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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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36-02 【大激戦へ向かう者達】 Ⅱ

 その日僕はいつも通り魔法の勉強をしていた。

 漸く最近幾つかの魔法を覚えられたんだけど、まだまだ使い方に悩んでる所だ。戦闘中指示をこなし、剣や槍で戦い、更に魔法まで使いこなすと云うのは流石に難しい所の話じゃない。


 魔法書を読みながら、戦闘のシミュレートを行いどのような場所で最適に使えるかと言うのを考えるだけでも結構な修練になるんだと最近よく思う。テーブルにあるお茶を飲み、一息ついていざもう少し勉強を、といった所でドアがドンドンと叩かれ、それに少し遅れて知った声が聞こえてきた。


 考えなくてもフィル君だとわかったが、彼にしては珍しいほどにドアを叩いてるのが気になった。直ぐにドアを開けると血相を変えたフィル君が居る。


「ヤスオ! すまねぇ、直ぐに自警団に来てくれ!」


「フィル君? 何が―」


 僕が何か言う前にフィル君が時間も惜しいとばかりに叫んだ。


「冒険者が! 町の人間が死んだ! フィールドでモンスターに殺されたんだ!」


「………!?」


 【殺された】

 その一言が僕の心に突き刺さった気がした。同時に一気に襲ってくる不安感、そして知り合いが死んだのかもしれないと言う恐怖が僕を蝕もうとしている。震えそうになる腕をぎゅっと握りしめ、何とか冷静さを保ちながらフィル君に問う。


「冒険者と、町の人…がかい?」


「あぁ、フィールドで殺されたらしい。こんな事になるなんてな…」


 フィールドで冒険者が死ぬ可能性は確かにある。なにせ僕自身死にかけたのだから冒険者にとっては日常茶飯事だろう。だが今回は、パーティを組んだそこそこ強いと言われている冒険者達が、依頼人である町の人を護りながらとは言え、全滅した……モンスターはフィールドでは大きな群れを作らない。だからこそ冒険者達は自分達にあった適正の場所でレベルを上げていく、今回の冒険者が無謀な真似をしたなら兎も角、更に言えば自警団がパトロールに回る町の近場でそうなったと言うのは、色々問題になるだろう。


「詳しい話は俺もまだわからないんだ、とりあえず知り合いの冒険者に片っ端から声かけてる。依頼になるだろうし……絶対何かあると思うからな」


 フィル君が落ち込んだような表情を見せる。

 それもそのはずだ、町の人が千人に満たない小さなこの町では町民が全員知り合い、家族以上の付き合いをしている。その町民がモンスターに殺されたならば、それこそ家族が殺されたのと同じ感覚だろう。勿論この町は冒険者の事も大事にしている、家族と友人に近い人達が死んだ様なものだ。


 僕も僕で町の人や冒険者が殺された事が悲しいと思っている自分がいる。この町に来て色々な町の人や冒険者と話す事が多くなった、今日からその人達の誰か…知っている顔に会えなくなるというのは、恐怖と虚無感を感じさせた。


「カノンやノーヴァ君、ミキ、アリアちゃんにはもう伝えに言ったのかい?」


「あぁ、アリアオロは俺とヤスオで迎えに行こうと思ってたんだ、カノン達は自警団の仲間に任せてる」


「それじゃ、迎えに行こう。アリアちゃんなら来てくれる筈だ」


 持っていくものはティルさんの財布だけあればいいだろう。

 戦いの依頼になるとしても、準備はあると思うしダンジョンアタックや外での狩りでも無いのにわざわざ装備を整えたいとは思わない。自分に一応【清潔】と【浄化】を掛け、二人でアリアちゃんの所に向かう事にした。







…………







―自警団会議室



 あれから直ぐにアリアちゃんも来てくれることになり、今僕達は自警団の会議室に来ている。周りにはカノンやミキを始め、カトル君やウォルクさんなど知り合いの冒険者が多数来ている、他の知らない冒険者もちらほら居るが、ハウルさんの話を聞いて誰もが鎮まり返っていた。



 人が死ぬ―

 実際死にかけた身だ、これ以上ないほど理解している。オッターさんに助けて貰ったから今こうして生きているだけで、本来なら僕もモンスターに殺されていた筈だ、それは自身で理解しているし納得している。だが…敢えて考えないようにしていた、何処かでその考えを避けていたのだ。


 いつかモンスターに誰かが、身内が、友人が殺されると言うことを。


「話は今伝えた通りだ。まだ完全に復活していないとはいえ、ダンジョンの再起動を放置しておけば次また誰かが死ぬ、それはまた冒険者かもしれないし、俺達町の人間かもしれない。そしてそれは確実に止めなければならないことだ」


「これまでのモンスター達が奇襲してくる、大群で攻めてくるってのはどうも、そのダンジョンを目指しているモンスターに運悪くかち合っただけの可能性がある、実際そう言われてみれば納得出来る所はねぇか? 俺は知り合いの冒険者とフィールドで狩りをしてた時に、そう言った場面に会ったことが何度かある。今までそんなこと殆どなかったのにだ」


 ファッツさんの言葉に、異口同音に頷いたり言葉を返す冒険者達。ここ最近のフィールドの狩りでは後列から奇襲される、5体を超えるモンスターが襲い掛かってくるなんてのはしょっちゅうだった。見に覚えのある人達もかなり多いだろう。大衆食堂に食べに言ったら冒険者が最近はおかしいとよく言っているのを何度も聞いたことがある。


 更に二人は説明を続けていく。

 しかし僕にはそれを上手く理解する事が出来なかった、頭が悪いとかそういう訳じゃなくて、話を聞けば聞くほど心にのしかかってくる重圧が僕の思考をぐちゃぐちゃにするからだ。


 今回死んだ人は僕が知らない冒険者と、町の人だった。


 死んだ人を汚すような考えだが、嫌な考えが頭を過る。


 【友人】が死ぬかもしれない、【尊敬する人】が死ぬかもしれない。冒険者をしている以上、カノンやミキ、アリアちゃん、カトル君達、ノーヴァ君…彼等が死ぬかもしれない…勿論僕も死ぬかもしれない、思考の迷路に嵌ってしまったようにグルグルとその考えが僕に絶望や恐怖を与えていく。


 働かない頭を無理やり動かし周りを見れば、皆が真剣になって話を聞いていた。自分より幼いフィル君ですら身を乗り出して聞いている。きっとこの現状を何とかしようと皆で話し合っているのだ。だけど、だけど…自分はそれが出来ないのだ。やはり自分は安全な国に住んでいた危険を知らない人間だったんだと、改めて気づいた。怖いのだ、死ぬのが。折角出来た友達が、仲間が死ぬのが。考えないようにしても、それが頭をちらつく。


 もし誰かが死んでしまったら、自分はどうなるのだろうか? 

 

 そればかりが頭の中をぐるぐると駆けまわり混乱していく。


 恐怖に思わず身体を抱きしめようとした時―


 不意にドアがノックされ、あの人達が此処に来た――






 

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