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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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37-04 【死闘!! 地獄の番犬】 Ⅳ

【オオオオオオオオオオオオオオオン!!】


 高らかに吠え大きく息を吸い込むケルベロス。

 今までとは違う攻撃パターンに確実な死を予見したアルスが思い切り叫ぶ。


「オッター! 防御魔法を! アリー直ぐに俺に防壁の魔法をかけてくれ! 終わったら全員、俺の後ろに入りこめぇ!」


 そう言うや否やアルスは持っていた盾を地面深く突き刺し防御の構えを取る。直ぐにアリーが聖属性の防御魔法【大聖防壁】を唱えアルスの防御力を更に強化する。



―アリーセは【大聖防壁】を唱えた!

―アルスは【5T】の間、防御力ランク+1上昇!

―防御力【+50】上昇。魔法軽減【25%】上昇!



「アルス!」


 魔法を唱え終わり直ぐにアルスの後ろに回りこむアリー。

 ティルやアリアオロ達も全員が言われるままに彼の後ろで防御姿勢を取っている。


「十分だっ! 絶対其処から動くなよ!」


「こりゃ、逃げた所をブレスで焼かれるね」


 逃げると言う手段も確かにあるが、そうすればヤスオ達を助けに行く時間を更に失ってしまう。それでなくても戦いはすでに数分間ほど過ぎ去っている。強敵との戦いで1分以上立つと言うのは、下手すればすでに戦いが終わっている可能性すらあった。ケルベロスの分身とは言え、目の前のモンスターが少し弱くなった位では今のヤスオ達は手も足も出ないで殺されるだろう。


「口から火が漏れてない……もしや、【破滅のブレス】…!」


「だろうな、ボスとは言え中級クラスに出てくるモンスターが使っていい攻撃じゃねぇ」


 モンスターが使うブレスには様々な属性、種類があるが。その中でも単純に威力だけを重視した物理属性のブレスがある。

 その中でも上級に位置するのが【破滅のブレス】になる。使ってくるモンスターは大体がドラゴンなどの上位モンスターのみであり、その威力は一番弱いフォトンブレスですら、レベル10程度の冒険者など一撃でミンチに変えてしまうだけの質量を叩き込む一撃になる。


「フォトンブレスは前にレッサードラゴンから受けて、ギリギリ死ななかった…あれからレベルも上がったし、防御魔法で固めに固めた…後はオッターの防壁魔法の力を借りる」


「おまかせを、全力でお守りしますぞ」


「二人共!! 来るよ!!」


 ケルベロスの唯一動いている両の瞳がアルス達を捉える。


【死ィィィィィ…ネェェェェェエエエエエエエエエエ!!】


 その叫びと共に白いブレスが地面や辺りを破砕しながら猛スピードで襲いかかる。


―ケルベロスの攻撃!! 【破滅のブレス】発動!!


 一直線に周りにある全てを薙ぎ倒し打ち崩しながら死の吐息がアルスを襲う、その瞬間に巨大な鋼の壁と空気の壁が破滅のブレスを抑えこむ。


「【土硬鋼壁】!! 並びに【風拒絶壁】!!」


 オッターが軽減魔法を唱えブレスの直撃を防ぐ。

 しかし―


「う、うそぉ!?」


 イクスが素っ頓狂な声を上げる。

 あっという間に風が散らされ鉄壁を誇る鋼の壁をあっさりと砕き散らし、多少弱まっただけの暴威が全員を護っているアルスの盾に直撃した。


「がっ!! がああああああああああああああああっ!!」


 少しでも気を抜けばはじけ飛びそうになる衝撃と重みを気合だけで防いでいく。城塞防御のバリアによってブレスはアルスだけを襲うが、ここで吹き飛ばされてしまえば流石に後ろに居る全員にもブレスが命中する。今はまだバリアの効果で彼等に一切の衝撃は来ていないが、アルスが防ぎきれなければティル達は確実に一撃で死ぬだろう。


 防御魔法で強化されている筈の鎧と肉体をまるでミキサーの様に荒々しく切り刻んでいく。大地をしっかりと踏みしめ地面に突き刺した盾を頼りにその場から一歩も動かずに攻撃を耐えるが、彼のHPはドンドン削れていく。


「ち…くしょう…がああああああっ!」


 獣の様な咆哮を上げるアルス。

 同時に、徐々にだが勢いが弱くなっていくのを感じた。


「そっか! ブレスだから息継ぎしなきゃだし弱くなるのは当然だお! アルス! もうひと踏ん張り!!」


 炎にしろ物理にしろブレスと言うのは吐息である。

 つまり息を吐きつづける事は生物である以上不可能に近い。それはモンスターでも同じだ。


「おおおおおおっ!!」


 全身全霊を込めてその場に立ち続けるアルス。

 そしてついに破滅のブレスを退けた。


「いよっしゃ………!? アルス君!!」


「はぁ……はぁ…マジか…あの獣野郎」


 荒い息をつき何とか攻撃を防ぎきったアルスだが、目の前の光景を見て信じられないとばかりに悪態をつく。 

 其処には再び大きく息を吸い込んでいるケルベロスの姿があった。


【ヨク防イダ、人間ヲ褒メル気ハナイガ…認メテヤロウ!! ダガ! 次ハ耐エキレルカナ!!】


「まずい…! こうなりゃボクがっ!」


「ティル!? 駄目だもどれっ!」


 やられる前にやるとばかりに両手から炎を生み出すティル。

 魔法とブレスの打ち合いでは勝てる要素が無いので、ケルベロスがブレスを放つ前に焼き殺すしかないと考えたのだ。


(……本当はまだ使いたくは無いけど、やるしかないおね…ヤスオもアルス達も、死なせはしないおっ!)


「【マジックフォ―」


【遅イ!! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!】


 ティルが魔法を使うよりも早く、ケルベロスが再び【破滅のブレス】を発動させた。


「ティ!! ティルゥゥゥ!!」


 ブレスを防いだ代償にまだ動く事が出来ないアルスが叫ぶ。

 ゆっくりとスローモーションの様に見え、ティルを飲み込もうとしていた。


「っ!! ………??」


 襲いかかる死の衝撃に流石のティルも目を瞑る。

 だが、予想していた痛みはまったく訪れず、目の前で何かがぶつかった轟音が響き思わす目を開ける。


 其処には―


 目の前に突如として現れた黒く巨大な門が破滅のブレスを正面から受け止めていた。


「何だあれは……」


 破滅のブレスが直撃しているのに全く微動だにしない巨大な門。

 それ所が徐々に閉まっていた門がブレスによって押し出されているのにゆっくりと開いていく。


「………虚無……の……門」


「アリアオロ氏…?」


 ぼそりと呟くのは後ろで巨大な鍵の様な杖を門に向かって突き付けていたアリアオロだった。

 

「これは君が?」


「……ん……」


 アリーの言葉にコクンと頷くアリアオロ。

 今発動させたスキルは、いつもヤスオ達が利用している【転移の門】ではなく、あらゆる全てを無効化する【虚無の門】を展開している。

 これらのスキルは使おうと思えばいつでも使える特殊なスキルだが、1日に使用出来る回数はたったの1回なので、使い所が難しい。アリアオロの使える門の中では比較的使いやすい物で、相手の攻撃を1回だけ無効化出来る強力なスキルだ。


【何ダ…ト…!!】


 驚愕するケルベロスを他所に、虚無の門はドンドン開いていく。

 その門の向こうは全てを塗り潰すかの様な漆黒の闇が延々と続いている。


「……攻撃……する…………【殺戮の門】……展…開……」


 アリアオロがスキルを発動させる。

 破滅のブレスを完全に受けきった虚無の門が開き、あっと言う間に姿形が変わっていく。


「何と……」


 先程まで漆黒の色だった虚無の門は真っ赤な血の色をした殺戮の門へと姿を変える。開ききった門の中も血で塗り固めたかの様な見ただけで精神に異常をきたしそうな色に変化していた。


「………いけ……」


 アリアオロが言葉を紡ぐと、その門の中から真紅の触手の様な物が無数に飛び出しケルベロスに向かって襲いかかる。


【ウウウウウウウッ!! 小賢シイ!!】


 首を狙おうとしている触手を前足で切り裂くと、血の様な液体が飛び散りケルベロスに降り注いだ。同時に焼き付くような激痛と悪臭を感じる。


 降り注いだ血の様な物はとても強力な溶解液らしく、周囲をみるみるうちに溶かしていく。


【チィ!! 斬ルノハ悪手カ!! グッ!!】


 襲い来る触手の危険性を察知したケルベロスが攻撃を中断し回避する為に動くが何十、何百と襲いかかる鞭の様な一撃を打ち据えていく。


【ガアアアアアッ!!】


―ケルベロスの攻撃!! 【灼熱のブレス】発動!!

―殺戮の門の触手を焼き払った!!


 それならばと直ぐに使える灼熱のブレスで焼き払う。今度は溶解液も溢れず一瞬で炭化したが、門からますます増えていく触手全てを焼き払うのは流石に骨が折れるだろう。


「……今……魔法……攻撃………し…て……?」


「アリア…りょーかい! お姉ちゃんに任せなさい!!」


 ケルベロスが門の攻撃に釘付けになっている。

 攻撃するなら今しかないと、アリアオロは上手くしゃべれない口を何とか動かしてティルに告げる。

 

「今使わずにいつ使う! お姉ちゃんの本気が見るが良いお!! 【マジックフォージ】! 【ヘキサグラムマジック】!!」


 両手を左右に伸ばしゆっくりと目の前に動かす。

 周囲から赤い魔法のオーラが巻き起こりティルの目の前の6つの小さな魔法陣が六角形を作りながら展開される。

 2つある切り札の内、切っても問題ない方のスキルを彼女は開放する。

 両手を下と上の魔法陣に当て、魔力を込め次に右下と左上の魔法陣に同じく魔力を込める、そして最後に右上と左下の魔法陣に魔力を込め彼女は魔法を展開させた。 


「第一画 焦熱火炎」


 ティルが魔力を込め呟く度に魔法陣に光が宿る。


「第二画 極大爆裂 第三画 闇槍魔破 第四画 黒淵魔弾」


 彼女の周囲が莫大な魔力により振動していく。

 発動する前から発する熱気が周りを焼き焦がす。


「第五画 豪炎火球 第六画 炎滅流弾!! さぁ、いっちょ盛大に燃え盛れぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 爆炎が豪炎が黒い魔力破が次々にケルベロスに着弾する。


【ガアアアアアアアアアアッ!!? オノレ!! オノレオノレオノレェェエエエ! 人間ガアアアアアアアアアッ!!】


 ケルベロスの肉体を焼き焦がし、爆発させ、闇の魔力弾と槍が貫いていく。衝撃によって動く事の出来ない肉体に向かって、殺戮の門から飛び出した触手達が一斉にはじけ飛び溶解液の雨を降らせ体毛を皮を肉を焼き溶かす。


【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!】


 断末魔の叫び声を上げ、のたうち回るケルベロス。

 徐々にその動きは弱くなり、全く動かなくなる……そして、先程までの存在感すら霞むように、ゆっくりと消えていった。




―殺戮の門発動!! ケルベロスにダメージ!!

―ティルのヘクサグラムマジック!!

―ケルベロスに合計6HIT!! ケルベロスを倒した!!




 ケルベロスが消えた場所をじっと睨みつけるアルス。

 ボスモンスターの中には、倒した後直ぐに復活するタイプも居る事がある。もし復活したことに気づかずに動いてしまえば、どうなるかは予想もつくだろう。1分、2分と時間を掛けアルスは盾を引き抜いた。


「復活は……しないな。アリー、直ぐに皆の回復を。イクスはMPポーションを頼む! 直ぐにヤスオ達を助けに行くぞ!」


「了解。安心するにはまだ早い、ね」


「急がないとヤスオが危ないお!!」


「……ん……急ぐ……」


「待ってろよ、ヤスオ。俺達がつくまで死ぬんじゃないぞ…!」


 軽い応急手当を終えアルス達はヤスオ達が吹き飛ばされた方向向かって走りだした。




―戦闘終了!!

―全員に経験値配布!! 

―アルスはレベルが上がった! ティルはレベルが上がった! 

―アリーセはレベルが上がった! オッターはレベルが上がった!!


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