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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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SP-08 【爆誕!! ボスから絶対盗むガール】

次回は本編です。

―大衆食堂【うちより安い店はねぇ!】



 ホープタウンに2箇所ある料理店の一つ、様々な冒険者が安くて上手い料理を食べに現れる場所だ。60席ほど設置されたこの店は常に客でごった返し、たった一人の従業員兼看板娘が接客を行っている。


 店のどこからでも見える厨房には店長兼コックの通称【てんちょー】こと【チャーハン】が残像が見えるレベルで動き回りながら調理を行い続けている。その技は匠であり、料理の美味しさは大衆食堂の安い料理とは思えないほど美味。それを子供の小遣いでも十分余るレベルで大量且つ最高の料理を作る彼は看板娘のナナと同様に冒険者や町の人に愛されている。


 1日1~2回は必ずと言っていいほど料理を撒き散らす所も皆の笑いを誘っている。もう一つの店が高級料理店な為、ここの店は毎日様々な人が訪れるのだ。そしてここはもう一つの顔がある。


 酒を煽りテーブルの上には様々なマジックアイテムや金品が置かれ周りを囲っている仲間同士で笑いながら分配方法を考えている。時々ナナを呼んではマジックアイテムを私、頭を何度も下げるという風景がよく見られる。受け取ったマジックアイテムをナナは転がすように弄り回し、いつもどおりに答えるのだ。


「ほぅ、レアリティRの代物だな、アクセサリーで【畏怖のイヤリング】だよ、【恐怖】と【発狂】状態を無効化するな。適正価格は…1200万Rって所か」


 ナナの言葉に沸き立つ冒険者達。

 そう、この店ではナナが無料でアイテムの鑑定を行ってくれるのだ。ダンジョンなどで手に入れた未知のアイテムはそのほぼすべてが鑑定しないとわからない状態になっている。普通ならばこれらを道具屋などに持込み、お金を支払って鑑定してもらうのが基本なのだ、それもアイテムによっては値段が馬鹿高くなったり、そもそも鑑定できるほどの腕が無かったり、最悪騙されて買い叩かれる事もある。その鑑定をこの店では【料理注文のサービス】で行ってくれるのだ。


 更にナナは【鑑定:最上級】を取得しているので鑑定できないアイテムはほぼ存在しない、それこそ神が作り上げた神代のレジェンドアイテムでもなければ全て無償で調べてくれる。彼女が言うには、「そうすれば客が増えるだろう? さぁどんどん頼め、そして店に貢献しろ」らしい。だからこそこの店はこの町に来た冒険者御用達の食堂になっていた。 


 そのような常に賑わっている店の中一組のパーティが目の前のアイテムを見て沸き立っていた…ヤスオ達のパーティである。


 一歩間違えていたら確実に全滅、いや死ぬ所だった所をボスモンスターの気変わりによって見逃された彼等は直ぐに【帰還の羽】を用いてダンジョンから脱出し町に戻ってきていた。夕暮れ頃にノーヴァとカノンを除く全員が疲れた表情で入店してきたので、ナナが訝しげな表情をしていた程だ。


 それぞれ思い思いに注文を取り、ナナにアイテムの鑑定をしてもらって今回手に入れたアイテムの価値や生き残った事でヤスオやフィルが高揚していた。こういう分配やレアアイテムの価値を知るのも冒険の後に醍醐味といったものだろう。


 その中でもとりわけミキが物凄くはしゃいでいた。


「ヤスオ、私シーフで食べてくわ!! あんた私を固定パーティにしろ(命令」


「お、落ち着け…こんな事なんてめったに」


「でもあったじゃん!!」


 顔をほんのりと紅潮させて言うミキ。

 冒険も戦いも面倒だしやりたくないと考えていたが、今回手に入れたレアアイテムなどを売りさばけば全員に分配しても200万以上の利益になる。シーフとしての仕事をこなしただけでこれほどまで稼ぐことが出来たのは彼女にとって物凄く大きな事だった。先程まで死にそうになっていたことなど頭から綺麗さっぱり消えている。


「妄言は兎も角」


「あんだってぇ!?」


 ピシャリと言い放つカノンが更に続ける。


「今回のこれらは中級クラスの報酬よ? 下級じゃ滅多に見ないわね…勿論たまには下級ダンジョンでもこうやって稼げることもあるけど」


 今回手に入れたアイテムの中には各種精錬鉱石の他に、スロット付きのフェザーアーマーやスロットにセットするだけで魔力を上昇させるマジックストーン、ふりかけるだけで対象の石化状態を回復する石化回復ポーションなど下級ダンジョンにはあり得ないレアアイテムばかりだ。どれもこれも安くて400万以上と言う破格のレアアイテムだろう。


 そして一際異彩を放つマジックアイテムが二種流石にテーブルには載せられないので専用の入れ物に収められている―フェザーアーマーもここにある―物が。


「【闘剣士のマント】に【闘剣士の盾】…どちらも所持するだけで追加効果を発生させるか、どちらも値段的には2000万クラスか。中級から中級上位に掛けてのアイテムだね」


「その分、売ってお金にするのはもったいない性能ね。特にフェザーアーマーはスロットも付いている、これからの事を考えればヤスオさんかフィル君、ファッツさんの誰かに渡したいほどね、これがあればあの攻撃を防げる可能性が大きく増える」


 その言葉に一人だけ反論する者が居た。

 少し表情を曇らせていたファッツだ。 


「悪いが俺は今回降りるぜ、あんな情けない姿見せて堂々と金なんて貰えねぇ。ちっ、タフさには自信があったんだがな」


 たった一撃で自分が何も出来ずに倒されてしまったことが余程ショックだったのだろう。自分が冒険者ではなく自警団だと言う事もあるが役に立てなかったという重圧が彼を責め立てている。


 そんなファッツの言葉をノーヴァが一刀に切り捨てる。


「それは違いますね団長。貴方だったから生き残れた、僕達後衛なら即死、カノンが半死半生と言う位かな、それを考えればボスの攻撃を自分に引きつけた貴方は十分役目は果たしている。お金は通常分配します、それが一番だ。もし悔しいならそれで防具でも買うといい、そうすれば次は耐えられるでしょうね」


「…ノーヴァ」


「僕も賛成です、寧ろあの中で一番タフだったから生き残れたんですよ、結果的に誰も死ななかった、今回の報酬で装備を強化して再び鍛錬すればいいと思います」


 ノーヴァの言葉にヤスオも賛成する。隣ではうんうんとフィルも頷いていた。


「さて、この盾とマントだが…僕はマントに興味があるね、所持するだけで回避率を上昇させる、身に付ければ命中率強化。そして戦闘中のみ自身の命中率と回避率を高めるスキルが使える、便利なマジックアイテムだ。店に売るならば僕が半値で買い取るよ。5000万程度なら今の僕でもだせる」


「お、おまっ!? ノーヴァってどれだけ金持ちなんだよ!?」


「冒険者になればこれが普通になるさ」


「やべぇ、その言葉でグラっと来たぞ俺」


 ノーヴァのとんでも資産に驚愕するフィル。

 更にミキが目をキラキラと輝かせてヤスオに詰め寄った。


「ヤスオっ!! 私今日から【ボスから絶対盗むガール】になる!!(錯乱」


「そろそろ落ち着け!?」


「実際このアイテムをスティールしたのはミキだからね、そう考えるのももっともさ、しかしあまり使い道の無いと言われるスティールを土壇場でボスに対して成功させたんだ、誇ってもいいと思うよ」


 ボスの武具を盗み戦力を下げると言うある意味とんでもないデバフを相手にもたらしたミキ、ノーヴァの中で彼女の株がかなり上がっている。シーフとして普通に優秀であり、戦闘時も今回の様にスティールを使用して相手の戦力を下げられるとなれば、成長すれば脅威とも言える存在になるだろうと睨んでいる。


「さて他の分配だけど、盾は僕は必要ない。鎧はヤスオかフィルが使うべきだと思うね。盾の売値や他のアイテム、そして僕が買い取るマントでそこそこの収入になるだろうね。フェザーアーマーのS1はおよそ900万ほど、半値で450万だ、これをお金にするくらいなら前衛が使って盾になってくれたほうが450万の分配より有意義だと思うが、どう思う?」


「となれば…ヤスオだな。で、相談だけどよ? 鉱石と鎧はヤスオにくれてやりてぇ。こいつは武器も作るし装備は軽い方がいい。俺やフィルは重鎧で行けるしな。お前達、悪いが頼めるか?」


「……え、えぇ!?」


「あ、俺もそう思った、ヤスオは速剣タイプだし防具は軽いほうが良いんだろ? 今身につけてる鎧より軽くて強いならもっと戦力がアップするよな」


「私も賛成ね」


 なぜかいきなりフェザーアーマーを無料で渡される事になり面白い位に慌て始めるヤスオ。


「い、いやいや、今回の分配で多分買えるでしょうからそれで払いますよ!?」


「おいおい、それじゃ他の物が買えねぇだろ? ホントは盾もくれてやりたいんだが、こっちは流石に高いしな」


「僕も構わないさ、そこまで金に執着していない。ヤスオの防御力が高くなれば後列まで攻撃が来ない、それは魅力的だよ。どうせ僕は要らないしね」


「あんたね、くれるっていうんだからもらっとけって、私なら速攻で貰う」


「あぁ、多分お前にはやらねぇけどな」


 笑いながらミキに突っ込むフィル。

 

「うっせ! あんた硬くなれば私の壁になれるんだしもらっとけって。金は良いわよ、どーせあんたと行けば稼げるんだしね」


 何だかんだとヤスオ達と行動をし続けた所為なのか自分も甘くなったな、と内心複雑な心境のミキ。ヤスオが強くなれば自分も護ってもらえるという打算もあるが、ファッツが一撃で殺されかけた事といい、現状唯一友人と言ってもいいヤスオに死なれるのは彼女としても歓迎するべき事ではなかった。100~200万程度でヤスオの生存率が上がるなら妥協してやろうと彼女は考えている。


「あ…ありがとう! 頂いた防具やアイテムでもっと強くなるよ!」


「その意気だぜ! よーし! 今日は騒ぐぞおおおっ!」


「おおおっ!!」


 簡単な分配も終わり待ってましたとばかりに騒ぎ出すファッツとフィル。それにつられてヤスオ達も打ち上げを盛り上げていき、周囲の喧騒の中に紛れていった。






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