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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【2章】 ギルド結成とこれから
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42-02 【冒険の前に】

―大衆食堂【うちより安い店はねぇ!】



 冒険の前にお腹いっぱい食べるというのはあまり聞かないかも知れないが、この世界では結構ありふれた光景だ。景気づけに食べる人もいれば、単純に食べないとお腹が空いてまともに動けない人等それぞれ理由があるのだろう。


 地球でパソコンなどで調べた時には食べ物はできるだけ食べないほうが良いと書いていたのを思い出す、なぜなら攻撃されて腹を破かれた場合中に食べ物が残っていったら其処から感染とか色々あるらしく基本は食べるべきではないと書かれていた。


 だがこの世界では回復魔法やポーションなどの一瞬で回復出来る術があるため、そのような状態になっても問題なく治療が可能なので食べるのは寧ろ推奨される事が多いのだ。特にこの店では―


「今日もダンジョンアタックだな、頑張ろうぜヤスオ!」


 今日はフィル君にファッツさん、マリーちゃんカノン、ミキがダンジョンアタックに参加する事になった。アリアちゃんはノーヴァ君達に誘われたのでそっちの方に向かっている。ギルドを結成して暫く色々メンバーを交代してアタックなどに向かっていた。流石にアルスさん達とはレベルが離れすぎているので、あの人達は遠出してギルドメンバー集め兼、レベル上げや資金繰りを頑張っている。


「そうだね。今日は特に新しいダンジョンに向かうからしっかり準備していかないと」


「その通りだぞ? 家で食事していけば様々な付与効果があるのだからな」


 トレイに水を載せ此方に歩いてくるナナさん。

 意味深な言葉だが、彼女は別に変な事を言っている訳じゃない。この店で出る料理は特殊な効果などがあり、食べる事で様々な有利な効果が発生するのだ。それも調理スキルをかなり高めたてんちょーさんだから出来る事であって、普通の料理屋さんではそう言う追加効果がある店はあまりないらしい。


「そんな料理がどうして安いのかわかんねぇよなぁ。俺達にしてみたら助かるけどさ」


「それが家の味だからな。さぁどんどん頼め、お前達が沢山食べれば食べるほど私の時給が上がるのだ」


「それが看板娘のセリフかよ…」


「何を言う、看板娘だからこそだ」


 ふふんと胸を張るナナさん。この人自他共認める美人な上に凄いプロポーションを誇っているので、その体勢は目のやり場に困ってしまう…とりあえず適当に料理を選んで置くことにした。


「あ、これをお願いします」


「!! そうか…ついにお前も選んだか」


「へ……!?」


 僕が適当に選んだメニュー部分には大きな文字で【5番・私は全部食べる! 全部だ!!】と書かれていた。ちなみにお値段1500Rの所、初挑戦の方はなんと1000R割引で500Rとなっている。


「あ、いやこれはその」


「そうかそうか、直ぐ頼むから待っていろよ? てんちょー! 5番1つ!」


「はーい!」


「ぎゃあああ!?」


 時既に遅し、てんちょーさんが残像が見える勢いで料理を作り始めてしまった。流石に今から無しって訳にも行かないのでここは腹を据えて食べるしかないだろう…ちらりとフィル君の方を見ると、うんうんと優しい顔で頷いていた。


「頑張れよ、俺ぁお前の勇姿を忘れないぜ」


「助けて友人!?」


「無理だぜ相棒」


 爽やかな笑顔でバツ印を出すフィル君。

 いやしかし待てよ……頑張れば行けるんじゃないだろうか? そうだ、最近の冒険のお陰でよくお腹が空くようになったし、ステータスの【体】も増えた、故に最近は食事量も多くなったから、行ける可能性がある。良くあるフードファイターなら余裕でこなせそうな量だし―


「おぉ…ヤスオがなんか行けそうモードに入ってやがる…!!」


「ふ、ふふふ…行けるね、ばっちりだね。フィル君見ていると良い、フードファイターヤスオの最後の戦いを…!!」


「それはどの辺から突っ込めばいいんだ…?」


「その意気や良し!! さぁ一品目上がったぞ!!」


 あっと言う間に料理を完成させたらしく、極上の笑顔でナナさんが料理を運んで来る。1品目はいきなりガツンとやってきた……! 分厚い、極厚ステーキが1枚どんっと乗っている…その大きさ400グラムは超えているだろうか、見ただけで喉が鳴るほど食欲をそそられ、その匂いはとても素晴らしい。 


「フィル君」


「どうした? ヤスオ?」


「僕が倒れたら墓前にはハウンド肉を備えておいてね」


「ヤッ!! ヤスオオオオオオオオオ!?」


 いざゆかん…! 勝負だ5番!!

 僕は綺麗に切り分けられたステーキにかぶり付く! しっかりとした歯ごたえなのにじゅわっとにじみ出る肉汁と、簡単に噛み切れる柔らかさ。塩と胡椒だけで味付けしたシンプルでありながら肉本来の味わいを感じさせるこの味わい…普段頼んでいる肉料理も絶品だが、これは…これはそれ以上だ! そしてだからこそ恐ろしい…ここまでの最高級料理が、これから山の様にやってくる脅威…それを食べきれなければ、僕は敗者と化してしまう…!


 あ、ちなみに食べきれなくても罰金とかはありませんのでご安心下さい。残した分は、頼めばパック詰めで持ち帰れるそうです。ただし、非常に負けた気分になるのでやる人はちゃんと食べきったほうが良いです、出来ればですが。


「おぉ! あそこの奴が5番に挑戦し始めたぞ!?」


「何ぃ!? この時間にか!! よし! 俺達で応援しようぜ!!」


「観客が増えてきたぁ!?」


 周りのお客さんが5番を頼んだ僕を取り囲んでそれぞれ応援し始める。彼等も恐らく5番に挑み倒れてきた人達なのかもしれない…そう考えれば、この応援は僕を応援すると共に雪辱を晴らして欲しいという気持ちが篭っているのだろう。何せ応援してる人の一人が、どこからとも無く取り出したメガホンっぽいので仕切りに泣きながら応援してるのだ。


 それも【俺の仇を!! 俺の仇をおおお!!】とか叫びながら応援してるので間違い無くそうだろう。ここで負けてしまったら皆の仇を取ることが出来ない! 絶対に食べきってみせよう…! この胃袋にかけて…!!


「なぁ、なんかヤスオが違う世界に入りこんだんだけど…? いや、振ったの俺だけどさ」


「何、これが5番の醍醐味だ。お前はどうする?」


「軽くパン食で」


「まいどー」


 僕の戦いが幕を開ける!!

















 店内が大合唱に覆われていた。

 今この場にいる誰もが、同じ気持ちなのだろう。かくいう僕も皆と同じ気持ちだ…


 長く苦しい戦いだった…超極厚ステーキから始まり様々な野菜メインの料理が僕の胃袋にダメージを与えてきた、だがそれもなんとか腹に収めることに成功し、少しだけ水を飲んでいた僕に第三の刺客が襲いかかってきたのだ。


 それは魚料理……

 煮物から焼き物、フライに魚のパイとこれでもかと言うほどの重圧が僕の動きを止めてしまった、正直肉の時点で結構腹が膨れていたので野菜も食べたあの時点で腹8分目を軽く超えていたが、皆の応援の中ここで倒れる訳にはいかなかった。喉奥に押し込める様に魚を食べていったのだ。


 そして…今僕は最後の戦いをしている。


「ヤ…ヤスオ…!! 負けるな! もう少しだ! もう少しだろ!!」


「ここでダウンか? いやしかし見事な食べっぷりだったぞ、私の心を打ったほどだ、ほら見てみると良い」


 ナナさんが大げさに手を動かして周りに目を向ける。

 そこには沢山の冒険者や町民が僕に【頑張れ! 頑張れ!】と応援している姿があった。知らない冒険者やあまり話したことが無い町の人が全員揃って僕を応援してくれている。既に腹は限界を超えている…超えているが、ここで負けてしまったら、彼等はよくやったと賞賛してくれるかもしれないが僕もきっと後悔してしまうだろう。


 ぷるぷると震える手で、最後の難敵トースト地獄を乗り越えてやる…! 後もう少し、もう少しなのだ動いてくれ僕の口よ!!


「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「「「いったああああああああ!!」」」


 吐きそうになる口を懸命に押さえつけて最後のパンを飲み込む。口の中で喉奥に落ちていかないパンをゆっくりと咀嚼しながら右手を強く握りしめテーブルに押し付け、一気に……飲み込んだ!!


「なんと……見届けたぞヤスオ。5番を攻略した勇者がまた一人だ!!」


「!?!?!?!?!」


 優しい笑顔で僕を抱きしめるナナさん。

 美人に抱きしめられるのは初めてだし、嬉しいが今はすいませんお願いします離れて下さい、強く抱きしめられると吐きそうなんです。甘くていい匂いが逆に鼻孔を刺激してやばいのです。


「よくやったな坊主!! 俺ぁ感動したぜっ!」


「ありがとう! ありがとう! 俺の仇を取ってくれてありがとう!!」


「すげぇ…! 久しぶりの5番到達者の誕生だ!! それもこんな子供が!」


「いいもん見たぜ…へっ、汗が溢れて前が見えやしねぇ!!」


 辺りから聞こえてくる賞賛の声が遠くから聞こえてくる感じになっている、あ……意識がやばい……


「………何? 何なのこれ、てか何でヤスオがナナに抱かれてるのさ?」


 最後にミキの声が聞こえた気がしたが、僕の意識は遠くに旅立っていった。




―5番 料理効果!!

―1日の間全ステータス+2

―モンスター感知率 大強化!

―トラップ感知率 大強化!

―宝箱発見率 強化!






かいてて楽しかったです(何

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