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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
171/216

38-07 【夢の中で】

 目の前に喚いている自分の姿が見える。

 周囲はフィギュアや漫画の本等が乱雑に置かれている小さな部屋、電気もつけず薄暗い部屋の中、パソコンの光に向かって僕自身がぎゃんぎゃん騒いでいた。


 オリジナル小説や二次創作などを書いている作者にあれこれ口を出していて、それを糾弾されたり無視されて怒っている時の姿が見える。あぁ、そうだ……そうだった、少し前の僕はこんなだったな。気に入った話などがあれば、もっと自分にとって面白くなるように無理やりちゃちゃを入れたり、自分で作った小説とかを投稿して、浅い内容をチクチク感想文で攻撃されて怒鳴りつけて直ぐにやめたり…20歳にもなる男性が働きもせず家に引きこもってやっていることがこれだった。


 ミキと自分が似ているなんて言ったけど、あれは彼女に失礼だったかもしれない。それほどまでに昔の自分は正直目も当てられない人間だったから。


 

 場面が切り替わる。

 其処には母親に詰め寄って金をよこせと駄々っ子の様に叫んでいる自分の姿が見えた。母さんは疲れた表情で僕を、いや目の前の昔の僕を見ている。


 母さん、こんな顔をしていたんだな。

 財布から1万円を渡すとお礼も言わずに毟り取り何かを買いに行く自分が居る。なんだろう、自分自身の事なのにこれほどまで情けなく感じるなんて。良く母さんの顔を見てみろ自分自身よ。あの今にも泣きそうな辛そうな顔を。胸が痛い、帰りたい帰りたいと思っていた自分が情けなくなるほど、僕は母さんを苦しませていた、昔の自分はこれほどまで自分しか好きじゃなかったんだ…




 また画面が変わる。

 自分の部屋で荒れている自分が居る。フィギュアとかを投げつけ本を破り捨ていている自分が叫んでいた。


【ふざけんなっ! ふざけんなぁああああ! 何が「もう小遣いはやらない」だっ!! お前それでも父親なのかよっ! 息子を大事にしやがれっ!!】


 そうだった…僕がこの世界に来る少し前の事だこれは。

 堪忍袋の緒が切れた父さんが働かない人間に渡すお金は無いと僕に怒鳴りつけてた時の事だ。今なら思う、寧ろ今まで貰えていた事に感謝すべきだった事に、父さんはきっと、僕に自立して欲しかったんだろう。でもあの頃の僕には何も理解できなかったんだ…ほんの少し前の僕は褒められた人間じゃなかった、いや屑だったと言っても良い。僕は結局、親に何も返すことが出来ずに消えたんだな。


 二人が認めてくれるような立派な人間に、今はなりたいと思っている……

 でも、帰ることが出来ない現実じゃ、二人が見た最後の姿はあの、どうしようもない姿なんだよな。



 場面が更に切り替わり、今度は何もない真っ暗な所で僕が泣いて居た。


【てめぇはいいよなぁっ! 異世界でチートでハーレムで仲間も力も何でも持ってやがる!! お前と僕の何が違うんだよ!!  同じ自分じゃねぇかっ!!】


 泣きじゃくりながら僕に対して不満を漏らすもう一人の自分。


【僕だってなぁ!! 僕だって!! お前みたいなヒーローになりたかった!! 何でお前がヒーローでや僕がこんな底辺なんだよっ!! 答えろよっ!! なぁ! 英雄様よぉっ!?】


「ち、違う!! 僕はヒーローじゃない!! ただ死にたくなかったから必死に頑張って、あの時はミキを死なせたくないって思ったら、飛び出してただけだっ!!」


 僕はヒーローなんかじゃない。

 僕にとってヒーローとはアルスさんやアリーさん、ティルさんにオッターさんの様な立派な人達だ。自分の事は一番よく分かっている、そんな立派な存在じゃない事も今ので嫌というほど理解している。


【それを世間一般じゃヒーローって言うんだよっ!! てめぇは僕自身だろうが! ならその役目、僕に渡しやがれっ!! 僕だってあんなリア充になりたいんだっ!!】


 目の前の僕が言った一言に何かが切れた。

 

「ふざけんじゃねぇっ!! 遊びでやってるんじゃないんだぞ!! お前も自分自身なら見ただろうが!! あそこで、死んだだろうが!! お前にそれが出来るのかよっ!?」


 あまりにも情けない自分の言葉に怒りを覚えて怒鳴りつける。

 だがそんなこと気にもせず、目の前の自分はいやらしい笑顔を見せた。


【はっ! なんでんなことしなくちゃいけねぇんだよ! 折角僕になついてくれてるきゃわいい子が居るんだからそれとキャッキャウフフするだけだっての。馬鹿じゃねぇの? あそこまで強いんだから女なんて選り取りみどりだっつの。どうせあれだろ? ニコポとかナデポとか持ってるんだろ?】


「てめぇ……それ本気で言ってやがるのか? なぁ!? 自分!!」


【ひっ…!? あがっ!?】


 自分に向かって歩を進め、自分を思い切り殴り飛ばした。

 僕がそっちにこれる事を知らなかったのか、まさか自分で自分を殴るなんて思っても居なかったのか驚愕の表情で僕を見ている。


【な、何だよ…っ!! なんだよ! 僕だってお前自身なんだぞ!! 僕はな! お前の中のお前なんだ!! これはお前の本心なんだ!!】


 ドキンと胸が弾むような衝撃を受けた。

 目の前の僕が言った言葉が体を震わせていく。


「う……嘘だ!!今の僕はそんなこと考えてない!! あの3人に追い付くために頑張ってるんだ!! 昔とは違う!!」


 頑張って追いつこうと努力は惜しんでは居ない…が、ほんの数ヶ月だけであれほどまでにダメ人間だった自分が変われているのか、と考えるとどうしてももう一人の自分の言葉を否定する事が出来なかった。


【馬鹿かてめぇ? あんな場所に少し居たからって僕が直ぐに改心するとでも思ってたのかよ? ばぁああああか! これはな、これがてめぇの本心だっ!!】


 いつの間にか僕の周囲には沢山の自分自身が居た。

 ダメ人間だった頃の自分自身が、延々と僕を責め立てていく。その言葉に声が震え、手足が震え、怒っていた自分など既に無く両手で顔を隠しながら反論する。


「ち、違う!! 違うっ!! 僕は…僕は、母さんや父さんが自分を誇ってくれるように、頑張ろうって、前を向いて歩くんだって…!!」



―違わないさ、お前はクズだ。どこまで言っても屑なんだよ。


―クズが立ち直れると思うな? どうせ直ぐに元に戻る。


―諦めて死ねよ、お前にはそれがお似合いだよ。



 あちこちから聴こえてくる声に涙が溢れ、座り込みながら嗚咽を漏らして反論する事しか出来なかった。


「違う!! 今の僕はそんな事思ってないっ!! やめてよ…! やめてくれよぉぉぉ!! 違うんだよぉぉぉ……」


 意識が黒くなっていく。

 闇に飲み込まれずぶずぶと空が沈んでいく感覚に抵抗する事も出来ず、ただ泣きながら沈んでいく。





―あぁ知ってるさ。お前の勇気も、想いもな。



「え…………?」


 誰かが真上の光の中から手を伸ばしていた。

 ゆっくりとその手を掴むと、凄い力で僕を引き上げてくれる。


「フィル……君」


 僕を引き起こしてくれたのは、いつのも人好きする笑顔を僕に見せてくれるフィル君だった。


「……朝……起きる………プリ……ン……食べ……に……いこ…?」


「ふふ、いつもは頼りになるのにこういう時は情けない人…だから放っておけないのかしらね」


「みーちゃったみーちゃった♪ うん。あのネガちゃんはいらないわー。ヤスオはあんなぶよぶよしてねーもん。ほれ、さっさと起きてミキ様にぷにらせろ」


 アリアちゃんとカノン、ミキが其処に居た。


「み……皆、でもあれは僕で、僕自身で……」


 情けない姿をどうしようもない自分がを見せてしまったのがとても辛い。

 こんな自分が皆の元にいて良いのかと考えたその時、後ろから肩を叩かれた。


 驚いて振り向くと其処にはアリーさん達が、居た。


「昔は昔、今は今。少しの時間だって人間は頑張れば変われる。今の君は、私達の知ってるヤスオだよ。自信持って、ね?」


「アリーさん……」


「そーそー、早く起きろっ! お姉ちゃんが褒めてやるおっ♪ あ、でもこの前のボスの事を詳しくね?」


「ティ…ティルさん、その、お手柔らかに……」


 目がマジだった。

 そして最後にあの人が語りかけてくれた。


「あれが本心? 例えそうだとしてもそれはそれ。今のお前が飲み込んじまえばいい。今のお前はそれが出来る男だ。俺の新しく出来た友人で、大事なパーティメンバーだ」


「アルス…さん!!」


「胸を張れヤスオ、お前は立派に戦った。最後まで仲間を見捨てず戦ったじゃないか。あれが昔のお前なら、今のお前が負けるわけがない。さぁ、悪夢から目を覚まそうぜ?」


 サムズアップをして笑顔で言うあの人につられて僕も涙を吹いて大きく頷いた。


「はい!!」




 意識が今度は白く塗りつぶされる。

 早く起きないと、皆に心配を掛けてしまうだろう。

 あの自分は、確かにもう一人の僕だ。だからこそ今まで以上に自制し頑張らないといけない、薄れゆく意識の中で僕はそれを再確認し、


 目を、開けた。







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