36-08 【大激戦へ向かう者達】 Ⅷ
―【餓狼の佇む魔道】跡地
子供位ならすっぽりと包み込む様な生い茂った草木が僕達の行く手を阻む。道中のモンスターを僕達で倒していきながら、ゆっくりと先に進んでいく。モンスターは幸いにして、一番強くてブラウンベアーだったので僕達でも問題なく対処出来ていた。
荷物を背負い直しミキを先頭にして警戒しながら進んでいく。
「うんうん、ヤスオも強くなってきたお♪ めっちゃ早かった!」
「あ、有難うございます」
我が事の様に喜んでくれるティルさん。
隣ではアルスさんもうんうんと頷いていた。
「あぁ、速剣使いとしては十分な攻撃力と速攻能力だ、もうちょっと頑張れば直ぐにでも中級にこれそうだな」
「他の子達も大体中級クラスだよね」
「……え…へん……」
アリーさんの隣で胸を張るアリアちゃんが微笑ましい。
今回のダンジョンアタック…ダンジョンにはなってないからこの場合はフィールドアタック? いやどうでもいいが、安心できる人達が近くにいると言うだけで心労をあまり感じないのがいいな。やはりリーダーとかをやるならメンバーのメンタルも安定させなくちゃいけないのだから、まだまだ頑張らないといけない。
「(見た目的にアルス君と同じ重装タイプだと思ってました。何アレめっちゃ疾いんですけど)いやほんとに楽だわ、ボスまでこの調子だと俺の役目消えそうなんですが…」
イクスさんが周囲を見回しながらゆっくりと歩いている。
「あんた中級だろ? あんたが警戒とかやれよ、私が疲れるんですけど」
「いや、ソッチのほうが感知は優秀だしね」
「ここでミキ様の優秀さが裏目に出たかっ!!」
人好きしそうな笑顔でミキに任せるイクスさん。
この人はエネミーの探知よりトラップ感知や解除、そっちの方が凄いらしい。その証拠に此処に来るまでの間、周囲に張り巡らされていたトラップを誰よりも早く見つけては一瞬で解除していく。その様子は手慣れた、とか習熟した、とかそういう次元じゃない、ちょっとおかしいよレベルの正確さと速さだった。
これだけできれば本人が戦えなくても重宝されそうなのだが。基本ステータスがあまりにも低いので守るメンバーが居ないと邪魔にしかならないとイクスさん自身が言っていた。更に言えばターン数が決まっているダンジョンでは戦いでもどんどんターン数が削られていく、ダメージソースになれない阻害系やイクスさんの様な探索特化は駄目だしを食らう事が多いそうだ。
そんなのじゃダンジョンに入ったら直ぐ死ぬだろうと思ったが、シーフの代わりになるマジックアイテムなどが複数存在し、それを使えばシーフ分の枠が余ると言うことで、色々悪循環だそうだ。アコライトは回復魔法が優秀なので逆によく誘われるらしい。
「ヤスオ氏もまた一層強くなられましたな、これは私もうかうかしておれませんぞ。ますます精進しなくては」
「………(まさかレベル17なんて分かるかってのよ)」
ミキがオッターさんの方を見てなんというか良くわからない表情を見せている。何かあったんだろうか?
「それにしても…ここは瘴気が濃いね、モンスターの攻撃も激しいしおそらくルナティック状態なんだろう。問題なくボスまで行ければいいのだけどね」
「まったくね。私達の役目はアルスさん達の護衛なのだし、手を煩わせる訳にはいかないわ」
「思った以上に移動しにくいのが問題だね、人間の手が入っていない分道を作るだけで一苦労だし」
この茂みの中では満足に闘うのも難しいから、移動するときは周囲の草木を薙ぎ払って道を作らないといけない。ダンジョンに来るまでより、ダンジョンに来てからのほうが時間を消費している気がする。
「そういえば、フィルは来なかったみたいだな」
「?? フィル君、ですか?」
ぽつりと言うアルスの言葉に振り返る。
「実はな、ファッツさんとハウルさんから話を聞かされてな。自警団のメンバーでヤスオとよく一緒に戦っているフィルって奴が来るかもしれないから、その時はヤスオのパーティの頭数にいれてやってほしいって言われたんだ」
「そ、そんな事が……でも、フィル君は自警団なので来ないんじゃ…?」
「いや、そうでもないよ。彼は少し前から悩んでいたようだしね」
「ノーヴァ君…?」
「自警団で町の皆を守るのと、冒険者として外の脅威から町を守る事…どちらも同じかもしれないと、彼は考えていたようだね」
フィル君がそんな事を考えていたのか…
確かに一緒に強くなるために頑張っていたからな、あの子は。
「もしかしたらこっちに向かってきてるかもね」
「もしそうだったとしたら……僕達のパーティに入れても良いでしょうか?」
「俺達は構わないさ、頼りになるメンバーが一人増えるってことは、探索も楽になるって事だからな」
サムズアップするアルスさん。
もしフィル君がこっちに来たら、迎え入れて上げようと思う。
「さて、進もうか」
僕達は道の開拓を続けながらボスが居る場所を探し始めた―




