05-02 【死と病気と恐怖 そして火】 Ⅱ
明日から投下時間を【20:00】に変更します、どうかご容赦を。
―ヤスオの隠れ家
回復魔法を使い体力を少し回復させた後、僕は隠れ家に戻ってきていた。
目の前には真芯から砕けたショートソードが置いてある。僕にもう少し力があれば…いや、覚悟はしていたのだ。もしかしたら壊れてしまうかもしれないと言う事を。
この剣が無ければ自分はモンスターに殺されていた、この武器のお陰で今の自分がある。そんな大事な剣を僕は…
「お前のお陰で…お前のお陰で僕はまだ生きてる。有難う、最後まで一緒に戦ってくれて有難うな。」
せめて自分に本の少しでも良いから武器の手入れ方法が分かっていたら、そう思うと悔しくて堪らない。大切な剣を結局自分は大事に使ってやれなかった、ただ振り回すことしか出来なかった。ゲームや漫画、アニメ、小説で覚えたうろ覚えの知識では碌な手入れも出来なかった。もっとしっかりとした知識があれば、もしかしたらこの剣はまだ壊れていなかったかもしれないのに。
涙が溢れてくる、剣が無くなって死ぬかもしれないからなんかじゃない。
この武器は、ショートソードは僕の心の支えになってくれていたんだ、魔法の本も勿論大事だ、それでも一緒に最後まで戦ってくれた初めて手に入れた武器…自分で作ったいつでも作れる槍じゃない、もう自分では元に戻せない武器なんだ―
本の所に置いておいたハウンドの皮を手元に持ってきて、その上にショートソードをゆっくりと置いていく、勿論砕けた部分も一緒にだ。そして綺麗にたたみ洞窟の一番奥に安置する。例え壊れてもこの剣は僕の宝物だ、命を救ってくれた大切な物だ、いつかこの森から出られたら一緒に持っていく…
もしかしたらそう、もしかしたらだが、この世界に居るだろう鍛冶師に弟子入りさせてもらえば元に戻せるかもしれないから…
「ごめんな…ここで寝ててくれよ。………明日からは槍で戦わないとな…問題はこいつじゃウサギは倒せてもハウンドは無理って所だよな。」
一応昨日の戦いを含めて幾つかのステータスは上昇している。だけどそれだけでどうにかなる訳じゃない、ショートソードならともかく耐久度もない自作の槍ではやはりきつい。
ステータス上昇はこんな感じだ、【知】が上がって欲しい…
―【力】+1 【速】+1 【魔】+1
―【器】+2 【体】+1
接近戦で戦っているお陰か力や速さなどはそこそこ上がってきた。ただ、ステータスが上がってきた所為でウサギを倒しても上がらない時が増えてきた、運なのかあのウサギでは上がる限界があるのかわからない、せめてハウンドと安定して戦えるようになるまでは上がって欲しい…そう上手く行くかどうかはやってみないとわからないな…
他に上がっていたと言えば【カードスロット】がランクアップしていた。
カードが3枚から4枚セット出来るようにはなったけど、今は全く意味がない。
他のカードなんて持ってないし、ウサギのカードは重複出来ないみたいだ。となれば後はハウンドのカードだが、肝心のハウンドが倒せるか悩んでるのだから除外される。
「この槍じゃハウンドは厳しいし…やっぱ暫くはまた槍の特訓からだなぁ。なにか覚えるとかもあるかもだけどまず槍に慣れないと。ショートソードと槍じゃ戦い方が全く違うしな…」
ショートソードは完全な接近戦と【蓮華】などを使用した高速戦がメインだ。
確 実にウサギより早く動けて【先手】さえ使えれば1撃で倒す事も出来る。対して槍は両手に持っての突きオンリー武器だ。片手で持つ事も可能だけどこの武器に慣れてないのもあってかまっすぐに突き刺せない時の方が多い。
両手なら左手である程度狙いを付けてそのまま勢いをつけて突き刺せる。薙ぎ払いも練習したけど獲物が長い分どうしても振りが遅くなってしまうのと、この森の中じゃ周りの木にぶつかる可能性があるから使いにくい。必然的に攻撃手段は【突き刺し】になってしまう。
「【槍修錬】でも覚えたんなら話は別かもなぁ…」
どちらにしろ暫くはモンスター退治を中止して槍の鍛錬と槍作成を行うつもりだ。ウサギの牙は沢山増えてきたし木も柄の部分として使えそうなのは何本か用意してある、槍の耐久度はお世辞にも高いとは言えないし、データには【粗悪な】とまで付いているほどだ。僕程度の技術で作られた武器だから当たり前なんだろうけど。
「せめてポーションがまだ残っていればなぁ…少しだけは無茶出来たかもなのに…」
実は数日前にハウンドに襲われた時に大ダメージを受けポーションを使ってしまったのだ。首を噛まれる寸前に伸ばした左手に思い切り噛み付かれ、その回復の為にポーションを飲み干したのだが…あれは飲み物というか味覚に喧嘩を売っているようなシロモノだった。出来れば余程な事がない限り飲みたく無い…こう、エグい味…どう表現して良いかわからないほどのエグみが舌を痺れさせ鼻孔に突き抜ける嫌な匂いとドロドロした、でも水のような味わいだった…
それでも回復力はとても高く、骨が見えるほどの傷があっという間に回復したのには驚いた。飲料系の回復薬なのにみるみるうちに傷が治ったのは少々引けたけど…ちなみにその時ポーション瓶はハウンドの突撃で割られた…あれ持ち帰れれば飲水を保存できたかもしれないのにな…
「あんな攻撃もう一度受けたらポーションがもう無い以上、次はあの死体の人の二の舞いだ…それだけは絶対避けなくちゃ…せめて防具があればなぁ。」
無い物ねだりだけどやはり防具が何も無いのは辛い。
いま来ている服では多少の寒さを凌げる程度しかない、ハウンドやウサギの皮を上手く鞣すことが出来れば貼りあわせて防具とかに出来るのかもしれないとしても僕に鞣す技術は無い。
「鞣すってどうやるんだろうな…そもそも材料とかは何なんだろう、てか鞣すってどういう意味なんだろう…なめした皮とか小説や漫画じゃよく出てくるけどその工程を細かくやってる話を見たこと…ないんだよなぁ。」
無い頭を絞っても何も思いつかないので気分転換に槍の鍛錬を始めることにした。隠れ家の中でも単純に突きの練習をする位なら問題なく出来る。後は腕立てや腹筋、背筋など出来る事をやればいい。このまま無駄に考えて時間を消費するよりよっぽど有意義なのだから。
槍を持って立ち上がり広い場所で槍を構える―
足を広げて腰は中腰に、柄の部分を腰の近くで固定し両手でしっかりと持つ。見た目だけはそれこそゲームで見るような槍兵士の姿っぽいと思う。恐らく雑兵と思われる彼等と今の僕、戦ったらどっちが強いのか…いや、多分雑兵の方が強いよな、ゲーム上でこそ主人公格に容易くやられる雑魚だけど、それでも兵士なんだからこんなデブに負けるはずが無い。最近また少し痩せてきたけど…
「ふぅぅぅぅ…1っ! 2っ! 3っ! 4っ! 5っ!」
只々真っ直ぐより下向きに突きを繰り出す、何も考えずただ突きを練習する。
攻撃力の低いボロ槍じゃ、薙ぎ払い程度でウサギなんか倒せない。牙…刃の部分をしっかりとモンスターに突き刺す事を考えて攻撃するんだ、下手に考えて無駄な行動を取っても勝てるもんじゃない。
「ウサギのパターンを思い出して…それに合わせるように突き刺す。3回刺せば倒せた、だから3回で倒せるように突きを練習していくだけだ! 25! 26っ! 27っ!」
明日からは剣が無い…そう思うと凄く心が苦しくなるけど、それでも明日は来る…有難う、僕の剣―
涙が出てきそうになる心を押さえつけ、休むその時まで僕は槍を振り続けた。
2015/09/11 ご指摘を受け修正完了です。