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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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38-04 【絶望の中に響く唄】 Ⅱ


 清く澄んだ歌声が周囲に響き渡る。

 瘴気が渦巻き、誰もが倒れている中で場違いに清らかな音楽が。


 両手を胸の前で組みミキが唄う。響き渡れと、ヤスオに届けとばかりに自分の思い出の歌を唄う。


【壊レタカ。急ニ歌イダストハ】


 ケルベロスの目の前でただ歌い続けるその姿は滑稽でもあり、哀れさすら感じさせた。しかしモンスターは今歌っているミキのスキルを知らなかった。勿論ミキ自身そのような効果があるとは思っていない。ただ、今の現実が信じられなくて涙を流しながら歌を聞かせているだけに過ぎない。


 だが―奇跡というのは思いの外簡単に起こる様だ。



―ミキのシークレットスキル【奇跡の歌姫】発動!!

―即興や作り上げた歌を歌う事で様々な効果を敵味方全体に与える!

―【思い出の子守唄】を歌い始めた!

―味方全員の戦闘不能をHP残り3割で回復! 

―ターン毎に2割ずつにHPを回復!!

―【歌唱】ランクの間歌の効果が持続する! 残り3ターン


【………!? バカ…ナ……!?】


 ケルベロスが驚愕しその場を跳躍する。

 一瞬遅れて其処には複数の矢と黒い魔法弾、そして渾身の槍の一撃が突き刺さる。


【貴様等……何故!?】


 驚くのも無理は無いだろう。

 先程まで傷つき倒れ叫んでいた者達が立ち上がっていた。


 槍をぐるりと回転させ切っ先をケルベロスに突きつけるフィル。体中の傷や怪我が流れてくる歌によって急速に癒やされていく事に驚いたが、直ぐに立ち上がり戦線に復帰する。

 

 周りでは同じく回復したノーヴァやカノンが全力で攻撃をし続ける。一撃一撃は確かに弱いが、それでもミキを殺すには鬱陶しかった。


「これ以上やらせるかよ」


 ギラリと威圧を放ちながらフィルが喉から絞りだす様な声を出す。


「あいつが命を掛けて護ったんだ、ならダチの俺がその意志を継ぐ。勝てないまでも、せめて相打ってやる!! それまでは絶対に倒れねぇぞ!」


 ヤスオが死んだ事を悲しむのは後からでも出来ると、フィルは命を掛けてケルベロスを止め続ける事を選択した。きっとアルス達が皆を助けてくれるとしんじ、自分を投げ打つつもりで攻撃をしかける。


「おおおらああああっ! 【紅蓮貫】!!」


―フィルの攻撃!! 【紅蓮貫】を閃いた!!


 フィルの全身が紅蓮の炎を纏っていく。

 弾丸の様なスピードでケルベロスに特攻する。


【ッ!! 小賢シイッ!!】


 フィルの攻撃をギリギリで回避するケルベロス。

 この身体はあくまでも分身体、その実力は本体より大きく劣る。フィルの攻撃力はケルベロスにとってそこまで高いものではないが、先程の一撃を喰らえば多少のダメージは受けてしまうと判断したらしい。


 だが、ケルベロスが戦っている相手はフィルだけではない。

 着地した瞬間、胴体に鈍い衝撃と力が抜けるような感覚を感じ少しだけ蹌踉めく。直ぐに痛みを感じた方角を一つの首で見回すと、そこには次の魔法を準備しているカノンがいる。


 薄汚れた衣服を正す時間も惜しいとばかりにカノンは黒い魔力弾を再び唱え始めた。


 ……

「ミキ。貴女の力、確かに受け取ったわ。行くわよ!! 全員全力攻撃開始!! 【黒淵弾】!」


―カノンは【黒淵弾】を唱えた!!

―ケルベロスにダメージ!! 攻撃力が1段階減少! 


【グウウウウウッ! 雑魚共ガ、調子ニ乗リ始メタカ…!!】


 何十発もの魔力弾を回避し掻い潜るが、胴体や首元、足元に狙ったかのように矢が襲いかかり突き刺さっていく。ノーヴァもまた回復し、雨霰の用に矢の雨を振らせていた。


【ガアアアアアアアアッ!!】


 その内の1本がケルベロスの左の頭部の目を射抜いた。

 如何に強固とはいえ、目までも硬いという訳はない深々と突き刺さりケルベロスが怯む。


「隙だらけだあああっ! ぶち抜け!! 【ファイナルブレイク】!!」


【…チィィィ!?】


 全力で駆け飛び上がるフィル。

 スキルを発動し、流星の様に槍を構えてケルベロス向かって技を繰り出す。


「その首一本貰ったああああああっ! 【紅蓮貫】!!」


 動く事が出来ないケルベロスの左の首向かって槍を突き刺す。

 先程は止められた槍の一撃だが、持っている全てのスキルを発動し、更にはファイナルブレイクも使った一撃は。


【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?】


 見事に首をもぎ取った。

 赤い血飛沫が噴水の様に溢れるが、それでもケルベロスは生きている。この程度で死ぬほど目の前の存在は弱くはない。


【オノレ……! 人間オ得意ノ、絆ノ力カアアアアッ!】


 全身の筋肉を固め、溢れる血を止めるケルベロス。

 深手を負ったが、HPとしてはまだ半分も減ってはいない。


「はぁ……! はぁ…! ざまぁみろ…!!」


 荒い息をつくフィル。

 そのフィルを歌声が癒していく。直ぐに立ち上がり再び周囲を駆けまわった。


「見事だよフィル。そして、神様も気前がいい」


 矢を番えその場で止まっているケルベロスを見抜くノーヴァ。

 体中から湧き上がってくる力を、言葉と共に開放する。


「雨の様に…射抜け! 【絶五月雨】!!」


―ノーヴァの攻撃!! 【絶五月雨】をひらめいた!


 ケルベロスの上空に向かって矢を放つ。

 まっすぐにケルベロスの真上まで矢が辿り着くと強く発光し豪雨の様に矢の雨をケルベロスに振らせた。上空から弓で射抜いた様なスピードで何十何百と矢が降り注ぐ。


【グウウウッ!! 舐メルナヨ……人間ガアアアアッ!】


 矢の雨弾が突き刺さる中、咆哮し立ち上がって前足を振りかぶる。


「っ! 【連操魂】!!」


 すかさずカノンが魔法を唱え周囲にあった石などを操ってミキの前に移動させようとするが、それよりも早くケルベロスが技を繰り出した。


【貴様ガ死ネバ、全テガ終ワル!! 消エロ!!】


―ケルベロスの攻撃!! 【遠双連牙】発動!! 


 繰り出される死の刃がミキに襲いかかる。

 

「ヤスオ…………」


 恐怖があった、それでもミキはそこを動かない。


「いい加減、起きろよおおおおおおおおおおおっ!!!」


 







「言われるまでもねぇっ!!」


 皆がいつも聞いている声が響いた―



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