04-03 【強敵と死闘】 Ⅲ
森編もそろそろ中盤です。
少しずつ少しずつ前に進んでいます。
―翌日 明朝
準備万端整えて今僕は森の中を歩いている。
食料として干した肉も準備してある、水は無いけど…昨日作った槍も持ってきているがこれを実戦で使う予定は無い。探索中に小動物などを見つけたらそいつ相手に練習するつもりだ。流石に何の練習もしないで行き成りは使えない。
朝から勢い込んでウサギを探しているけど大体一時間程度は探し回っても影も形も見つからない、この世界でも物欲センサーなるものはばっちり起動している様だ。このままみつからないでテンションを落とした所に襲われたら怖いので常に警戒しながら森の中を進んでいく。
(でも少し歩いただけでモンスターと出会ってたら死んでるんだから、これはこれで仕方ないか。とりあえずはもう少し奥に進んでみるか…)
ガサガサと茂みの中を突き進み此方側がモンスターに見つからないように注意している。防具とかが無い現状出来る限りこっちが攻撃を受けない状況を作らないといけない。この茂みの中ならしゃがめば周囲からはかなり見えづらくなるから奇襲する側から言えばとてもありがたい。身体につく虫や蜘蛛の糸、雨粒が容赦なく僕に降り掛かってくるが気にしたものじゃない。
耳を澄ませ足音や唸り声を聞き分けていく…偶に動物の声や鳥の声は聞こえるけどモンスターの声は聞こえない。
(あのウサギ、戦ってる最中はおっかない叫び声をあげるけど普段は何も声を出さないんだよな…ハウンドは犬と同じ感じだから唸り声とかでも聞き分けられれば…)
癖になった一人会話を中止し頭の中で色々考えていく。
モンスター達と出会った時冷静に動けるか―
モンスターに奇襲されたら生きて帰れるのか―
逆にモンスターに奇襲できたらすぐに勝てるのか―
もしかしたら複数以上のモンスターが居て返り討ちに―
戦っている最中にモンスターが増えたら―
考えれば考えるほど良くない事ばかり頭に浮かんでいく。
元々ポジティブな性格ではないし前向きに考えられる要素があまりない。でもそれでも戦わないと永遠に森の中で生きることになってしまう、いや僕程度では後何ヶ月この生活を続けられるかわからない。モンスターに奇襲されてしまえばそれで終わりだ。ステータスを上げる方法がモンスターを倒して上げるという方法しか現状無い今、どれだけ怖くても恐ろしくても倒さなくちゃいけない。
(出来ないなら…死ぬだけだよ………っ!?)
自分の今いる方向の右側から音と声が聞こえた、背を縮め音を鳴らさない様に茂みの中を少し進む……
(……い、いたっ!?)
―ヤスオの隠密……成功!! 相手に気づかれていない!!
―ヤスオはハウンドを発見した!!
「…っ!!」
叫びそうになる口を両手で急いで塞ぐ。
心臓が一気にドクンドクンと鳴り響き背中から一気に寒気が襲ってくる。ショードソードを持つ右手がカタカタと震えていた。
ハウンド…ウサギより確実に強いであろうモンスター、それが直ぐ近くに居た。何とか此方には気づいていないようだがしきりに鼻を地面にこすりつけ周辺を探っていた、その様子に僕はハッと気づき自分の腰元に手を当てる。
(…あいつもしかして肉の匂いに気づいた!?)
なんて馬鹿で初歩的なミスをしたのか。
あいつらは前にも投げ込んだ肉めがけて襲いかかってきたじゃないか、それだけ食欲に飢えているモンスター、それもモンスターとはいえ犬なら鼻も効くはずだろうしこんな近くに干した肉なんて持ってきたら気付かれるに決まっている。
幸い今はまだなんとか気づかれていないが、バレてしまうのは時間の問題だ…
この状況であのハウンドから逃げる自信はない、あっという間に襲われて殺されるのが簡単に予想出来てしまう。
(…た、戦うしか無い。気づかれてない今の内にあの技を叩き込めればもしかしたら。逃げるのは多分無理、速さが上がる【先手】はほんの一瞬しか効果がないしそれが終われば後は僕自身が逃げるしか…前は逃げられたけど、いや…そうだ思い出せ自分、前あいつらと出会った時の事を…!)
持ってきた肉の所為でピンチになっていたが、考えを変えればこれがチャンスになるかもしれない―
震える身体を無理やり押さえつけショートソードを強く握りしめた。
今逃げてもいつかは戦わなくちゃいけない、前の時は泣き叫んで逃げるしか出来なかった、今も少しだけ力はついたけどあまり変わっていない。でも…
(今の僕には…戦える力が、ある! この剣が…ショートソードがある!)
戦おう、勝てないかもしれない…その場合は死ぬだけだ、死ぬのは怖い…とても怖い。死んだ後の事とかそういうものではなく漠然と怖い、痛いのは嫌だ、血を流すのも嫌だ、戦いたくなんかない―でも、それでも。
(ここを出る為に…!)
―戦闘開始!! ヤスオの奇襲成功!!
腰に括り付けていた毛皮から干し肉を取り出し思い切り遠くに放り投げる!
僕の予想が正しければハウンドはきっと…!
「!? ガアアアアアアッ!!」
(よし! 注意を逸らせた!!)
ハウンドは近くに落ちた干し肉に飛びかかるように喰らいつく、そのまま飢えた大型犬そのものの様子でその場から動かず干し肉を食べている。そこから全く微動だにせずだ、その隙を僕は待っていた!
「【先手】っ!」
―【開幕】 ヤスオの【先手】発動!!
―【最速行動】付与 このタイミングのみ【速】+5!
ハウンドの斜め横になるように茂みを移動し僕は茂みから飛び出した。
あいつは未だに此方に気づいていない、駆け抜けながら狙うのはハウンドの首、其処目掛けて持てる力を使い切る勢いで自分を鼓舞するように全力で技を発動させる。
「【蓮華】ええぇえええええ!」
―ヤスオの攻撃! 【蓮華】発動!!
叩き切るように振り下ろした剣が今尚夢中に干し肉を食べているハウンドの首を捉えた―!!
―クリティカルヒット!! ハウンドに致命的なダメージ!
「ギャンッ!?」
「い、生きてるっ!? 浅かったのかっ!」
押しつぶす勢いで首に振り下ろした一撃はハウンドの首を斬り飛ばすことが出来なかった。
それでも半分近く肉を切り裂いた感触はある。叩きつけられた衝撃でハウンドは叫び声をあげ倒れこんだ…が、首筋から血をダラダラと垂らしながら素早く起き上がり此方を睨みつけている。
「ウオオオオオオオオオオオオオン!!」
口から真っ赤に染まった泡を吹きながらも震える身体をしっかりと支えて襲いかかってきた!
しかし―
「っ! ああああああっ!」
―ハウンドの攻撃!! ミス! ヤスオにダメージを与えられない!!
そのスピードはあまりにも遅く僕でも悠々と避けられた。噛み付きに失敗したハウンドはその勢いのままに倒れこむ。ガクガクと足を震わせながら唸り声を上げて起き上がってくるが、そんな時間は与えない。
さっきの一撃はやはり致命傷だったんだ。
後はこいつに止めを刺すだけ…前の様な失敗はしない、消費したHP分の疲労が襲ってくるが構わず走りだす。
それでも何とか心は冷静さを保ち剣を振りかぶりながら再び技を発動させた……!
「くぅぅらぁああああええぇぇぇぇぇっ! 【蓮華】えええええっ!」
―ヤスオの攻撃!! 【蓮華】発動!!
起き上がろうとしているハウンドの首元目掛け再び【蓮華】の一撃を叩き込む!同じ場所をもう一度斬るなんて芸当僕には出来ない、なら切れかかっている部分に狙いをつけてもう一度斬れば、首の何処かに当たる―!
「! ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
―ハウンドに甚大なダメージ!! ハウンドを倒した!
僕の放った渾身の一撃は再びハウンドの首付近に突き刺さり相手の息の根を止めた。寒気が走る様な絶叫を上げながらゆっくりと消えていくその様子を半ば放心しながら見つめていた…
―ハウンドを倒した!! 戦闘終了!!
―ヤスオには経験値が入らない!!
―ハウンドの皮を1個獲得 ハウンドの肉を2個獲得
―薬瓶(未鑑定)を1個獲得
―ヤスオの【力】が1上がった!
―ヤスオの【速】が1上がった!
―ヤスオの【精】が1上がった!
―ヤスオの【器】が1上がった!
―ヤスオの【運】が1上がった!
頭の中に流れていくシステムメッセージを見て…見るというのは何か変だけど…漸くモンスターを倒したのだと実感した。
「た、倒したのか…た、倒したんだな…奇襲で相手に何もさせなかったとはいえ…モンスターを、あのハウンドを…」
機転が効いたお陰で何の問題も無くあのハウンドを倒せた、あまりにもあっさり倒せてしまったので逆に不安になってしまう。今回は奇襲のお陰で倒せたから真正面から戦ったらどうなるかがさっぱりわからないのだ。毎回毎回こう上手く奇襲出来る訳がない。
「はぁ…はぁ……今頃また震えてきた。勝てた…か。」
ステータスを見てみるとかなり上がってた。上がって欲しい【運】も上がってくれている。やはりモンスターを倒していけばいつかはこの森を抜け出せるんだ。
「…っ……」
【蓮華】を2回も連続で使ってしまったせいで疲労が一気に襲ってくる。すぐさま【軽癒】を唱えたHPを回復させて体力を整える。
「ふぅ……蓮華を2回も使うと消費が尋常じゃないな、あの状態でハウンドに噛みつかれたらと思うとゾッとしないよ。」
ショートソードの使用回数は【15】ハウンドを相手にして2回分だけの消費は有難い。でも奇襲以外や技を使わなかった時の使用回数は考えたくないな…
更に【軽癒】を唱えHPも何とか回復したのでハウンドのドロップを回収する。
ハウンドの毛皮…かなり大きい上に触ると凄く手触りが良い、ウサギの皮と比べると頑丈にみえる、これを鞣して防具に出来れば強いんだろう…皮の鞣し方なんて覚えても居ないけど…
次にどう見ても肉ブロックが其処にあった、【鑑定】で調べてもハウンドの肉と脳内に映しだされる。思わずガッツポーズを取ってしまった、大きさはそこそこで1日食べられる位の量だ、小動物のあまり美味しくない肉と比べてもかなり美味しそうなのが分かる。いや説明に食べたらかなり美味しいと書かれているだけなんだが…それが2個、大事に食べれば2~4日は持つと思う、恐ろしいだけのモンスターに新たに倒す意味が生まれた瞬間だ。
「あと…これ…どうみても薬瓶だよな…」
透明なフラスコ型のガラスみたいな容器に名状しがたい濁った色の液体が入っている、これが僕の予想通りならば―
「…【鑑定】!」
―【鑑定】成功!
―ポーション(良品) 飲用するとHPが【10~15】点回復する。
―ひたすらまずい
ポーション! ゲームなどでは定番のHP回復アイテムを手に入れる事が出来た。HPを10~15点と言うことは、今の僕が飲めばHPが直ぐに全回復するレベルだ、ひたすらまずいと恐ろしい事が書かれているが、これで緊急時に生き延びる可能性が増える。
「割れやすそうだから何かで補強しないとダメだな…ウサギの皮を巻いて蔦で縛っておけば最悪でも漏れないかな。」
何にせよかなりのステータスが上がった、ハウンドはまだ怖いけどウサギなら頑張れば勝てそうだ。勝てたからと調子に乗らずいつも通り慎重にモンスター退治を続けていかなければ…
「よしっ、気合を入れ直せ。油断しない様に…攻撃が当たればまずいのは何も変わってないんだから。」
ドロップを回収し僕は一端洞窟に戻る事にした。この素材は大事に取っておかなくてはいけない、特に肉はハウンドを引き寄せてしまうから急いで戻ろう。その後はウサギ退治だ、頑張らなければ。
―ヤスオは探索を再開した。
2015/09/08 ご指摘を受け修正完了です。