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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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38-01 【絶望的な戦い】 Ⅰ


「ここは……っ!!」


 ズキンと全身が痛み思わず肩を抑えこむ。

 さっきまでアルスさんと一緒に探索をしていて……痛みや何やらで上手く思考が纏まらない。クラクラする頭を無理やり押さえつけ自分に治癒を掛け現状を認識していく。


 そう…そうだ、こうなる直前イクスさんが叫んで、その後巨大な壁が……


「!! 皆!?」


 自分達が攻撃を受けたことを思い出して直ぐに立ち上がる。

 ボケた頭で自身に治癒を使ったお陰か、痛みはさして残っていない。周囲をキョロキョロと見回すと、あちこちに皆が倒れていた。

 カノンとノーヴァ君は同じく気がついたようで、ゆっくりと立ち上がろうとしている。その近くではフィル君が倒れていて、ミキは気を失っているようだ。


「ヤスオさん気をつけて。敵が近くにいるわ」


 カノンが痛みを抑えながらも立ち上がり魔道書を開いて攻撃の体勢を取る。


「わ、分かった! ノーヴァ君、フィル君とミキを頼む! 前衛は僕が!」


「……ふぅ。了解したよ」


 自前のポーションを飲みきりガラス瓶をその辺に投げつつフィル君達の介抱に向う。二人共呼吸はしているから死んではいないと思うが、どれだけダメージを受けているか心配だ。直ぐに回復魔法を掛けて上げたいが、カノンの言う通り此方を射抜くような気配がずっと僕達を襲っている。


 殺気だ…僕達を殺そうと何かが近くに居るのがはっきりと分かる。

 普通のモンスターが発している気配や殺気など比べ物にならない、重圧すら感じさせる重苦しい殺気が僕達を襲っている。


「……どこ、だ。どこに居る?」


 感じる気配の方向まではわからず周囲をキョロキョロと見回しながらいつでも動けるように剣を抜く。


 もしボスモンスターだったとしたら、僕達で勝てるかどうかわからない。アルスさん達と離れ離れになってしまったのはとても痛い。


「ヤスオっ! 木の上だ!! 真上を見ろっ!」


「フィル君!? んなっ!?」


 ノーヴァ君に介抱されたフィル君が気がついた様だ。

 そして何かに気づいて僕にモンスターが居る方向を大声で伝えてくれる。

 

 すかさず上を振り向くと其処には異形のモンスターがいた。

 初めて見るモンスターだが、その姿は僕が地球で何度も見た事があるモンスターそのままだった。


 大きさはブラウンベアーより大きく、全身を黒い体毛で覆われた獣のモンスター。一目見て嫌でも目につく【3つの首】が此方を射抜くように見ている。それは僕でも知っている日本のゲームやアニメ、漫画などで大体メジャーなモンスター。


「ケルベロ…ス…!?」


【ホゥ………雑魚ガ我ガ名ヲ知ッテイルカ】

 

 男とも女とも、いや機械の様な周囲から聴こえてくる耳障りな声が僕の呟きに反応する。ケルベロスは気の上から軽やかに跳躍し僕達、いや僕の目の前に立ち塞がる。目の前で見ると更に大きく感じる。大型犬とかそういうレベルではない。大きさ的には軽ワゴン車と同じ位ある程だ。


「お、お前がボスか…!」


【……………………アァ】


 僕を睨みつけていたケルベロスが暫く置いてゆっくりと答える。

 何故かモンスターは皆には目もくれず僕だけを見ていた。


【…雑魚ガ群レテ死ニニ来タカ。人間ドモ】


 先ほどまでの様子と切り替わって寒気がするほど冷たい声が響く。

 この前ダンジョンで出会ったボスモンスターとは何かが決定的に違う感じがした。

 

 いやそれよりもまずい事になった事を考えなくては。

 ボスモンスターを倒すのはアルスさん達の役目で僕達は後方支援が役目だと言われていた。どう考えても今の僕達では目の前のモンスターに勝てる可能性は低いだろう…こいつがブラウンベアーより弱い訳が無い。


 剣を握る腕が微かに震えているのが分かる。

 恐怖が、僕を襲っていた。


【何ニセヨ、貴様等人間ハ我ガ滅ボス。我等ノ怒リ、憎シミ…! 復讐ノ為ニ、マズハ貴様等ヲ噛ミ殺シテヤロウ!!】


「っ!! 全員無理に攻撃するな! アルスさん達の応援が来るまで持ちこたえることを考えるんだ!!」


「わ、分かったぁ!!」


 後ろでポーションを使っていたフィル君が槍を構えて前衛に飛び出してくる。


「ヤスオ! ミキは生きてるけど今は使い物になんねぇ。守りながら戦うぞっ!」


「何が………」


 後ろではミキがうずくまりながら痛い痛いと泣いている姿が見えた。

 どうやらさっきの攻撃とこの殺気で混乱しているんだろう。確かにあれでは戦う以前の問題だ。そもそもレベル的にはまだ低いし戦うタイプじゃない。更に言えば戦闘時のメンタルも決して高いとは言えない。


「カノン。ミキを頼むよ」


「解ったわ。気をつけてヤスオさん」


 カノンの言葉にコクリと頷いて僕はショートソードと盾を構える。

 僕達の戦いは、アルスさん達がやってくるまで誰ひとりとして死なない事だ。守る戦いが出来ない訳じゃないが、目の前のケルベロス相手にどこまで行けるかは予想もつかない。それでも……依頼を受けてここにいる以上は泣き言を言うつもりはなかった。


「アルスさん達が来るまで持ち堪えるぞ! 皆誰一人として死ぬな!!」


「おぉっ! 任せておけヤスオ!」 


 フィル君が吠え、後ろは一歩も通さないとばかりに槍を構える。

 

【フン……生カシテ帰サン!! 人間ハ全テ、皆殺シダアアアアアアアッ!】


 

 僕達の生き残るための戦いが始まった。






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