38-09 【勝利と大騒ぎの中で】 Ⅱ
―武器屋【防御は最大の攻撃!!】
「あ、いらっしゃいま……ヤスオ、お兄さん?」
いつも通りセレナちゃんが店員をやっていた。
僕に気づいた様で小さく手を振ってくれる。今日は流石にお客さんも来ていない様で、普通に彼女と話す事が出来た。
「こんにちは、今日もお疲れ様」
ボロボロになって帰ってきたからもしかしたら泣かれるか、怒られるかとも思ったが、特にそう言う事は無く軽い世間話をしていく。
「よかった。もう起きても大丈夫なんですか?」
「うん、流石に寝すぎたのか少しふらふらしてるけどね」
「昨日お見舞いに行った時は全然起きなくて…ご無事で何よりです」
そういえば色んな人達がお見舞いに来てくれたんだよな。
今度ちゃんとしたお礼をしに行かないと、こういうのは先延ばしにしてしまうとなぁなぁになって終わってしまうから気をつけないといけない。
「ヤスオお兄さんが冒険者だって事は勿論知ってますし、今回は町の為に必死に頑張ってくれた。心配でたまらなかったけど、怒っては居ませんよ?」
僕が考えている事が大体分かっていたのだろう、クスリと笑うセレナちゃんに僕は頭を掻いて苦笑するしか出来なかった。やっぱわかりやすいんだろうなぁ。
「ふふ、ヤスオお兄さんは顔に出るから分かりやすいです」
「あ、あはは…」
分かりやすいと言うかもう、完璧に読まれてました。流石だ…
「無茶はしてほしくないです。でも、ヤスオお兄さんがどうしてもやらなくちゃ行けない事なら…私大丈夫です、待ってますから。また元気になったら家で働いてくださいね? お料理のレシピ、ナナさんと店長さんに聞いて結構増えたんですから」
はにかんだ表情で言う彼女の言葉に胸が暖かくなる。改めて生きて帰ってきて良かったと思えた。そしてそうそう死ねないなと心に刻みこむ。冒険者としてこれからも戦っていく生活を送る事にはなるが、それでも死なない様に頑張っていこう。彼女に悲しい表情や涙を流させるのは、僕も嫌だから。
「うん、気をつけるよ。ありがとう」
「あ、いえ此方こそ…」
「所で、親方にも話をしておきたいんだけど」
この時間に居ないと言う事は鍛冶をしているのだろうか?
「お爺ちゃんはさっき用事があるって行っちゃいました。なので今は私だけです」
「相変わらず偉いなぁ…」
「ふふ、慣れてますから」
まだまだ14歳なのに、店番を任されて確実にこなしているセレナちゃんに改めて尊敬の念を抱く。僕が14歳の頃なんて遊ぶか食べるか寝てるかしかしてなかったよ…勉強なんてする気もなかったからなぁ。だからついていけなくて成績がズルズルと落ちてったのは、まぁ自業自得ですね。
「今日はそろそろ締めますし、夜は皆でお祭りですね。私も楽しみです。モンスターも倒したらしいですし、これで安全だといいんですけど」
「うん。アルスさん達がボスを倒したし、きっとすぐに落ち着くよ。……それじゃ僕はそろそろ行くよ。また夜に迎えに来るから皆でお祭りを楽しもう」
「はい。夜にですね、行ってらっしゃいです」
彼女に見送られて僕は武器屋を後にした。
向う場所は中央広場、多分皆そこにいるだろうから早く会いに行かないと。
そんな事を考えて歩いていたから、セレナちゃんが何かを呟いていたのを僕は知らなかった―
「ずっと泣いてたなんて、言えません。きっとヤスオお兄さんに心配かけちゃいますから。ヤスオお兄さん…なんで冒険者なのかな。武器屋で、これからもお兄ちゃんで居てくれたら…なんて」
…………
―ホープタウン 中央広場
最早見慣れた町の広場。
あちこちに冒険者や町の人の姿見えるのは、今日が打ち上げや夜のお祭りが控えているからだろう。行く途中に色々話を聞いたが、僕達がケルベロスの要る場所に向かっている間に様々なモンスター達が前のように集団で襲いかかってきていたらしい。
皆のお陰で問題なく鎮圧出来た上に、ケルベロスも退治出来たので依頼達成の打ち上げと、町長さんの一言で夜に大々的にお祭りをすることになったそうだ。ちなみにこの打ち上げ自体は昨日位からやっているそうな……すげぇタフネスだと思う。
そして、そんな賑やかな町の中、僕の目の前でうなだれているティルさんが色々と嘆いていた。
「そりゃねぇお。一番に見る顔がお姉ちゃんじゃないって何事」
悔しいですオーラを撒き散らしているティルさん。
なんだかいつの間にか姉と弟という形式になっているが、こんな立派な人が姉なら僕は十分嬉しいので、特に何も言わない。
「つーか、そもそも姉弟じゃねぇだろ」
「うっさい大根マン!!」
もっともな突っ込みをアルスさんがするが、聞く耳持たないとばかりにピシャリと言い放つその姿は…駄々っ子の様に見えた。心なしか銀色の縦ロールもしおれている気がした。
「ははっ! ヤスオ君じゃないか! 元気になって何よりだ!!」
ウォレクさんとウォレスさん兄弟が豪快な笑顔で僕を迎えてくれた。持っていたハウンド串を幾つか僕にくれる。ハウンド肉の串は好物なのでありがたく頂くことにした。うん、塩が効いていてとても美味しい。やはり肉はハウンド肉だと思う、豚や鳥や牛、どれも上手いが僕の一押しはやはりハウンド肉です。
僕に気づいた皆が集まってくる。
ファッツさんやナナさん、エリスさんエスタさん夫妻に娘のマリーちゃん。セイルさんは塩オンリーの出店を出しているし、よく見ると知り合いが殆ど集まっていた。それぞれに軽く挨拶し、今回の大討伐依頼をの完遂をお互いに喜ぶ。なんだかんだでほんと、僕にも知り合いが増えたなぁ。地球に居た頃とは180度位変わっている人生を送ってるよ。
森での生活を懐かしむ事は流石にないけど、あの生活のお陰で僕は多少なりともまともになれたと思う。森で生活しないで初期のままここに来ていたらと思うと、流石に寒気がしてくるな。
「あ、やっぱりヤスオだ!! おーいっ! こっちに来いよーっ!! 皆ここにいるぜっ!!」
遠くの方で手を振るフィル君の姿が見えた。
「無事でよかったわ。ほんと困った人ね」
【―のーないかのん― やったー! ヤスオさん復活!! よーし!! テンション上げていくわよっ!! そう! 今日からはニューカノンとして生きていくのよ! もう昔の私なんて目じゃないわ!! このあふれんばかりのコミュ力でヤスオさんに並ぶのよっ!!】
「……ヤス……オ……おは……よ……」
「やーっと起きたかこの寝坊助~♪ ほれほれ、ミキ様に食べ物を奢る権利をやるぞ~」
フィル君が、カノンが、アリアちゃんが、ミキが…僕の仲間で友達が僕を待っていてくれた事がとても嬉しくて、目頭が熱くなるのを感じた。思えば、これだけの知り合いが出来るとは思っても見なかったな。あの森で暮らしてた頃は孤独で、元の世界では自分から殻に閉じこもってた。だから、今のこの状況が嬉しくて…そして少しだけ戸惑ってしまう。でもその感情を振り払い、皆の所に歩いて行った。
今は楽しもう、明日も明後日も、まだまだ時間は有るのだから。
ここまでで漸く【序盤の山場】が終了です。
まだまだ、主要キャラすら登場しきっていない現状、先が長く大変ですが、
出来る所まで書き上げていくつもりです。
一日一話を頑張って続けていきますが、
無理な日はきっと来ると思います、その時はご了承下さい。




