41-03 【新たな出会いとアタック準備】 Ⅲ
―数日前
その日は仕事も無かったのでふらふらと町中を歩いていた。
最近は家に居るよりもこうやって外を歩いている方がとても楽しい、勉強も嫌いではなくなったが、どうにも僕は何かしてないと落ち着かない質らしい。
「おや? ヤスオ君じゃないの、今日はおやすみかしら?」
「あ、こんにちは。はい偶にはゆっくりしようと思いまして」
町を歩いていると結構声を掛けられる事が多くなった。その大多数は町の人だが、中には襲撃の時に何度か会話をした事のある冒険者なども増えてきている。少しずつだがコミュ障も治ってきているのかもしれないな、まぁまだ目上の人や初対面の人を話す時は緊張してしまうが。
「うんうん良い事ね。どうにもヤスオ君って仕事か勉強かモンスター退治にしか出ていないって話聞いたから皆心配してるのよ?」
「あ、あはははは…」
町が狭い上に皆家族同然に仲が良いですからね、わかりますよね。乾いた笑みを浮かべながら軽く雑談して再び広場辺りに歩を進めることにした。
皆と違って下地とか出来てないから、寧ろこの程度の勉強や修練じゃ足りないんだよなぁ、とは言えそれで身体を悪くしたら元も子もないし気をつけよう。勉強なら最近はティルさんが色々教えてくれるし、剣術や戦闘に関してはアルスさんやエスタさんから沢山学べるので、早く身につけないとな。
「…ん?」
訓練器具でも買いに行こうかと広場から青空市場に行こうと進む先を変えようとした時、この辺りでは見かけない子供がぽつんと立っていた。町の子にしては着ている服がおかしい、あれは普段着と言うより魔法使いが着るようなローブに見えるし、何故だろうかエスタさんが近くに居るような気配をこの子から感じる…
「………んー……」
「君、どうしたんだい?」
「ふぇ…? あ、君は冒険者!? 実はオレも冒険者なんだ!!」
えへんと胸を張る見た目7~10歳位の子供。
冒険者とは言うが、この年で冒険者と言うのは普通に考えれば無理があるが、それを納得させてしまう見た目からは想像もできない存在感…いや、気配がこの子が冒険者であると否が応でも理解させられる。
「あ、あぁ僕も冒険者だよ宜しく。君は何をやってたんだい?」
「うん、実は買い物中にケーシィとはぐれちゃったんだ、まったくオレが居ないとあいつはほんとだめなんだから!」
ふんすと胸を張る少年…? 見た目は男の子とも女の子とも見て取れるし、声もどちらかと言うと中性的なので性別がどっちだか流石にわからない。
「あ、オレはねカッツェ!! 君の名前は!?」
「ヤスオだよ、宜しく」
「ヤスオだね! 宜しく!!」
にかっと快活に笑うカッツェ君…ちゃん? どっちにしても名前は分かったしはぐれた子がケーシィと言う名前も解った。となれば…お互いに心配しているだろうし一緒にその人を探してあげないといけないな。
「カッツェ君、そのケーシィって人とはどこではぐれたんだい?」
「うーん……青空市場って所までは一緒に居たんだけど…」
「青空市場か」
ちょうどいい、僕もそこに向かう所だったから一緒に行って探してあげよう。居なかったら買い物とかは諦めて自警団とかに寄りつつ人探しだな。
「よし、一緒にその人探しに行こうか」
「いいのかっ!?」
「今日は暇なんだ、一緒に探そう」
「うんっ! ありがとなヤスオっ!!」
嬉しそうに抱きついてくるカッツェ君。何というか弟か妹がいたらこんな感じだったのかな……いや、だめだ昔の僕に弟や妹がいたらきっとダメ人間になってしまう、子供は目上の人や兄や姉を見て育つって言うし、あの頃の超絶ニートだった僕を見て育っていたら……グレたり真似してしまう可能性ががががが…
「どうしたんだヤスオ?? 顔青いぞ?」
「あ、いや何でもないよ。それじゃ行こうか」
「うんっ!」
僕達二人は青空市場へを向かいだした。
◆
「ヤスオのクラスは何なんだ!? オレはウィザードだよっ!」
雑談をしながら歩いているとカッツェ君がそんなことを聞いてきた。
「んー…魔法戦士って奴だよ、なんか微妙に色々できるんだ」
「おぉ…すげぇ!!」
凄いはしゃいでいるカッツェ君を尻目に僕は僕で驚いたほうが良いのか悩んでいた。なんの気なしにこの子が言ったクラス【ウィザード】はメイジの直接上級職の一つで魔法力特化の強力なクラスなのだ。
他にも【ソーサラー】やエスタさんの様な【ウィザードナイト】があるが、それらのクラスになるためにはレベル20に到達する事が条件で、流石にまだ子供のカッツェ君がウィザードと言うのは流石に信じ難い…しかし、彼の姿のはしはしから感じられる強者の気配が、もしかしたら…と感じさせてしまう。この辺僕はまだまだ未熟で、相手の姿を見て実力を見抜くのが難しい。強くなれば結構簡単に見抜けるらしく、アルスさん達は問題なく見抜けているだろう。
「と、青空市場が見えてきたよ」
「おー、賑わってるなー! さっきも見てきたけど凄かった! 都市並に凄いぞ!」
「そうなんだ、他の町とかも見てきたんだね?」
二人で冒険をしながら転々としているらしく、色んな町や都市を見て歩いてきたらしい、その中でもここホープタウンはかなり賑わっているようだ。
「うん! でもなー…ここみたいに楽しそうな場所はあんまりなー」
「そっか、とりあえず中に―」
「カッツェ!!」
入り口に居る受付の人に話しかけようとした時、直ぐ近くから声が聞こえた。
振り向くとそこには16~18歳位に見える青年が心配そうな表情で此方に走ってきている姿が見える。
「あっ! ケーシィ! こっちこっちー!」
ぶんぶんと手を降る呑気なカッツェ君とは対照的にケーシィと呼ばれた青年はここまで来ると勢い良く僕に向かって頭を下げてきた。
「すいませんっ! カッツェをここまで連れて来てくれたんですね、有難うございます」
「あ、いや気にしなくていいですよ。僕もここに用事があったし」
「そうだったんですか…いえ、ですが此方もお礼を、こいつは珍しい物を見ると直ぐ勝手に離れて」
「ち、違うもん! オレじゃなくてケーシィが道に迷ったんだい! 気がついたらケーシィが居なかっただけだもん!」
反論するカッツェ君だが、どうみても迷ったのはこの子の方だよな…
「それを世間一般じゃ道に迷ったって言うんだバカタレ」
「うううぅぅ~~」
「さて…ほんと有難うございます。こいつ一人にさせておくと色々危なっかしいんで」
生真面目なのか人が良いのか、ケーシィと言う名前の青年は何度も僕に向かって礼をする。彼も冒険者なのだろう、腰にシーフツールを巻いている所を見るとシーフなのかも知れない。日本人の様な顔立ちで黒い髪を短くまとめている。ジャニーズとかに居そうな若手アイドルの様だ、つまりイケメンって事で。身長もかなり高く170ほどはあるだろう、僕にその身長を20センチほどくれないだろうか…町中なので目立った防具はつけておらず洒落た普段着を着ている。
「いえお構い無く。二人共最近来た人ですか? 僕はここでお世話になってる冒険者です」
軽い自己紹介は終わり、暫くの間雑談することになったので色々と聞いてみることにした。
「なるほど、通りで隙がない訳だ。いや、すいません。俺等も冒険者でして、俺のクラスがセージ、こいつが…まぁ、信じられないかもしれませんが一応ウィザードです」
「…やっぱり、ウィザードなんですか」
もしかしたらと予想はしていたが本当に上位クラスのウィザードだったらしい。見た目からは想像も出来ないが、きっと僕なんか歯牙にも掛けないほど強いんだろうな。とは言えそんな雲の上の存在が道に迷ってたと言うのは何というか微笑ましいし、上もまた普通の人なんだなって思わせてくれる。
「所で、セージって言うのは?」
「セージはそうですね、簡単に言うとシーフの上位派生職です。知識に偏りメイジやウィザードより魔法に詳しいというまぁ、あんまり強い職業じゃないですね。でも魔法職の最適攻撃などを指示出来たり、中級並みのシーフの能力もあります」
シーフの上級職と言う訳か…通りで彼も強そうに見えた訳だ。
「二人共上級職なんですね、僕はまだ下位なのでこんなふうに話していいのかなぁ」
「何言ってるのさ! ヤスオはもうオレの友達だからいいんだっ!」
「はは、そんなに畏まらないでください。俺等もほんの数ヶ月前に漸く上級になったばかりですし、年齢もまだ若輩ですから。あ、カッツェが9歳で、俺が13歳です」
9歳と13歳と来たか……人間極めたら行く所まで行くんだなぁ、と思わせてくれる二人だ、小説とか漫画だったら確実に主人公クラスの存在だよなぁ、子供の頃からそこまで強いとか、絶対人気でそうだ。
「はは…それじゃ普通に話させてもらうよ」
「はい、俺達もそっちの方が気楽なんで」
「そうそう! 友達が敬語なんておかしいもんね!」
なんだかんだと何故か上級クラスの知り合い、いや友人が二人も出来てしまった、レベル20代なんて世界の冒険者の中で1割いれば良いほうだと聞いていたのに何というか運がいいのかな、僕は。ほら運のステータスリアルで高くなってるし。
「この町の付近に新しいダンジョンが出来たって聞いてきたんで、暫くはここを拠点にするつもりなんです。もし良かったら今度一緒に行きませんか?」
「賛成!! ヤスオ一緒に行こう!!」
「うーん、誘ってくれるのは嬉しいけど。流石に実力が合わないよね…」
方やレベル20が二人、方やレベルが無いけどレベル10~11相当の僕…昨今のRPGじゃたかが9レベルと言うかも知れないが、この差は凄く激しい。今の僕じゃ邪魔にしかならないだろう。
「いえ、そのダンジョンは下位~中位の間と聞いてますしヤスオさんなら問題無いですよ。それに俺達もフォローしますから」
「オレも頑張るよ!!」
めっちゃ期待した瞳で僕を見ているカッツェ君。
確かに上級クラスの戦いを間近で見れるというのは後のことを考えればとても為になりそうだ、経験を吸収し高めることは難しいとしても頂上の存在の戦いを見ることができるのはありがたい。
「ありがとうカッツェ君。そしてケーシィ君、その時はよろしく頼むよ」
「うんっ!」
「楽しみにしてます。所でもしかしたら勘違いしてるかもなので言っておきますね、カッツェは女の子ですから」
「………そ、そうなんだ」
中性的過ぎてわからなかったんです………申し訳ねぇ、申し訳ねぇ……
ちゃんと謝ったがカッツェちゃんは大して気にもしておらず、一緒にいくのが楽しみだと別れるその時まで言っていた。僕もその時が楽しみだ。




