37-01 【死闘!! 地獄の番犬】 Ⅰ
ケルベロス戦闘開始です。
アルス達中級パーティvsケルベロス
アリアオロを除けばこの中に居る冒険者は全員中級クラス。
上級には及ばないとはいえ、冒険者としては十分以上の経験を積みレベルを上げてきた猛者達だが、それでも尚全身を走り抜ける死の予感と寒気を感じさせる目の前の巨大なモンスター。
三つ首の魔獣ケルベロス。
主に上位ダンジョンに生息するハウンド種の中でも最高ランクに属するモンスターであり、そのレベルは上級クラスの冒険者と同じ20レベルだ。生半可な実力ではそのすさまじい攻撃力に耐え切れず僅かな時間で殺される事もあるという。
「なんて強大な気配…こいつがダンジョンボスだね。低ランクに居ていいモンスターじゃないよ」
「彼等を助けに行く前に、我々はこのモンスターを倒すしかない様ですな。まさか分身体を作れるとは。くっ!! もう少し早く気付けていればっ!!」
弾き飛ばされたヤスオ達を心配するオッター。
彼等の実力は知っているが、目の前のボスモンスター。その分身体とはいえ、居間の彼等では荷が重い事は否が応でも理解できる。助けに行くためには目の前のケルベロスを倒していかなくてはならないが、そう簡単に倒せるモンスターではない。
「……早く……倒す…」
アリアオロの表情は先ほどと変わらない。
だが、いつもより口調が固く重かった。彼女にとってヤスオ達は大事な友人であり、大切な仲間なのだ。今自分が居ない所で大変な目にあっている可能性を考えるだけで、杖を握っている腕にいつも以上の力が入る。
そして―
「全くもってその通りだな!! アリー! ティル! 全員出し惜しみするな!
さっさと片付けてヤスオ達を助けに行くぞ!! イクスは後方で待機! 余裕があればポーションでも投げてくれ!」
「了解っ!!」
ケルベロスの威圧など物ともせず前衛に立つアルスが吠え、戦闘が始まった。
―戦闘開始!
「【アクセラレーター】!!」
最速行動を可能にするスキル【アクセラレーター】を使い誰よりも先に動くオッター。それと同時にもう一つのスキルを展開する。
「【エンサイクロペディア】!!」
―オッターの【エンサイクロペディア】!!
―対象1体のデータを解析する…!!
―1部のみ判明!! 弱点:聖 耐性:邪 無効:―
モンスターの基本データを一瞬にして読み取るスキルを用いるが、相手の力量が高すぎる為にほんの一部しか読み取る事が出来ない。オッターが用いる魔法はその全てが阻害魔法や補助魔法である為、状態異常が有効かどうかの有無を調べる事が出来なければ、戦力として半減してしまう。
「弱点は聖…ティル殿! 聖魔法は使えますかな!?」
「うぐっ。ボクは闇と火がメインなんだお…!」
「となれば、地道に削るしかありますまい。まずは堅めますぞ!【ダブルマジック】!! 【堅牢鋼鎧】!!」
―オッターの【ダブルマジック】!
―オッターは【堅牢鋼鎧】を唱えた!!
―【4T】の間、味方全体の防御が【+30】上昇!
―【風属性】ダメージを【100】軽減。
全員の物理防御力を底上げし、同時に背中のリュックに挟めていた魔法の杖と紙を展開しもう一つの魔法を発動させる。
「並びに【屍群魔手】!!」
―オッターは【屍群魔手】を唱えた!!
オッターが魔法を唱えた瞬間ケルベロスの周りを無数の手が地面から生えあがる。
【邪魔法カ…小賢シイ!!】
ケルベロスを掴みとろうする腕を雄々しく吠えたけただけで退ける。轟音により動けなくなった所に今度はケルベロスが三つの口から全てを焼きつくす様な炎のブレスを吐き出した!
―ケルベロスの攻撃!! 灼熱のブレス発動!!
「つっ! 全員耐えきれぇぇぇぇぇぇ!!」
咆哮によって行動を封じられたと同時にブレスが襲いかかり、オッターやアルスの防御魔法やカバー行動が取れず全員が灼熱の業火に覆われていくが、その中たった一人後方にいた事で咆哮を回避していたイクスが横っ飛びにアリアオロを掻っ攫う。
「間に…あぇえええええっ!」
アリアオロが居た場所にも紅蓮の火柱がほとばしった。もし其処にいればいかに魔法防御が高いアリアオロでも瀕死になっていた可能性が高いだろう。
イクスとアリアオロは勢いと止められずごろごろと転がっていくが、ダメージを受けることはなくその場で戦線復帰する。そして、業火に焼かれているアルス達は…
―アルスに小ダメージ!
―ティルに小ダメージ!
―オッターに中ダメージ!
―アリーセに中ダメージ!!
【ホゥ……流石ニコノ程度デハ話ニナラン、カ】
「おお、おおおおおおおおおおおおっ!!」
アルスが大剣を思い切り回転させ地面に叩きつける。
大剣が回転することによって生み出された風が、今尚アルス達を焼いていた火をロウソクの火とばかりに簡単に打ち消す。
「ったく、髪の毛焦げたらどうしてくれるんだお? この縦ロール時間がかかるのに」
「じゃあやめればいいのに」
炎の中から現れたアルス達は所々焦げ付いていたが、深いダメージを負うこと無くその場に立っていた。先ほどの火炎を全て魔法防御力を持って軽減させていたのだ、普通の人間ならば骨も残さず焼きつくす業火だが、彼等にとっては軽く吹きつけた灯火程度しかない。
「さぁ、これ以上貴様の好きにはさせん!! 【城塞防御】!!」
巨大な盾を片手で掲げ技を発動させる。
盾を中心に半透明なバリアが発生し、名実ともに城塞の様な防御力と範囲防御力を得る。弱点として効果中の間自身が攻撃できなくなるデメリットがあるが、アルスの役目は全員を護るタンク、攻撃はティルやアリアオロに任せるだけだった。
「続いていくよ! 【ワイドヒーラー】! 【大治癒】!!」
―アリーセの【ワイドヒーラー】!
―アリーセは【大治癒】を唱えた!! 味方全員のHPが回復!!
―全員全回復状態!!
癒しの光が拡散し、アルス達を一瞬で回復させる。
そして、その後ろでは怒りの形相で魔法を唱えているティルが居た。
「死にやがれこらぁ!! 【ダブルマジック】【マジックフォージ】!!」
右手に持つ魔法の杖【サイリス】がティルの魔力の波動を受け取りまばゆい光を放つ。それを片手でぐるりと一回転させ杖の先端をケルベロスに向け、必殺の意思を込めて魔法を放つ。
「【焦熱火炎】!! 【闇槍魔破】!!」
―ティルは【焦熱火炎】を唱えた!
―ティルは【闇槍魔破】を唱えた!
極光を放ち、先ほどの灼熱の業火すら超える豪炎と漆黒のエネルギーの槍がそれぞれケルベロス頭部に的中する。
頭部の一つが炎に包まれ、その反対側にあった頭部に漆黒の槍が突き刺さった――しかし。
【温イ!!】
「っ! ちっ、やっぱり火炎と闇は効きづらいかお」
ケルベロスが大げさに首を振るとまるでダメージが無いとばかりに立っていた・
―ケルベロスにダメージ!!
―ケルベロスにダメージ!!
システムメッセージにはケルベロスにダメージを与えたという表記がされているが、どれくらいのダメージを与えたかまでは表示されていない。これは強大なモンスターやボスモンスターに共通する事で、大体の目安であるダメージ表記がわからないという問題がある。つまり、ボスモンスターと闘う時だけは自分の目で、目の前のモンスターがどうなっているか確かめるしか無いのだ。
「ティルちゃんがいまだかつて無いレベルで切れてるなぁ。【ポーションピッチャー】」
アリアオロを助け離れていたイクスが直ぐに戦線に戻り、懐からポーションを取り出して投げつける。
―イクスの【ポーションピッチャー】!!
―ティルに魔力のポーション(最高級品)を投げつけた!
―ティルのMPが回復!! 残り10割
「さて…仕切りなおしだな。行くぞ、首が3つだけしか取り柄のないわんころ!!」
不敵な笑みを零しケルベロスを挑発する。
戦闘はまだ始まったばかりだ。
ダメージ表記
微小ダメージ:最大HPの1割以下
小ダメージ:最大HPの1割
中ダメージ:最大HPの2割
大ダメージ:最大HPの3割
絶大なダメージ:最大HPの4割
甚大なダメージ:最大HPの5~7割
致命的なダメージ:最大HPの8~9割
即死ダメージ:最大HPを超えるダメージ




