38-05 【絶望の中に響く唄】 Ⅲ
沢山の感想やブックマーク、評価ありがとうございます。
色々至らない所だらけですが、頑張っていきますね。
返信出来なくて申し訳ありません。全て読まさせてもらっています。
何かが聞こえた。
泣き叫ぶような声、柔らかい歌声。指一本動かず意識も途絶えていた筈なのに、メッセージログが僕に何かを伝えている。
真っ黒な視界の中、システムメッセージと歌声だけが僕に届いていた。
―ヤスオは死亡した!
―ミキの歌の効果によりスキルを取得!!
―ヤスオは【死からの生還】を覚えた!!
―ヤスオは現在死亡中……効果適用!!
―【死からの生還】発動!!
―生涯で1度のみ発動可能、使用後スキルは消滅する。
―自身の【運】を1点永久消費する事により、
―【死亡】を【戦闘不能】に置き換える!!
―………置き換え成功!! ヤスオは戦闘不能になった!!
―歌がヤスオのHPを回復させる!!
聴こえてくるのはあの日、歌が嫌いだと言っていたミキの声。
普段のあいつを見ていたら驚いてしまうくらい優しく、包み込むような歌が聴こえてくる。子守唄なのか…僕は歌はあまり聞かなかったから詳しくはわからないが、それでも十分以上に良い歌だと思った。
そして聞いている内に全身が熱くなってくるのを感じる。
先程まで聞こえていなかった、ドクン、ドクンという心臓の音も聞こえてきた。僕はもしかしなくても死んでいたのだろうか。この状態でも見えるシステムメッセージを見る限り…僕は死んでいたのだろうな。
ミキのお陰か、運が良かったのか…よくわからないが今僕は生きている。
思い出せ…僕はさっきまで何をしていた。
そうだ、僕は。
僕は―
「ヤスオ…………いい加減、起きろよおおおおおおおおおおおっ!!!」
皆を、護らないと―!!
そして、いい加減起きろ、か。
「言われるまでもねぇっ!!」
全身が軽くなり、僕はその場に立ち上がる。
目の前には襲い掛かってくる衝撃破。目の前に腕を突き出しいつもの様に防御魔法を唱える。
「【土壁】!! 【風壁】!!」
せり上がってくる土の壁とその前に展開される風の壁。
それが効かない事などわかりきっているが、それでも威力を弱める事は可能だ。風を散らし土の壁を砕いた衝撃破が僕の身体に直撃する。
両手を交差させ出来る限りダメージを減らす様な耐性を取る。
一発二発三発と凄まじい衝撃と激痛が僕を襲うが、先程の防御も何もしなかった状態ではなく完全に防御耐性を取っている今なら、大ダメージを受けたとしても、死ぬ事はない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
四発目の衝撃破も受けきりその場に立つ。
先程から回復魔法のような効果が僕のHPを回復させているので、あちこち痛い…というかめちゃくちゃ痛いが問題なくミキをカバー出来た。
「よぉ、ミキ。お前、歌手になった方がいいんじゃねぇの? 歌上手いじゃないか、嫌いとか言いながらさ」
涙をポロポロとこぼしているミキに敢えて軽口で答える。
そっちの方が僕達らしい。
「う、うっさい!! 生きてるなら返事しろぉっ!! バカヤスオぉ…!!」
袖口でぐしぐしと涙を吹きながら悪態をつくミキを見ていると自然と笑みが零れた。黒い騎士兜を装着しているせいで周りからは表情は見えないだろうが。
「心配かけた。皆が助けに来てくれるまではここは僕達で守り通す!! お前は後ろで応援頼んだぞ!!」
湧き上がる力のままに僕はケルベロスに向かって駆けて行く。
目の前では皆が立ち上がってケルベロスと対峙していた。良かった皆無事で。
「……ケルベロスからオルトロスになってるな」
目の前のケルベロスは3つの首が一つ切り落とされ2つになっていた。
直ぐ近くで僕を見て嬉しそうな顔をしているフィル君、彼の持っている槍から血が滴り落ちている所を見ると、もしかしなくても彼がやり遂げたんだろう。僕なんてダメージも与えられてるか分からなかったのに、流石だと思う。
全身には何本もの矢が刺さり、どうしてこれで生きているのか不思議な程だ。
足はどこも震えておらず、まっすぐ立っていると言う事はまだまだ余裕なんだろう。
「勝てるなんて思ってないさ…でも、皆が来るまでは二度と倒れてやるものか」
剣を構えいつでも動ける体勢を取る。
【ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!】
「っ!!」
ケルベロスが大地を何度も踏みしめ咆哮を上げた。
ビリビリと衝撃が伝い爆音が周囲に木霊する。カノン達全員がおもわず耳を塞いだ。僕は変身した時につけているフルフェイスが音を緩和してくれているのでまだ何とか大丈夫だが、これだけ間近に居て対応していなかったら鼓膜が破れるだろう。
―ケルベロスの【バインドボイス】!!
―ヤスオは抵抗した!!
―ミキはスタンした!!
―ノーヴァはスタンした!!
―アリスはスタンした!!
―フィルは抵抗した!!
一頻り吠えた後、ケルベロスが叫ぶ。
【フザケルナ……フザケルナ、フザケルナ! 巫山戯ルナアアアアアッ!】
憎しみが篭った声と言うのはまさに今のケルベロスの声を言うのだろうか。
意識をしっかり保っていないとその威圧感と恐怖で身が震えそうになるほどだ。
【ナンダソノ茶番ハ!! ソレダ…ソレガ我ヲ、我々ヲ殺シタノダ!! 許セルモノカ! 今度コソ、喰ライツクシテクレル!!】
「お前がどれだけ人間を恨んでるか知らない。知る訳がない…だから、だからこそ僕達がやる事はたった1つだけだ!!」
「おおよっ!! てめぇを釘付けにしてあいつらを待つ! そうだろヤスオ!!」
先程から湧き上がる力を僕は全て解放してケルベロスに特攻する。
「アルスさん達がここに来るまで!! 勝負だっ!! 【蓮華】えぇぇぇ!!」
全力で走り剣を思い切り振りかぶってケルベロスの前足に叩きつける。
トランスブーストによって強化された一撃は深くはないが、前足の鋼の様な体毛を切り裂き肉に食い込む。
同時に溢れる力のままに僕は技を叫ぶ。
「【三散華】あああっ!!」
切り裂いた反動などを利用しぐるりと一回転して斧を叩きつけるような要領で再び剣で前足を切り裂く。今度は更に深く肉を削いで行く。
だが、湧き上がる力はまだ僕の動きを止めはしない。
「そしてぇぇぇぇぇっ!!」
新しい力を開放する。
―連鎖発動!!
「おおおおおおおおおおおっ!! 【四奏蓮華】!!!」
―連鎖発動!! 【四奏蓮華】をひらめいた!!
―連鎖により、絶対命中!
―クリティカルヒット!! ケルベロスにダメージ!!
―ケルベロスにダメージ!!
―クリティカルヒット!! ケルベロスにダメージ!!
―クリティカルヒット!! ケルベロスにダメージ!!
―捕縛失敗! 麻痺抵抗!!
技名を叫び新しくひらめいた技を発動させた。身体がとても軽くなり、思い切り足を踏み込んで剣閃を走らせる。1アクションで同時に四回ケルベロスの足を切り刻んだ。
【オオオオオオオオオオオオオオッ!?】
立て続けに前足を切り裂かれ、流石にバランスを崩したケルベロスが前のめりに倒れこむ。僕達に絶好のチャンスが訪れた。




