度で倒れるほどこのダンジョンのモンスターは弱くはなかった。爆発と高温に焼かれてあちこち傷を負っても尚、2体の鎧騎士はその場に力強く立っている。



―リビングアーマーに大ダメージ!! 抵抗失敗!【大火傷】化!!

―リビングアーマーに大ダメージ!! 抵抗成功! 状態異常無効!



「そんなの分かりきってるさっ! 全員、攻撃開始っ!!」


 ダメージを受けた事で此方を見つけたモンスター【リビングアーマー】がその重厚な見た目に反比例して猛スピードで此方に駆け寄って来た。ガチャガチャと音を立てて走る様は滑稽だが、威圧感は凄まじく耐性が無い人間なら直ぐに恐慌状態に陥るだろう。

 だがそれでもモンスター達がここまで来る前に幾ばくかの時間はある。その時間があれば余裕で魔法を唱える事も可能なのだ。


「……了……解…」


 赤黒くおぞましさすら感じさせる鍵の様な魔法の杖を向かってくるモンスターに向かって突きつけるアリアオロ。感情が欠落している彼女は恐怖を感じると言う事が無い、従って至極冷静に魔法を唱える事が出来る。ヤスオとは違う赤黒い魔力のオーラを全身から杖に送り、動き難い口をゆっくりと動かしてスキルと魔法の言葉を紡ぐ。


「……【マジックフォージ】……【怨魂弾】」


―アリアオロの【マジックフォージ】!!

―次に行う魔法の威力に【魔×3】を追加する!

―アリアオロは【怨魂弾】を唱えた!!


 杖を中心に魔力が弾けた。

 アリアオロの立っている場所を中心に血の色で描かれたような巨大な魔法陣が現れ、そこから呻き声や絶叫と共に幾つもの怨霊が魂だけの状態になって次々と呼びだされていく。


「……い…け……」


 彼女が杖を右凪に振り下ろすと同時に次々と耳障りな叫び声を上げてモンスター達に向かって怨霊弾が打ち込まれた。

 【怨魂弾】は邪属性の攻撃魔法の中では基本的な攻撃魔法であり、下級魔法の【魂弾】と違い広範囲を攻撃出来る特製を持つ。これらは魔力によって呼び出された死者の魂を魔力でコーティングし魔力的なダメージを与える事が出来る。霊魂は実体が無いので回避し難く【盾衛術】等を用いねば防御すら難しい。

 

 未だ成仏出来ない苦しみに悶え、呪いすら撒き散らす様になった魂を魔力で縛り付け対象全体に叩き込むと言う、邪属性魔法に相応しい魔法ではあるが、その実、この魔法によって呼びだされた魂は相手に命中し魂にこびり付いた怨念をなすりつける事で強制的に浄化されるという、ある意味では浄化魔法の側面を持っている。中級魔法にもなると一度に何十体ものの魂を用いて敵全体を襲うためその威力は計り知れない。


 此方に向かって走ってくるリビングアーマーをまるでハンマーで殴りつけたかのような衝撃と魔力的なダメージを与え、更に低確率だが【呪い】のバッドステータスまで与えようとするが流石にそちらは抵抗されてしまう。相手がアンデッドや闇、邪属性ならばあまり効果はないのだ。



―リビングアーマーAに大ダメージ!! 抵抗成功! 状態異常無効!

―リビングアーマーBに大ダメージ!! 抵抗成功! 状態異常無効!


 

 数の暴力とも言える魂の魔力弾でダメージを受けつつ足が止まってしまうモンスター達。それはアーチャーやシーフの彼女達から見れば隙だらけでしかない。


「行きます! 【必殺必中】!!」 


「んじゃま、同時にやりますかねっと!」


 マリーがミスリルロングボウをミキがその隣でミスリルクロスボウを構え技を発動させる。


「【五月……!? 【瞬四連牙】!!」


「なにこれ…! 【流星縛】!!」


―マリーの【必殺必中】!

―次の弓の威力を【2倍】 攻撃を【絶対命中】化!

―マリーの攻撃!! 【瞬四連牙】を閃いた!!

―合計4HIT!! リビングアーマーAに大ダメージ!!

―ミキの攻撃!! 【流星縛】を閃いた!!

―リビングアーマーに微小ダメージ!! 抵抗成功! 

―リビングアーマーは倒れた!!


 湧き上がる力と言葉が二人の口から放たれ、一条の矢と陽炎のに淡い分身を纏った矢が次々と片方のリビングアーマーに突き刺さる。既に魔法の連撃を浴びて6割ほどHPを削られている状態では必殺の意思で襲ってくる矢を避ける事など出来はせず、鉄の鎧に矢がまるで革を突き刺すかの様に全身を射抜いていく。


 力なく剣と盾を落としその場にガシャガシャと音を鳴らして崩れ落ちるリビングアーマー。数秒もしないうちに光とともに消え、残すはもう一体を残すばかり。仲間が倒された事等意に返さず、剣を振りかざして目前に見えるヤスオとフィルをバシネットのバイザーから赤い光を放つ瞳が捉えている。

 だが――


「あら? 実は大したことないのねHPに関しては」


 凍てつくような瞳と声色で言うカノン。

 左手に持つ魔道書を用いて魔力を高め、既に魔法を放つ体勢を整えており、強化された魔力をそのまま魔法と共に放つ。


「これで終わりよ。【闇槍破】」


 闇属性のオーラが右手を中心にスパークを巻き起こし、魔法陣が展開される。

 狙いをつけた先は勿論、残り一体のリビングアーマー。

 銃の引き金を引くかの様に魔法を唱え、漆黒の槍を生み出した。


「!!」


 刹那。弾丸の様に漆黒の闇の槍が撃ち込まれる。直径2~3メートル程の魔槍が轟音と共にリビングアーマーの胴体を突き破り貫通し、それだけでは無く遠くの壁に直撃する。

 

 魔法で撃ちぬかれたリビングアーマーはその場から動く事も無くガクガクと震えている。よくよく見れば魔法の槍はただ貫通した訳では無く、胴体を打ち抜き抉り取っていた。鎧自身の重さでぐにゃりと曲がった胴体が勢いと共に倒れこむ。剣を握っていた部分も同じく吹き飛ばされており、剣に至っては祭壇の方まで吹っ飛んでいる。仕切りに無事な足と盾を握っている身体を動かしていたが、徐々に動きが止まり、こちらもゆっくりと消えていく。





―戦闘終了!

―ヤスオを除く全員に経験値配布!

―ヤスオは【知】が1上がった!! 【体】が1上がった!!

―剣(未鑑定)1個獲得



「ふぅ……よしっ! なんとかなったね」


 いつでも動けるように剣を構えていたヤスオが大きく息を吐き出し緊張をある程度解く。増援やもしかしたら復活するかもしれないと考えていたので気を一瞬も緩めていなかったのだ。気がつけば少し呼吸を止めていた事にも気付きゆっくりと空気を取り込んでいく。


「俺の出番がなかったなぁ、流石ヤスオ達だぜ」


 出番が無いフィルではあったが、全員の強さを見て満足そうに笑っている。

 だがヤスオは内心結構ドキドキしていた。


(…なんかめっちゃステータス上がったんですけど。なにあれ。実は普通に戦ったら強かったんじゃ)


 今回は先制した上に魔法や弓攻撃で圧殺したから簡単に勝てたがこれが普通に戦った場合や奇襲された場合を考えるといまいち喜び切れなかった。ブラウンベアーですらこの所ステータスが上がりにくいのに、目の前の2体を倒しただけでステータスが上がったと言う事は、確実にブラウンベアーより強い事を嫌でも理解してしまう。


「でも油断は禁物よ? ブーストしたヤスオさんやアリアちゃんの魔法を合わせても6割程度しか削れなかったモンスター、直面して戦えば危険だわ」


「てか、私なんて弓技閃いたのに微小ダメージだったんだけどぉ…?」


「私もまさかいきなり上級技閃いたなんてびっくりでした!!」


「まー…攻撃はヤスオ達にまかせておかば良いかっ♪ それよりも宝箱宝箱!」


 ニンマリ笑って宝箱のある祭壇まで歩み寄るミキ。無警戒に見えるがこれでも十分辺りを警戒している辺り、最早下級レベルのシーフ技能ではない。

 あっと言う間に階段を駆け上り、黄金色に輝く宝箱を見て嬉しそうにきゃあきゃあはしゃぎ回る。


「すっごっ!! これ豪華な宝箱じゃん!」


「豪華な…って言うと、あれか? 前の泥沼の?」


「そうそう! こりゃあ中身が期待できるわよぉ♪」


「凄いな、目がリーンになってるってあんな状態を言うんだろうか」


「ふふ、あの子らしいわね」


「まぁ、ね……つぅ……動けないほどじゃ無くなったけど、きっついな」


 5人共祭壇の近くまで近寄り、宝箱を開けようと調べているミキを待つ。同時に力が抜けて片膝をつくヤスオ。黒騎士の姿が歪み大量のHPとMPを消費して元の姿に戻っていく。覚えた時とは違い少し進化したトランスブーストなので効果終了と共に全く動けなくほどの疲労感は無くなっていたが、ぎりぎり大丈夫なだけという状態なので直ぐにポーションを飲んで回復している。


 その間もミキはトラップ感知を続けており、可愛らしい顔をくしゃっと歪めた。


「うげ…なんて嫌なトラップ」



―ミキの【トラップ感知】成功!! 宝箱のトラップを見破った!!

――【致死の牙】発見!!



「致死の牙…? なぁ、それどんな罠なんだー!?」


 トラップ感知が成功した事でメッセージにトラップの名前が出てくる。

 祭壇の下でそれを見ていたフィルが好奇心からミキに大声で尋ねた。


「解除せずに開けたら、こんなかで一番運の悪いやつが死にかける!!」


「ちょっ……俺じゃん!?」


「なら開けてもいいかな?」


「解除しろよ!? やめてください!!」


 フィルの運は【2】この世界の人間としてはそこまで悪くはないが、ミキは【5】カノンとアリアオロが【3】マリーは【4】の運を持っている。そしてそこで今度は魔力のポーションをがぶ飲みしているヤスオに至っては【8】ととんでもない運のステータスを誇っているので、この場合発動すればフィルが自動的に対象になる。


 【致死の牙】の効果は【解除に失敗、普通に開けると回りにいる全員の中から【運】が一番低い対象のHPを1にする】というふざけた様な効果であり、更に抵抗も回避も出来ないおまけ付きである。


「はいはい、わかってるわよ」


 ミキも冗談で言っただけなので直ちに解除にかかる。彼女の解除スキルならば8~9割の確率で解除出来るので、シーフツールを使って鼻歌を交えながら罠を解除していった。


「……ほいっと! いやぁ、ミキ様って天才よね♪ そーれご開帳~~!」


 祭壇の下に向かってサムズアップし、成功した事を伝え宝箱を思いっきり開け放つ。


―石(未鑑定)1個獲得

―盾(未鑑定)1個獲得

―本(未鑑定)1個獲得

―金塊 1個獲得


 中には未鑑定なので分からないが金塊や盾などのレアなアイテムがいくつも収められていた。


「いやっはー! 金塊! 金塊っ!」


 両手いっぱいに抱え込んで祭壇を降りてくるその様子は女性というよりは欲しいものを貰ってはしゃいでいる子供の様に見える。


「………ぉー…」


「流石シーフだな、こういう時は役に立つぜ」


「どういう意味だコラァ!?」


「すっごいです! こんな金塊めったに見ないですよっ!!」


 目の前のレアアイテムよりかなり太い金塊を見てはしゃぐマリーや、本をつんつんとつついているアリアオロなど、暫くの間賑やかな喧騒が続いていた。





魔法及び技、一部紹介


【大爆裂】火属性魔法 中級魔法

消費MP:14 威力:【魔攻力+59】

効果【魔(最大25)】mの距離の【運+1】体の相手の目の前で

大爆発が発生する。【35%】の確率で【大火傷】状態になる。


【怨魂弾】邪属性魔法 中級

消費MP:14 威力:【魔攻力+62】

効果:【魔+10(最大30)】m内の敵全体に邪悪な怨霊達を

弾丸にして撒き散らす。【20%】の確率で【呪い】を与える。


【瞬四連牙】弓技 上級技

消費HP:18 威力:攻撃力+【器+7】

効果:幻覚の矢を発生させ一瞬の内に四発の矢を打ち込みダメージを与える。

敵単体に【4回】攻撃。【割り込み不可】矢の消費は1本のみ。


【流星縛】弓技 中級技

消費HP:7 威力:攻撃力+【器】

効果:煌めく流星の一撃。

敵単体を攻撃【40%】の確率で【捕縛】を付与

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