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僕達は前を向いて生きていく。  作者: あさねこ
【1章】 異世界での成長録
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35-03 【忍び寄るもの】 Ⅲ

 会議室にやって来たオッターの姿にファッツは笑みを零した。

 

「失礼しますぞ。火急の用件が有り急いで参った次第です。面目ありません私の手が届きませんでした」


 普段ボランティアでパトロールをしているオッターだが流石に一人では目の届かない範囲もあり、今回の件に関して聞き及んだのはほんの少し前の事だった。


「あんたの所為じゃねぇさ。寧ろ無償で色々やってくれてるんだ自警団…いや、町の人間としてはあんたに感謝しか感じてない」


「私からもオッター君には感謝しか無いよ。いつも助かってる本当に有難う」


「いえ、気になさらず。今回の件は流石に看過出来ませんからな。単純な実力不足で亡くなったのではなく、対応しきれない数で集まるようになったモンスターが原因…やはり私の懸念に間違いはありませんでした。できれば何事も起きてほしくなかったのですが」


「懸念…だと?」


「はい、ここ最近のモンスターの活発化、基本的にフィールドでは群れない筈の彼等が集団で襲ってきたり、奇襲を受けたりという事を既に何度か体験したり、他の方からも聞いております。それで誠に勝手ながら私個人で独自に調査をしていたのです」


「オッター君、それはもしかしなくても一人でかい?」


「流石に懸念だけで他の冒険者の方を連れ回すのは憚られまして、それにここいらのフィールドモンスターならば私一人でもなんとか立ち回れます。万が一を考えて帰還の羽も持ちあわせておりますので」


 レベル17と言うのは伊達ではない、戦い方によっては下位レベルの冒険者が何人襲ってこようと捩じ伏せるだけの実力を持つオッターだからこそ個人で動けているだけである。


「今回の事ですが…確定しているわけではありませんが近くのダンジョンが関係あると私は睨んでます」


「【ざわめく死者の通り道】の事か? 確かにあそこにゃアンデッドも多いし、長時間居たら瘴気がやばいって聞くが」


 ファッツが直ぐに思いついたダンジョン名を言うがオッターはゆっくりと首を振る。


「瘴気云々なら前からこういう事になるだろう…いや、もしかしてあそこか? あそこは数年前に冒険者が主を倒して誰も行かなくなったはず」


「副団長氏も知っておいででしたか。はい彼処は数年前私もよく利用させてもらっておりました。【元ダンジョン】の【餓狼の佇む魔道】です」


「名前だけは聞いたことあるな、たしかハウンドやヘルハウンド、ホワイトハウンドとハウンド系のモンスターばかりが居たっていうダンジョンだろ?」


 ほんの数年前までホープタウンの直ぐ近くに存在したダンジョン-

 【餓狼の佇む魔道】名前の通りハウンド系のモンスターが大多数を占めるダンジョンで【ざわめく死者の通り道】と同じく沢山の冒険者が一攫千金を夢見てボアタックをしていた場所である。

 ただしここのダンジョンは非常に致死率が高く、少し慣れた冒険者や実際に潜り生きて帰った冒険者は此処に近づく事をしない程に疎まれていたダンジョンでもある。ハウンドがそもそも人間を見ると確実に襲い掛かってくるモンスターなのもあるが、生き残った冒険者が漏らしたという噂では、モンスター達が人間を憎んでいたのではないかと言う程に執拗にどこまでも襲ってきていたという。


 その頃のオッターはまだ下級であり、容姿や攻撃魔法を使えないという弊害からか臨時のパーティを組む事ができずほぼ一人で探索をしていた時がある。勿論一人で行くのは無謀であり、命を捨てるような行為だったが。昔のまだ余裕がそれほど無かったオッターは強くなる為に、モンスターの情報や生態を調べつくしあらゆる方法を用いて彼処でレベルを上げ続けていたのである。


 ややしばらくして6人組の中級冒険者達があのダンジョンをブレイクするまで彼はそこでレベルを上げ続けていた。


「はい、団長氏の言葉通りのダンジョンですな、今はブレイクされ小さな森として存在してると聞き及んでおりましたが」


 メガネを再び上げて彼は続ける。


「その元ダンジョンにフィールドでは考えられないような瘴気が渦巻き、底に向かって沢山のモンスター達が大移動をしていたのです」


「…なんだと? オッターもしかしてそれはまさか」


 ハウルの声が微かに震えている。


「はい。前回のモンスターの大襲撃、まっすぐにホープタウンを目指しておりました…が、実はあの方向からまっすぐに進んでいった場合。そのダンジョンに繋がる道筋だったのです」


「そ、それって…まさか!」


「えぇ、カリーナ氏。モンスターは【ホープタウン】を目指していたのではなく【餓狼の佇む魔道】を目指していた、そう考えれば辻褄が合いませんかな?」


「ここ最近のモンスターの群れ、何故か奇襲される戦闘…奴等は…狙ってたんじゃなくて移動中に其処の冒険者がいた…という訳か!!」


「ま、まさか……だが、それしか考えられないな」


 納得がいったようにカーマインが想像したくない、だが恐らくそうだろう真実に思い至る。


「町長…何か知ってるの?」


 カリーナの言葉に彼は静かに頷く話し始める。


「主が倒されたダンジョンは邪悪な力や瘴気から開放される。つまりダンジョンでは無くなる……無くなるが、実はそれは一時的なことでしか無いんだ」


「一時的って、そりゃまさか」


「何百年…ヘタしたらたったの数十年程で瘴気が再び溢れだしダンジョンの鍵となるボスモンスターが生まれた場合、再びダンジョンとなる事があるんだよ。モンスターと同じだ、倒しても倒してもどこからとも無く現れる。たった数年でここまでになるとは流石に予想もしていなかったが」


 全てのダンジョンが確実にダンジョンとしての機能を取り戻す訳ではないが、ある程度形が残っている場所や元々瘴気が濃かった場所ならば長い年月が経つに連れて淀みモンスターが集まりボスモンスターが形成される事がある。

 だが早くても50年~数百年ほどの時間がかかるのが普通であり、これほどまで短期間にダンジョンが再稼働仕掛けると言うのはカーマインにとっても初めての経験だった。


「ダンジョンの再稼働か……もしそうなら説明がつく。モンスターは瘴気を好む。あいつらが再びダンジョンに戻ろうとして数が集まっているならここ最近のモンスターの活発化は、つまりそういう訳か」


 この時点に置いてオッターの勘違い、及び冗談だと考えている人間は誰も居なかった。彼は常日頃からこの町の為に甲斐甲斐しく働き、冒険者や町の人を護りフィールドでのパトロールを欠かさず行っている好青年である。見た目こそ劣悪と言って差し支えない男性ではあるが、誰よりも優しく正しい人間である事は周囲の事実であり、その彼が嘘をついたりまともに調べていないと考える者は居ない。


「モンスター達がダンジョンに住まうための本能的な大移動。本能ですからな、モンスターが徒党を組むのではなく、同じ場所に移動しようとしているからま纏まっている、そう考えるのが妥当ですな。ダンジョンは調べてきましたが、まだ再稼働はされてません。だがもし再び再稼働するのならば、面倒なことになりそうですぞ」


「まだ起動してないって事は、現状止める術が無いってことか。ダンジョンが出来上がるまで待つっつっても何時になるかわかんねぇぞ?」


「いえ、予想が正しければ止める事は可能です。上手く行けばモンスターの活発化は収まるでしょう。但し、かなりの危険が伴います」


「ダンジョンはまだ形成されてないが、主は居るかもしれないと言うことか?」


 ハウルの言葉に力強く頷くオッター。

 

「その通りです。現状を見る限り居る可能性は高いですな」


「そいつを完全復活前に殺してしまえばダンジョンは起動しない。そうすれば、モンスターはいつも通りに戻る、か」


「口で言うのは簡単だがよハウル、それが出来そうな冒険者が現状ここに居るオッターしかいねぇ」


 この町に滞在している冒険者の大半は下級冒険者が主で中級冒険者は稀にしか来ていない。理由は単純、この近くにあるダンジョンは一つしかない上に低ランクのダンジョンしかないからだ。アルス達の様な中級クラスは少し離れた場所の町にある中級ダンジョン等で主に稼いでいる。必然的に町に残るのはヤスオ達の様なぎりぎり中級手前が数人とカトル達の様な固定パーティを組んでいる下級冒険者しか居ない。


 そしてダンジョンボスを倒すには最低でも中級ランクの冒険者が複数いなければ満足に戦えるかどうかもわからない。ボスモンスターはそのダンジョンのモンスターの数倍、下手すると数十倍強いのが基本である。

 下級ダンジョンですら、レベル12~16程度の中級冒険者が複数で立ち向かって逆に全滅する可能性があるほどだ。何十人でパーティを組み向かうという手もあるにはあるが、迷宮の様に転々と変化するダンジョンでは大人数で行動していても途中で切り離される可能性があるので不可能に近い。

 

 この場合は【レイドパーティ】という複数の3~6人の個別パーティを作ってそれぞれがボスモンスターを探し探索するのが普通である。その時ボスモンスターを見つける事が出来れば【招来の笛】というマジックアイテムを使用することで【レイドパーティ】をその場に呼び寄せる事が出来る。


「ヤスオ達では荷が重いだろうな、だがレイドを組み後衛支援に徹すれば…中級の冒険者を今からでも他の町や都市から募るしかないな…オッター、どれ位でダンジョンが再び機能を取り戻しそうだったかわかるか?」


「正確な時間まではわかりませんが、後数ヶ月以内には恐らく、と言った所ですな」


「となれば、人集めは俺達自警団の仕事だな。お前らちょいと頼まれてくれないか?」


「あ、はい!!」


 他の自警団達と色々相談しあっていたマリー達を呼び出しファッツが続ける。


「悪いんだがちょいと今から中級冒険者を集めないとならねぇ、ツテがあれば冒険者を見つけてきてくれ、依頼報酬は-」


「報酬は私が出すよ、町の大事になるかもしれないからね」


「って訳で気前よく町長が出してくれるから頼むぜ? 足や紙使えるもの全部使って早めに集めねぇと」


「あ、それじゃ私一度戻ってお母さん達に話してきます! 防具屋さんだからそういうの得意ですし!」


「俺ぁ、すぐに戻ってナッツに状況を伝えてから店の方で冒険者に話をしてみるぜ。依頼書とかも作っておけよ?」


 そう言って二人共出て行った。

 他の団員達も慌ただしく動き始める、時間はあるがやることが沢山あるのだから。


「ファッツ、ここは任せるぞ。俺は事の詳細を纏めておく、調査の為に冒険者なども雇わんといかんからな。オッター、お前の力も借りる事になるが」


「おまかせを、このオッター今回の件に関し最後までお手伝いさせてもらう所存ですので」


 柔和な笑みを浮かべオッターは頷いた。







…………





 

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