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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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SP-08 【其は死の誘い】 Ⅰ

戦闘描写を頑張ってみました。

まだまだ技量が足りませんね。

 まず初めに動いたのはフィルだ。

 近場で拾った拳大の石を全力で投球する。狙ったのは此方に気づいていないゾンビハウンド、投げた石は寸分違わずゾンビハウンドに命中しぐらりとよたつかせる事に成功する。元々死んでいるので痛覚の無いモンスターではあるが、この攻撃でフィルの存在に気づき腐臭の滴る涎を撒き散らしながら遅い掛かって来る。


 その様子に気づいたハウンドもまたゾンビハウンドを追い掛けるように走りだそうとするが、其の足をピタリと止め全く反対側を向き走りだす。ハウンドが嗅ぎ分けたのは好物である肉の匂い、思考が対象を食い殺す事から食べ物を食べるという意識に切り替わり、餌を求めて走りだす。


「うし、お前1体なら問題ねぇ…【断割】!!」


 周囲をまったく気にせずに目の前の干し肉に食らいつくハウンド。

 勿論干し肉を投げ込んだのはもう一体を相手にしているファッツだ。ハウンドはそのタフさと攻撃力、獰猛さから一般人や低レベルの冒険者に恐れられているモンスターだが、対処法さえ知ってしまえば誰でも倒したり戦闘を回避できる。


 技を発動し真上から長剣を叩き折ろす。轟音と共にハウンドの悲鳴ともつかないくぐもった声が聞こえ、そのまま両断された。血を噴水の様に撒き散らしながらゆっくりと消えていくハウンドに目もくれずファッツはヤスオのフォローの回るため剣を納刀し木々の中を駆けまわる。


「ガアアアアアアッ!!」


「遅ぇ!!」


 喉元を食いちぎろうと飛びかかるゾンビハウンドの一撃を少し身体を逸らすだけで難なく交わし、跳びかかった事で隙だらけになっている後ろから胴体を串刺しにする。必死に暴れて抜けだそうとするが其の程度の力では槍を突き刺しているフィルの片手すら槍から話す事も出来ない。


 突き刺した槍を僅かに引き抜き、地面に突き刺さっていた穂先を抜くとそのまま力任せに振りかぶって再び地面に何度も何度も叩きつける。その度に腐っている肉片が崩れ落ち、ピクピクと痙攣しながらゾンビハウンドは先程のハウンドと同じく消滅した。


「これで残すは熊だけだな…今行くぜヤスオ!!」


 


…………




「流石にでかいだけあって思うように動けないみたいだな」


 木々を縫うようにして動くヤスオ。


 此方に気づいたブラウンベアーが二体とも襲い掛かってくるが場所が場所な為、思うように動く事が出来ない。突撃しようにも太い木々が邪魔をし、その度にヤスオがその速さで林の中を駆けまわる為、狙いをつけるのも難しいのだ。そしてこの林の中を、誘導性能でも付いているかのように降り注ぐ弓と魔法の弾丸が二体のHPをどんどん削っていく。


「1体の方はもうそろそろ倒れるな…これはいいや」


「ガアアアアアアアアアアアア!!」


 攻撃できない事と連続で魔法や矢が命中し怒りの咆哮を放ちいきり立って体当たりを仕掛けてくる、なりふり構っていないのか周りの木々をなぎ倒しながら突っ込んでくる―


 だが―


 そのような短絡的な突撃がヤスオに命中する訳もなく、木々を薙ぎ払って突撃し威力が落ちたその突進を簡単によけターゲットを此方に向ける為に魔法を放つ。


「こっちだ!! 【光弾】!!」


 ヤスオの左手が白く発光し同時に小さな爆発音と共にカノンが放つ【黒淵弾】の白いバージョンの様な魔法の弾丸を放つ。突っ込んだブラウンベアーの後頭部にしっかりと命中し魔法ダメージと衝撃を与える。立ち上がろうとしていた所に軽くは無い魔法の弾丸を叩きつけられたブラウンベアーは、意識が白濁しぐらりとうつ伏せに倒れこむ。


 そしてそんな隙を後列にいるノーヴァが逃す訳もなく、速射の様に連続で矢を放つ。1撃1撃が全て首元等に命中し、体毛を貫通し皮を突き破り肉深くへ深々と突き刺さる。そしてノーヴァが今使っているのは猛毒を染み込ませた毒矢、チキ刺さった鏃から毒素がどんどんと染み渡り、残り少ないHPを確実に削り取る。


「あいつは後はあのままで死ぬだろう、カノンもう一体の方を潰そうか」


「えぇ、ヤスオさん達の体力も考えないとね」


 射抜くような瞳でもう一体のブラウンベアーを見つめるカノン。

 魔法威力を増幅させる魔導書を開き、いつでも魔法を撃てるように集中する。だがその手は動かず、何かを待っていた。


 その何かとは……




「グオオオオオオオオオオッ!!」


「甘い!! 【連環】!!」


 真上から叩きつける豪腕を間一髪回避しその勢いを利用し反撃の技を放つ。剣閃を残す程の斬撃が地面に叩きつけた腕を狙う。黒鋼で再精錬された刃はこれまでとは違い鉄より硬い剛毛を掻き分け、皮を切り裂き、肉を断つ。


 遠心力と渾身の力を込め振りぬいた刃は腕に重みを感じさせ同時に、勇気を与えてくれる。


 腕を両断する事出来なかったが、ヤスオの放った一撃は利き腕を使い物にならなくするには十分の一撃だった。筋組織を切断し腕の半分以上を切断しつつその場から離れる。


「ギャアアアアアアアアアア!?」


「ヤ、ヤスオ!? あ、あんた大丈夫!?」


 近くで万が一を考えて弓を構えていたミキが心配そうに話しかける。

 それに片腕を上げて対処し、痛みでのたうち回っているブラウンベアーに確信を持って突撃する。


(斬れる……鍛えた刃は、あいつに通用する!! なら…もっと威力の高い一撃なら!)


 再び縫うように移動しブラウンベアーから距離をとる。

 それと同時にフィルとファッツがヤスオに合流し、死にかけていたブラウンベアーを処理していく。


「ほぅ……確かに鍛えたようだね、あれなら及第点な性能かな」


「えぇ、後はヤスオさんに任せましょう?」


「残心と言うものがある、ヤスオが止めを差し切れない場合もあるさ、終わるまではいつでも動けるようにしておこう」


 弓を構えたまま一瞬足りとも集中を解かずにモンスターを見据えているノーヴァ。隣のカノンは微かに笑みを零しゆっくりと魔道書を閉じている。




「グウウウウウ…グルルルル…!」


 ブラウンベアーの目の前にはフィルとファッツがそれぞれ武器を構えて牽制し、その後ろでおっかなびっくり弓を構えているミキがいた。ブラウンベアーは自身の腕を切り裂いた男を食い殺そうと動こうとするが、それを巧みに二人が邪魔をする。


 二人もブラウンベアーを正面から倒すには実力が足りないが、この狭い場所が幸いし安定して相手の行動を封じ込める事に成功している。代わりに自分たちの武器も長物なので牽制程度しか出来ないのだが、それでも…もう一人後衛の二人と同じ位に頼りになる男が居る。


「ガアアアアアアアアアッ!」


「おっと!! やらせるかよ!!」


 片腕が使い物にならないので攻撃力も機動力も落ちた一撃は少し鈍重なフィルでもあっさりと回避可能だ、狙いが定まっていないのかそれともヤスオを狙っているのか、行動が不規則になっているブラウンベアーの攻撃などこの林の中ならばどうということは無い。後は挑発し、牽制していくだけでいい。


「オラオラっ! フィルばかりに目がいってたら死ぬぜえええっ!」


 横から気合一閃―ファッツの右薙ぎの一撃がブラウンベアーの深手を負った腕に叩きつけられる。ぶちぶちと言う耳障りな音と共に血を撒き散らしながらボトリと落ちる右腕。


「ガアアアアアアアアア!?」


 激痛に身悶えし、再びの咆哮をあげるその姿は誰の目から見ても隙だらけだ。

 そしてそれを待っていたかの様に地面を蹴りあげる音が周囲に鳴り響く。


「おおおおおおおおおおっ! 【蓮華】!!」


 隙だらけになったブラウンベアーの死角部分から飛び出してきたのは朱色の炎をショートソードに纏わせたヤスオの姿。


 フィル達がブラウンベアーを牽制している間に距離を取り、速度を上げる魔法、武器の魔法属性付与、万が一の為の防御魔法を掛けて突っ込んできたのだ。

今尚錯乱状態のブラウンベアー目掛けて高らかに技名を叫び、技を発動させる。更に速さと鋭さを増した渾身の一撃が蹲っているブラウンベアーの首元に深々と突き刺さり、筋組織ごと強引に切り裂く。更に剣を取り巻く刃が傷口と内部を焦がし焼きつくしていく。


 そして…攻撃が命中したことでヤスオに湧き上がる力。その力のままヤスオは新たに力のある言葉を紡ぐ―


「【三散華】ああああっ!」


 肉を削ぎ血が滴っている刃が更に発光しヤスオの身体が羽の様に軽くなる。相手の物理防御力を削り取る特殊効果を秘めた一撃が一瞬にして先ほど斬りつけた首元に寸分違わず突き刺さる。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 システムログにはブラウンベアーに中ダメージ及び三散華の一撃での絶大なダメージと記されていた。だがそのログの中には【ブラウンベアーを倒した】というモンスターを撃破した時に表示される一文がまで映しだされていない。


「っ! まだ生きて…!?」


 三散華の一撃で首を切断寸前まで持って行かれたのにも関わらずまだ死亡していないブラウンベアー。血を吹き出し茶色の体毛が紅い血で染められながらも最後の一撃とばかりにまだ傷の負っていない左手を思い切り振りかぶる。


 が―


「!!!!!!!!!!!!!!!」


 振り上げたと同時にブラウンベアーの大きく開いた口に一本の矢が狙ったように突き刺さっていた。振り下ろされる筈だった腕は力が抜けたようにだらしなくぶら下がり、そしてゆっくりと仰向けに倒れそのまま消えていった。


「見事、良くそこまで武器を鍛えたものだ」


 モンスターは全滅し、辺りに静けさが戻ってきた。緊張を解き弓を降ろし感心したようにノーヴァが言う。


「あ、ありがとうノーヴァ君」


「別に何もしていないさ、君が自分で鍛えたんだ。頼りにしているよ」


 そっけない態度で弓の点検を開始する彼を見てヤスオは少しだけ心の荷が下りた気分だった。実際にブラウンベアーとショートソードを用いて戦うまでは、また彼に呆れられてしまうのかと心配していたのだ。しかし一生懸命鍛えたショートソードはヤスオの想いに答えてくれた。ここで戦うならば十分の性能をみせてくれたのだ。それがどうしようもなく嬉しかった。


「すげぇなヤスオ!! あのブラウンベアーが1回のコンボだけで死にかけるなんて!」


「まったくだぜ、だから冒険者ってのはすげぇな」


 ヤスオの背中をバシバシ叩いて喜びを表す二人に苦笑を漏らしながらも、褒められて嬉しくない訳はない。


「あはは…二人共ありがとう」


「ヤスオの癖に強いとか…しっかりミキ様を護れよな~?」


「癖にって、お前なぁ」


「へへーんだ♪ ……………!?」


 誂うように言うミキの顔が急に引きつり弾かれたかのように後ろを見る。

 それにつられてヤスオもそちらの方向を見つめると、そこには黒い人影があった。カノンやノーヴァも気づいていたようで直ぐに臨戦態勢をとるが、その額には珍しく一筋の汗が流れている。


「な…なんだ……?」


 突然ヤスオ達が臨戦態勢を取り始めた事でフィルもファッツも少し同様していたが、奥に見える人影がここからでも視認できるようになると驚愕の表情と共に皆と同じく臨戦態勢を取った。


「……も、モンスター……なのか?」


 震えた声で言葉を放つヤスオ。

 全身を覆うプレッシャーが右腕を少し震えさせる。


 そこには……黒い騎士鎧に身を包んだ―




 骸骨の騎士が瘴気に包まれながら立っていた。




 

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