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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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37-03 【死闘!! 地獄の番犬】 Ⅲ


 ティルとアリアオロの最大魔法がケルベロスに直撃する。

 ティルの火炎魔法と闇魔法によって凄まじい爆炎が巻き起こり、同時に周囲を一気に焼き焦がしていく。更に怨嗟の声を上げる黒い魂の弾丸が次々に爆発の中にすいこまれていった。

 

「お前等気を緩めるな…? この程度で死ぬならボスなんてやってない」


 油断無く盾を構えるアルス、他のメンバーもこれで倒せるとは思っておらず直ぐ動ける様に体勢を整えていく。このまま爆炎の中心に向かって魔法を唱えれば追撃出来る可能性もあるが、ケルベロスが既に移動していたらMPが無意味に消費される上に隙が出来た所を狙われる可能性がある。


 アルスの展開している防御技【城塞防御】は自らの【運】の高さによって対応できる範囲が決まっている。高ければ高いほど全体防御としての性能が高くなり、防御力も上がる技だが、運の数値が低ければ守り切れない部分がどうしても出来てしまう。彼の運の数値は4、十分に高い数値だがこの技は運の数値が5あって漸く十全の効果を発揮できる。つまり今の彼の防御力と範囲ではどうしても全てを護れないのだ。


 そんな所に隙だらけの様子を見せてしまえば確実に狙われる以上、畳み掛けるより、安定して攻撃を重ねていく方が安全だ。


「あれで多少なりとも削った筈だが……どう出てくる…」


 轟々と燃え上がる火炎の中、燃え盛る炎の音以外何も聞こえてこない。

 ティルの最大火力は火炎魔法なので、こうして爆炎で敵を消してしまう所が唯一の欠点だった。


「………! アルス君! 来るぞっ!?」


「っ!」


 イクスが咄嗟に叫んだその瞬間、既にケルベロスはアルスの目の前にまで飛びかかってきていた。あまりにも一瞬過ぎるそのスピードに彼は動く事ができず、唯一思いきり盾を握りしめる事だけしか出来ない。


【遅イワァァァァァ!! 【極無限双牙】!!】


 ケルベロスの巨大な前足から長く巨大な爪が一瞬にして現れ、縦横無尽にアルスを切り裂こうと襲いかかる。器用に後ろ足だけで立ち上がり両前足をまるで腕の様に器用にバツ印を刻む様に叩きつけていく。


「ぐうううううう!?」


 一撃一撃がとても重くそして鋭い。

 頑丈な盾と展開されているバリアが傷つき歪む程の連撃がアルスの体力と生命力を削り取っていく。城塞防御のバリアは【味方への攻撃を自分に寄せる】という異質なバリアの為、アルス自身を攻撃する時にはバリアは意味など無く純粋に彼自身の防御力で凌ぐしか無い。


 一瞬過ぎる攻撃にオッターも防御魔法を展開する時間は無く、アルスのその様は大型獣に弄ばれる小さな子供の様だ。


―アルスに12回HIT!! 

―アルスに致命的なダメージ!!


「ちぃぃっ!」


「アルス!? 今回復魔法を!」


 直ぐにアリーが回復魔法を唱えようと手を翳す。


【甘イワ! コレデシネ!! 【極無限双牙】!!】


 それよりも先に再びケルベロスが爪を振り下ろす。

 既に先ほどの攻撃で満身創痍になっているアルスは動く事が出来ずその場に力なく片膝をついている。盾と剣を杖代わりにして漸くその状態な彼に次の攻撃を防ぐ力は無く、無情にもその爪はアルスを―


「させません!! 【邪換陣】!!」


 切り刻むその瞬間にオッターが割り込みを掛け魔法を発動する。

 その間にもケルベロスの連続攻撃はアルスを襲っているのだが、不思議な事にその攻撃はアルスを全てすり抜けていた。


「アルスーー!? え…?」


「オ…オッター…!? あんた!?」


 目の前で攻撃を受けている筈のアルス自身驚愕していたが、先ほど聞こえてオッターの声がした方を向くと、彼の全身が何も攻撃を受けていないのに切り裂かれ血が飛び散っていた。


―オッターの【割り込み】!! 【邪換陣】を唱えた!!

―味方への攻撃を、全て自分に転換する!!

―オッターに12回HIT!! 

―オッターに即死ダメージ!!

―オッターは食いしばった!!


 邪属性魔法【邪換陣】は呪いの一種であり、対象の攻撃を自身に転換させる魔法である。自らに全てのダメージを移動させるという特殊な魔法であり、この魔法を用いてアルスが受ける筈の全てのダメージをオッターが代わりに引き受けていた。

 彼は一度限りHPがマイナスになるほどのダメージを受けても1だけ残して食いしばれるというスキルを持っている為、今確実に死ぬ可能性があるアルスに変わってダメージを引き受けたのだ。だが―


「ご、ふっ……」


 ファイターでありタンク…ディフェンダーの役割を担うアルスが一撃でほぼ戦闘不能になるダメージをメイジである彼が引き受けたその反動は凄まじく、全身がズタズタになり、至る所から血を吹き出し意識が途絶えそうになる。


【一度ハ凌イダトハ言エ、次ハ無イゾ!!】


 ケルベロスにとってはただの一時しのぎでしかない。寧ろ勝手にもう一人死にかけた分やりやすいと、今度こそ確実にアルスに止めを指す為前足を振り上げる。


【死ィ……ッガ!? ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!】


 その瞬間。

 ケルベロスの内部から全身にかけて切り刻まれた様な激痛が走りそのまま仰向けに転がり込んでしまう。それを再びあっけに取られた様な表情で見ているアルス。


「……邪属性は、様々な呪いを与える属性……先ほどの痛み、数倍にさせて…返させて貰い、ましたぞ…!!」


 全身血まみれになっているオッターだが、その目はしっかりとモンスターをみつめていた。


【ギイイイイッ!? マタ! マタ貴様カァアアア!?】


 痛みでのたうち回るケルベロスを尻目に、十分な回復する時間を得たアリーとイクスが回復魔法やハイポーションなどをアルスとオッターに使用する。


「ありゃ、一体どうなってるんだい?」


 ケルベロスが何故いきなり倒れこんだ理由を回復し立ち上がったオッターに尋ねるイクス。

 回復魔法とハイポーションでの治療を受け重傷状態から立ち上がった彼がずれたメガネを直しながらその問に答えた。


「邪属性魔法には、自らにダメージを転換させる魔法の他に、自らが受けたダメージを相手に同じだけ、魔法のランクによっては数倍の威力にして跳ね返す魔法があるのです。【邪連還痛】自ら受けたダメージを【3倍】にして相手にも与える呪いですぞ」


「オッターさん…とんでもないね、あんた」


 胃薬煙草の煙を吐き出しながら改めて目の前のメイジの恐ろしさを垣間見た。


「それに耐え切るだけの生命力や、ダメージを受けて動ける気力がなければ使えません、今回は上手く嵌ってくれたようですな。それに…毒も浸透しているようですぞ」


「助かったよ、オッター。アリー悪いが防御魔法を掛けてくれ、今度はあれを防ぎきってやる」


「うん、無理はしないでね」


 アルスに聖属性の防御魔法を追加で掛ける。

 防御技にオッターとアリーの防御魔法を受け、現時点で最高の防御力を得たアルスだが、それでもケルベロスの一撃を耐え切れるかは難しいと考えていた。


「ったく、まだまだ中級じゃきついってことか」


【オオオオオオオオオオオオオオン!! 人間ガアアアアア! 喰ライ尽クシテヤルウウウウウウッ!!】


 激痛に苛まれながらゆっくりと起き上がりアルス達を睨みつけるケルベロス。首の内2つは先ほどの反射ダメージでピクリとも動かず、唯一動いている顔からも血がどんどんと溢れている。

 再生能力を猛毒で消され、全身を焼かれ闇魔法と邪魔法で貫かれた肉体はそれでも力強く大地を踏みしめる。


【我ガ復讐ノ為ニ……!! 我ガココデ死ヌ訳ニハ…イカンノダアアアアッ!】


「っ!!」


 けたたましい咆哮が周囲に響き渡る。

 鼓膜が破れそうな程の音量と、衝撃はその場で盾を構えていたアルス以外を軒並み吹き飛ばした。


「まだそんな余裕があるとはな…!」


【貴様トアノ魔法使イサエ死ネバ、後ハドウニデモナル…! コノママ先ニ貴様ヲ喰ライ殺シテヤルワァァァァァッ!!】


 ガクガクと震える足を地面に強く叩き付け、ケルベロスは跳躍した。


 

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