39-04 【やすおアタック!!(強調しつつ)】 Ⅳ
「くっ……結局だめだった」
「諦めるなっ! ここで諦めたら俺達の勝利は永遠にこねぇぞ!」
「あんた……たまにはいい事言うじゃない、そうよね…僅かな可能性にかけて…ミキ様はまだ諦めない!!」
「そうだ! きっと! きっとある!!」
「あんたら五月蝿い」
「「ごめんなさい」」
ティルさんの一喝でその場で正座して謝る二人。別に正座に慣れている訳じゃないのに綺麗に正座して謝ってる所が逆にシュールだ、そしてとても似合っている。特にミキ。
何の事はない、フィル君とミキが暇で家捜ししていただけだ。良くわからないドラマが繰り広げられていたが、探しているのはエロ本なのだから感動巨編にすらなりやしない。そして悪いけど二人共そういう本は購入してないので無いのです。いや、興味はあるよ? 興味はね? でも買うのは恥ずかしいので止めてます。だってそう言う本売ってる場所って、ナッツさんの店なんだもの…買えないよ、あそこじゃ。
「って、もう2時間位経ってたんだ、早いなぁ」
「……ぉー……」
あれから集中して特訓していたので時間がここまで過ぎてる事に気づかなかった。鍛冶をしている時もそうだけど、魔法の特訓や鍛冶修行をしているとあっと言う間に時間が過ぎる弊害があるんだよな、そのせいでもう少し勉強とかをしたいのに時間が無くて寝る事が多い。遊ぶ時間が足りない~なんてちょっと前は思ってたが、今は逆に勉強している時間が足りないのが困りものだ。
「結構良い時間ね、今日はここまでにしましょう?」
魔道書を閉じて本棚にしまっていくカノン。ティルさんやアリーさんも一緒に片付け始めた。ちなみに勉強しているあいだアルスさんやイクスさんは何故かこの家に常備されているボードゲームで遊んでいた。僕が買ってきたんじゃなくて、フィル君が家で遊ぶために持ってきたものだ、スゴロクの親戚みたいなもので、やってみると以外に面白い。
「ん~~~…はぁ、伸びたお~」
片手を上げて大きく伸びをしているティルさんの姿はとても可愛いと思う。普段は可愛いと言うか綺麗って感じがする人だが、砕けた口調や舌っ足らずな部分が綺麗という印象の他に、可愛い印象を与えている人だ。一粒で二度美味しいって奴だろう。カノンは完璧な大人の女性って感じで、日本にいたらキャリアウーマンとかそう言う感じがするな。アリーさんは外国の美人モデルだ、抜群のプロポーションだし、その上で性格良しだから男性が放っておかないだろうなぁ。
アリアちゃんは守ってあげたくなる妹、だろうか。小説とかで例えると若干電波系少女部分が混じっている、魔法を使いこなす電波系美少女…普通に思い付く位だから日本ってすげぇよな…あらゆる個性のキャラクターを創りだすんだから…最後にミキは…今時の女子高生…? ギャル系じゃないが、着飾るの好きだしコメントに困る。あ、最近歌が上手いってのが増えたな、嫌いだったって話だけど、最近吹っ切れたらしい。
「はー、やれやれ。これで終わったんでしょ? 大衆食堂に食べに行かない?」
「お前さん、本気で何もしてなかったなぁ…家探しは良いけど片付けとけよ?」
「だってねぇ…暇だったんだもん。なんにもねーし」
悪かったな、でもあったらあったで僕が恥ずかしい思いをするからヤメレ。
「あ、そうだ。少し待ってくれないか? 実は皆に大事な話があるんだ」
ふとアルスさんが僕達にそんな事を言ってきた。
アルスさんが大事な話と言う位だ、余程の事なのだろう、とりあえず皆座って話を聞く事になった。ティルさん達は知っているのか、聞いていればわかるお? と言われたので黙っている。
「まずはヤスオと友達になってくれてありがとうな。ヤスオは特殊な事情があって知り合いが極端に少なくてさ、本当はパーティに誘って色々俺達を見回って行く予定だったんだが、地力を付けたいって事でホープタウンで暮らしてる」
流石に【僕は異世界人です】とバラす訳には行かないので、その辺ぼかして話してくれるアルスさん。もしバレたら…流石に怖いよな、大丈夫だと信じたいけど、正確に言えばこの世界の人間じゃない…嫌われたり恐れられたりと思うと、心が痛い。
「俺等は冒険者だ、こうやってパーティを組みながら冒険する。俺もそうやって今までやってきた。でも、やっぱり臨時ってのは少し寂しいんだよな。たまに喧嘩にもなるしよ」
「わからなくは、ないわね。私も一人が多かったわ」
【―のーないかのん― 多かったっていうかヤスオさんと組むまでほぼソロでした!!】
アルスさんは更に続ける。
「其処ではじめに考えたのは固定パーティだ。少人数でも知り合いが増えるのは嬉しいしな。俺の固定パーティは前までティルとアリーしか居なくてな、シーフが居なくて大変だった事も有る。今はイクスが入ってくれたんで、かなり楽になったがな」
「最近胃薬とは遠距離恋愛です」
イクスさんの言葉を聞くと涙が出そうになる、余程辛かったんだろうなぁ。
「そしてイクスが入る数カ月前に、俺等はヤスオに出会った。ヤスオの能力、人格、その全てを見て俺のパーティに誘ったんだ。んで、ヤスオは言ってくれた、俺達に追いつけたらパーティに入れてほしいと。その約束は今も俺の大事な約束だ。もう少しで叶いそうだけどな」
「……っ…!!」
「そんな顔しないでくれカノン。何も俺達はお前達からヤスオを取り上げるつもりはない」
能面の様な表情でぎゅっと拳を握りしめているカノン。
それに気づいたのはアルスさんだけだったようだ、僕もアルスさんが言うまでまったく気づかなかった。
「ヤスオ達…つまりお前達のパーティは俺の理想でも有るんだ。だからさ、俺から頼みが有るんだが、良いかい?」
そこで一区切りしてお茶を飲む。そして、ゆっくりと会話を再開した。
「俺等はこれからまだ気の合う仲間を探すつもりで居る。6人の固定パーティじゃない、10~20を超えるような大パーティ、つまり…【ギルド】だ」
「ギ…ルド…?」
フィル君がカノンが、そしてミキが驚いた表情でアルスさんを見ている。この世界のギルドは、仕事や依頼を斡旋する場所じゃない事は既に教えてもらった。この場合のギルドってのは冒険者同士の巨大な集まり、クランとかそう言う感じの物だ。アルスさんがこういうのを前に作りたいと言っていたのを思い出した。
「俺はこのギルドを作りたい。誰がリーダーとか目的をどうするか、とかはまだ考えてないが、皆でわいわいやれるギルドパーティってわくわくしてこないか?」
「へぇ。なんか自警団みたいだなそれ」
楽しそうな表情のフィル君。自警団をやめて僕達と同じ冒険者になっている彼だからこそ、皆で集まるギルドには興味津々のようだ。勿論僕も皆でいられるギルドなら大歓迎したい。前にカノン達とはいつかは別れると思ってアルスさんがギルドを作ったら誘いたいなって思っていたが、まさかこのタイミングで言ってくれるとは。
「町の防衛か、ダンジョンアタックか、その辺は違えども仲間の集まりには変わりないな。で、俺はヤスオやお前達を全員誘いたい。ヤスオが臨時パーティを作ったとティルから聞いて、夢だったものから確定に変わったんだ」
「僕は賛成です!!」
一も二もなく賛成に回る僕を見てティルさん達が苦笑していた、恥ずかしいが後悔はしていない。
「なんか自由なさそうで私は嫌だな。今の気楽な方がいいし、分配とか増えそうだし」
「悪事さえしなきゃ束縛する理由はないさ。ギルド内で、気の合う奴とダンジョンやら依頼やらやればいい。流石に全員でダンジョンアタックとかはしないだろ」
「ふーん……ヤスオは賛成だっけか…」
ミキも優秀なシーフだし居てもらえば助かるが、これを強制するつもりはない。今まで一人だったのが一気にメンバーが増えるんだ、ミキが断ってもそれはそれで彼女の決断だと思う。
「あんまり無理するなよ? 別にギルドに入らなくてもこの町とかに居るならパーティとかは組めるからさ」
「…ちょっ、勝手に参加しない方向に持ってくなよな!? 今は考え中! 他の奴らはどうすんの?」
「俺等のリーダーは実質ヤスオだからな。ヤスオが入るなら俺はついていくだけだ。賑やかなのは俺も歓迎だしな」
フィル君は参加してくれるようだ、ここまで全面的に僕を信頼して貰えるのは嬉しいけど気恥ずかしいし、プレッシャーを感じるな。
「そうね。そろそろ旅も疲れてきてた所だし、基本はこのパーティでいいのでしょう? ならそろそろ落ち着くのもいいかもしれないわ」
【―のーないかのん― 一瞬、せっかくのパーティがなくなっちゃうって思って泣きそうになったけど、ギルド…!! パーティを超える仲間たちの集まり…! 私このギルドに誘われたのっ!? 夢じゃないわよね? あぁ!? これは現実なのねっ!! ヤスオさん、貴方のお陰よっ! 貴方は私達のパーティリーダーで【ぼっちメシア】だったのねっ!? やはり神棚を立てるべき…立てるべきだったのよ!!(錯乱】
「………賛……成……」
カノンとアリアちゃんも参加してくれるようだ、アリアちゃんに至っては片手をビシッ! と上げて参加表明してくれている。どうしよう保護欲に目覚めそうだ…小動物的な愛らしさがあるよな、アリアちゃんは。
「ボクは賛成ね。これでパーティじゃなくてもヤスオとは大事な仲間で家族だお。さぁ、お姉ちゃんと呼びなさい、さぁ呼びなさい」
「俺も賛成ね。(ありゃあ、お姉ちゃんLvが100越えてますわ、越えすぎるとラブになりそうですね)」
元々アルスさんパーティだったティルさんやイクスさん、アリーさんも賛成だ。
「(こいつらもう確定してやがる。なんで誰も否定しないのよ、ったく…仲良しこよししかいなかったら直ぐダマされるぞあんたら)へいへい、ミキ様も混ざるわよ。その代わり楽な事しかしないからね」
「いいのか? 絶対って訳じゃないが束縛される時もあるんだぞ?」
ミキはそういうのを極端に嫌うからなぁ。
人に触られそうになったら猫みたいに唸ってる所を見たことがあるし。
「ヤスオにゃ、まだ恩を返してないしね。てか仲間はずれにすんなっての、んー恩を返しても残ることになるのか。まぁいいや、ボスから絶対盗むガールやってりゃいいし」
「ミキのシーフとしての力量はわかってるからな、頼りにしてるよ」
「見てろよ~? いつかミキ様無しじゃ生きていけないようにしてやるぜ♪」
「それはねぇ」
絶対に無いな。
「ありがとよ皆。まだギルドって名乗るには数も少ないから色々面倒かけるが、暫くは2固定パーティでやっていこう、俺の方でも仲間を募るからヤスオは暫くこっちで気の合う奴探してくれないか?」
「任せて下さい! ばりばり探しますんでっ!! ノーヴァ君とかカトル君、ウォルクさん兄弟にも聞いてみようっと!!」
知り合いは結構多い、ギルドに沢山メンバーがいれば色々都合がつくだろうし、なにより楽しい。アルスさんが言うのも分かる気がするな。知り合いや友達が沢山居るギルド…地球じゃ友達も居なかった僕だが、ここでは沢山友達を作れるかもしれない。
「んじゃギルド結成だ!! 名前は後で募集するぞっ!! よーし、それじゃ皆で食いに行こうぜ! 今日は俺のおごりだ!!」
「おおー!!」
アルスさんの奢りって事になり、これから大衆食堂に食べに行くことになったのだった―
出掛けて数分もしない内にイクスさんの奥さんに出会って、そういえば料理を作ってくれてるって話を全員思い出して平謝りしたのはご愛嬌だろう。
誤字指摘感謝です




